これは運命の出会いかもしれません。
「――……大丈夫っ?」
なにやら頭上で声が聞こえる。が、何も見えない。
視界は未だ暗転している。
仄かに鼻をくすぐるいい香り。
どことなく柑橘系。
……状況がよくわからないぞ。
僕がそっと目を開けると、そこには面識のない女の子がいた。
「……あっ! よかった気付いたんだっ!」
「……ひぇっ!」
我ながら変な声を出してしまった。そんな衝撃のまま僕は体をごろごろと3回ほど転がし彼女と距離を取る。
「ど、どうしたの……?」
「い、いや……」
僕がいきなり変な声を出して離れていったせいか、彼女は少し傷ついたような表情をしていた。僕は申し訳ないなと心の中で謝罪しつつ、彼女の顔をじっと見た。
「私の顔何かついてるかな?」
「い、いや……」
いやしか言えないのか僕は。
これだからコミュ障は。
まあこの場合僕がまともに喋れなくなってしまっても仕方がない。女子とまともに喋ったことない僕が、いきなりこんな可愛い子と普通に喋れるわけなんてないのだ!
そう、今僕の目の前にいるこの子はとても可愛い。僕が今まで出会った女子の中で一番かもしれない。
光の当たり具合のせいか少し明るく見える髪色はナチュラルな黒茶色。肩ほどでそろえられたその髪はサラサラとしていて、なんだかCMに出てきそうに綺麗だと僕は思った。整った顔立ちに意志の強そうな瞳、うっすら浮かべた優しい笑顔に優しい香り。
いわゆる美少女だった。
いや、僕と同じようにスーツを着ているということは、つまり僕と同じ明暇大学の新入生ということで、「美少女」という言葉を使うことは少し憚られた。かといって美女というのは何かが違う。
なんだろう?
…………。
……姫様?
ないか。
「えっと、大丈夫? けっこう勢いよくディスク当たったよね?」
「あ、うん、大丈夫。……ディスクって何?」
あれかな、たくさんの人が小さな部屋の中で踊ってるところかな?
あ、それはディスコか。
「これだよっ!」
女の子はその手に持っていた白い円盤を僕に向かって差し出してきた。僕は何となくそれを受け取り検分する。
直径は30cmより少し小さいくらいか。予想に反してずっしりとした重みがある。こいつが僕の可愛らしいお頭にアンビリーバボーしてくれたのか。どうりで命を刈り取る形をしていやがる。形状をよりわかりやすく説明するなら、僕らが子供の頃に慣れ親しんだあの玩具に酷似している。
「……フリスビー?」
「みたいなものみたい。私もさっき知ったばかりだからぜんぜん知らないんだけどねっ! ただなんとなく投げるのが楽しくてっ!」
凄いキラッキラ笑顔で受け答えしてくれる。
なんて良い子なんだ!
ファンになってしまいそうだ。
「このディスク君の物?」
「違うよ。なんかこのディスク使ったスポーツやってるサークルがあって、私そこでお花見して話聞いてたんだけど、実際にやってみたほうが早いってことになって、そこの人とパスの練習をしてたの」
あーなるほど。
さすが大学、こんなマイナーそうなスポーツのサークルとかも存在してるんだ。
まあ大学っぽくていいと思うけどね。
「え、じゃあもしかしてさっき僕の頭にディスクがクリーンヒットしたのって……」
僕は彼女を見る。
けっこうな威力あったんだけど、あれもこの子が!?
み、見かけによらずパワーあるんすね……。
生まれてこのかた意識飛んだの初めてっすよ。
「え、失礼だなー、あれは私じゃないよぅ。私女の子だしそこまで力ないもん」
「そうか、ごめん」
「キャッチできなかった私も悪いんだけど、今日初めてディスクに触る相手に向かってあんな勢いよく投げる『先輩』も悪いと思うんだよね」
「『先輩』?」
「そう。このディスクスポーツやってサークルの先輩で、私の投げる練習の相手してくれてたの。あなたにディスク当たっちゃったのは、半分はあの『先輩』のせいだと思うんだよね」
へー、そりゃあなかなかパワフルな先輩もいたもんだ。
てかディスク人に当たったんですけど、詫びとかないんですかね……。
いやいいんですよ、僕は人間が出来てるんでそういう小さい事いちいち気にしたりはしないんですけどね、でもそういうよろしくない態度してると新入生ぜんぜん入らなくなっちゃいますよ?
「それでえっと、あなたの名前聞いてもいいですか?」
おずおずと名前を尋ねてくる彼女。
お、これはもしや!?
いやいや期待するまい。
今までこうやって期待して何度裏切られたことか。僕みたいなやつはちょっと優しくされただけで勘違いしちゃうもんなんだよ。
女子のみなさん、不用意な優しさは男子を傷つけるので気を付けてください。
あ、でも冷たくされると本当に傷つくんで、優しく温かく接してあげてください。
男子の心はガラス製です。割れ物注意です。
「僕は二条誠士郎。出身は蛍名第二高校だ」
「私は天月美都。出身は私立華戸高校だよ。よろしくねっ!」
天月さんは爽やかな笑顔とともにそう言った。
あ、ヤバイ。
なんか凄いドキドキしてる。
これがいわゆる運命の出会いってやつなのか……!?
「二条君、もしお花見まだなら一緒にディスクのとこ行かない? 私はもうたぶんここ入るんだけど、二条君もよかったら話だけでも聞いていかない?」
天月さんから降って湧いたようなお誘い。
ディスク使ったスポーツっていうのがどういうものかは知らないけど、まあたぶんお遊びみたいなところなんだろう。
「僕も特に行きたいところがあるわけじゃないし、いいよ。僕もちょっとそのサークルに興味出てきちゃったよ」
天月さんと楽しくフリスビー投げながらお喋り。
考えるだけでワクワクするね!
これぞ僕の求めていた大学生活!
間違いない、このサークルとの出会いこそ運命だ!!
「ん、天月、誰だそいつ?」
ふと天月さんの背後に巨大な人影が!
「あ、『先輩』。さっき先輩の投げたディスクがこの人に当たっちゃってさっきまで気絶してたんですよ」
「ふん、軟弱な」
巨大な影がそう受け答えする。
え、この人がそのサークルの『先輩』?
ごめん天月さん、やっぱちょっと考えさせて……。