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アルティメット!  作者: ペポ
4月
2/5

二条誠士郎、大学に入学しました。


 4月の第1週。


 空は快晴。


 気温湿度共に申し分無し。


 こういう特別な日に限って異常をきたす僕の胃腸も、今日に限っては大人しいものだった。


 今日はすこぶる調子がいい。


 何か良いことがあるかもしれないな。


 僕は朝からそんな予感がしていたのだった。




 今日は僕にとって、僕の人生にとって非常に特別な日であった。


 何も僕の誕生日というわけではない。


 4月という時期柄、お察ししてもらえるだろうか?


 そう、今日は僕の、大学の入学式なのだ。


 私立明暇ミョウカ大学。


 明るい暇と書くなんともお気楽そうな名前の大学だが、100年以上の歴史を持つ地元ではそれなりに名の通った大学ではあるのだ。まさに地元の地元による地元のための大学といった様だ。


 そんな、決して部活や恋や友情をエンジョイしただけの能天気系高校生や、逆にさして部活に積極的ではなかった根暗系高校生(ちなみに僕は後者だ)では敷居が高いと言わざる負えないこの大学に、僕はひょんなことから入学してしまった。


 入学できてしまったのだ。


 お世辞にも頭の出来が良かったとは言えない、部活を3カ月以上続けられたことの無い飽き性の僕が、本当にたまたま、神様の気まぐれかはたまた悪魔のイタズラか、この私立明暇大学に入学できたのだ。


 ありがたい話である。


 入学試験前の1週間、必死に最後の追い込み(具体的には、神様への懺悔・近所のお地蔵様の清掃・ご先祖様の墓参り・大吉が出るまでおみくじ・四つ葉のクローバー探し等々)を行った甲斐があったというものだ。


 努力は報われるっていうのは本当なんだね!


 僕はその言葉の生き証人になれて本当に嬉しいよ!




 入学式はつつがなく終わった。


 ……と思う。


 半分以上寝てしまっていたのでよくわからない。


 隣の席が無精髭を生やした明らかに年上のお方だったために興が削がれて、周りへの関心を失ってしまったのだ。


 可愛い女の子がよかったなー。


 というのが正直なところ。


 入学式が終わり、周りは皆帰り支度を始めている。


 僕もそろそろここ出ようかな、と腰を浮かせた。


 確かこの後、大学近くの公園で各サークルや部活によるお花見があるんだっけ。


 朝ここに来るまでにもたくさんのサークルや部活から勧誘を受けた。現に手元の鞄の中には今朝のビラがくしゃくしゃになって押し込まれている。このお花見もそういった新歓のための催しの一つなのだろう。


 どうしよっかなー。


 せっかく大学入ったんだから、サークルとかそういうのやりたいよなー。


 でも部活ってなんかきつくて厳しそうだし、サークルとかそういうユルい感じでいいや。別に何がやりたいってのがあるわけじゃないけど、できれば女の子と仲良くなれそうな感じのがいいね。


 例えばほら、定番のテニスサークルとか!


 僕だってテニスは経験者だし(約2ヵ月)、こうやるんだよって感じで教えてあげられるかもしれない!


 まあ僕ボレーしか教わったことないけど!


 それ以外できないけど!


 …………。


 ま、まあお花見の会場行って、なんか面白そうなとこあったら話聞いてみようかな。




 大学近くの公園は入学式の会場からすぐだった。公園の外にまでも、サークルなどの勧誘と思われるビラや看板を持った人がいた。


 もちろん勧誘の人だけではなく、僕と同じように入学式から直接来たと思われるスーツ姿の新入生達の姿も多く見受けられた。


 この人達みんな僕の同学年なんだよなー。


 そこはさすが大学というか、さっき入学式で隣にいたような明らかに僕より年上のような人や、海外からの留学生と思われる人もいる。


「大学っぽいな……」


 僕は思わずそう呟いていた。


 そんなことで自分が大学生になったのだということをしみじみと感じる。


 特に目的のサークルや部活はなかった僕は、公園内を適当に歩いて見て回ることにした。




「ねえそこの君! 僕達軽音サークルなんだけど、興味ない!? 話だけでも聞いていってよ!」


「えっ!? あ、えっ……?」


 周りをきょろきょろと見まわしながら歩いていると、いきなり茶髪のいかしたお兄さんに話しかけられた。


 え、何、読モのスカウト!?


 ……そんなわけない。サークルの勧誘だ。


「えっ、えっと、僕楽器とかやったことないんですけど……」


「大丈夫大丈夫! うちは初心者大歓迎だし、皆趣味でちょっと弾けたらいいなってくらいの奴ばっかだから、ぜんぜん気負うことないって!」


 茶髪のいかしたお兄さんは、それはもうぐいぐいと来た。


 軽音かー。


 大学生っぽいしいいかもなー。


 女の子はバンドやってる男に弱いっていうし。


 実は楽器やったことないというのは嘘で、高校の時軽音部にも所属していた(約1ヵ月)ので楽器の経験は一応ならある。キーボードのドレミファソラシドの位置くらいならわかるという自負がある。まあそれだけじゃ楽器が出来るといううちには入らないという自覚もちゃんとあるが。


 うーん、なんかしっくりこないし、もうちょっと他のところ見てから決めたいなー。


「すみません、他のところ見てから決めてもいいですか?」


「いいよいいよ! 俺ら公園真ん中の噴水近くでお花見やってるからいつでも来てね!」


 お兄さんが別の新入生のところに声をかけに行くと、僕はほっと胸を撫で下ろした。


 な、なんか大学ってすげー……。




 比較的広いこの公園を見て歩いていると、軽音サークル以外にもたくさんのサークル・部活の勧誘を受けた。


「え、まだ入るサークル決めてないの!? だったらぜひうちの天体観測サークルに入りなよ! 大学生といったら恋と花火と天体観測って相場で決まってるんだ!」


「君新入生だよね? 高校ではなんか運動やってた? よかったらうちの陸上部の花見おいでよ。僕が、陸上がいかに素晴らしいスポーツなのかということについて享受してあげるから」


「やっほー! 一年生だよね!? ピカピカの一年生だよね!? おいで! 何も聞かなくてもいいから、うちのサークルにおいで! 私達ね、ワンダーフォーゲルっていう山登りのサークルなの! 他の地味めなサークルと違って、山登った時の感動ったら他にないんだからね! 最高よ!」


「ウッス! 俺達ラクビー部だぜ! 俺達今部員が4人しかいなくて廃部の危機なんだ! 幽霊部員でもいいから入ってくれ! この通りだ!」


「ボランティアサークルでーす。一緒に地域のイベントのお手伝いしたりしませんかー?」


 他にも様々な人から様々な勧誘を受けた。もはやどんなサークル・部活があったのか覚えきれない。


 とりあえず僕が気になったのは弓道部かな。


 あの弓道の道着着てる女子って最高だよね!


 高校ん時にそれ目当てで弓道部にも入ったことあるんだけど(約2週間)、休憩中に戦国時代ごっこをやってるところを顧問に見られて退部になったんだよなー。


 服装のことで言えば、茶道部とかね!


 大和撫子最高!


 ニッポン最高!


 ……とかなんとか考えてはいるが、これといったサークル・部活はまだ見つけられていない。




 なんだかんだと歩いていたら少し人気がなくなってきた。さすがに公園の端くらいになると新入生もそう足を運ばないだろうし(その前にどこかのサークルか部活の勧誘に捕まる)、勧誘の人がこの辺りに来る意味もない。


 あー、桜が綺麗だなー。


 少し散り始めた桜を見上げて和んでいると、前方斜め上方から何かが飛んでくるのが見えた。


 よく見ると、それは白い円盤だった。


 白い円盤が回転しながら僕の方へと飛んできているのだ。


 しかも結構なスピードで。


「えっ? えっ?」


 何あれ?


 UFO? 未確認飛行物体?


 ど、どうして僕を狙うんだ!?


 捕まえたほうがいいかな!?


 あれ捕まえてもし中に宇宙人が乗ってたりなんかしたら、僕もうめっちゃ有名人じゃん。


 宇宙人を捕獲した第一人者として連日テレビに引っ張りだこ。


 もしかして国民栄誉賞なんかもらっちゃりし――


「――うっ……!」


 その白い円盤が前頭葉に直撃した僕は、目の前が真っ暗になった……。


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