第二章
怨念が溢れている。
ここは呪いそのものだ。
ある少年がこの場にいたら、あまりの心地よさにずっと浸ってしまうかもしれない空間だった。
「ああ……、わたしの夫はもう帰ってこない。なんでこんなことに……」
「メソメソうるせえぞババア! 俺のところの娘だって遺体すら見つかってねえんだ! まだ十六の生娘だったんだぞ! 親想いで、俺達のために『アサイラム』で稼いでくるっていってそれっきりだ! ちくしょう!!」
罵倒の地だが、身代わりとなる罪人は一人で足りる。
「『アサイラム』の王女がこのたびの人災は全て、美剣カンナが狂って犯した所業だという声明を出した!」
美剣カンナ。
ほとんどの人間も名前だけは知っている。
現在、行方不明の『全能人』。
「本当か? 真実なのか!? それは! 全て美剣カンナが原因なのか!!」
声を荒げる男を発端に。
「ええ、真実ではないのかしら? だって現王女の水瀬由紀様は、これからは聖なる浮遊都市の『アサイラム』を地上に降ろして、ずっと根を張ると言ってくれているわ」
「それならぼくも確かに聞いたぞ! 由紀様はぼく達のような『ライム』の者も自由に『アサイラム』の入出を許可すると言っていた!」
沢山の真実が漏れていく。
――美剣カンナを許せますか?
突然ある女が、その場にいた全員に向かって問うた。
そんなの……。
ゆるせない!
許せない!
赦せない!
ユルセナイ!
――その許せない心を身に持ったまま、あなた達は老いて死ぬのですか?
ありえない!
ありえなイ!
ありえナイ!
アリエナイ!
――では、あなた達は美剣カンナとの戦いを選びますか?
……怖い。
怖い……。
恐ろしい……。
――怖がることはありません。領域など、所詮は『アサイラム』特有の風土病に過ぎない。そして、その病の種をあたし達は持っているではありませんか!
…………。
ソウダ。
そウダ。
そうダ!
そうだ!
俺達は。
わたし達は持っている。
その種を!!
――ならば創り出しましょう。『アサイラム』の『全能人』にも劣らない。美剣カンナにも負けない。強く、逞しく、賢い子供を!
ツクロウ!
つくろう!
作ろう!
創ろう!
――子供は天使です。私達の復讐を担ってくれる優しい天使様です。故に、その施設はこう名付けましょう。
――『天使の牧場』と。
今日もどこかで、祝詞が聞こえた。




