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ギルドの依頼:前

 権力と責任は比例する。

 その最たる例は社長と平社員、一国の王と国民と言えば分かり易いだろう。

 私もそれなりに権力を持ってしまったが為に今日はこんなとこに駆り出された訳で…。




「…! 感づかれた、来るぞ!」


 地面に耳を付けていたアルミレオさんが叫ぶ。

 直に奥からカタカタ…という乾いた何かがぶつかる音が聞こえてくる。

 ぶっちゃけ範囲索敵とか使っているからこちらに敵が向かってきているのは気付いていた。

 だが斥候であり、探索系でもあるアルミレオさんの顔を立てて知らないフリをしていた。

 流石に危なくなったら言うけどね。


「スケルトンが3体…質も下の下だ」


 今度前に出たのは金髪の青年、名はカインド…金の剣聖として名を売り、若い女性にキャーキャー言われている。

 まだまだ大人の男とは言えないまでも17~20くらい特有の若々しい色気というのもある。

 そういう私も最近、王都を歩けばそれなりにチヤホヤされるし訳で…www

 っと雑魚とはいえ敵を前に草を生やすのはいかんな。


「つまらん――」


 その一言を言い終わる前に剣が抜かれ、瞬きの間に鞘に帰る。

 達人という言葉すらもの足りない英雄の一撃。

 同格でもかなりの動体視力を持っていなければ何をしたかすらも把握できないだろう。

 ちなみに抜刀から1体目の頭部を砕き、2体目はそのまま流れるように胴体を切断。

 勢いを殺さずにくるりと回って振り上げで最後の1体を両断。

 もちろん、私は見えているからな!


「こんな雑魚ばかりでは僕のレニーが泣いてしまうよ」


「そう言うなって、まだ底までは数層もあるっぽいし。お前が楽しめる奴もいるかも…だろ?」


「後はアダム君の活躍の場も見たい所だけどね」


「なら次のモンスターは私がやりましょう」


「…危なくなったら手伝うからなー」


「その時は頼みます」


 と気は抜けないが、モンスターを譲り合うくらいには余裕はあった。

 それもそのはず私を含め3人は冒険者というカテゴリーに於いてトップに居る言わば戦闘絡みのエキスパートだ。

 相当な事が起こらない限り窮地というのも想像は出来ない。


 そして少々今回の依頼を補足をしておこう。

 ここは新しく発見された遺跡だ。

 局地的なスコールによって山が崩れ、中から露出したと聞いている。

 まだ正式な名称も不明で大半が地に埋もれ、全景を想像するのは難しい。

 石造りである事と罠的な物がほぼ見当たらない事、迷路では無く左右対称に近い構造から何かの要所だろうとの推測。

 そして現在の入り口付近にはモンスターが散見されており、深部がどうなっているか、危険は無いのか、強大なモンスターが巣食っては居ないか等の調査の為に派遣された訳だ。


「しかし、カインドの鎧のお陰で松明要らずだな」


「…僕のシャインをライト代りにしないで欲しいね。あくまでもこの明かりは副次効果なんだから」


 このシャインというのはカインドが付けた愛称らしい。

 正式名は精霊の鎧、淡く発光する鎧だ。

 何でも精霊が宿り、各種属性に対して若干の防御効果があるとか。

 あとレニーと言っていた剣も同様で、こっちは正式名が光剣レヴィニーアとかいうらしい。

 特色らしくあれもこれも魔法効果や属性持ちの装備で固めている。


「そう言えばアルミレオさんは魔法効果の付いた装備は持ってないんですか?」


「あー、俺ぁなぁ…持たないようにしてるんだ」


「便利なのに?」


「だから、だよ。どーしても俺って男は心配性でよ、その装備を失くしたらとか、奪われたらって考えるとよ」


「僕への当てつけかい?」


「個人の主義主張の話だよ。俺だってもーちょい若ぇ頃はそーゆー武器を持ってたさ。けどな、実際にそれを失った時に思い知ったんだよ。どれだけ自分がその武器1本、装備1つに寄りかかっていたかをな」


 便利な道具は人を楽にする。

 だが、その楽に慣れたときに戻せるかと言えば大抵はNOだ。

 例えば現代で言うところのパソコンが消えたら?スマートフォンが消えたら?

 個人レベルでも日常から切り離せないレベルで入り込んでいるのだから世界的にと見ればもう大混乱という話ではない。

 その事情を把握しつつも特色である事を維持している…これは尊敬すべき事だろう。


「カインドは剣を持てば天下一、ならそこから剣を取ったら?」


「…悔しいがそれは事実だね。だから僕は剣を、剣の腕を極限まで高める。そして手から離れる事を防ぐのさ」


「そゆこと。俺ぁその道を突き進む勇気が無くて今日に至るっと―――くだらない話をしてたらお客さんだ」


「では、私の番ですね…!」


 前述しているが私はとっくに気付いている。

 アルミレオさんの顔を立てている訳で、負け惜しみでも何でもないからな?

 先ほどのスケルトンでは無く、今度はドス、ドスと重低音を伴う足音だ。


「オーガかよ…!」


「…切り応えは有りそうだね。筋肉質だから飽きそうでもあるけど」


 高さはおよそ3メートル程、幅は3人で広がってもまだ余裕がある通路を、ほぼ塞ぎながら我が物顔で歩く。

 和風に言えば鬼ともいえるモンスターだ。

 響く足音から察する体重と盛りに盛られた筋肉、得物は無くともその体から推測される一撃はとても重そうだ。


「通路の邪魔になるのでさっさと片付けましょうかね」


「手助けは?」


 不要と手をヒラヒラを振り、アイテムボックスから革袋を経由して剣を抜き放つ。

 カインドの鎧の光とは違い、私の周りには赤く染まった。

 毎度使用していた建御雷乃神刀はある意味で管理者のシンボルっぽくなった側面がある事と、あまりにも目立ちすぎる為に一時封印とした。

 そうは言ってもいつまでも2級品のちょっと良いクレイモアでは示しも付かず、もう少し良い剣に切り替えた。

 炎剣フランベルジュ…炎を模した波模様の刀身が有名な剣だが、この世界では本当に火の力が付与されているらしく、露わになった刀身は赤く光り、同時に発熱からの温度差で本当に剣自体が炎となっているようだ。

 ちなみに試し切りもしたが、そこまで魔法効果も強力で無く、炎が良い感じに演出してくれるちょうどいい強さだ。


GОAAAAAAAAAAA!!!!


 既に奴の手の届く位置に足を踏み入れる。

 怒声か威嚇か、叫びからの唾が飛んでくるのが地味にウザい、というよりばっちい。

 振りかぶったテレフォンパンチ…つまりは大ぶりの右ストレート―――の拳を左手で払い方向をずらす。

 間髪入れずに両手剣のフランベルジュを右手一本で振り上げる。

 スパッ…という小気味よい音こそ無いが、オーガの右手は肘から先が無くなった。

 切り落とされた元右手は炎に包まれ、傷口となった部分は焼け焦げている。


GIIIIAAAA! GAAAA!!


 切り落とされた痛みと焼ける痛みの両方を味わわせるという拷問に近い所業。

 モンスターにも意思、感情があるのは分かっているが冒険者というモノは敵対するものには容赦しないと教わった。

 そうでないとすぐに裏を掛かれ、罠に嵌められ、一番大事なモノを失くすからだそうだ。

 分かり易い。


「…ごめんな。苦しいだろうからすぐに終わらせるよ」


 痛みにのた打ち回るオーガの足首を刈る。

 構造は人間と近いらしく、バランスを崩した所を狙って組み伏せて、胸に剣を突き立てる。

 人間で言うところの肋骨の中心部…その奥に命の結晶ともいえる核がある。

 つぷ、と皮膚を通り過ぎると、筋肉の先に硬い感触を感じぐぐぐ、と押し込む。

 刃が触れた部分がじゅぅと焼ける音を出し、オーガは苦悶の声を上げる。

 左腕で胸に乗る私を跳ね除けようと掴んでくるが、私を動かす事が剣を揺らすことに繋がり余計に苦しさを倍増させたらしい。

 刃先に感じた硬い感触…恐らく核、心臓に当たる部分――そのまま力を籠め突き通す。


GAAA……


 もう目に戦意――光は無い。

 剣を抜くと刺していた部分から火が上がり、残っていたオーガの体に徐々に火が回る。

 図らずとも火葬のようだ。


「核を取れねぇのはちょい惜しいが…大物を核残しで倒すのは面倒くせぇし、しょうがねぇか」


「アダム君も魔法効果付きの剣を手に入れたんだね。あとで使わせて貰えないかなぁ」


 興味の行先はそれぞれだが、モンスターへの感情移入などは基本的にあり得ない。

 知っているが故に私は悩む。

 だが、全てを救える…ともに歩めるというのは壮大すぎる理想論だ。

 だから私は迷わずに「救っても良いし救わなくても良い」を胸に秘める。

 そもそも、こんな遺跡で『助け』を求めていない者を勝手に助けるなど傲慢以外の何物でもないだろう。


 ついでに愛剣に名前まで付けてるのに人の剣に浮気とかどうなの?






― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 





 あれからも散発的な襲撃はあるものの苦戦とは程遠かった。

 遺跡の形状も簡単な事から奥へ進むのも苦ではなく、最奥に付くまでは3警戒しながらでも3時間と掛からなかった。

 最奥にあったのは巨大な広場だ。


「ここが終点っぽいが…」


「遠くて光が届かないね」


 アルミレオさんが革袋から小さなボールを出して周囲へ投げる。

 ボールはぶつかった所で割れ、中から光る液体が飛び散った。

 光るスライムと思えば良いかもしれないが、結構光量が強く周りの構造がかなり分かり易くなった。

 全景は扇状で奥が低く、広がるにつれて段々と高さが上がっている。

 私たちが立っているのが一番外側、つまり一番高所だ。


「議会、劇場…ステージのような構造にも見えますね。過去の集会所とかでしょうか」


 国会議事堂のあの場がイメージに近いかもしれない。

 という事はこの遺跡は議会か、劇場か、用途としてはそれに類する施設だったのかもしれない。


「何にせよ、ここが最終層ってこたぁ調査も終わりだな」


「構造としては簡単で罠もほぼ無し。野盗やらが住み着いても討伐は簡単だろうね」


「この様子ではお宝も期待出来なさそうですね」


「ま、未知の遺跡だからこその特色3人っちゅー大盤振る舞いだ。むしろお宝があれば報告しなきゃいけない分手間が……」


「…?」


 バッと上を見上げるアルミレオさんの顔は酷く険しい。

 流石に先ほどの光る液体が入ったボールの光量は届かず、天井は漆黒に包まれている。

 今度はボールを天井へ向けて投げると一部が染まって光る。

 そして動いた。


「散れッ!」


 間髪入れずにその場から離れる。

 数秒も置かずに天井から何かが落ちて来た。

 ひどく重量を感じさせるのに地響きも、床の凹みも無く、どちゃっという水音が聞こえた。

 ただボールの当たった部分だけがぼやぁっと光って蠢いていた。


「なんてこった…スライムかよ」


「チッ…面倒な相手だ」


 私の探知にも引っ掛からなかったのも驚きだが、この2名が悪態をつくぐらいには厄介な相手みたいだ。

躍動感とか人物の容姿に関する描写とかが足りなく感じる…精進せねば


あ、ポイント上がってました!

ありがとうございます。

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