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人気者 3択、嫌われ者 4択

「みんな、まずは自分の縄がなんとか外せないか試してみてくれ」

「さっきからやってるっつうの! 駄目だ、何重にも麻が束ねられててちぎれそうにねえよ」


 坂東が悔しそうな声を上げる。筋肉質の彼でも外せないなら、この場の誰もが逃げ出せないだろうと満は察した。

 中村は顔を苦痛に歪めると悔しそうに頭を掻き毟った。


「じゃあ、せめてなんとかこの柵の中から脱出できないのか。例えば柵を上るとか」


 その意見には飯綱が恐るおそる反応を返した。


「柵はそうとう高いですし、棒の周りから大きく鋭い棘が隙間なく伸びています。こんなものを上ったら手が穴だらけになりますし、そもそも柵を握ることさえできないですよ」


 すると、左隣の眞白が苦悶する中村に答えた。


「あの、ポケットにこんなものが入ってたんですが……」


 おずおずと出される彼女の手の平の上にあるそれは、銀色に光るナイフだった。


「それ、確か、食事で使った奴じゃないか」


 満は信じられなくて、目を丸めた。なぜ妹のポケットにそんなものが入っていたのだろうか。


「なんで、眞白ちゃんだけそんなものを……」

「ハンディ、と受け取ってくれるかなぁ」


 ウサギは中村に対してシシシと笑いかけた。


「彼女は発言力がこのメンバー内でまだ弱いようだからね……同条件で勝負させるのはあまりに可哀そうすぎる。ゲームで一番大切なのは公平性なんだよ」

「他にハンディをもらっている人間はいるのか?」

「いないよ。後の人は自分でがんばってよ。まあ死ぬだろうけどね、キシシシ」


 中村の表情に一瞬、安堵がよぎったのを満は見た。


「このゲームを仕掛けてきた奴を僕は絶対許せない……ただ、眞白ちゃんにナイフを渡すくらいの人間味はあるようだね。眞白ちゃん、そのナイフで縄を切れないか?」

「今、やってみます」

「落ち着くんだ、眞白。下手をして喉を切らないようにな」


 兄にできることはせめて応援することだろうと思い、満は眞白に声をかけた。


「なあ眞白が使った後、ナイフをどうにか共有できないのか?」


 北条がそう提案したが城之内が残念そうに首を振った。


「柵から出られない以上、ナイフを渡すには投げるしかないよ。こんな狭い柵の隙間から投げて、次の人の柵の隙間に入れられるとは思えないし、上から投げるのは余計難しそうだよ」

「ナイフさえ共有すれば、みんな生きるチャンスがあるのに……」


 中村は残念そうに声を絞り出した。

 ふと画面を見ると、残り時間は二分を切っていた。


「これは、そろそろ投票しないとまずいよ」

「けど誰に……」

「誰に投票したってあとくされが残るさ。第一、孤立票の数によって死ぬ人が出るんだろ。どうやって引き分けにするべきなんだよ……」


 城之内と飯綱が交互に喋る。

 すると江崎が手を挙げ、唾を飛ばした。


「こういうのはどうでしょう。①番から④番までの名前の人が⑤番に投票し、⑤番から⑧番までの人が①番に投票する。こうすれば、全員が同じ人に投票しているわけでもないからペナルティはなく、孤立票は零です」


 北条はそれを聞き、しばらく顎に手をかけて思考した後、声を上げた。


「それじゃ駄目じゃないですか、江崎先輩。それだと、一番最後に投票する二人が票を散らした場合、先に投票していた人たちが吊られ得えます。例えば、

①番の坂東に投票したのが、眞白、満、中村

⑤番の城之内に投票したのが、坂東、北条、飯綱

となったとき、江崎先輩が⑦番、城之内先輩が⑧番に投票すれば、孤立票は二票で、他のみんなが吊られて二人は生き残ることができます」

「そんなこと、するわけないでしょ!」


 江崎がわめくように声を荒げた。

 しかし、北条は凍てつく瞳で冷静に江崎を見据えていた。


「江崎先輩、差し出がましいようですが、このゲームは人が死ぬ、らしいんですよ。屋敷の管理人が殺されたことから考えて冗談ではない。自分は部のメンバーを中村部長みたく全面的に信頼できません。飯綱にだけなら命を預けられますが、親友の満にだって隙を見せるのは嫌です。この中に、犯人は少なくとも一人、場合によっては二人いると自分は考えています。二人で協力したら、他を殺すのは容易ですから」


 満は思わず北条の顔を睨みつけてしまった。昨夜の出来事を思い出してしまったからである。

 北条の冷静な分析に、皆は互いの顔を覗き合った。そこには疑心が生まれていた。隣の誰かが、もしかしたら羊の皮をかぶった狼なのかもしれないと伺い合っている。

 江崎は顔を真っ青にして北条を指差した。


「わ、わ、私を否定したな……。北条君はやけに犯人への考察が鋭いじゃないか。それはも、もしかしたら、君が犯人だからじゃないかなあ! 私たちはまずは君から吊るべきだと思うな」

「口が過ぎるぞ、江崎! 今は仲間割れをしている場合じゃないだろ」

 

 中村が怒号を飛ばし、江崎は肩をぶるっと震わせた。


「みんな、みんな、私を……クソッ!」

「江崎、落ち着いてよ。私がついてるからさ」


 顔を青くして震える江崎を、城之内が必死でなだめていた。


「どうにか手はないのか……」


 満の隣では。中村が苦悶した顔で頭を掻き毟っていた。

 残り時間はあと四十秒だった。


 満は思った。このままだと最悪適当に投票が行われ、誰か吊られて死ぬ者が出てしまうだろう。しかし、江崎の案を採用して、万一、二人の犯人がいた場合、全員が死ぬことになる。


「もう時間がないのね」


 その時、ナイフを必死に動かしていた眞白がポツリと呟いた。その声がこだまするようにして、何度も何度も満の脳内を反響した。


――時間、時間、時間、時間……。そうだ時間だ!


 満は一瞬のひらめきに穴がないかをもう一度、頭の中で確認した後、すぐさま手を挙げた。


「皆さん、ちょっと提案いいですか。時計の回りに投票したらどうでしょう。つまり、俺は左隣の眞白に投票し、眞白は左隣の城之内先輩に投票します。このように、一人が一人へ一票を入れれば、孤立票は八つになり、多数票は零で誰も吊られません。そして、もし票を変えた人がいた場合、その人の変えた先は二票になるため、変えた人は死ぬことになるんです。これなら、犯人でも票を変えられなくなりますよ」


 北条が一早くそれに反応し、しばし顔を伏せて考えた後、顔を上げた。


「確かにそれなら問題ない。少なくとも全員が死ぬ事態は発生しない」


 それに遅れ、飯綱、城之内、中村も首肯した。


「ああ……よく分かんねえが、みんなが大丈夫ってんなら大丈夫か」


 坂東が首肯し、最後に、目の焦点が合わない江崎が小さく首を縦に振った。


 残り時間は十秒だった。中村が急いで全員に声をかける。


「みんな、リモコンをとって自分の左の人の番号を押すんだ。間違えるんじゃないぞ、特に江崎!」


 満はできるだけ落ち着きつつ、できるだけ素早くリモコンに手を伸ばした。それは見た目よりも軽い直方体で、その軽さが満には自分たちの命と重なって感じられた。触った感じはプラスチックのような材質だった。

 そして、大きく息を吸って吐くと、⑥番の眞白に投票した。


 少し遅れて、ウサギが大きく宙に跳ねた。


「はあーい、そこまで。第一回目の投票は終了しましたよ。もうこれから投票しても無駄ですよ」


 満の背筋に一瞬、嫌な予感が走った。最後のどたばたで投票し損ねた者がいるんじゃないかと思った。


「そうだ、眞白が……」


 妹がナイフで縄を切ろうとしていたことを思い出し、満は慌てて左隣を向いた。

 眞白はナイフを地面に置き、代わりにリモコンを手に持っていた。軽く息を切らせている。首の縄は表面が毛羽立つ程度に切られていた。


「でわぁー、今日吊られる人わぁー」


 ウサギは楽しそうに机の上をとことこ歩いていると、おもむろに画面を指差した。画面に突如、『引き分け』と表示される。


「ジャーン、引き分け。うぃ。残念」


 投票に失敗した人がいなかったようで、満はほっと胸を撫で下ろした。メンバーの顔にもとりあえずの安堵の色が浮かんでいた。

 一番ほっとしているのはどうやら中村であった。彼は深いため息をついて、周りを囲む鉄の柵に寄り掛かっていた。


「誰も死ななくて本当に良かったよ」


 メンバーの顔をぐるりと見回し、中村は顔を緩ませた。満はその様子を見るだけで、少なくとも中村はこのゲームの犯人ではないと思った。演技とは思えないほど中村の手足の動き、顔の動きからはメンバーを思う気持ちが伝わってくるのだ。


「安心しちゃって……本当にお間抜けさんたちだね。状況はさっきより悪くなっているのに。それじゃ、どんどん次に行こうか」


 ウサギは大股で画面の上に立つと、腕を高々と挙げて振り下ろした。


「アンケート№②『人気者』は三択です。次から一つ選び、目の前のリモコンで投票してください」

 同時に、画面に白い文字が映し出された。



アンケート№②『人気者』 三択

一緒に生き残りたい人を次から一人選んでください。一緒に生き残りたい人がいない場合でも誰かに投票してください。

①北条 冬獅郎

②飯綱 一紀

③上代 満

残り時間 四分五十九秒。

一度投票した場合、やり直しは利きませんのでご注意ください。

なお、自身へ投票することもできますし、他人に投票することもできます。




「今度は二年生の中で人気者選出か……さっきよりは殺伐としないで済みそうだな」


 坂東がのんきな声で漏らした。


「あの、私は、今回はどうしたらいいんですか?」

「眞白ちゃんは、ナイフで縄をどんどん切っていってくれ。僕らがまた話し合ってどうしたらいいか考えておくから」

「はい分かりました、中村先輩」


 眞白はナイフを手に取ると、自分の首元の縄に当て少しずつスライドさせ始めた。

 二人のやり取りが終わると、北条が思いついたように声を発した。


「ああ、今回は江崎先輩が言ったような投票で大丈夫ですね。四票ずつ二人に分ければ犯人の票ずらしも大体阻止できます」

「はあ……。ちょっとルールからいまいち話についていけてねえんだが、教えてもらっていいか?」


 坂東が後頭部をかきながら、恥ずかしそうに北条に笑いかけた。北条は首肯すると、滔々と語り出した。


「このゲームは、例えば、少数意見の抹殺とその反撃で表せるかもしれません。一票しか投票がないものが少数意見です。票の分かれ方が一、二、三、二などとなった場合、一票しかない人は仲間がいないので弱く、周りの勢力に潰されて吊られるのです」

「リンチみてえなもんか?」

「大体そう思ってもらえたら」

「あんまし暴力的な例えは良くないと思うなぁ」


 中村が顔を曇らせたが、北条はそのまま話を続けた。


「ただし、少数意見も反撃できる場合がある。それが、票の分かれ方が一、二、二、二、一なんかで少数意見が二つ以上あったときです。この時、少数派は徒党を組んで革命を起こし、多数派を壊滅させることができるんですよ」

「うーん……そんなうまくいくもんかよ。弱っちいのが二つあったってやっぱり弱っちいと思うぜ」

「今のは例えですから。現実なんてそんな上手く行きっこないですよ。弱い者はいつまで経っても弱いままです」


 そう言うと、北条は再び満を睨みつけてきた。


「だから……強くあるべきです」


 低い声で口の動きがギリギリ分かる程度に彼は何か呟いた。しかし、満には何を言われているのかはっきり分かる気がした。


 満と北条の間で無言の会話が目で行われる。


「んで、今回は江崎のやり方でも問題ないのか?」

「ええ、自分に四票、飯綱に四票入れるとした場合、一人の犯人がいようと、二人の犯人がいようと、せいぜい四、四、零の分かれ方を四、二、二にするのが関の山です。犯人が三人いて、かつ、同じ側の投票に固まっていた場合、四、一、三なんて分かれ方が発生して一人吊られる可能性がありますが、ごく低く、全員死ぬ事態は避けられます。僕もさすがに三人以上の人間が犯人だと思っていません、なぜならこのゲームで生き残れる最大人数は――」

「ククッ……さりげなく、自分を人気者にするようにアピってるねえ」

「江崎先輩は黙っててくださいよ」


 そっけない反論に、江崎は笑い顔を固く強張らせ、薄い唇をわなわなと震わせた。


「問題ないんじゃないか」


 中村がそう言い、城之内も軽くうなずく。

 城之内は先ほどからずっと江崎をちらちら心配そうに見ていた。何か思うところがあるのかもしれないと満は思った。


「皆さん、ちょっと江崎先輩に冷たすぎやしませんかね……。まあ俺も北条に賛成っす。どうぞ北条と飯綱に四票ずつ投票してください。俺は飯綱に投票しますんで」


 満は北条に目を切りながら返答した。飯綱に投票するという宣言は、飯綱と恋人であることから尤もなようだが、もう一つ、北条に投票したくないという意味合いも込められていた。


 中村はそれを聞き、屈託なく満に笑いかけた。


「いいかな……ありがとう、なんだかすまないね。僕はこの中の全員と生き残りたいと思っているからね。じゃあ、北条君に投票するのが、北条君、僕、坂東、城之内さんで、飯綱さんに投票するのが、眞白ちゃん、江崎、飯綱さん、満君でいいかな?」


 さりげなく江崎が北条に投票しなくて済んでいるところに満は中村のセンスを感じた。


 残り時間は一分となっていた。


 満は目の前のリモコンを手に取り、飯綱の②番を押した。白いボタンはゴムでできているのか妙に手に吸い付いてきて気持ち悪い。


 ふと、北条が先ほど言いかけていたことが満は気になった。このゲームで生き残れる最大人数は何人なのだろう……。ルール上はおそらく二人だ。二人で投票を行う場合、孤立票が二つできるか、二人が同じところに入れるかするだけで片方が吊られるという事態は起きない。だから、残り人数が二人以下になった時、ゲームは終了するはずだった。そうウサギも言っていた。

 また、眞白が縄をなんとか切ってくれれば、眞白だけは生き残ることができる。ここから、特別枠の一人を入れ、最大三人生き残ることができるように思われる。


「違う……三人しか、なんだ」


 満は頭を抱えて呻いた。このゲームをまともに攻略しようとすると五人もの仲間を殺さなくてはいけない。

 今は引き分けにできるからいい。もしも、引き分けにできなくなった時、自分たちはどうなってしまうのか、満には皆目見当もつかなかった。


「はあーい、時間です。みんな、投票できたかな? これから投票しても無駄ですよ」


 ウサギは丸い机の上で逆立ちをしながら言った。どんな仕組みで人形が動いているのか満は非常に気になったが、精巧なロボットなのかもしれない。


「今回の結果は、ジャン、引き分け。つまらないねえ」


 机の画面に引き分けの白い文字が映される。

 中村はそれを見て、勝ち誇ったように拳を握り締めた。


「どうだ、ウサギ! 僕らは絶対殺し合いなんてしない。それなのにお前はなんで僕たちをこんな茶番に巻き込んだんだ」

「望む者があったからだよ。それがこの屋敷の決まりであり、しきたりであり、呪いなんだ。君たちの中に、この状況を望んだ犯人が一人紛れているんだよ」

「おい、みんな、このウサギの言うことに惑わされては駄目だぞ! コイツはそんなデマを言って僕らを疑心暗鬼にしようとしてるんだ。犯人なんているものか」

「お前、鬱陶しい眼鏡野郎だな……さっさと吊られることを願うよ。あと、私にはウサギじゃなくて、ピョンタンっていう素敵な名前が付いてるんだからそれで呼べよ、眼鏡」


 ピョンタンと名乗ったウサギは逆立ちした姿勢のまま、不機嫌そうにぷりぷりと尻を振って言った。


「どんどん次行こう。死人が出なけりゃつまらないねえ」


 ウサギは逆立ちで後ろに飛ぶと、空中で一回転し机の上に着地した。


「アンケート№③『嫌われ者』は四択です。次から一つ選び、目の前のリモコンで投票してください」


アンケート№③『嫌われ者』 四択

殺したい先輩を次から一人選んでください。

①坂東 あきら

②江崎 東

③城之内 香住

④中村 光太郎

残り時間 四分五十九秒。

一度投票した場合、やり直しは利きませんのでご注意ください。なお、自身へ投票することはできません。


 坂東が苦笑いを浮かべながら呟いた。


「こりゃ手厳しいな。人気者投票より関係に亀裂が入りそうだ。だけど、さっきみたく四、四、零、零で票を入れちまえば問題ないんだろ?」


 すると、北条は顔を苦くした。飯綱も何かに気が付いたように顔を上げ、声を発した。


「いや、さっきみたいじゃ駄目じゃないです? だって二人が票をずらして四、二、一、一や三、三、一、一の分かれ方になったら最悪六人吊られますよ」

「飯綱の言うとおりだ」


 北条が隣から相槌を打つ。

 中村は二人の意見を聞き、頷いた。


「そうか、だから今回は三、三、二、零の分かれ方をしないと駄目なのか……」

「それも危険だと思いますよ」


 満は中村に意見した。眞白が安心して縄切りの作業に勤しめるよう、自分が眞白の分まで意見を言う義務があると満は思っていた。


「万一、二の中に犯人がいた場合――一人でもいた場合です――三、三、一、一のばらされ方で他のみんなが死ぬことになりませんか」

「じゃあ、二、三、三、零の分かれ方で……いや、これじゃ結局同じだ。全部で八人しかいないから、必ず二人のところができてしまうのか……」


 中村は眼鏡をかけ直しながら、確認するように言っていった。中村の言ったように八人を三つのグループに分けると、どう分けても二人以下のところができてしまう。

 残り時間は三分となっていた。今回は人数分けに悩まされそうだった。


「あの、信頼できる人を二のところに振るっていうのはどうでしょう。俺は中村部長と眞白にならその位置を任せることができますが」


 満は試しに意見を言ってみた。すると、北条が冷たい目で満の方を見やってきた。


「駄目だね。自分と飯綱をその位置に就かせるならいいよ」

「それって思いっきり危ないんじゃないか。お前が飯綱を助けたい場合、お前が票を動かせばいいわけだし」


 坂東が責めるように言うと北条が坂東を睨み返した。


「自分は最初に言ったように飯綱以外を信用しません。それなら、この分け方しかないじゃないですか」


 今回の問題は犯人一人が二の部分にいるだけで六人の人間が危険に曝されることにあると言っていい。


「ああ、そうだ!」


 突然、中村が大きな声を上げた。


「二、二、二、二で分ければいいんだよ。犯人が二人いたとして、彼らが票を移した場合、三、三、一、一になって六人が吊られる可能性があるけど、その場合、移した犯人も吊られるよな」

「なるほど」


 北条はしばし顎に手をかけて考えた後、顔を上げた。


「しかし、それは少し危険な部分もあります。犯人が一人いて、その人が票を移して二、二、三、一とかになった場合、一人は吊られますよ」

「だから信頼できる人と組めばいいんだ。北条君は飯綱さんになら命を預けられるんだろ。それでいいじゃないか」

「私は北条とペアでいいですよ」


 飯綱はそっけなく答えた。


「ペア作りが重要ってことですね……俺は眞白と組んでいいですか?」


 満がそう切り出した時、残り時間は一分となっていた。互いに信頼できる仲間をこの少ない時間で決める必要がある。

 本当は、満は飯綱と組みたくもあった。他人に飯綱の命を任せることにはやや抵抗が残る。しかし、ペアの相手が長い付き合いの北条であること、北条が飯綱しかペアとして認めないであろうことから眞白と組むことにした。


「そうだね……満君、眞白ちゃんをよろしく頼むよ」


 中村が寂しそうにして満に声をかけてきた。なぜか分からないが、満はその響きに哀愁を感じた。


「任せてください。僕も眞白も犯人じゃありませんって」


 満は自身を持って中村にそう返答した。

 坂東が頭の裏を掻きながら申し出る。


「あの……俺のペアなんだが、消去法で城之内に任せてもいいか。その、どうにも弁が立つ中村は怖いんだよ。この策の提案者だしな。かと言って、俺、正直、江崎とだけは組みたくねえんだわ……」


 江崎が顔を伏せたまま、びくりとまた体を震わせた。彼は周りから非難され続け、すっかり怯えてしまっている。


「私は江崎と組みたいんだけど……じゃなきゃ、中村は江崎と組んでくれるの?」


 城之内が坂東を睨みつけながらそう言った。彼女なりに江崎の肩を持っているのだろうと満は察した。

 中村は一瞬の遅れの後、首肯した。


「いいよ、僕はメンバー全員を信じているからね。犯人はこの中にいない。絶対いないんだ」


 中村は自分で自分にそう言い聞かせているように満には聞こえた。


「それじゃあ、僕と江崎が①番の坂東に投票、眞白ちゃんと満君が②番の江崎に投票、北条君と飯綱さんが③番の城之内さんに投票、城之内さんと坂東が④番の僕に投票でいいかな?」


 中村が確認するようにそう言い、皆、小さく首を縦に振った。ばらばらとリモコンに手が伸ばされ、投票が行われていく。


 満もリモコンに触り、②番のボタンを押した。江崎を嫌っているようで申し訳なくなるが、満は実際そこまで江崎に敵意を抱いてるわけではない。


 ふと満は江崎がこの回ずっと静かにしていたことが気になり、江崎の方を見やった。すると、江崎はリモコンを持ったまま小刻みに足を震わせて固まっていた。


「おい、江崎どうしたんだ。早く投票しないとペナルティを喰らうぞ。他のみんなはもう投票した」


 中村がそう言うと、江崎は突如顔を上げた。赤く充血した目の下に濃い隈が広がっている。


「みんな気付いてないんですか……いや、数人は気付いていても言わないだけか、ウサギのルール説明は確かに早口だったし、一度に全部記憶できた人も少ない……」

「何を言っているんだ、江崎。さっさと投票するんだ!」

「……言っても分からない愚者ばかり……だからこそ次は私か……」

「江崎さん、早く投票してください」

「江崎! 急いで」


 満も思わず呼びかけてしまった。城之内も額に汗を浮かべて江崎を見ている。残り時間はもう十秒を切っていた

 その瞬間、江崎の体がピクリと跳ねた。


「そうか……満君と城之内君もか……もう私の味方は……ふ、ふ、ふざけるな! こんなところで!」


 そう言うや否や、江崎はボタンを押した。


「はあーい、終了時間でございます。これから先に投票してももう駄目ですよ」


 ウサギが軽快にコサックダンスを踊りながら言った。と同時に、江崎の左隣の坂東の顔がみるみる内に青ざめていった。


「江崎、テメェ、今、どこに投票してやがった……」

「結果を発表します。今日吊られる方は……ジャーン」

 

 ウサギが片足立ちで止まった瞬間、画面に大きく、「中村光太郎」と表示された。


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