ギルドの依頼:後
目の前にある粘着質な何か。
ドラ〇エのスライムとは全く違う。
表現するならば直径5メートルほどの水風船…葛餅?のような塊で気色悪い赤やら緑、茶ののマーブル模様が常に蠢動している。
うねうね、うぞうぞとひたすらに気持ち悪いという感想しか出ない。
敵前で生態を調べる訳にもいかず、ここは経験者に問うしかない。
「私、コイツとやるのは初めてで……弱点とかは?」
「無し」
「無い」
「倒す時のセオリーは?」
「いずれ触手を伸ばしてくるだろうからそれを捌く。その間に燃やす。俺らみたいな物理とはひたすらに相性の悪い奴さ」
「僕のレニーとアダム君の剣があるから多少はマシだけどね」
「あ、アダムなら魔法で焼けるんじゃねぇか?」
「ここまで来たら隠す必要も無い…ですね」
使うのは威力が知れていてかつ火属性の物だ。
人差し指をスライムへ向け、技名をなぞるだけ。
「"ファイヤーシュート"」
指先から放たれた青い炎――むしろ青いビームと化した炎はスライムの体を容易に貫いた。
体を通った部分は焼けたはずだが、如何せん巨体に指1本分の穴…それもすぐ埋まるのでは効果は薄そうだ。
痛みからかぶるぶると微振動しているので無意味ではないと思うが…。
攻撃への反動かマーブル模様の体から10本、20本と触手が生え、得物を求めて伸びて来た。
「火が青い…?ってそれは後にしてだ。それじゃ効果が薄い!もっと高威力なのは!?」
「いくつかありますが、生き埋めになりたく無ければ止めて置く事を、 推奨します…よっ!!」
「英雄の最後が生き埋めとはちょっと勘弁してもらいたいなぁ…ッ!」
どうやらスライムは目が無い生き物?らしく、触手で物のありかを判別しているのだろうか。
ウニみたいだけど触手は切り落とす端から生えてくるし、本当に厄介だ。
そして学習しているのか切られる度にこちらへ向かってくる触手の数が増えている気がする。
「焼け石に水だが、やらんよりはマシかなぁっ!!」
懐から出した小瓶をスライムの頭上?目掛けて投げて、ナイフで砕く。
中から粘度が高めの液体が溢れ、べちゃっとスライムに掛かった。
「燃やせ!」
「了解!」
相手に掛ける、燃やすという事はこの液体は――そう、油だ。
マシュマロに火を付けた事はあるだろうか?
もしくは火の玉を模した花火は?
どちらも無ければ火だるまという情景を思い描いて欲しい。
「おー、よく燃える」
「油の量が絶対的に足りない!」
「そういう事なら…」
アイテム、それも日用品の類であれば周りに被害も出さずに済む。
ただ家庭用のサラダ油をぶっ掛けたとてすぐに着火する物ではない。
「ちゃららちゃっちゃら~…キャンプ用着火剤~」(だみ声
「あん?そりゃぁ油か?」
「そういうものです。とっても…っと、よく燃えますよ!」
「触手を着るのも飽きるし何よりこんなの切りたくも無い、っさと、終わらせたい…所だなッ!」
火が着いたことでスライムの活動が活発化し、もはや手あたり次第に触手を伸ばしている。
混乱しているとも取れるが、360°オールレンジで鞭に刺突にとなっては流石に防戦一方に近い。
時たま隙を見てカインドが本体へ剣を入れるが切っていく端から塞がっている。
確かにこれでは物理系とは相性最悪だ。
そんなのを横目で見ながら着火剤の入ったボトルをとりあえずスライム目掛けて投げる。
「アルミレオさん!」
「まかせとけ!」
私の意図を汲んでくれたようで、投げナイフで行く先の触手を落としてくれた。
そしてまたもや頭上に差し掛かる所で本命の1本が容器を割った。
油よりも粘度が高く、もはやジェルとなった事で付着性も着火性も非常に優秀。
割れた所は既に油にて着火済みなので、空中で広がったジェルは瞬く間に燃え広がり、火の雨となって降り注いだ。
「ほい、次、次、次!」
「よっ、ほっ、はっ!」
ベテラン2名も消耗戦で焼き殺すしかないと言う。
確かにあの体積が相手では未来の技術品とはいえ1本では心もとない。
最近は信仰ポイントも使ってなかったから日用品くらい安いものだ。
当のスライムも混乱しているらしくこちらへの攻撃よりも燃えた頭の火を消そうともがいている。
活躍が見えないカインドは私とアルミレオさんの前に立って触手を防御してくれているよ。
私が着火剤15本目を投げた辺りで目に見えてスライムの体積が減り、およそ最初の半分と言った所まで減衰した。
あれだけうねうねしていた触手もだらん、と垂れさがり動く気配は無い。
燃えた頭頂部の熱が中まで伝わった為に焼け死んだ?
「……終わった?」
「大方はな。最後に核を潰さなきゃならん」
「うえぇ…僕はパス。周囲警戒するからそっちよろしく」
「てめぇ! あーもう…しゃぁねぇな。貸し一つだからな」
最初から見れば半分以下くらいまで減ってはいるがそれでも幅が2メートル弱は有りそう。
小人種のアルミレオさんからすればまだまだ相対的に大きく感じる。
腰から果物ナイフくらいの小さい物を抜く…本当に何本持ってんだろう。
ドチュッと飛沫を飛ばしながら刺さったナイフは、抵抗も感じさせずに軟体の体を切り開いていくが今回は塞がっていく事はない。
切り開かれた中は内臓があるかと思いきや、外面と一緒のマーブル模様で中と外の遠近感を失いそうになる。
そして切り開いた部分に手を突っ込んだ。
「…こればかりは何度やっても慣れねぇなぁ…慣れたくもねぇけどよ…」
ぐちゅ、ぬちゅ、と音を立てて何かを探しているようだ。
これは核を探すための…ドブさらいだ。
「アダム…おめぇは手伝ってくれるよな? な?」
「アッハイ」
そそくさと2歩ぐらいずれて、切り込みを入れるとこちらもやはりマーブル模様。
籠手を外して腕をまくり、意を決して右手を突っ込む。
幼少の頃、玩具のスライムの感触そのままだ。
違うのは焼いた為に中が結構、暖かくなって人肌程度に感じられ…正に内臓にでも手を突っ込んでいるように錯覚してしまう。
いや、内臓に手を突っ込んだ事なんて無いけどね?
「このサイズなら結構デカいはず…硬い球っぽいのに触れたら教えろよー」
「はーい…うぇぇ…帰ったらキレイキレイしよう…」
地下という事と道中のモンスターを片付けた事から非常に静かだ。
そのためにスライムの腹?をまさぐる音が良く響く…。
その後、やっと慣れるというか突っ込む事に拒否感が無くなる頃にアルミレオさんが声を上げた。
「あったぞ!来てくれ!」
腹の中にはこれまた同じマーブル模様の半球が覗いていた。
外も中も、核も同じ模様とは…究極のカモフラージュというか見つけるのは至難だ。
まだ取り出して無いのはきっと理由があるのだろう。
「アダムは初めてだって事だったな?」
「はい」
「なら、最後の最後でしくじらないようによく見て置けよ? カインドもいいか?」
「しょうがないな」
この2人が息を合わせるくらいに最後に何かあるという事なのだろう。
いざという時の為に私も少し身構える。
「3、2、1…今!!」
アルミレオさんが両手でスライムの核を思い切り引っ張ると核が鳴いた。
声帯がある訳でもないだろうし、振動による共鳴なのか分からないが兎に角、キュィィィィィィと。
「どっこいしょぉぉぉお!!」
「ッ!!!」
引き抜かれる核からは数本の神経か、短い糸が本体?の軟体部分へ伸びており、その瞬間、正に2人が呼吸を合わせた意味を知る。
神経(仮定)がプチプチと千切れる瀬戸際に切り開いた体から棘が生まれ、核を奪わんとする不届き者へ制裁として向かう。
鼬の最後っ屁というにはあまりに凶悪かつ逃げられない罠だ。
核を覆い隠すように伸ばされる棘は軽く見ても数百本、切り開かれた体の面積全てから生まれた最後の武器。
1本や2本なら体を捻るなり籠手なり盾なりで受けれるだろううが点でなく、面での攻撃は現状では防ぎようがない。。
核を両手で引き抜くアルミレオさん、棘を切ろうとするカインドでは立ち位置が悪すぎる。
全てを防ぐにはアルミレオさんの腕ごと切らなければならず、腕を守れば上半身が串刺しだ。
これではいけないと判断した私は即座に行動に移した。
ちなみにここまでの間でコンマ数秒も経っていないだろう。
「すまない!」
スローモーションとなり、色を失った世界でアルミレオさんを突き飛ばしカインド共々離れさせる。
手が離れた核を掴み、腹に抱えこむ。
アルミレオさんに刺さるかもしれなかった棘が背に迫る。
世界が色を取り戻すと当時に背中、腕とあらゆる背面ににドドドドッと棘が当たる感触、それと突き飛ばされた2名からの反応が届いた。
「ってぇ……次に突き飛ばす時はもうちょっと加減をな…っておい! アダムお前…!!」
「最後の棘には毒があるんだよ!?」
傍から見れば私が2人を庇って串刺しになったように見えるだろう。
追加情報で毒があるとか…そういうことは先に言ってほしかったよ…。
「大丈夫です。このとおり……」
鎧に外套、籠手やら何やらは大丈夫でなく、穴だらけになりかなり風通しが良くなってしまった。
街に戻ったらそれなりの物を工面しなくてはならない。
「…鎧は残念ですが、体の方は、ほら傷一つありませんので」
……目立ち過ぎないように立ち回る事を止めたとはいえ、これは少々やり過ぎか?
鉄の鎧を容易に貫通する棘を受けても傷はもとより痣すらなく、もちろん血の一滴も無い状態はやりすぎでは?
如何に自分が回復魔法や特級ポーションを持っているとはいえ目の前で起こるスプラッタは見たくはない。
「…ちょっと脱げるもん全部脱げ、あの棘に含まれるのは種類によって変わるが…あのマダラは赤死病と黒斑病、他にもいろんな毒を抱えてたはずだ。ぱっと見に傷は無くとも念には念を入れて確認する。もちろん王都に戻ったら医者だな」
「えっ、アッ、ちょ…」
「馬鹿野郎が…ロートルを若造が庇うなんて100年はえーっつーんだよ」
「でも100年もすれば死んで――ー」
「冗談を真に受けてる暇があったらさっさと脱げェ!」
「ハヒィ」
私、人生で初めて小さいおじさんとイケメンな金髪の青年に裸にひん剥かれました。
パンツは流石に勘弁して欲しい…。
まぁ、私を心配しているからこその事なので拒否することも出来ないけどね。
「…ありがとな」
「? 何か言いました?」
「何も言ってねぇよ!さっさと脱ぎやがれ!パンツもだよ!!」
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