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と、言うわけで俺は今森の中に居る。
改めて周りを見渡してみる。辺り一面にはびっしりと木が密集しており、だけどベッドの周りの空間だけがぽっかりと空いていた。
次に自分の装備を確認してみた。服装は寝間着の黒色に赤色の線や模様が入ったジャージを着ている。まぁ、これは良いとして、次に頭に手を持っていって確認してみる。
うん、いつも通り寝癖がついているだけで変化はない。
一応ベッドの頭の所にある物を置くところを見てみるが、残念ながらスマホや腕時計などの道具はなかった。
これはあくまで俺の臆測なのだが、たぶんここは異世界で、俺は最近良く小説やアニメなどである異世界転移系に遭遇?したんじゃないかと思う。
そうじゃないと今の状況に説明がつけれない。
そうなると、問題が出てくる。まぁ森に居る時点で大問題なのだが。
俺は地球に居るとき家に居た、しかも自分の部屋にだ。日本では家の中で靴は履かない、てなわけで俺は今素足だ。
流石にこのままでは森の中を歩くことはできない、血だらけになってしまう。
どうした物かと悩んでいると、視界の端に布団が見えた。
「良いこと思い付いた」
俺は布団のカバーについている紐を取り、布団を足のサイズに千切った。そして千切り取った布団を何枚かに重ねて紐で括って簡単なスリッパの完成。
「よっしゃ!」
早速俺は勢い良くベッドから飛び跳ね、地面に着地する。しかしここは森の中、そこら中に小枝が落ちているわけで、俺は着地と共にパキリと小枝を折ってしまい、
それが足へとダイレクトアタックした。
「ギャァァァァア!!!」
今日一番の叫び声が森へと響き渡った。
あれから刺さった小枝を取っているときに、ベッドの下にある引き出しに新品の靴を入れて、そのままだったことを思い出した。
もっと早くに思い出していたらこんなことにはならなかったのに、と少しの後悔と共に俺はこの場から離れる事にした。
流石にこのまま待っていても誰も来てくれないし、余計な時間を使ってしまったが為に少し焦っている。
夜の森は危険だ。その為にも早めに行動しないと。今更だが……
「と、決めたのはいいのだがどっちに進めばいいんだ?」
耳を澄まして見ても、木の葉が擦れ会う音くらいしか聞こえてこない。
う~ん、と悩んでいると俺の後ろの方からガサガサと何かが歩いてくる音が聞こえた。
俺は少しの恐怖と大きな期待とを瞳に宿しながら物音がした方向へ目を向ける。だが一向にそれは姿を現さなかった。
思わず「はぁ」と溜め息が漏れて、警戒を緩めてしまう。
「ただの聞き間違いか」
そう、緩めてしまったのだ。
カチャリ、と喉元に刃物を突き付けられた。
「ここで何をしている?」
背後から現れた者(声からして男だろう)に俺は身動きが取れなかった。
この男が発する威圧とも殺気とも呼ばれるであろうプレッシャーが放たれ、俺の身体は氷ついたように動かない。
身体が恐怖に支配されるなかで1つ分かることは、今動けば間違いなく俺はこの者に殺されるだろうと言うことだけ。
「……無言か、では質問を変えよう。お前の名は?」
「藤堂 蓮です」
「トウドウレン?」
俺が名乗ると、男はじっと俺を見詰めているように感じる。
「ここで何をしている?」
「わかりません」
「…………では質問を変えよう、何をしようとしていた?」
「とりあえず、森を出ようと……」
な、なんだこれは……
まるで裁判官に質問攻めにされる被告人の用だ。
「いつから森にいる?」
「たぶん、昼頃くらいからです」
「どうやって入ってきた?」
「気付いたらここに居ました」
「なんだと?」
「昨日ベッドで寝てて、朝起きたらこの森の中に…」
男はベッドの方へ目を向けると、しばらく場に沈黙が支配した。この沈黙は俺の心臓に凄く悪いよ。
まぁ、もうすでに20年くらい寿命縮んだ気がするけど。
「では、最期の質問だ。お前は使徒か?」
「使徒?」
使徒ってなんだ?なんかの宗教か?
「ここまで1つも嘘を言っていないし、嘘をつく揺れも見当たらないな」
そう言って男は俺の喉元から刃物を離す。
それに、安心した俺はホッと一息つき後ろを振り返る。