ちゃんと話を聞いてくれない人は嫌いです。
僕と天月さんが楽しくお喋りしていたというのに突然現れた謎の人物。どうやらこの人が先程から天月さんの話の中に上がっていた『先輩』らしい。
この人、とにかくでかい。身長はおそらく190cm近くはあるんじゃないだろうか。短く刈り込まれた髪とその高身長が相俟ってハンパない威圧感だ。
「先輩、この人もこのサークルに興味があるみたいですよ」
「え、あの、ちょっと待って……」
天月さんは凄く嬉しそうに話してくれちゃっていやがるが、ちょっと待ってくれ。
こんなごつい人がいるなんて聞いてない。
僕の女の子達といちゃいちゃわちゃわちゃの楽しい大学サークル生活の夢が音を立てて崩れ去っていくのを感じる。
こんなごつい人といちゃいちゃわちゃわちゃはしたくない。
「お、なんだお前もうちに入るのか! そうかそうか! 新入生は歓迎だ!」
ごつい先輩の威圧的な雰囲気は一瞬で消え去り、ただの人当たりのいいお兄さん的な雰囲気がこの人を包み込む。
が、でかいという事実は変わらない。
「え、いや、えっと、まだ決めたわけじゃないんですけど……」
僕がそう言うと天月さんは「えっ」という表情を浮かべる。
「二条君さっき一緒に入ってくれるって言ったじゃん」
「いや言ってないよ!? 天月さんには悪いけど言ってないよ!? 花見をちょっと覗いてみようって話だったじゃん!」
僕は必死に訴える。
「あ、そうだったかも。間違えちゃった、えへへへ……」
天月さんはばつが悪そうに照れ笑いを浮かべる。
ああ、可愛い!
許す!
僕は女の子を許すことができる紳士で優しい人間なのだ。
「なんだなんだ、つまりうちに入るってことだろ?」
ごつい先輩はそう確認してくる。
この人今の会話聞いてなかったのかな……。
「いやちょっとお花見行って、話だけ聞いてみようかなーなんて思ったりー……」
と僕は適当にはぐらかす。
天月さんには悪いけど、運命の出会いだったかもとかそういうのは一旦忘れよう。なかったことにしよう。
この先輩みたいにごつい人ばっかいるようなら、いくら天月さんがいても考え物だぞ。
いくら天月さんが清涼剤だとしても、それでごつい人が美少女に変わるわけではない。ごつい人はごつい人なのだ。
「つまり入るってことだよな?」
「……?」
「な?」
別に怒鳴っているわけでも怒っているわけでもないのだろうが、そう上から(物理的に)言われると僕も委縮してしまう。
しかもこの人、絶対僕をサークルに入れるつもりだ……!
「な?」
僕の目の前に立ってそう確認してくる先輩。
うぅ、怖いよぅ……。
「先輩! 無理強いは良くないですよっ!」
そんなこのでかい先輩を止めてくれたのは天月さんだった。
「だが、こいつはうちに入るんだろ?」
この先輩は心底不思議だという表情で疑問を口にする。
「まだ決定ではないそうです! なので、さっき私にしてくれたみたいに、お花見しながらサークルの話を聞かせてあげればいいんじゃないですか?」
「そうか。そうだな。この期に及んで決めてないとは優柔不断な奴だが、『アルティメット』の良さってやつを俺がたっぷりと教えてやる!」
そう意気込むごつい先輩。
あれこの流れは、僕このごつい先輩とお花見しなきゃいけないんですかね……!?
どんな罰ゲームだよ!
動揺する僕と対称的に爽やかな笑顔を浮かべる先輩。
「めっちゃ楽しいから、絶対ハマるぜ」
そう宣言する先輩。
僕はそんな言葉に、不覚にも一瞬惹かれてしまった。
僕が何も答えないのを見て、それを肯定とみなしたらしい先輩と天月さんが動く。
「よし行くぞ!」
「二条君もレッツゴー!」
ごつい先輩に襟首を掴まれ、半ば強引に連れて行かれる僕。
いくら天月さんが一緒とはいえ、やっぱこんな人のいるサークルは嫌だー!!
さっき惹かれたのは間違いだったんだ!
「いやぁぁぁ!」
僕はごつい先輩に連れられ、彼の所属するサークルのお花見へと参加することとなった。