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王都にて その3

京ことば、関西弁警察さん勘弁してください。

 "新しく認定された特色冒険者アダム 王都にて早速一仕事!"

 っていう見出しの新聞が出回る前に"荷馬車に犯罪者を詰める不審者アダム! その真相は!?"が報じられてしまいそうな絵面だ。

 首謀者2名は背面で両腕の親指を結束バンドで縛り、逃げ出せないように馬車内に監禁。

 山ほどいる有象無象は連結した荷馬車に「座ってろ」とちょっと強めの威圧を籠める事でチワワのようになっていた。


「でも…王都内で馬車を『引っ張る』冒険者ってのも異様なんだろうなぁ…」


 近くに馬は見当たらず、さりとて馬の扱いを知る訳でも無し。

 幸いなことに肉体は何十…何百?馬力と力には不自由しないので問題は無い。

 あるとすれば周りの奇異な視線のみ。

 精神攻撃はものともしないが自身が感じる精神的苦痛は若干感じる故の居心地の悪さ。


「マップを見れば道筋はある程度分かるけど…それなりに距離あるし。 何よりずっとこの視線に晒されるのはキツイ…」


 やはり倉庫に連れてこられていたようで、ギルドはほぼ街の中央…経路からすれば2~3キロか。

 えっほ、えっほと馬車+荷馬車を引いていると2人組の衛士と思われる男性から声を掛けられた。


「ちょっと君! 後ろの人たちは何だい? もしかして奴隷じゃないよね?」


「えーと恐らく犯罪者だと思います。私が捕縛したのですが、もし引き渡せる場所があるなら教えて頂けませんか?」


 顔を見合わせる2人。

 このシチュエーション、どこかで見た事があるような…。


「とりあえず…我々の詰め所まで一緒に来てもらえるかな?」


「その後ろの荷馬車も一緒にだ」


「はい、分かりました」


 日本人の性か、国家権力的なものには逆らい辛い。

 身分とか事情を話せば何とかなるでしょ。







― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 







 ドンッ!と机が叩かれる。

 かつ丼も白熱電球の電気スタンドも無いただの部屋で取り調べを受ける私。

 暴言に近い恫喝…って段階で既に衛士の程度が知れる。


「だーかーらー!あんたの身分を正直に話せって言ってんの!」


「特色ランク冒険者、アダムです」


「そのピアスは緑だろうが!」


「認定の為に王都本部に呼ばれていますから、行けばピアスは変わると思います」


「はぁ…おにーさんさぁ…男として冒険者の最高峰、特色に憧れるのは分かるぜ? 俺だってそうだったし…でもねぇ、噂の的のアダムを名乗ると身分詐称に偽名になってより罪が重くなるよ。それにね、仮に冒険者でそれも本人だとしてもだ、そんな著名な人物が半裸でこんな場所をうろついてるかってことだよ」


 飴と鞭の分担だ。

 一方は問い詰め、もう一人は優しく問いただす。

 まぁ…私が半裸であったことは疑いようもない事実ではある。


「ですからそれは後ろに運んできた連中に拉致されたと言っているじゃないですか」


「なおさら意味不明だろうが!あれだけの人数を1人で無力化した?それなのに拉致はされた?その中には王国警邏隊が5年以上も探している裏組織の幹部もいる?荒唐無稽すぎて小説としても3流過ぎるわ!」


「事実は小説より奇なりって言葉はご存知ですか?」


「知るかぁ!」


 どうもこの衛士の方々は状況証拠よりも半裸の不審者がマフィア(とりあえずそう表現する)の幹部を捕まえたという事実が信じられないという感触が強い。

 ある意味ではあれだけの人数を1人で処理したのなら実力は保証されていると思うのだが…。

 重ねて言うが半裸なのは私の落ち度なので釈明のしようが無い。

 だって寒くも熱くも無いから気付かなかったんだもん…っていう良い訳だけ記載しておく。

 問答も進展せず、さりとて時間を無為にするのももったいないという事で援軍を呼ぼうとした矢先に変化が訪れた。


「失礼しますえ」


 確かノックの音は聞こえなかったので相当に失礼だ。

 だがそんなことを気にする前に見惚れてしまった。

 こちらでは初めてと思われるオリエンタルな衣装、ぶっちゃけ和服にかなり近い物だ。

 重ね着しているはずの着物を着崩して胸の北半球がとても、とっても主張されている。

 だがなによりも白く、光に照らされると部分的に金色に輝く毛並みが美しい…部屋にいた誰もがポカンと彼女の容姿に気を取られ、毒気を抜かれ、言葉を失った。

 ピンと立った耳に長めのマズル、後ろに見える束になったもふもふの尻尾。

 恐らく狐型の獣人と思われるが連想されるのは九尾の狐、それも白面金毛のだ。


「ここにあの方がおるって聞いたんどすが……あぁ、おりはった。けどまぁなんて目に毒な姿…♪」


「なっ、ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ!」


「おいバカ!止めろ!」


「……あんたら五月蠅いなぁ…少し『黙っとき』」


「…!?…!!」


「……!!」


「お待たせしましたなぁ、アダムはん、お初にお目にかかります。赤い狐の行商団、コンディーヌといいます。以後ご贔屓に」


「あ、はい。よろしく…」


 展開に頭が追い付かない。

 この狐のお姉さん…コンディーヌと言えば確か、王都への道中で知り合ったあのスコッチさんの上司だっけ。

 それよりもこの状況だ。

 魔法を使った形跡が無いのに衛士を黙らせた?


「あんさんらなぁ、仮にも戦う事を仕事にするんならもう少し相手の強さを感じ取れなぁ……死ぬで? それも犬死と無駄死にを合わせた最悪な状態でな。アダムはんもウチも優しいよってこの程度で済ましてる事に感謝せぇよ」


 実際に感じとっている訳ではないが、体感しているだけ説得力も増す。

 衛士2名は青い顔でコクコクと頭を振っていた。

 行商団の幹部クラスという位置に居ながらそこらへんの街の衛士など歯牙にもかけないほどの強さは持っているらしい。


「はぁっ!はぁっ!…はぁ…コン様!先に行かんでくださいな!」


 遅ればせながら息を切らせてスコッチさんが部屋に飛び込んできた。


「遅いわ。もう少しその腹を何とかせぇ」


「人種としての…年齢も…考慮してくだされ…あれこれと根回しも必要なんですから…! っと君たちは大丈夫かね?」


「……!」

「…!…!」


 助けだ、とスコッチさんに詰め寄るが何を話しているのかは分からない。

 まぁ、「助けて」とか「話せない」に近い事なのは想像に難くないが。


「コン様、また縛りましたね?」


「何のことやら~」


 そう言ってコンディーヌさんは指をパチンと鳴らす。


「治してくれ!」

「助け…あれ、声が戻った…!」


「君たちも不幸だったね…」


 チャリ…と銀色に光る何かを手の平に握らせたのを私は見逃さない。

 仮にも行商団の幹部が衛士、引いては国に手を出したとなれば只では済まないが…


「へへ、すいませんね」

「聴取の見学であれば事前にお伝えくださいね」


 やる方もやられる方も慣れているのか切り替えが早い。

 つくづく金か力か権力かでこの世界は成り立っているらしい。


「では上に話は付けてありますのでアダムさんはこちらへどうぞ。あとその姿は少々刺激が強いのでこちらを…」


「はい」


「外に馬車を待たせてあります。一先ずウチんとこににおいで下さいな」


 マントっぽい物を受け取ると素肌に羽織る。

 素肌マントも大概変態っぽいけど半裸で歩くよりは多少マシだろうか。

 収納袋にも着替えはあるが厚意は素直に受け取っておく。

 王都での順番は変わるが、先にコンディーヌさんのほうを済ませて置くのも悪くは無いか。

 衛士に大荷物も回収して貰えたわけだしな。


「お世話になります」


「んふふふふ…アダムはん、さっきモロに見さして貰いましたが中々ええ体してますなぁ…ちょっと味見させて貰えへん?」


「えっと…ご遠慮ください」


「んもういけずやなぁ」


「コン様…公の場では止めてくださいよ」


「あんたは堅すぎや。もっと柔軟に、目の前に旨そうな餌があったら速攻で喰らう気持ちで行かんと勝機を逃すで」


「それ、比喩じゃありませんよね? 上客と商談前にご破算になるような関係だけは本当に勘弁してください」


「ご破算はあかんな…ちょっとだけ自重するわ」


「本当に頼みますよ…?」


 この2人の関係性面白い。

 下手な漫才よりも見ごたえあるかもしれないな…当人スコッチさんの苦労は気にしないものとして。


キツネというと京ことばが連想される不思議…不思議じゃない?

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