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髪シリーズ

ぱっつん前髪(短短編)

作者: 高山夕

チョキチョキと、くる子は小気味良くはさみを動かす。高校一年生のときから、三日に一回、自分で前髪を切り続けている。いわゆる、ぱっつん前髪だ。くる子のそれは、目の上ギリギリにそろえられている。切り終わり、昨日の新聞の上に散らばったものをごみ箱に捨てる。そのとき、くる子のケータイがなる。思わず、くる子は新聞を落としそうになる。親友のあつみからだ。あつみの話はいつも同じだ。彼氏が浮気しているのではないかと相談めいているが、結局はノロケ話なのだ。そして最後に決まって言う。あんたもはやく良い男見つけなよ、と。くる子はめんどくさそうに返事をする。すると、あつみはなぜか嬉しそうに電話を切るのだ。

今日もチョキチョキ。三日なんて過ぎればはやいものである。四年だってあっという間だ。くる子はそう思ってから少し驚く。あれから四年。あれからというのは、くる子が高校一年生のとき…。何だっけ?とくる子は思う。四年前に何があったのか、はたまた、何もなかったのか、思い出せない。くる子は頭が痛くなるというよりは、おでこが痛くなるのを感じる。プルル。あつみがくる子に電話するのも三日に一回だ。また彼氏の話をきかされる。だが、今日はやけに短い。くる子は不思議に思う。すると、あつみは、リョウスケクン、と言うのだ。ワスレナヨ、とも言う。亮介くん、忘れなよ。意味が分かるまで何秒かかったのか。くる子は三日くらい経った気がしている。あつみに急用ができたとバレバレの嘘をつき、無理やり電話を切る。思い出したのだ。

くる子は高校一年生のとき、亮介という男に告白した。亮介はくる子の広いむき出しのおでこを指摘した。くる子は十分理解できた。ふられたのだった。

くる子はそうか、と思う。前髪はかさぶただ。おでこに失恋という傷負ったときにできた、かさぶたなのだ。それでも全身をかさぶたに覆われないため、前を見るために、三日に一回、前髪を切っていたのではなかったのか。しかし、意味を成さなかったことに気づく。大人になるにつれ、手際が良くなっただけである。かさぶたの下はまだ、ジュクジュクしている。

くる子の二十歳の誕生日。あつみがパーティーを開いてくれた。くる子の初彼、拓もいる。三人でたくさん写真を撮る。その中の、くる子のおでこには、もう、あのぱっつん前髪はない。

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