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私、何かやっちゃいました?

タイトルは遊び心です。

許して!

 王城内には国内から選りすぐられた最精鋭たる近衛衛士用の特別修練場がある。

 10万の民を守る一般の衛士ではなく、王の身の回りを守護するべく徹底的に鍛え上げられた猛者であり、戦闘能力という意味では、冒険者で言う緑以上が求められている。

 その修練場に集められたのは近衛の中でも特に優秀な者達。

 国を守るための優秀な、特に優秀かつ忠実な番犬だ。


「実際の所、召喚獣相手というのは脆弱ゆえ…我ら近衛であれば問題にすらならないと自負している。エルネティア氏の推薦もあったがゆえ今回の場を設けたが……実際の所どうなのかな?」


「試合を前にネタをバラすのも気が引けるので控えますが、ウチのは強いですよ。従来の召喚獣という考えを捨てて…そうですね、強大なモンスターとでも思って貰えればいいかと。とてつもなく強い奴ね」


「…楽しみにさせてもらおう!」


 ライトン軍務大臣はニッと笑い、自らの部下の元へ赴く。

 選び抜かれたのであろうざっと20人は年齢差こそあるように見えるが顔に自信が、体に覇気が溢れている。

 これから自らに降りかかるであろう災難を予想出来るはずもない。

 その災難を振りかけるのは私自身であるのだがね。


「で、君の召喚獣はどこにいるんだね?」


「今呼びますので少々お待ちを~」


 呼び出すのは久々だが、誰かの前で呼び出すことは初めなのでパフォーマンスのようになってしまうのは致し方無いことだ。

 特に詠唱とか触媒が必要ではないのでただ、『来い』とだけ命令する。

 足元に小さな光が生まれ、拡大していき1つの魔法陣を描く。

 パリパリと淡いピンクの稲光が走り、魔法陣内に立体的な影を作り出していく。

 光が収まるとそこには子供の姿があった。


「……これは何かの冗談かね?」


「将軍、手品の可能性は否定できませんが…あの子供自身が召喚獣かと」

「左に同じです。特に高位の悪魔であれば姿形を偽ることも可能です」

「まぁ…それでもあんまり強そうには見えないけどな」


 呼び出されたのが子供であれば誰しも疑問だろう。

 理解できなければ疑ってかかるのは正解だ…力量を見抜けないのは不正解だが。


「おい主よ、久々の仕事は……何だ?」


 ハチは周りを見渡して状況を確認するが決定打が無かったらしい。

 呼び出す=管理者の仕事というのがほとんどだったからだな。


「あそこの鎧が揃った連中と少し遊んでくれ」


「はぁ~…やっと回って来た活躍の場がコレとは。我も甘く見られたもんだな」


「そういうなって…後で好きなもん食わしてやるからさ」


「ふん、そうそういつまでも食い物に釣られるものか!」


「ならから揚げもトンカツもステーキもお菓子も無しでいいんだな? ハチにやっていた分はシロに全部やるかな~」


「な゛っ…肉はともかくお菓子は…ぐぬぬぅ~!!分かった!やれば良いのだろう!?」


「理解が早くて結構」


 召喚獣は食わねども死ぬことは無いが、一度知った蜜から逃れるのは難しい。

 今は手を伸ばせば届く位置に報酬があるのだから伸ばさないのはなお難しい。


「旨い飯と菓子の為だ。ボコボコにされたい奴からかかってこい!」


「という訳なので、準備出来ていますのでいつでもどうぞ」


「いや、どうぞって言われても…なぁ?」

「正体不明ってのはあるが、さすがに子供みたいな見た目に一斉で掛かるのは…」


 傍から見れば20VS1で、大人VS子供と見栄えが非常に悪く、良心も咎めるのであろう。

 冒険者ギルドの新人いびりや野次も無いのはお上品か余程訓練され、統率されている証拠か。


「アダム君、一応確認するが…問題ない…のだよね?」


「ご心配とあれば…そうですね…」


 周りを見渡すと手ごろな的が並んでいた。

 魔法や弓、はたまた打ち込み用か、打ち込んだ杭に鉄…いや、鈍い光からして鋼鉄かそれに準じた金属で作られた兜と鎧が付けられている。

 少々へこんだりしているが頑丈さは折り紙付きだろう。

 デモンストレーションには丁度良いな。


「ハチ、お前の見た目が気になって戦う気が起きないそうだ。あそこの的をどうにかしてくれ」


「はぁ…人化していろいろと弱体化しても見抜けぬのか…主の依頼ならばやむを得んか…」


 トテトテトテ…と可愛い擬音が聞こえそうな走り方で的の前に立ち構える。

 構えると言っても気を溜めるでも腰を据えるでもない。

 手を振り上げて多少の力を込めて叩くだけのようだ。


「可愛いなぁ」

「ウチの馬鹿息子もあれぐらい可愛げがあれば…」

「ハンマーくらい貸してやろうかぁ?」


 精鋭メンツは誰一人として的を壊せると思っていない。

 事実、この的は何年も下手をすればもっと長い間ここで的の役目を果たしていたはずだ。

 今回もいつもと同じ揺るぐことのない一撃―――だったはず。


 ドゴォォォォォォォン


 修練場に激しい地響きと衝撃波が走った。

 ここ数日、雨が降っていなかった事も有り、かなりの量の埃が舞い、そこかしこからゴホゴホとせき込む声も聞こえた。

 ちなみに震度的には2~3ぐらいだろうか。

 中にはバランスを崩して尻もちを突いているいる者までいた。


「これでいいかー?」


 砂塵の向こうから聞こえるハチの声から、的がどのようになったのか判断することは出来ない。

 砕けたか、潰れたか…どうだろう。


「どんな感じだー?」


「埋まったぞ」


 砂ぼこりが晴れるまで十秒数、見えてきた光景に一同は口を開くしかなかった。

 かくいう私も少し予想外だった。

 あれだけ大きく、固そうな兜と鎧が杭もろとも地面に埋まり、氷山の一角となっていた。

 私の予想は外れたがハチの身体能力が異常であるという事は理解して頂けたはずだ。


「えーご覧の通り見た目からは想像も出来ないぐらいの膂力を持っていますので、全員で掛かって来て頂いて構いません。もちろん真剣、魔法、弓なんでも有りで手加減無くどうぞ」


「…その子は人種か…?」


「最初にお話した通り私の召喚獣です。正体は隠させていただきますがね」


「……」

「……」

「……将軍…」


 助けか許しを乞うような視線がライトン軍務大臣に注がれる。

 私も同じ立場ならそうするだろう。

 強者の胸を借りる演習だと聞いていたのに、蓋を開けたら化け物の胸でしたなんて絶対に嫌だ。


「……上を知るいい機会だ。みな励めよ」


 どこも上に居る立場は命令するのが仕事だ。

 貧乏くじを引くのは下っ端と相場が決まっている。

 もちろんだが大臣自身は参加するつもりは無いらしい…大臣という割には気合の入った鎧と腰に下げた剣は飾りでしょうか。


「見た所、相手は知性の有る存在だ。殺されることは無い! …ですよね?」


「手加減はさせますので安心してください。もしケガをしても治療しますから大丈夫です」


「……ははは…という訳でみな、頑張るように!」


「「「……ハッ…!」」」


「もう始めていいのかー?」


「せめて向こうが準備を終えるまで待ってあげなさい」






 その後の結果は書くまでも無いだろうが、私の個人的なメモとして残しておく。

 開始の合図を受けたハチは何をする訳でも無く受け身…というよりも棒立ち。

 様子見とばかりに切りかかって来た若者の剣を素手で弾き、胸当てに右ストレートを軽く1発お見舞いした。

 パンチの衝撃で、華麗な文様、縁取りが刻まれた立派な鎧に拳のマークが刻まれ、装着者はそのまま壁に激突して失神した。

 いや、もしかしたらハチのパンチだけで既に気絶していたかもしれない。

 普通の山賊やら盗賊であればそれで逃げ出す可能性もあるが、そこは訓練された衛士、すぐに隊長、副隊長が指揮を出し3つのPTに分け、遅滞戦闘に切り替えた事は評価すべきだろう。

 

 まぁ遅滞戦闘とは出来るだけ邪魔をして、嫌がらせをして時間を稼ぐという事だ。

 時間を稼ぐ意味としては援軍だったり、計画ありきだからこの場合は正解では無い。


 弓や投石、偶に飛んでくる魔法が効く訳も無く、1つのパーティーに目を付けたハチが猛ダッシュ。

 蜘蛛の子を散らすように散会する衛士達。

 統率が取れていると思ったが…これで良いのか?

 当然だが分散した分だけ連携が取れず、ハチから逃げるように下がるしかない。


「どうしたぁ!逃げてばかりでは詰まらぬぞ!」


「糞が!調子に乗りやがってぇぇぇ!!」


「はははははは!遅い!温いぞ!!」


 たまに逆上してくる相手を見つけては剣を摘まむ、槍をデコピンで弾く、矢や魔法など気にせず当たっている…やりたい放題だ。

 本当に遊んでいる感じ。


「…この年になるまであらゆる強者を見て来たが…世界とは広いのだな…」


 大臣は遠くを見ているし、衛士達の戦意は既に降参モードとなり、開始から数分後にはマイナスに達していたと思う。

 私が見かねて「それまで!」と声を掛け、止まったハチを見て安堵した衛士らはその場に崩れ落ちた。





 

 ハチが戯れ…ゴホン、訓練で痛めつけた衛士は14名。

 腕部や脚部骨折が4名に肋骨骨折+肺損傷の重症が1名で他は戦意喪失といった所か。

 普通の戦闘であれば半数以上の戦果だから大勝利と言っていいだろう。

 ちょっと最初の一撃を受けた1名がヤバイので早々に治療を施すことにした。


「そこにゆっくりと寝かせてください。すぐに治療しますので」


 いつもならポーションをぶっかけるのだが、今日は実験も兼ねている。

 実際に人を痛めつけて実験するなんて道徳感を疑われるな…もう気にしないけど。


「ハイヒール」


 回復系魔法は初めて使うし、パッシブなバフが掛かっているとはいえどの程度回復するか分からない。

 とりあえず中級を選んだ。

 一口に回復と言っても傷を治すパターンや体力を戻すもの、体の回復力を無理やり上げるものと多岐に渡る。

 この世界はどれに当たるだろうか?

 魔法を掛けた衛士の体が淡く光り、魔法の効果が発動したことが分かる。

 苦痛に歪んでいた眉間の皺が解けて呼吸が穏やかになった。

 胸を見るとへこんでいた胸も逆再生のように盛り上がり、口から出ていた血も口内に戻っている。

 ダメなら上級ポーションでも掛けるつもりだったが一先ず治って安心した。

 見た目的には特級ポーションを使用した時の効果に近そうだが詳細は分からない。


「ちょ…っと、アダム君…それ…回復魔法かな…?」


「そうですが、それが何か?」


 私はあの時のライトン軍務大臣含め、衛士連中の顔を絶対に忘れないだろう。


また4ポイント上がってた。

感謝致します。


次は短めの前後編にするか、長い一話で行くか悩ましい。

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