表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4


 俺は銃を担いで、朝日の中を進んだ。


 暫くすると、足跡がだいぶ新しくなってくるのがわかる。

 餌を食べるために立ち止まった分、距離が縮まっているのだ。



 獲物が近くなる空気を感じて、俺は銃の状態を確認した。


 まず風系統の魔石やら変な草やらの粉末を筒に入れて、次に鏃が付いた棒を入れる。

 あとは構えて、火の魔力をこめれば発射だ。


 火の魔力が扱えない奴は、魔石で筒の外側から粉末を叩いたっていい。火によって勢いづくのは当然風だ。


 風の魔力が筒の中で膨らんで、鏃を押し出すのだ。


 それで鏃は風の魔力を十分に受けて、弓矢よりも早く飛ぶ。

 


 俺は銃を撃つのは上手くなかった。

 そりゃ人並みにはできるが、中には目を撃ち抜くやつもいる。


 軍人ともなれば何百メートルも離れたところから飛んでる鳥を落とすやつもいるらしい。



 足跡や食痕を確認すると、まだ剥がれたばかりの木の皮があった。


 近くにいる。



 足跡を確認して、先回りをしようとルートを確認する。


 山を登りながら突っ切れば、短縮することができる。鹿の癖は長年の経験でわかる。

 待ち伏せてやって来たところを打てばいい。



 どうやら、この足跡から見るに、牡鹿が一匹で行動しているようだ。

 秋に雌の群れと合流する以外は牡鹿は単独行動だ。


 この牡鹿は相当でかい。


 これを狩れば、俺も一躍有名人、どころか英雄になれるだろう。


 

 西日で影がびよんと伸びていた。夜になれば奴は山を下る習性がある。

 天敵の狼が活発になる時刻になって、追われる立場になったときに、登り坂を駆け上がれるようにするため、らしい。


 獣道と思われる場所について、荷物を降ろす。


 干し肉を取り出して、そのまま噛む。

 あまり旨くはないが、何かしてないと気がくるってしまう。



 もう野営地を決めなければ、というところでそいつは現れた。


 白波鹿。


 白い毛並みにうっすらと濃淡がついていて、それが金持ちに受けてるらしい。


 冬になると毛は白くなるのと、育てば育つほど波模様が複雑になる。


 泡波や輪島など、模様に名前が付いていて、珍しい模様ともなれば一頭で数年遊んで暮らせる程の金になる。


 

 毛並みは分からなかったが、妙な違和感があった。


 俺は山を下るようにして降りてくると思って、上の方を見ていた。


 だがそいつは予想に反して、下から現れたのだ。



 まぁ、上を狙うよりは下を狙った方がいい。


 俺は銃を構えて、白波鹿を狙った。



 筒の元と先についてる印が3つ並ぶようにすれば、まっすぐ飛ぶ。

 俺は狙いを絞った。



 距離は30メートルくらい。ちょっと先を狙うくらいでいいだろう。



 引き金を引こうとした瞬間、違和感の正体に気が付いた。

 その鹿は追われているようだった。


 慌てて銃を降ろして見回す。

 なんということだ。

 


 雪煙を上げて疾走するのは、馬鹿みたいにでかい熊だった。



 雪崩熊。



 おとぎ話じゃ月と相撲を取るほどにでかいという。

 たしかにそうだ。



 あれはやばい。

 しばらく呆然とするが、身の危険に気が付いた。


 鹿は後ろ足の力が強く、登り坂を登るのが得意だ。


 たぶん逃げ切るだろう。

 そして雪崩熊の目の前に残るのは俺だ。


 やばい。


 俺は慌てて荷物をつかんで立とうとした。



 そのとき、いきなり鹿がスピードを上げた。

 手を伸ばせばとどくほどの距離を、波が通り抜ける。



 こいつ、嵌めやがったのか……!!



 もう逃げられない。

 雪崩熊が白波鹿を襲うなら逃げられる。


 だが、熊と鹿の間には俺がいる。



 雪崩熊は茶色い毛並みをしたバカでかい熊だ。


 青っぽい目はこちらを見ている。

 目標が俺に変わったのがわかった。



 俺は慌てて銃を構えた。


 心臓がばくばくと音を立てる。

 

 あまりのでかさに手が震えて、銃口があっちこっちへと暴れた。



 でもこのまま何もしないで死ぬのも癪だ。


 

 熊の肩辺りがぐっと膨らむ。

 毛皮の上からでもわかるほどの太い筋肉。


 それで顔を殴られれば、俺の頭は卵と同然。


 ぴしゃっとなってしまう。



 熊がとびかかってくる。

 


 何もしないでやられるつもりはない。

 無意識に勇者様に祈りながら、俺は一か八かで火の魔力を込めた。



 火事場の馬鹿力か、一瞬で魔力が籠って、すぐに鏃が射出される。



 

 次の瞬間、雪崩熊は大口を開けたまま時を止めた。

 

 が、勢いそのままにジャンプしてくる。

 


 盛り上がった筋肉が伸びきるのと同時に、熊は口から吐血した。


 何とも言えない音が聞こえたかと思うと、雪の色が変わった。


 変わった雪からは湯気が立ち上っている。


 雪崩熊ゆっくりと倒れた。

 その緩慢な動きとは裏腹に、地響きとともに横たわる。


 

 そして森は静かになった。




 俺は、やったのか?

 い、いきてる、のか?



 この数秒が信じられなくて、尻もちをついてしまう。


 足がガタガタと震え始める。

 思考もまとまらない。


 ふと視線を感じて、山の頂上の方をみると、そこには白波鹿がいて、こちらをみていた。



 じ、っとこちらを見ている。

 賢しげな黒目で、見下ろすようにしていた。


 俺を見ているのか、熊を見ているのか、それとも、この信じられない光景を理解しようとしているのか。



 そ、そうだ、そうに違いない。

 俺は、やったんだ。



 鹿を見ていたら急に現実味を帯びてきた。

 銃を杖にして、なんとか立ち上がる。

 足はがくがくと、それこそ小鹿のように震えている。



 鹿はグフ、と鼻を鳴らすとくるりとこちらに背を向けて歩いて行った。

 俺が銃をもう一発撃つとは微塵も思っていないのだろう。



 立派な角を上下に少しゆらしながら、そいつは去っていった。



 しばらくそいつが消えた方を息荒く見つめることで、落ち着きを取り戻してきた。


 薄暗くなってきた。


 

 急いで熊の頭が下になるように方向転換させる。傷を下に向けて、血抜きを行うのだ。


 でかい熊だ。力自慢の俺でも、引きずるのが精いっぱいだった。


 

 木を一本切り倒して焚き火を作る。


 なんとか完全な暗闇に包まれる状態は避けることができた。


 少し休んだ俺は、たき火の近くで熊の解体を始めた。


 明日運ぶ時に、ばらしとけば楽にできる。

 血と酒を合わせて煮立てて飲むのもいいし、内臓は狩りに参加したやつしか食べれない。


 ロープを片足ずつ結び、仰向けにして股を開くように木に括り付ける。


 白い腹部にナイフを入れて、のどまで切り下す。


 やたら重い内臓をだせば、熊自体は軽くなる。薄暗い中の作業だし、雪崩熊の解体なんて3回くらいしか経験したことがない。


 坂道の中の作業は体力も奪う。


 ここで休憩だ。

 濡れた手を雪で拭う。


 採れたばかりの臓を火であぶって食らう。

 火にぼんやりと照らされた熊を見ていると、今更ながら実感がわいてくる。


 リーダーや仲間どころか、社長も祝福してくれるだろう。


 それを想像しながら、酒に血を入れて飲み干す。カッと身体が熱くなる気がした。

 

 

 残りの作業を進める。

 人間でいう足首のあたりに、くるりと一周切れ込みをいれ、内側から腹に向かって切れ込みを入れていく。


 毛皮をはぐのだ。一応傷つけないように注意を払うが、全く心配はしていない。


 臓を出すにも皮を剥ぐにも、本当は色んな専用のナイフが必要なのだが、どうしようもない。

 今は一人だし、このままでは運べないのだ。


 

 吊るせないという不便な状況でも、俺は何とか作業を終えた。

 雪の上に毛皮を広げておいて、今日は休むことにする。



 肉の解体は明日にする。

  

 


 俺は何とも言えない気持ちで眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ