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プロローグ


「あぁ!?何をやってるんだお前はぁぁ!!」


昼下がりのオフィスに怒声が響く。

近くで話していると耳がいたい。


誰もがフロアの一番窓際―課長席に視線を向ける。


「何で金城設計からの受注を三井機器じゃなくレコーに流した!?」


「ですから、金城設計からの内容を鑑みましてレコーの商品を紹介しました。

その際に三井機器と比較したところレコーのほうが好ましいとの客先判断されたようです。」


「そういうことを言っているんじゃない!なぜ私の提案を変えたと言っているんだ!!!」


この人はいちいち怒鳴らないと気が済まないのか?


「顧客により良い満足を。が社是ですので。

それにメーカーは変えましたが、納期や利率にはほぼ変化がないように手配しました。」


「社是なんて綺麗ごとを出すな!」


綺麗ごと…少なくとも会社に所属し役職を預かる者が出して良い言葉ではない。

自分の変えたのが気に食わないなら最初から変えられないように伝えるべきだろう。


「すみません、仕様変更に関しても提出して承認を得られたので動きました。」


「は?俺は承認した覚えはないぞ!」

いちいち恫喝のような言動が出てくる…


机に戻り1枚の書類を持ってきて上司に見せる。そこには確かに上司の確認印とさらに上…部長の承認印も押されていた。


「ちょっと書類を貸せ…」


さすがに自分の押した判子は見間違えないだろう。

ちゃんと筋を通した私に落ち度はない。


「…チッ…わかったとりあえずレコーに発注の手配したら今日はもう帰れ」


「はい、失礼します。」

軽く頭を下げ、自分のデスクに戻る。

さぁ、仕事を片付けて帰ろう。せっかくの金曜日、明日は休み…英気を養おう。


自分は良くも悪くも平凡なサラリーマンだ。

ルールを守り、会社に従い、それなりの結果を出す。

今回のように上司と衝突することもたまにはあるがそれも自分が正しいと思うことをやった結果だ。

上司にだって自分のやり方が正しいと思ってるからこそ怒鳴るのだろう。

では同じようなことを比べた時に何をもって決着させるか。

ルールだったり自分の価値観だったり、綺麗ごともありえるだろう。


その時々に後悔しないよう仕事をすることが私―沢渡 神一郎の持論だ。



まぁ、その持論による公開処刑は週明けに訪れる訳で…


“本日をもって沢渡 神一郎を庶務課へ異動とする。”


月曜日の朝、社内の掲示板にありえないものを見る。

いや、社長の印鑑まで押されているのだからあり得ない事ではないのだが信じられない。

自分は、多少ではあるが会社に貢献していた――はずだ。

異動の理由はともかく自分の仕事をしなければ…


それに庶務課なんて会社にあったのか?

入社して3年ちょい、社員総数が300人ほどもいれば会わない人、縁のない部門も多少はある。

まずは総務課で確認しよう。



端的に言うとだ。

私は窓際族になった。


された…というべきだろう。

後々、仲の良かった同期に聞いたが課長は相当ご立腹だったそうで私が退社した後に部長に進言したらしい。

“課長の許可を偽造し注文を変更、売上に多大な損害を出した。

その為、ルールを守れない奴は客先との信用に関わるため、営業部では今後も問題を起こすでしょう。”

と大層な濡れ衣を着せられていた。

用意周到なことに私が用意した書類も書き換えられ、証拠とされたとのことだ。

…その執念をもっと仕事に活かせないのか?


それと庶務課というのは私の為に新設された課らしい。

総員1名。主な業務は備品の手配やら倉庫整理、社史編纂…要は何でも屋だ。


そもそも、備品の手配やら倉庫などはもとから受け持つ部門が当然ある。

社史に関してもすでに存在するし高々入社数年の奴に任せられるはずもない。


しかしずっと遊びっぱなしというのは社内でもやはり目立つようで1週間に数回ほど仕事というほどでもない仕事を頼まれる。

それも数時間で終わるものばかりだ。

不謹慎だが仕事がないので20畳ほどの倉庫の1画に隠されるように置かれたデスクとノートPC…これが今の私の居場所。

引きこもりのようにネットサーフィンで定時までの時間をつぶす日々が続く。


給料は以前より下がったが生活に影響が出るほどでもない。

しかし、遣り甲斐がまるで無い。

ワーカーホリックという訳ではないが、何もやることがないというのは退屈だ。

こうやって会社に居辛くして辞めさせるというのが狙いなのだろう。

一人の事務所というのは話相手もいない。

自然と口数も減る。


転職を考えてもいいかもしれない。


転職サイトやハローワークなどを見て回る。その中で気になる広告を見つけた。


“テスター募集!ゲームマスターも募集中!”


MMORPGの広告のようだ。

学生時代には寝る間も惜しんで毎日ログインし、寝る→学校→MMORPG→寝る→学校…という生活だった。

いつからだろうか、足が遠のきログインすらしなくなったのは…

友人が引退したときだったか、それとも課金で首が回らなくなりバイトで忙しかったからか。


趣味を仕事にすると辛い、しかし好きなことで食っていけるのは天職とはよく言ったもので。

少し童心に帰ってテスターでも受けてみようか。

調べてみるとゲームは開発中の新作ダイブ型MMORPGで会社は二駅となりと意外と近いことが分かった。

なんとテスターでもアルバイトとして給料が出るらしい。

今の仕事は確実に定時あがりだし、その後の数時間やってみるだけでも出来るだろうか。

「そうと決まれば善は急げ…だ」


定時のベルがなる。


このベルは同時にもう一つの世界を変える祝福の鐘となるのか、終末を告げる鐘となるのか。


2018/1/14 プロローグ書き換えました。

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