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 父親の夢をみた。


 やっぱりギルドは古いのだ。

 ギルドにいたんじゃ俺はこの偉業を成し遂げえなかっただろう。


 しかし、なぜか誇りに思う気にはなれなかった。

 夢の中で、熊を狩ったことを報告しても、父はこちらをみず、無表情な横顔で、作業をしていた。



 朝日で目を覚ます。


 急いで熊を確認したが、やはり夢ではなかった。


 熊は内臓を抜かれ、皮を剥かれた状態で横たわっている。



 明るい中で見ると、改めてそのでかさを実感した。


 俺は、木をもう一本切り出した。


 今度は、あの長いたき火を作るためじゃない。


 

 まずは根元を4等分に割って、枝や熾し縄を挟んで、針金でまとめ上げるように止める。


 これで火をつければ持ち運べる焚き火の完成だ。


 上に器を乗っければ湯が沸く。



 これから分厚い脂肪を相手にしなきゃならない。


 切れ味が落ちるので、それで脂を落としながら作業をする。



 辺りが完全に明るくなったころ、ようやく終わった。



 分厚い脂肪のせいでなかなか刃物が入らなくて苦労した。

 


 熊はいろいろな部位が重宝される。


 熊の手は煮込めばうまくなるらしいし、爪や歯も魔法の材料になるらしい。

 胆嚢や脂も薬として有名だし、肉は精が付くと高値で取引される。


 目玉は死んで半日も立つと石のように硬くなる。蒼玉という名前の宝石で重宝される。もちろんくりぬいて、ポーチに入れた。



 雪崩熊のものとなればどれも数割高値で取引されるだろう。



 俺は先ほど切った木を、やはり半分に割って、そりを作り出した。一組の長い木材に対して梯子のように、短い木材を渡して、ロープで適当に縛っていく。


 半分に割った木材は半円型になるが、弧の部分を下にすれば、雪の上なら十分滑るのだ。


 前の部分は斧で少し削って、段差に引っかからないようにする。


 

 横板に枝肉やブロック肉を載せてロープで縛る。

 食べられない内臓は、雪の下に埋めた。



 引っ張れるように、そりからロープを伸ばして、準備完了だ。


 出発する前に、木に登って方角を確認する。

 目印になる山もあるし、ここらは俺たちの庭といってもいい。


 空の様子も至って正常で、天気があれることはなさそうだ。

 滅多なことでは道を見失うことはないだろう。


 斧や器、スコップ、銃などの道具もしっかりと背負い袋に括り付けて、基地に向かって出発だ。



 

 興奮も時間が経つにつれて薄れてくる。

 そりを引く腕が重くなってきた。


 気分は遺跡を建設する奴隷だ。


 息を荒げながら雪を踏み抜いていく。


 雪の中に沈まないようにブーツの裏につける板も、どんどん重くなっている気がした。



 休憩をはさみながら歩くがあっという間に日が暮れる。



 事件はそこで起こった。


 いつものように木を切り倒して、たき火を作り、腐りやすい部分を新鮮なうちに食べる。


 もうそろそろ寝ようか、という時に、異変に気が付いた。



 耳慣れない音がする。これは、狼の気配だ。

 この気配を察知するだけのために、研修訓練が組まれたりする。


 ここ一帯にいる猟師が二番目に覚えることだ。



 なぜ。

 今この一帯にはいないはずではなかったのか。



 ぼんやりとした明かりの中に、真っ白な巨体が浮かび上がる。



 最悪だ。銀星狼だ。


 分かっていたことだが、絶望感が襲ってくる。



 だがぼんやりしている暇はない。


 とっさにスコップをつかむ。



 狼は複数で行動し、遠巻きにこっちを見ているのだ。



 がたいのいいやつ数匹が表からのっそりと近寄ってくる。



 手に持ったスコップで、長い焚き火をぶん殴る。


 火のついた薪や枝が、火の粉をあげて飛び散る。



 薪が爆ぜる音、火が消える音、水蒸気、雪煙、火の粉。



 一瞬、混沌とした状況が作り出される。


 当然狼はひるんだ。



 そのうちに、一目散に木に登る。



 反射的に背負い袋を持ってきたのは幸運であった。



 が、肉を載せたそりは置きっぱなしだ。



 狼どもはそろりそろりと近寄ってきて、肉をつつき始める。



 熊の肉を食らう狼。



 立派な肉一山が、無残な姿になっていく。



 俺の、俺の肉なんだぞ。



 銃で反撃しようとするが、木の上では用意できない。



 仕方がなく眺めるしかなかった。

 散らばった焚き火の微かな明かりの中で、狼たちは食事を続ける。



 どうだ、人が採った肉を食らって満足か。


 お前らには誇りはないのか。


 いや、こいつらは熊の肉を食らうのが大事なのか?


 どうして同じ祖先を持つのに、襲うんだ?


 

 ひときわ立派なやつも、まだ今年生まれたばかりのやつも、順番に食べていく。

 そこには、どうやら何かしらのルールがあるようだった。



 小さな狼の尻を、鼻ずらでそっと押し出す巨大な狼。

 様々な思いが去来する。



 憎たらしく思っていいはずの狼なのに、眺めているうちにいつの間にかそんな感情は抜けていた。



 森の病すらも食らうという狼。

 その圧倒的な存在感に、自分の持つあらゆる感情が委縮するするのを感じる。

 



 しばらくして焚き火も消え、狼は去っていった。



 眠れぬ夜木の上で過ごした。




 そして、翌日嵐にあった。


 俺はそりを失ってしまった。

 

 命を取るか、そりをとるか。


 まだ、そりには食われてない部分の肉もあったが、俺は迷わずそりを捨てた。


 不思議と、未練はなかった。




 残ったのは、背負い袋に巻いて括り付けていた毛皮と、蒼玉と呼ばれる青い宝石。




 毛皮貿易の基地に無事にたどり着いた俺は、リーダーや仲間にぶん殴られた。


 軽いリンチだ。


 規律を乱したものには、制裁が加えられる。



 が、そのあとしこたま酒や料理をおごられた。


 遭難から無事に帰還したものには皆に祝福される。



 森の恵みを背負ってくる者、として、酒場を経営する老夫婦からも秘蔵の一本を送られた。



 それらの、面倒くさい習わしも、甘んじて受けることができた。


 毛皮は会社に寄贈した。


 鞣して玄関に飾れば、それだけで会社の信用は上がるのだ。


 当然、昇進の話は来なかった。昇給の話は来たが、断った。





 「じいちゃん、うそだー」



 そして今では懐かしいその話を、俺は孫に聞かせてやっていた。いっちょまえに意見を言うようになってきたやんちゃ盛りだ。



 いやいや本当だって、と孫に言う。



 俺は白波鹿のやつに一杯食わされて、雪崩熊に一発食らわせてやって、銀星狼に一杯食わしてやったのだ。





 暖炉の前で安楽椅子に座りながら、この間街の絵描きに書いてもらった、一族4世代が集まった絵を見つめる。

 速写という魔法を使って書き上げる絵は、一大ブームを巻き起こしていた。せっかくだし、流行りに乗っかったわけだ。


 その中の絵で一番年老いた男は、大笑いしながら青い石を右手に握っていた。


 次に年取った男もまた、右手に石をもって、苦笑いしていた。


 彼ら一族の後ろには、工房が書かれていた。



 その絵は立派な牡鹿の剥製の下、一番目立つ場所に掛けられていた。

 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました

 近世ロシアでは、コサックが毛皮を求めて東へ東へとシベリアまで行ったようです。会社ができたのは、新大陸アメリカでした。したがって私も主人公を軍人のおっさんにしようかと思ったのですが、そうすると単独行動なんてありえなくなってしまい、主人公は若返りました。

 その結果、私も色々と黒歴史を思い出してしまい、主人公の愚行につながってしまいました。とはいえ老人と海みたいな話はどうしたって書けないし、私が書きたかったのは生活になじむ魔法だったのでまぁよかったかなと。

 主人公の心の移り変わりは、おそらく人それぞれで、そこまで描写するのも、と思ったので駆け足っぽくなってしまいました。虚栄心や認証欲求は誰もが持っている感情でしょう。しかし飛び出してみないとつかめない成果や結果もあると思います。


 動物の解体や、動物の行動、雪の中で焚き火を作る、木に登る、木を伐る、むしろ雪の森、といったものすべてに自信がありません。もし何かあったらご意見をいただければと思います。


 おそらく、主人公は現実世界でいうデンマークあたりの出身でしょう。勇者教、というファンタジー世界での宗教を信仰しているようです。

 架空生物は、魔法の影響によって変異しています。あからさまな害獣の類は駆逐されているようです。

 狼や熊が神になっている伝承はあるし、それを人間が技術を用いて殺すというのも、近世の特徴の一つでしょう。


 改めて、長い後書き含め、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。今後もいくつか短編を書こうと思っています。

 それでは失礼します。

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