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第二話 恋との約束により、愛にきたけもの。1-5

 御浜北の一年生の授業日程は、水曜から金曜日までは七時限まであるのだが、月曜と火曜日だけは六時限までなので、十五時三十分には家に帰る支度ができた。


 弘樹は放課後『私用があるので』と彼に何度も謝り、先に帰っていったカンナを見送った後は特にやることがないので、今日は真っ直ぐ家に帰ろうとしていたのを、不意に呼び止める者がいた。


「ちょっと手伝って欲しいでござるよ」


 語尾に忍者のような言葉をつけて、唐突に一人の女生徒が弘樹に頼みごとをしてきた。


 艶やかに輝く長い黒髪に、下半分がフチなしでフレームが銀色の眼鏡をかけている。またアヒル口で、いつもニコニコしてそうな少女だ。背も百七十センチ以上ある葵よりは低いが百六十五センチ程度はありそうで、十五から十六歳の少女にしては充分に高い方だった。


 眼鏡をかけているせいか、やけにその子が知的に映った。さらにほとんどスマートフォンで済ましてしまう今時の女子にしては珍しく右腕に腕時計を着けていたのも、弘樹がその女子を知的に感じた一つの要因だったのかもしれない。そして何より胸がデカイ! 背丈は葵のがひとまわり高いが、胸は目の前にいる彼女の方が――ふたまわりを余裕で超えて大きかった。


「われは図書委員なのでござるが、この量を持って図書室まで運ぶのは……一回ではちょっと無理でござるので」


 少女は大量の本を廊下に置いていた。


「別に良いけど、えーと……」


 この少女が同じクラスなのは胸のおかげで何となく覚えていたが、弘樹はその女子の名前がでてこないので困っていると、それを察した少女が嘆いた。


「なんと! 同じクラスなのに、まだ名前も覚えてござらんと!? ショボーンでござる……」


 とてもショックを受けている少女に、弘樹は申し訳ない気持ちになった。


「悪いな。み、み、道代みちしろさん……。だっけ?」


 弘樹は記憶を辿りよせ、なんとか回答を導きだすが……。


「おしい! おしいでござるよ! でもまあ、まだこのクラスで弘樹殿が過ごすのは約十日といったところでござるし、実はわれもこの学園にくるのは三回目なのでござるよ。だから充分、及第点でござります故に」


 とりあえず弘樹は本を図書室まで運ぶ手伝いを承諾した以上、潔く彼女から半分よりやや多目の本を受けとる。


 ようやく目処がついたとばかりに、彼女は安堵の顔を見せて弘樹に挨拶を交わす。


「われの名前は廸乃みちの世界せかいでござります。以後お見知りおきを」


 弘樹は、やけに古風な言葉を使うセカイと共に大量の本を持ちあげながら、図書室まで歩いていった。


 セカイが歩くたびに胸がプリンのように揺れるので、弘樹は心の中で『ここが世界の中心か』などとくだらないことを考えていた。




 図書室に着くと、セカイはさっきまで持っていた大量の本を次々と空いている本棚に収めていく。弘樹が横から眺めると、どの小説も現代風のイラストが描かれていた。


「これって、ライトノベルっていう奴だよな」

「――!」


 セカイの身体が胸を中心にしてビクッと動いた。そしてウルウルと目が輝きだす。


「そうでござるよ! われが命でござる! 古から存在する小説と現代風のイラストを絶妙なバランスで重ね合わせた、日本が誇る傑作にして大発明な品でござる!」


 いきなりセカイが饒舌になると、自信溢れる顔で語り出した。


 その姿を見て弘樹もさすがに、いささか戸惑う。


「そうか……。お堅い進学校だけど、こういう本も提供してくれるようになっていたんだな」


 その弘樹の解釈に、セカイはうっすらと顔を曇らせた。


「実をいうと、この本は全てがわれの自前なのでござるよ。いまだに日本がつくりあげた、この秀逸なる作品群を認めてくれる先生方が少ない故に……。それはそうと、弘樹殿もライトノベルを崇拝しておられるのでござるか!?」


 曇らせた顔から一転、セカイが輝きに満ち溢れた顔で聞いてくる。表情がコロコロと変わりやすい面白い少女だった。


「いや、俺の友人で……同じクラスに神道祐一っていう奴がいるんだけど知らない? そいつがライトノベルとかアニメとか、そういうの結構好きでさ。俺も何冊か借りて読んだことはあるよ」


 セカイがアニメという言葉にも反応を示し、さらに勢いを増して語りだす。


「われもアニメ、ライトノベル、それに漫画も大好きでござるよ! 同じクラスにそのような人がいたとは! その神道祐一殿とは仲良くなれそうでござるな! いやー、特に日本のアニメは面白くて最高でござるよ! われの国では、こんな娯楽は皆無な故に……」


 残念そうなため息をセカイは漏らす。


 さっきのセカイの語りに、弘樹は一つの疑問がわいた。


「お前って日本人じゃなかったのか?」


 ――君なんて呼ばなくて良い。お前で十分、そう彼女が俺に告げている。


 確かにセカイは、『われの国では』と言っていた。だが見た目は胸が人並み以上に大きい以外では、日本人にしか見えない。


「われでござるか? ……ウフフッ、もちろんこことは違う世界の住人でござるよ」


 嘘か真かわからない口調でセカイは答えた。


 ――世界規模で違う住人?


 弘樹はさすがに呆れてしまう。


 するとセカイは呆れている弘樹の顔をいきなり真剣に眺め、見渡し始める。


「『彼女』から聞いてはいましたが、弘樹殿はやはりまだ微塵も邪気眼には目覚めていないのでござるね」

「……邪気眼?」


 ――もしかして、かなりアッチ方面の住人にであってしまったか……?


 弘樹は思わずたたらを踏んでしまったが、それでもセカイの目は真剣そのものだ。


「自身の自我のことでござるよ。特に王の証明である『Α.アルファ』と『Ω.オメガ』は、赤子から幼少の頃にその片鱗を見せ、やがて消え、そして先代の王が亡くなると、ある一定の期間を経た後、ありとあらゆる『領域』をも支配するその目は――また姿を現す……」


 いきなりフレームが銀色の眼鏡を外し、セカイは弘樹と対面で向かい合う。


「――!」


 弘樹は驚嘆する。なんと左右で瞳の色が違ったのだ。おそらく虹彩異色症。または『オッドアイ』という奴だろう。祐一から借りた漫画やアニメなどのフィクション作品では何度か拝見したこともあるが、実際にこの目で拝むのは初めてだった。


「ちなみに、これがわれの領域をすでに発動している目印でござるよ。通常、領域番号は興奮状態で両目に浮かびあがるものでござるが、われの領域は左右の色によってだけで発動しているか、あるいは停止しているのかがわかるのでござる。『発動』の右目が青色、『停止』の左目が赤色と、信号機みたいで面白いでござろう。あれ? 信号機だと逆になるでござるか?」


 セカイの目は右が青色、左が赤色だった。左右の目の色が違う。これだけで凄い神秘性のようなものを弘樹は感じた。


 さらにセカイは自身の『領域』のことについて解説する。


「領域の維持は身体の負担が大きく疲れる故に、自分の限界を試す人はあまりいないでござるが……。まあ、大抵の領域はせいぜい二から三時間ぐらいが限度で一度は消滅してしまうでござるよ。えーと、なんだったでござるかな? 確か長時間の維持が可能で有名な、もう一つの自分を完全に創りあげる、『Β.ベータ』の『双造創聖そうぞうそうせい領域』でさえ、三日もたてば創られた方が消えてしまうでござる。けれど、われの領域だけは例外中の例外なのでござるよ。それはわれが主を思う心がある限り、自分が亡き者になるまでの発動も可能になるのでござる」


 弘樹にはまったく理解できないでいたが、セカイがこの時に見せたどこか悲しい目を見てしまうと、冗談を言える雰囲気でもなかったので黙っていた。


「…………」


 セカイが見せてくれた『オッドアイ』や難解な説明に、どう返答したら良いのか弘樹が困っていると、まだこの時には彼がわからない気持ちを、彼女は言葉にするのであった。


「われは変化を恐れているのでござるよ」

「……え?」


 ――変化を恐れている?


 意味はわからないが何故か神妙な顔になるセカイの前に、弘樹は何も言えず聞き手にまわる。


「今まで、ずっと王は一人でござった……。だから王がもし二人になると何かが変わってしまうと思って、その変化が恐ろしいのでござるよ。そして、そうなることで起こる変化が王のためにもならぬと思っているからこそ、現時点でもわれの領域は発動しているのでござる」

『変化』。それは今の弘樹にも感じていることだった。


 ――ユキ……。ユキは多分中等部だった頃の友達? あいつは高等部はどこにいった? 多分御浜西……。


 ――多分、たぶん、タブン。


 弘樹も変化を恐れていた。


 それは新しい何かを知ること。あの弘樹には誰よりも優しく、いつも海のような碧色の瞳をキラキラと輝かせているカンナの目的は――。


「我が左には、平等の象徴である天秤を。我が右には、その理を崩すものに与える神罰の神剣を。真の平等とは、我が主を守ることとしりたまえ」

「……それは…………」

「われの領域は常に主のためにが発動条件なのでござるよ。それが主ではなく自分自身のためになった時、『不平利領域』は崩壊するのでござります」

「……………………」



 本棚にセカイが持ってきた小説を全て収めると、二人の作業は完了してようやく解散になる。しかし彼女はまだ図書室に残って持ってきた小説を読んでいくというので、弘樹が先に図書室を出ることになった。


 図書室のドアを開けようとした直前で弘樹は振り返り、セカイの目を見て彼女に尋ねる。


「なあ、ユキって名前の子を知らないか? もしかしたら、この御浜北の女子かも知れないんだ。もしもセカイの友達にユキって子がいるならさ――」

「――――!」


 セカイは一瞬、衝撃を受けたような表情を見せるが、すぐにもとの知的な顔に戻して弘樹が質問を言い終わる前に、彼女は口を開いた。


「すまんでござるよ。われには友達がいません故に。その……ユキって子は、弘樹殿にとって大切な人なのでござるか?」


 セカイが緊張した面持ちで聞いた。


 思いだすように弘樹は頭を上に向けるが、やはり思いだせないので、そんな自分にイライラして髪を掻き毟りながら答える。


「……多分、凄く大切な人だったと思う」


 その言葉を最後にして、弘樹は今度こそ図書室のドアを開けた。

 ドアを開けて廊下に出ようとする弘樹には聞こえない小さな声でぽつりと一言、セカイは呟くのだった。



「ヒロ様…………。ヒロ様は、われに新しい世界を見せてくれますか……?」

 女性キャラのおっぱい表。

 廸乃世界F。

 神道葵A~B。

 水瀬由紀B。

 美剣カンナC~D。

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