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君の隣。

私の家の周りでは同い年の子が一人だけだった。運動が得意な男の子。何をするにも二人で遊んだ。大人はそんな私達をお似合いだとか、未来の夫婦だとかと笑いながら話していた。私は意味を良く分かっていなかったが、なんだか妙に嬉しかった。きっと幼心に恋をしていたのだろう。幼稚園に行くにも迎えのバスが来るまで手を繋いで、バス内の席も隣。組も一緒だった。ずっと、このまま一緒なんだと……そう思っていた。


 いつからか彼は、私を以前のようには構ってくれなくなった。それどころか邪魔のように、私を見る。

 バレンタイン。どうやら私以外からも貰ったらしく、その子が気になっているみたい……。私は泣いた。泣きながら家に帰った。そんな私を母親はどうしたの、と優しく撫でてくれたが、私も何が何だか良く分からなかった。無性に悲しかったのだ、叫びたかったのだ。その日は一日中母親にしがみ付いて泣きじゃくった。翌日にはまた普通に、彼といつもどおりに幼稚園に通う。ただ、手は繋いではくれなかった。


 それが、私の初恋の記憶だ。例のあの子とは学校が別々だった。その後も彼とは小中と一緒だったけれど、しかし、彼が私に振り向くことは一度としてなかった。諦めは付いているのに、それでもやっぱり、ふとした瞬間に目で追ってしまうのだ。


 

 高校に行けば、変われるだろうか……?

  


 しかし、そんな思いも空しく、またしても彼と一緒になってしまうのだ。クラスを覗けば、男女数人で笑いながら喋っている彼。まるで逃げるように自分の席に着く私。するとチャイムが鳴る。朝礼が始まる合図だ。朝、家の前で会うのを避けるように私はギリギリで家を出る。これが私の毎日だった。


 席が遠いのが救いだろうか。そうやってほっと息をついていると、隣の席から、おはよう、と声をかけられた。おはよう、と返せば彼はそのまま前を向いてしまう。山内克也。無愛想ながらいつも挨拶をしてくれる。実は彼とも小中と一緒だったりする。昔はもっと明るく笑う人だったのだけれど、いつからか、あまり笑わなくなってしまった。それでもどこか人を惹き付けるのか、不思議と彼の周りに人が寄ってくる。今は私もその一人だ。彼の隣は妙に安らぐのだ。



 クラス担任は特に言うことはないのか、時間まで廊下に出るなよー、とさっさと終わらせて職員室に行ってしまった。

 途端に皆が喋りだすのは、まあ仕方ないことだろう。席を立つ人もいるが、廊下に出たり騒がなければ特に叱られない。流石に大声が過ぎると隣のクラス担任が怒鳴り込みに来るけども。

 早くも、隣の席には男数人が群がっていた。私は授業の準備をして、それを眺めるのだ。くだらない話やたまに下品な話、はたまた真面目に勉強のことなど。たまに私に話を振ってくれて、それで会話に混ざったり。


 私はこの時間が好きだった。苦手な話題もあるけれど、彼らといると、克也は笑顔を見せてくれるから。 控えめにふっと笑う彼はとても素敵なのだ。見てるこちらまでに零れてくるかのように。それが妙に嬉しいから、彼らも笑うのだろう。

 

 私には友人と呼べる間柄なのは彼らぐらいしかいなかった。男といつも一緒にいる女。おまけに男達の顔も良いもんだから、あまり良く思われていないのだろう。中学時代の友人は皆違う場所に進学してしまった。別にいじめられているとかではないのだけれど、妙に距離があるというか、避けられているというか……。これは彼の影響もあるかもしれない。彼は克也を嫌っているはずだから。理由は知らないけれど、昔から何かと突っかかっていた。もしかすると、その辺りに克也が笑顔を見せなくなった理由があるのかもしれない。そのせいで、彼を中心とするグループは私達を敵視している。表立ったりはしてないけれど。

 


 時折見せる、克也に対する彼の嫌な態度が、行動が、私の過去の恋を傷つけていく。それが悲しくて……それを止めさせたいのに、立ち向かう勇気が無くて、私は何も出来なくて。そんな私を慰めてくれる克也の優しさが痛くて、切なくて。それでも克也はふっと笑うのだ。

 


 いつからか、私はこの人の満面の笑みを見たくなった。笑い声を聞きたくなった。

 ずっと、隣にいたいと願うようになった。

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