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アルティメット!  作者: ペポ
4月
5/5

チャラそうな人が出てきました。


 僕がこのごつい先輩に引きずられること約5分。


 この広い公園の隅に例のブルーシートを広げ、ささやかな食事(主に菓子類)を貪りながら携帯ゲームに熱中している一人の男性の前に、僕は差し出された。


 どうやらここがこの先輩達のサークルのお花見場所らしい。


 辺りに桜の木なんぞ一本もないが。


「おい多々良! 新入生また一人確保したぞ!」


 先輩は、ブルーシートの上で携帯から目を離そうとしないその男性に向かって僕のことをそう話した。


 まあ確かに、この状況では正しい意味での「確保した」なのだろうな。


 現に今僕、この場から先輩を振り切って逃げるだけの自信はまったくと言っていいほどない。


 ものすごい力で襟首を掴まれているのでさっきから若干酸欠気味だ。いい加減話してほしい。


 なんて若干涙目な状態で、ブルーシートに陣取る人物に目をやる。


 この人物は誰なのだろうか。


 おそらく僕の首根っこをひっつかんでいるこの先輩と同じサークルに所属している仲間なのだろうが、一応ちゃんと自己紹介が欲しいところだ。もちろん今僕を締め上げているこの先輩もだ。


「おうまじか。もうこれで『5人目』やな。お花見大成功だ」


 ブルーシートを陣取る『多々良』と呼ばれたこの人は、携帯から目を離して僕を見た。


「……なんだ、男子やん」


 うるせーよ。


 僕はこの人からどことなく自分と同じようない匂いを感じた。




「俺は薬学部二年の多々良喜助タタラキスケ。出身は大阪や。我がアルティメットサークル『チートイヅ』へようこそ。歓迎するで」


 先程まで携帯ゲームに勤しんでいた人はそう自己紹介した。大学生活満喫中と言わんばかりの赤茶色の髪にやんちゃそうな八重歯。こういう場でなかったらあまりお近づきになりたくないタイプのお方だ。


「我がサークルというのは?」


「このサークル、俺が去年立ち上げたんや。そこにいる堂本と二人でな」


 多々良先輩は僕の後ろで天月さんとそれは楽しそうに談笑しているあのごつくてでかい先輩を差してそう言った。


「ん? ああそうだ。俺と多々良が最初に始めたんだよ。名前は堂本収ドウモトオサム。根性ある奴は大歓迎だぜ。根性ない奴は嫌いだ」


 と宣言するごつい先輩。


「いやー、二人だとパス練しかできなくてつまらんかったや。新入生はホント感謝やで」


 そう愚痴をこぼす多々良先輩。


 『アルティメット』がどういうものかまだ僕はよくわかっていないが、パス練というからには要は二人でフリスビー投げていただけということだろう。


 どこのカップルだよ、とツッコみたくなる。


 僕なら2日で辞めるね、そんなこと。


「でも確か今はもうちょっと人数いるんですよねっ!?」


 天月さんがそう尋ねる。


 『確か』ということは、おそらく俺と出会うよりも前に先輩達からそこら辺の話を聞いていたのだろう。


「ああいるで。女子が一人」


 一人かー……。


 つまり現状、多々良先輩・堂本先輩とその女の先輩だけということになる。


 んんー……。


 さすがに人少ないかなー。


 僕としては、もうちょっとこう、大学生らしくみんなでワイワイみたいな感じがいいからなー。


 ちょっとここに入るのは考え物かもな……。




「それで天月ちゃんはどうするん? また練習来てくれるん?」


 多々良先輩は、僕と一緒にここまで来てくれた天月さんに尋ねる。


「はいっ! 私ここに入りたいですっ! ただまだちょっとアルティメットがどういうものかはわかんないですけど」


 天月さんはえへへとはにかむ。


「ああ大丈夫大丈夫。ルールそんな難しくないから。……で、えっと、名前なんやったっけ?」


 多々良先輩は次に僕に向き直る。


「あ、はい、二条誠士郎です」


「カッコイイ名前やな。で、その誠士郎はうち入るん?」


 正直まだ決まっていない。


 赤茶色の髪でチャラそうな多々良先輩も、人の話を聞いてくれない堂本先輩も、どちらもいい人なんだろうなとは思う。天月さんもこのサークルに入ると言っているのだし、確かに魅力的ではある。


 だがしかし!


 やはり人が少なすぎるというのが正直なところだ。


 過疎ったネトゲは廃れていくのだ。


 僕の桃色の大学生活の為に、泥船に乗るわけにはいかない。


 それに、僕はまだこのサークルが具体的に何をやるのかわかっていない。どうやらさっきから名前が出ている『アルティメット』なるものを生業にしているようだが、それだけでは説明が足りない。『究極』って、という話だ。


 そんな得体の知れないサークルに、身を置けるわけがないだろう。


「すみません、僕堂本先輩に連れられてきただけで……。アルティメットがどういうものかも知らなくて……」


 と僕は答えた。


「はぁー、やっぱそうやな。みんな知らんわな。でもまあ、だからこそ俺はやりたいと思ったんだけどな。……堂本、行くで」


「おう」


 多々良先輩が堂本先輩に声をかけると、堂本先輩はさっき僕の意識を刈り取った白いフリスビーを多々良先輩に投げて渡した。



「二人ともそこで座ってて。花なんかよりもずっとおもろいもん、『アルティメット』みせてやるわ」



 多々良先輩はニヤッとしてそう言った。


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