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赤い狐の真相

 丹、赤、朱、紅、緋…赤い色合いを表す文字に言葉は数あれど、これほど美しいと思える炎を見たのは初めてだ。

 コンディーヌさんから立ち上がるそれは恐らくオーラとか怒気とかそういった類のものだろう。

 実際に熱く無いし、隣に座っているスコッチさんも熱そうにしている気配は無い。

 毛が逆立ち、尻尾もコャンキーヌさん程の本数は無いがモフモフ全開状態、オーラに照らされた毛色は正に朱金。

 風情や表現を無しに言うならスーパーサイ…ゴホンゴホンといった様相だ。


「これが赤い狐の由来や。もちろん見た目だけのこけ脅しとちゃうでぇ。あんさん程の実力者なら分かるやろ?」


 ごめんなさい。わかりません!

 そんな「何と言うバカデカい気だ!」という尺度を持ち合わせておりません。


「とても美しい炎ですね」


「能力より見た目かい!」


 ビシッと突っ込みが入るのは関西弁キャラの宿命なのか。

 だが、オーラを纏った状態はそのままである事から止めるつもりは無いと見るべきだろう。


「って冗談は置いといて…アダムはん、さっきの返答を真実にするならこちらは実力行使って手段もあるんやで?」


「契約を尊重すると言った口でソレですか。私はオース支部のメトヴェーチさんとは契約を結びましたが、貴女とはまだ結んでいないと記憶しています。それで脅しとは商人としては…論外では?」


「無理やりにでも判を押せば『契約』や」


 少しだけ部屋の温度が上がった気がする。

 物理的な、ではなく視覚による物と緊張感からだろう。

 ピリピリと刺すような視線は恐らく殺気も含まれている…と思う。


「それが貴女の素というのであれば…こちらとしてもお付き合いするのは遠慮したい所ですね……ッ!!」


 先手必勝。

 相手が実力行使に出るならこちらとしても気兼ねなく対応できる。

 とはいっても実際に危害を加えられた訳でも無し、で懇意にしているメトヴェーチさんの所属している団体でもある。

 何よりも女性を切るというのは流石に紳士のすべき事ではない。

 世界が色を失い、加速状態に入るとアイテムボックスから剣を振り抜き、コンディーヌさんの首元にピタッと添える。

 およそ時間にしてコンマ数秒も無いだろう。

 首元の冷ややかな刃の感触に気づき、遅れて来た剣圧でオーラが揺らめいた。

 恐らく向こうも私が対抗策に出る…とは考慮していた部分はあるだろうが、一手で王手を掛けられるとは思っていなかったのだろ、彼女には若干の狼狽が見て取れた。


「……は、速いな…この状態でも全く見えんかった…」


「どうしますか?」


 1秒が1分にも5分にも感じられる沈黙を破ったのは、ずっと黙っていたスコッチさんだった。

 パンパンと手を叩きながら私にも剣を納めてくださいと要請してきた。


「アダム様、剣をお納めください。コン様も、もう茶番は宜しいですかな? 完全に当方の負けです」


「もうちょっ――「よろしいですな?」


 笑顔ではあるが拒否は許さないという顔だ。

 私はあの顔をなぜか良く知っている気がする…主に女性陣に多かったと思うが…。

 「まずはお詫びを…」と言って頭を下げるスコッチさんに続き、普段の状態に戻ったコンディーヌさんがペコリとした。


「ここまでされてしまってはどうにもならんのでお話して同情を誘う方向で行きましょうか」


「任せるわ…」


「そもそも奥様のあの威圧に汗一つ描かずに対応していた…時点でこの策は止めるべきでしたね」


「せやなぁ…」


 意気消沈しているコンディーヌさんと交渉相手を前に"同情を誘う"と公言するスコッチさん…。

 商人としてそれでいいのか?

 歯に衣着せぬと言えば聞こえは良いかもしれないが…。


「まずは事に至った原点からお話しましょうか。話は北方の田舎都市オースから始まります」


 ちょっと長いので概略にしましょう。

 赤い狐の行商団はコャンキーヌさんを筆頭に幾人かの幹部とその補佐、残りは下っ端という典型的な組織だ。

 組織は成果主義であり、頭目の娘とはいえ例外に成り得ない。

 つまりコンディーヌさんも下から這い上がった実力者とも言える。

 アレが本心かのか駆け引きの一環なのかは分からないが、本心だとすれば私も付き合いを考えなければならないだろう。

 私の心情は置いといて、幾人かいる幹部もそれぞれに競い合う形を作っていて万年最下位だったメトヴェーチさんが最近メキメキと成果を伸ばしてきているのがコンディーヌさんとしては心穏やかでは無い。

 調べればアダムと言う人物に関わってから急激に伸びたと見て「ウチも組めれば…」と画策したらしい。

 ちなみにコンディーヌさんは万年ケツから2位だそうな…そりゃ焦るよね。


「っちゅーわけでアダムはん。美味しい話ちょーだい♪」


 泣いたカラスがもう笑うという実例がここにあった。

 少々図太いというか、これで本当に美味しい話を貰えると思っているのか?

 …もしかしてあの茶番から私の動きからここまで計算済みか!?


「…道中で話したアレじゃダメですか?」


「アレってなんの話や?」


「燻したチーズの件ですね、まだ本契約で無く口約束という形ですが…他の商人も噛んでいるので利益は出るでしょうが旨味という点では左程…」


「なんや、既に噛んでるモンがあるんやないか。持つべきものは優秀な側近やね」


「コン様が無茶な茶番なぞしなければもっと大きな約束も取り付けられたかもしれませんがね」


「堪忍してぇなー、噂の特色ともなれば試したくなるやん!」


「な・り・ま・せ・ん! 少しは反省してください…」


「ぶぅ~はいはい、ウチが悪ぅござんした~」


 部下に窘められ、素直に……素直?に反省として受け入れられる上司はきっと良い上司だ。

 私もそういう意味で良い人に付けていればここには居なかったかもしれない。


「アダム様、コン様も反省しているという事でどうか謝罪を受け入れて頂けませんか?」


「それは…はい、構いませんよ」


「ついでに美味しい話も貰えりゃ「コン様ァ!!」


 耳がペタンと垂れている事から本当に反省しているのは分かった。

 しおらしくして居る様子は正しく犬…といっても亜人種の女性なのでその表現は適切ではないだろう。

 つい構ってしまいそうになる気持ちをぐっとこらえて…。


「まぁ…私も敵意を向けられたとはいえ…女性に刃物を向けるなど少々手荒い対応をしてしまいました。 そうですね…こちらからもお詫びとしてこれを…」


「なんやこれ?」


「何でしょうか…? 木片に見えますが、只の木っ端では無いでしょうし…」


「先ほどお話した燻しの元です。これはあくまでも一例ですが木の種類や燻す時間、複数を混ぜる事で幾つものパターンを作れます」


 という本の知識を丸々喋っただけ。

 簡易的な燻製は数度試したことがあるが、ご近所の関係とかかる時間からそこまでのめり込むほどでは無かった。

 何より下味の付け方や前処理でどのようにも姿を変えるのでこの辺は好き好きだろう。


「そしてこれは独り言ですが…チーズの他にも腸詰、塩漬けの肉とか…魚なんかも燻すと美味しいかもしれませんねぇ」


「「!!」」


 露骨な独り言にハッと顔を見合わる。

 これほど分かり易く例を示したのだから分かってもらえないと流石にへこむ。

 っと私の向かって飛びついてくるコンディーヌさんが見えるが今度は敵意は無さそうだ。

 ぼふっと視界がモフモフと甘い香りで占拠された。

 やばい…これは麻薬だ。

 モフ…モフ…


「コレや!こーゆーもんを待っとったんやぁ!アダムはん愛してるでぇ!!」


 僅かに見える視界から尻尾が揺れていることから本心で喜んでもらえたと思う。

 後は缶詰とかメタルマッチとか火起こし器に着火剤みたいなキャンプ用品も出す予定はあったけどもあまり出せば商業のバランスを崩しかねない。

 きっと売れ筋になるだろうがこの辺は慎重に売り出していかないとな。


趣味全開です。


みんなも蔵王キツネ村へ行こう

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