やらかした後
人とは過ちを犯すものである。
それは子供でも、大人でも老人でも…神でさえも例外ではない。
むしろ数々の神話では神のほうが沢山やらかしている節さえある。
何をもってやらかしとするかは議論の余地があるが要は頻度の差でしかないという事を言いたい。
と建前を言ったのは自分がやらかしたからである。
傷を少しでも軽くするための自己弁護…と言ってもそれを聞く者は居ないわけだが。
「まさか純白殿のように教会の方であったとは露知らず…ご容赦を…。請える立場ではありませんが、何卒穏便に済ませて頂ければ幸いです」
どういうことなの?
ゲームで言うところの回復技なんて珍しくも無いどころか王道中の王道だ。
そんなにヒール使える人って貴重なの?
っても世間的に有名になってしまった私が、こんな数多くの衛士の前で聞けるはずもなく…。
とりあえずこの場は切り抜けるのが最優先!
「顔を上げてください。まずは誤解を解きましょうか。私は教会の者ではありません。単なる一介の冒険者ですよ」
「……そういうことですか。それならば隠すのも道理、これ以上は詮索致しません」
ちょ、勝手に納得しないでくれ!
どこかの水戸さんみたく身分を隠している訳でも無く、査察している訳でもない。
「え、ちょっと――「という訳だ!本日この場での事は他言無用である!いいな!!」
「「「ハッ!」」」
あー…もう訂正するのも無理っぽい。
さっさと離れてこの状況を聞ける人の所へ行こう。
「なぁ主よ、我の出番はこれだけか?」
「今のところはな」
「ぶぅ…シロちゃんとやるのは飽きたし、呼び出されても雑魚相手では楽しくも無い。たまには向こうに帰っても良いか?」
「向こう…ってどこ?」
「我らが元居た場所だ。こっちの言葉では…獣神界とか世界の裏側とか、いろいろな名前で呼ばれておるが正式な名など無い"向こう"側だ。こっちの土産話などすれば奴らの退屈も紛れるだろうしな」
「そうだなぁ、とりあえずシロが残るなら大丈夫だろうし…いいかな」
「では送還を頼むぞ!」
「こうの…こうの…こうかな?」
メニュー欄にある召喚獣の個別情報から送還を選択する。
すると間もなくハチの足元に魔法陣が生まれ、体の輪郭がぼやけて来た。
「必要になったら…いや、明日の飯時には呼び戻すようにな!絶対だぞ!?」
「別れ際にも食い気かよ」
「絶対だからな!あ、そうだお土産……―――」
まるで霧となって溶けるように消えていった。
今生の別れでも無いが、最後まで食い気の印象しか残らなかった。
私としては「押すなよ?絶対押すなよ!?」のフリだと思うので気が向いたときにまた呼んであげよう。
そして私は微動だにせず敬礼を続けていた衛士とその上司であるライトン軍務大臣に敬礼を返し、修練場を後にした。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
私の目の前にあるのは荘厳という言葉が相応しい白い建物。
大理石かどうかは分からないが、磨かれた白い石は光を反射させ、若干だが目に煩い。
てっぺんに見えるのはY字と円を重ね合わせたようなシンボルと門の前に並んだ対の彫像。
俗にいう教会だ。
何故私がここに立っているかというと…。
「回復魔法について知りたい? ワシが教えるのは構わんが…あくまでも知識としての講義になるのが関の山じゃ。せっかく王都にいるんじゃし、同輩を頼れば良かろう?」
ってことで『純白』ノワールさんにアポを取ってもらい来た訳だが、あの寡黙そうな娘を相手にするのは少々気が重い。
営業という仕事はコミュニケーションの高さを求められるが、定番の天気や時事ネタ、そして仕事の話題という共通点があれば左程難しいものではない。
だが今回はそれらが薄く、何よりも自分より年下(に見える&思える)の娘とどう会話を繰り広げればいいのか!?
あぁ、こんな時にギャルゲーやエ〇ゲー主人公ならすらすらとしたセリフや選択肢が出るのに!
ええい!当たって砕けろ!と扉に手を掛ける。
「たのもー……じゃない、すいませーん」
まだ日も高く、街には人通りも多いのに教会内はシーンとして一種の別世界を思わせた。
心なしか開けた扉からは冷気が流れ出るように感じる。
「はいはーい、ようこそ当教会へ。ご用件はお祈りですか? 寄付ですか? それとも寄付だったり? まさか寄付とか?」
声を掛けて来たのは少々年齢の……経験豊富そうで口が軽そうな糸目の修道女だった。
いきなり見ず知らずの人に寄付を詰め寄るというのはどうなのか…?
多少であれば考えもするが今の所、私個人の印象として教会に良い印象は無い。
「寄付はまたの機会に…えっと、ノワールさんに取り次ぎをお願いしたいのですが」
「ノワール…ノワール…大司教様!? 貴方ねぇ…いきなり来て大司教様に会えるわけないでしょ」
やれやれと腰に手を当てる彼女から聞けた新しい事実が一つ。
ノワールさんが王都にある教会の代表とは聞いていたが大司教だったとは…偉いのか分からんがきっと偉いんだろう。
それにしてもアポを取って了解を取ったのに取り付く島もないとは。
「冒険者ギルドのエルネティアさんの紹介で来ています。是非お取次ぎをお願いします」
「冒険者ギルドぉ…?」
訝し気な視線と顰めた眉間から察するに疑っているのか、それとも冒険者という組織自体を嫌っているのか。
何にせよアポを取っているし、止められる理由も無いのだからさっさとして欲しいものだ。
念のためにと貰った書状を見せる。
用意して貰ってよかった。
「…確かにギルドの封蝋ですね…中を確認しても?」
「貴女に開封できる権限があればどうぞ」
「……少々そちらでお待ちください」
権限…魔法の言葉だ。
どのような組織でも自分に許された範囲と言うものがある。
取り分け封蝋のような一度開けたらすぐに分かるタイプのものは責任の所在が分かり易い。
それも開けた、開いてたの水掛け論が発生する恐れはどこでも残るが…。
糸目の彼女が奥に入って数分後、私は無事にノワールさんと面会出来たのだった。
やったーポイント地味に伸びて嬉しいマン。
ちょい短いですが、明日も上げますので許して
誤字報告めっちゃ楽…