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ふぁんサービス?

何を信じていいのかわからない。

俺は今、ある噂の中で葛藤している…。

噂を真に受けすぎるのもどうかと思うが、火のないところに煙はたたないとも言う。

いや、火がないなら火を起こせばいい…。所詮は噂なのだから心無い人間によってデマを流されてそれが広まってしまったということも多分にありえる。

つまり、何を持って信じればいいのかなんて根拠はないのだ。最終的には、自分の目で見たこと感じたことを信じるしかない。

なら、この言葉はどう受け止めればいいのだろう?

『好きです』

誰もいない放課後の教室。

窓の外から部活動中の男子の声だけが理解の出来る音として聞こえてくる。

そんなありふれたに日常風景の中で彼女の言葉は非日常的で…けどはっきりとした現実として聞こえていて。

異常だ。異常としか思えない。俺がこんな場所で告白されていること自体も異常だが告白をしてきた相手がもっと異常なのだ。

異常と言っても彼女が人外の姿をしてるとか、精神的におかしい人だとかそういったことではなく……ただ…一般的に言うなら高嶺の花みたいな存在なのだ。

突然のできごとに錯乱しそうになってきた…。

「冗談だよね?」と声に出して聞きたくなる…。

「これって俗に言うファンサービスってヤツだよね?」 聞きたいことは山ほどあるのだけれど……。

『………ッ』

彼女の目つきは真剣そのもので、俺をまっすぐに見つめる目、緊張で少しかみ締めるようにこわばった唇も……、スカートのすそをおびえるように握っているその仕草も……嘘だとは思うことができなくて……。

目の前の現実と、世間一般で囁かれている噂……。

騙されるんじゃないか? なんて警戒心と、彼女のことを誤解しているんじゃないか? とあゆみよりたい気持ちと…。

『………』

『………』

長い沈黙の末に俺が出した答えは……



『なぁ? 知ってるか?』

『知らね』

『まだ、何も言ってねー!』

こうやって話をふってくる時は大抵どうでもいい話なのでなるべく聞きたくないのだけど…。

『また、ファンサービスされたらしいぜ?』

こうやって勝手に話はじめてしまうので聞かざるを得なくなるんだ…。

おなじみの光景すぎてツッコム気力も起きなくなっていた。というか、ツッコムとその分反動で話が長くなるからそのまま話を続けさせておくのが友情を長く維持するためのコツだ。

二年ちょっとの付き合いだけど、これだけは確かだと思う。

『ファンサービス?』

多少知っていても、わざと知らない風に装う。これも明日から使えるテクニックのひとつ。

透の言っているファンサービスっていうのはもちろんそのままの意味じゃない。

この学校の人間なら誰もが知っている噂だ。

学年一の美少女がこれ見よがしに男子生徒を誘惑して心を弄び最後にはポイっと棄てられるみたいな…そんな噂だったはずだ。。

『って…、忘れたのかよ…。ちょっと前もこの話しただろ?』

『あんま興味ないしなぁ…』

他人の色恋沙汰。ほれたのはれたのにはあまり興味がない。ましてや、悪女に弄ばれた男の話など余計な恨みを買うだけだと思う。

俺自身がこの手の噂話というもの自体があまり好きじゃなかったりする。

てきとうに流してしまおうと思った矢先に、

『まぁ、新月みたいな彼女がいればそうもなるかー』

などと言い始めたのだ。

『唯とはそういう関係じゃ…』

新月唯とは俺の幼なじみだ。子供の頃からずっと一緒の学校で同じクラスになることも多かった(今も同じクラスだ…)。

結婚だーとか付き合ってんだろーとか、小学生は好きだからなそういうネタ。

年中無休の通常ダイヤでこのネタでからかわれるようになった。最初のうちは戸惑ってたけどだんだんなれてくる。

中学生・高校生になっても恋愛の話は話題の中心になることが多い、そのたびに否定して回るわけにもいかず今や黙認状態になっているわけだが…。

事情を知っている親友にそう言われると少なからず…けっこう凹んでしまう…。。

『はいはい。 新月と双璧をなす生徒のことなんだからちっとは関心をもてよな?』

親友の問題発言に叩きのめされているうちに話は俺の意図しない方向へ進んでいった。

もはや、話をそらす気力もなければ話を聞く気もない。ただただ、ホームルームが始まるまでの貴重な時間を満喫しようと心に決めた。

ちなみに、俺の横で流れているBGMを要約するとこうなる。

唯と件の悪女はこの学校の二大勢力らしい。どちらも才色兼備文武両道、このクラスのみならず全学年に隠れファンがいるとかいないとか…。

実は唯がけっこうモテるらしいという噂はよく耳にするんだけど実際どうなんだろ?

幼なじみだけあって過ごした時間だけはやたらと長いからか、どうもそんな目で唯を見れないんだよなぁ。

『…唯ってホントにもてるのか? あんまりそういう話聞かないけど?』

俺の知らないとこで、ちらほらあったとしても大した噂も聞かないし二大勢力とか言われてもイマイチぴんとこない。

『まぁ、お前のことだから本気で言ってると思うんだけど…。その話は面白くないからスルーさせてくれな』

おしゃべり好きの透に拒絶されて肩透かしを食らった気分にはなったけど、別段興味があるわけでもなく了承する。

『お前の興味もわいてきたところで、だ!! 出たんだよ。犠牲者が、再び!!』

『わー、ぱちぱち』

『わりぃ、新月? ちょっと今盛り上がってきたとこなんだけどな?』

透だけな。

『んー。私にかまわず続けてもらっていいわよ?』

『いやぁな? 男同士の話ってもんがこの世にはあんだ』

『別に単なる噂話でしょ?』

『もしかして、けっこう最初から聞いてた?』

『んー? 最初の方はなに話してたのか忘れちゃったけど。 「…唯ってホントにもてるのか?」あたりは鮮明に記憶に残ってるわね』

まったく似てない俺の物真似を披露してくれたことに異議を申し立てようかと思ったけど……何か怒ってる…?

『ごめん』

『一体、何 に対しての謝罪なのかしら?』

『……えっと、その…ごめん』

テキトーに謝ったりとかそういうズルみたいなことを極端に嫌うというか、見逃してくれない性格だから。これは、何を怒ってるのかわからないまま謝ったことへの謝罪。

『わかればいいのよ。私は、健ちゃんをそんな子に育てた覚えはないんだから!!』

『俺も、唯に育てたれた』

『覚えはないなんたー言わせないわよ?』

ないんだけど……。

『あー、中学生の頃、叔母様がお仕事の時のお昼ご飯とか、帰りが遅くなった時の夕ご飯とか作ってあげたのは誰だったか覚えてるわよね?』

他にも、小学生の頃の夏休みの宿題ガーとか、調理実習ガーとかとかよくもそんなものを覚えてるなというものが羅列されていく。

最初は感心していたが、あまりにもくだらないことすぎて読み上げられていくことが恥ずかしくなってくる…。

『唯さんです』

敗北を認めざるを得なくなった。

『つまり?』

認めたくはないし、屁理屈だと思うけど…

『唯に育ててもらった。……部分もあるかもな』

などと、感謝の気持ちも多分にあったりするわけで。

『素直でよろしい。それじゃ、今日の夕食は私が作ってあげるわね♪』

『あれ? 母さんは?』

『叔母様なら、今日は用事があるからって私に夕食の支度をお願いしていったわよ?』

あー、また近所のおばさん連中の方々と遊んでるな……やれやれ……。

『せっかく、幼なじみが久しぶりに手料理を振舞ってあげようっていうんだから、もっと喜びなさいよね?』

『ありがと』

『そっけないわね』

今までのやりとりがなければもっと感動的になれたのかも知れないけどな!!(特に母さんのトコな!!)

まぁ、この少し強引で押し付けがましい感じも唯なりの気遣いなのだと思う。俺や母さんが気にしないようにって思ってるのかも。

『ごぉっほん!!』

『風邪か?』

『風邪は引き始めが肝心だからちゃんと栄養とって薬飲んで寝た方がいいわよ?』

『って、ちげーわい!! お前ら人の話も聞かないでイチャイチャイチャとしおって!!』

別にイチャついてたわけではないんだけど…。

『だいたい、話始めたのは俺なのになんで俺置いてけぼり? おかしいだろ? 常識的に考えてさ!!』

『だってねぇー?』

だってと言われても困る。どうみても透の言い分の方が正しいからな?

『その情報古いし……』

『あー』

なるほどね。唯もこの手の噂話は好きじゃないはずなのにわざわざ割り込んできておかしいと思ってたら…。

要するに、古い噂話をしてる透が恥をかかないように、みたいな感じで止めにきたのか…。

『マジで?』

『マジです』

『あー、あんまり聞きたくはないんだけど…。 この噂どのくらい前から知ってた?』

『私も、他人の噂話とか好きなわけじゃないけど、1週間前くらいには学年中の女生徒は知ってた…かな?』

その女生徒の中でも、唯はきっと噂に疎いほうだから…。

『えーっと、もしかしなくても俺恥ずかしくねーか…?』

ぽんと肩に手を置いて励ましてやる。

『もっと早く言ってくれよ…』

『そーは言われてもねぇー。 人を呪わばあな二つって言うじゃない?』

『つまり、人の噂をしたんだから自分も噂になるくらい我慢しなさいってことか?』

『そゆこと♪』

『だいたい新月も知ってたならもっと最初かった止めてくれたっていいのになぁ…』

心なしかさっきまでよりだいぶテンションが低くなってしまっている。みんな自分の話に夢中で透の話に聞き耳を立てているような物好きは唯くらいしかいないと思うのだけど。

『まぁ、あれよ…。噂話は好きじゃないけど予防くらいにはなるかなーって』

急に居心地が悪くなったかのように窓の外に視線を向ける。

『つ、ま、り!! 俺を利用したってことじゃないか!!』

『だから、傷口が広がりすぎないようにしてあげたでしょ?』

『……悪女だ…。美人は皆悪女なんだ……』

何がなんだかわからないうちに透が死んでいた。

『まぁ、透君の犠牲も犬死みたいなんだけどねぇ…』



朝からそうぞうしいな…なんて思っていたらあっという間に放課後になっていた。

ふむ。一日ってけっこう短い。部活も委員会も入ってないのでそのまま帰宅するしかないのだけど…。

なんか、それも味気ない…。家に帰って飯食ってテキトーにだらだらして終わる一日ってのもつまらない。

『健ちゃん?』

唯だった。

『私、委員会があるんだけど、健ちゃんはどうする?』

もちろん待っててくれるよね? という脅迫だった。何しろ、今日の晩飯が唯の手中に握られているかと思うとうかつなことは言えなかった。

ココで機嫌をとっておけば俺の好きなものを作ってもらえるかも知れないという淡い期待もある。唯の手料理にはそれだけの労力を費やす価値があるって言うくらい美味いのだ。

「うん。待ってる」と言ったのはいいけど、どうするか悩む。やることもないわけだし、わざわざ教室で課題をするのもシャクだしやりたくない。

気がつくと俺は目的もないまま歩き続け自分の教室から離れた場所にきてしまっていた。

どうせ暇なのだから、あがいたところで何か楽しいことが降ってくるわけもない…、そのまま散歩を決め込むために靴を履き替える。

グラウンドは運動部が使っているからいけないので、普段馴染みのない場所を散歩してみることにしたのが運のつきだった。

『好きです!!』

途方もなく現実味を帯びない言葉がいきなり飛び込んでくる。漫画やドラマの中以外で聞いたことのない言葉の矛先はもちろん俺ではなく別の人間に向けられていた。

声のした方を振り向くと、そこには男女の姿があった。先ほどのセリフを口にしたと思われる男子生徒。愛嬌のある母性本能をくすぐりそうな感じの小柄な男子生徒が一生懸命に勇気を振り絞りましたという風な感じで告白の返事をまっている。

それに大して女子生徒は、嬉しそうに口元で笑う。

まんざらでもなかったのかも知れない。

今まさにひとつのカップルの誕生の瞬間に立ち会っているのかも知れない。思わぬ出来事に居心地の悪さを感じる。

この場を離れようにも、体が動かない。というよりは、どこへ? と考える思考がついてこれてないようだ。俺の思考回路などお構いなしに女子生徒は告白の返事をするかのような仕草を見せる。

男子生徒との距離を一気につめ、指先で男子生徒の頬を撫でる。

まるで今にも……、キスでもするんじゃないかっていうくらいに顔を近づけていた。

男子生徒は驚き身を離そうとするが、告白の最中だったため彼女の行動が何を意味するのか察したのだろう。勇気をもって震える足を押さえつけるように体制を維持しようとしている様子だった。

同時に、うぉ!! と叫びたい気持ちをグッと抑え、近くの物陰に隠れた。

危ないとこだった……まさか、こんなところでこんな現場に遭遇するとは思っていなかったからたぶん俺は混乱していたのかも知れない。

そのまま逃げてしまえばよかったのだ、何も知らないふりをして、知らぬ存ぜぬを貫きとおせばそれだけでよかったのに………。

ばれてないよな? なんて、不安から再び物陰の向こうの二人を確認なんてしなければ………。

『くす』

口元だけじゃない。目も笑っていた。

俺の目は確かにそれを見ていて、彼女の目も確かに俺を見ていた。

微笑み、開いた彼女の唇が小柄な男子生徒の耳元で何かを囁き、そして男子生徒は膝から倒れた。

緊張から解き放たれた足から力が抜けたのかも知れない…。

なぜかは彼の表情を見れば一目瞭然だった。今にも泣き出しそうな、いや目には涙が浮かんでいた。

視界の隅に男子生徒の姿をおさめながら焦点は彼女から離せない。泣いている男子生徒を歯牙にもかけず彼女はただじっと俺を見ている。表情には薄っすらと笑みが浮かんでいた…。

『―――』

耐え切れなかった。

名前も知らない男子生徒が泣いていた。

名前も知らない女子生徒が俺を見つめていた。

名前も知らない二人を俺は眺めていた。

『…またね』

彼女の口元が緩み何かを発しようとしていた頃には俺はその場を去っていた。

走った。

ただひたすらに走った。落ち着かない気持ちを抑えつけるために走る。

正直どうしていいのかわからない。自分でもさっきの状況が理解できていないのだから気持ちの整理のしようもない…。

結局、気持ちの整理もつかないまま家についてしまっていた。

『ふぅ…』

息を切らしながら、一気にたまっていた何かを吐き出すように息を吐く。

見慣れた自分の家を見て少し安心する。

ポケットから鍵を取り出してドアを開ける。

――ガチャ

金属音に阻まれドアは開かなかった。

チェーンがかけられていたのだ……。おかしい。

今日は、母さんは出かけているはずだから誰もチェーンをかける人間なんて……。

と思案していると、

『健ちゃん? どういうことなの?』

背筋の凍るような声色が耳をくすぐった。

『…唯?』

『私以外に誰がいるっていうのよ? というか、私のこと覚えててくれたんだ?』

俺が唯のこと忘れるわけがないだろ…と言いかけて、言葉を飲み込んだ。

『ごめん』

さっきの事件に巻き込まれたせいですっかり唯との約束を忘れていたのだ。

『つーん。罰として、しばらくそこで正座しておきなさいね』

と言い残して、勢いよくドアを閉めた。あとからガチャと音がなった。どうやら、これ以上口論する気もないようだ。

仕方がないので、ここでしばらく正座をすることにした………。いや、恥ずかしいんだけどな…仕方ないんだ…。

唯のヤツはあれでけっこう、執念深いというか強かというか……。たぶん、手の空いた時間とかに窓からこっちの様子を伺うくらいは平気でやると思うんだ。

そんな時に、俺が正座してなかったらやっかいなことになると思うんだ…。

な? そう考えると仕方ないことだよな?

誰に話しかけるでもなく自分にいい訳をする。

『健太くん。また?』

近所の奥さんよ。いつものことみたいに言わないでくれ。

『健太ー。尻にしかれてんなー』

その旦那である。

『アンタも浮気でもしたら、あーなるんだからね?』

人聞きの悪いこと言わないでくれよ、マジで。

『おいおい、んなことしねーって』

『ほんとかい?』

『お、おう』

アンタもなー>>『健太ー。尻にしかれてんなー』

ご近所付き合いの軽薄化が叫ばれて久しいが、うちの近所にいたってはそんなことはないようだ。

その証拠にさっきから、『頑張れー』だとか『唯ちゃん泣かせんなー』だとか『フられろ!』とか声をかけてくれる方々が大勢いるのだ。

全部、野次馬だけどな!!

お前ら、どんんだけ暇なんだよ!! ご近所付き合い考えるなら、こういうとこは温かく見守っておくべきだろ!!

まぁ、温かく見守った結果、生温かい感じになっちゃったのかも知れないけどな!!

涙腺も限界になってきたところでドアが開いた。

『ちゃんと反省した?』

『はい』

この辱めが終わるのなら正直自分の誇りとか見栄とかどうでもよくなっていた…。



夕食のメニューはカレーだった。

『本当はもっと凝ったもの作ってあげようかと思ったんだけどねー』

言葉の棘がチクチク刺さる。

周知プレイで受けた心の傷の上からさらに追い討ちをかけてきた…容赦ない。

とは言っても、唯の作ったカレーはかなり凝っていて下手な外食よりも上手いのではないか? ってほどだ。

『スゲー美味い』

『これくらい、料理してれば誰でもできるようになるわよ』

ぶっきらぼうだけど、少し表情が緩んだのを俺は見逃さない。

幼なじみだ、唯が俺のことを家族同然に知り尽くしているなら、俺もまた唯のことを知っているのだ!!

才色兼備文武両道、普段から周囲の人間に言われているだろうに、何故か唯は褒め言葉に弱い。

こうしてだんだんと褒めちぎっていけば、怒っていた理由も忘れていつも通りという寸法だ。

『おかわり貰っていいか? 走って帰ってきたからさー。めっちゃ腹減ってるんだよ』

『―――』

無言で、唯はおかわりを持ってきた。

『走って?』

『いやー、今日はマジで大変だった』

本当は、笑って話せることじゃないのだけど。

二度目の窮地に瀕していた俺は異常なテンションになっていた。

『へー。そんなに大変なことがあったんだ? だから、私との約束も忘れたの?』

『忘れたとかじゃないんだけど……』

あれ?

『忘れたんじゃないんだったら………』

『も、もちろん、すっぽかしたわけでもなくって!!』

なんだか変な方向へ話がそれてきた…。

『まぁ、いいわ。 カレーまだおかわりいっぱいあるからちゃんと残さず食べてね』

バレバレの作り笑い、その視線の先には鍋があった。

うちで一番大きい鍋だ。

カレーが表面張力か!! というくらい入っていた。俺が食べた二杯分はどこからでてきたのか?

一週間はカレーという戦慄を覚え打ち震えていると、唯はテーブルから立ち上がった。

『それじゃ、私は帰るね♪』

作り笑顔は、ますます劣化していき周囲に怒りのオーラが漂っているのがわかった。

『それじゃ、また』

唯を玄関まで見送り、敷地内から出て行くのを見届ける。

『はぁ…』

本日二度目の安堵のため息だ。

なんたってこんな目にあわなきゃいけないのか?

深く考えてもしょうがない。今もっとも考えたければいけないのはこの鍋に鎮座するカレー様をどうするかだ。

棄てるつもりはもうとうないし、美味いから別に数日間連続で食べる分にはかまわない。

今気づいたが、家族連絡用のボードを見れば母さんからの置手紙がはってあった。

どうやら、母さんは旅行に出かけたようだ。実の息子には内緒で。

結果的には、怒らせてしまったがこのカレーも唯なりの優しさだったんだと思う。

しばらく、一人になってしまう俺が暖めるだけでご飯が食べられるようにしてくれたのだ。

冷凍庫をあければ、ご丁寧にご飯が冷凍されていた。

カレーが嫌なのではなく、カレーを作ってくれた唯の気持ちに対して何かできることはないか? に問題点がシフトする。

しかしすぐには思いつかず、就寝時間になっていた。

まずは仲直りをしないとな、なんて当たり前の結果に辿り着いたのが寝落ちする数分前だったのだから我ながら情けない。


今日は一日いろいろなことがあった。唯との仲直りに気をとられていた俺は、昼間にみた光景を完全に忘れていた。



再び思い出すことになるのは、数日後の出来事だった。

鍋の中のカレーがなくなる頃になると母さんも旅行から帰宅し、唯との仲直りも無事にすますことができ順風満帆に日々をすごしていた。

唯一気になることと言えば、来月に期末テストがあるということくらいだ。

学年トップクラスの学力を持つ幼馴染をもつ俺は大して気にはしていないのだが…勉強を強いられるということ自体が億劫だった。

今後のことに思いをはせているといつの間にかお昼休みになっていた。

さっきまでの思考はなんだったのか…と言われればただの現実逃避としかお答えできない。

焦っても仕方ない。まずは目先のことから片付けていかなくては、つまり飯だ。

机の横に掛けてある鞄に手を伸ばすとだいぶ軽かった。教科書とかは全部机にいれてあるから普段から軽くはあるのだが…。

『あ……』

案の定弁当が入ってなかった…、ヤバ…。

『あれ? 健ちゃん?』

『弁当忘れた……』

絶望の中それだけを幼馴染に告げると、驚いた顔をされた。

『忘れたって、もともと今日お弁当持ってきてないでしょ?』

『…え?』

どういことなの?

『叔母様が寝坊したからって、今日は購買で済ませるって言ってたじゃない』

……財布を見ると確かに昨日よりも1000円ばかし多く入っていた。なるほど、そういうことだったのか!!

現実逃避に忙しすぎて、疎かにしてはいけない現実まで逃避してしまった!!

『あー、やっちまったな…』

『購買に言ってももう何も残ってないよな?』

『何もってこたぁないと思うけどなー』

語尾を濁らせながらしゃべる透は苦笑していた。

『だよな』

どこの学校でもそうだと思うが、お昼休みの購買は戦争だ。

もうお昼休みに入ってから時間も経っている…残っていてもアンパンとかの人気がないものしかないだろう。

となると迷うな………。うちの学校には学食はないし、購買にもろくなものが残っていない…。

『よし!! この1000円はパクろう!! 午後は冬眠してエネルギーの消費を…』

最後まで言わないうちに何者かに頭を叩かれた。痛い。

『もう。くだらないこと言ってないで、アンパンでもいいから買ってきなさい』

犯人は唯だった。妙にお冠の様子だが…せっかくの1000円をみすみす手放す気もない。

『……いい加減にしないと怒るわよ? 健ちゃんがいかないって言うなら私が行くからお金を出しなさい!!』

お前は俺の母親か!! と毎度毎度思うが、不思議なことに、本当にただの幼馴染なのかというくらいに逆らえない…くそぅ。

泣く泣く財布から1000円を取り出そうとする…、どうにかこの1000円を持って逃げる隙はないものかと周囲を見ると、クラス中の注目を集めていた。

くそぅ…。逃げ出す隙もない上に、羞恥プレイされてしまうとは……。あまりの絶望に1000円などどうでもよくなり大人しく明け渡そうとすると、クラス中のざわめきが大きくなる。

恐らくメシウマーとでも思っているのだ、なんて非常なクラスメートなんだ…。

『あの…?』

『ごめん、今落ち込んでるんだ………』

『どうかしたんですか?』

『お弁当が持ってきてなかったのを忘れててさ…、何かあるならまたあとにしてもらってもいい?』

『もしよかったら、このお弁当を食べて下さい…』

『いや、いいよ。君の分がなくなっちゃうし…』

しまいにはどこの誰かもわからない女の子に哀れまれることになってしまった。情けなさすぎる…。

『いえ、健太くんのために作ったものですので…。食べて貰えないと……困るといいますか…』

俺のために作った? 何を言ってるのかわからなくなってきたぞ……。

『健ちゃん? これはどういうことかしら?』

『おいおい。健太、まさか……お前……』

唯からはただならぬ怨念めいた何かを、透からは驚きと呆れ…わくわくしてきやがったーといったような何かを投げかけられたような気がする。

ますます訳がわからない!! おいおい、…あ、そうだ。まず、俺に弁当を作ってくるなんて物好き…そんな失礼なこと言っちゃダメだよな…。

俺に弁当を作ってくれるような、心優しい子を確認しないと……。

『―――』

『またお会いできましたね』

肩にかかるくらいの美しい黒髪に屈託のない笑顔……何よりその柔らかそうな唇には見覚えがあった。

数日前に、偶然出くわしてしまった告白現場にいた女子生徒だった。

もうわけがわからないなんてもんじゃなくなった…。

『…えっと?』

『芳陽まどかです』

戸惑っていると半ば強引に弁当を押し付けられる。

注目を集めていたので断るにも断れなかった。

『それで? 芳陽さんと健ちゃんはどういう関係なのかしら?』

『…は?』

どういうと言われても、どういう関係でもない…。

芳陽さんの名前だって今知ったばかりだっての!!

『…それはお話できません。公衆の面前でお話するようなお話じゃありませんので…』

おい!! なぜ、顔を赤らめる!!

『へぇー? 公衆の面前じゃなければ話てくれるのかしら?』

『いえ、それでもちょっと…』

なぜ、顔を背ける!!

別に俺とお前の間にそんなできごとはなかったはずだろーが!!

『まってくれ!! これには深…くはないけど、わけがあって!!』

たまたま告白の現場を見てしまった。ただそれだけの関係なのだと主張しようとした矢先―――

『そんなことよりお弁当にしませんか? もう時間も残り少ないですし……わッ!!』

何に躓いたのか、芳陽さんが俺に向かって倒れてきて……

『ひどいことをするのね。誰が誰に告白したなんてそんなプライベートな話は公衆の面前では話す話じゃないと思うけど?』

あわてて倒れかえてた芳陽さんを抱きとめると、耳元で彼女はそう囁いた。

『おまえ……』

いっそのことこのまま地面になぎ倒してやろうかとも思ったがクラス中の注目を集めているという状況が彼女の味方をしていた。

『くすくす…何か間違ったことを言った?』

正論だ。正論だけど、俺に都合の悪い部分だけを全面に押し付けての正論なのだ。

しかし、説明すれば彼女の言う通り先日の男子学生が可哀想なことになる…くそ…、完全に彼女の手の平で踊らされていた。

『もっとも、二人きりなら話してもかまわないという話でもないでしょうけどね』

唯や透と二人きりの時でも、プライバシーは守りなさい? というように釘をさされた…。

あなたがバラすのなら私もバラすわよ? 考えすぎかも知れないがそう彼女は言っているように思えた。

芳陽さんの体制を立て直して上げる時に少しだけ、微笑んだ彼女の口元から……あの時の光景を連想してしまい、そうとしか思えなくなっていたんだ…。

『ありがとうございます。 それではご飯にしましょうか』

『ちょっと!! 説明してもらうまで、この話を終わらせる気はないんだけど!!』

『もう時間もありませんし。この話はまた後日ではダメですか?』

『ダメ!! 納得できない!!』

唯は徹底抗戦の構えを崩さない…。

『食事の時間がなくなってしまいますよ? ねぇ?』

『はぁ? 俺?』

『ええ。だって、私はあなたと食事をしにきたんですもの』

『健ちゃーーん!!』

攻撃の矛先を俺にかえやがりましたよ、コイツ!!

しかしここで何とかしないと飯も食えないし、今後の生活がメンドウになるのは必至!!

背に腹は変えられない!! 何とかするしかないわけで………。

『まぁ、まずは、飯を食おう! 話はそれからにしないか?』

『そんなに、芳陽さんのお弁当が食べたいっていうの?』

ゴゴゴゴー。………そんな事実今まで忘れていたわけだが…、ますます怒りのオーラが強まってしまったぞ。

『いや、違うって。そんなことついさっきまで忘れてたよ!!』

『ひどい…。私の愛のこもったお弁当なのに………そんなコンビニ弁当みたいな言い方………』

クラスメートの方を向いて大声でのたまいやがった…、どうみても芝居だろ…ソレ…。

『まどかちゃんのお弁当を貰っておいてざけんなー!!』『ひどーい!! 女の敵!!』『唯が可哀想だよ!!』『天寿の真っ当はよ!!』などと

心の温かいクラスメートは、想い人に気持ちを踏みにじられたか弱い女性の味方のようだ。

騙されるな! と声を大にして叫びたいが完全に悪者になってしまった俺が何を言っても火に油だろう。

未曾有の危機の中で俺は、昼飯は無理そうだなと悟っていた。

それともうひとつ、しばらくの間荒れるなぁなどと覚悟も決まってしまった…。今後どうなるのか幸先が不安すぎる…。

たぶん、彼女が―――ファンサービスの子なんだ




案の定というべきか、やっぱりと嫌悪すべきというか………。

昼休み以降、尋常ならぬ唯からの監視を受けていた。休み時間にトイレにまでついて来そうになって………騒動になりかけた。

授業中も授業中で、こっちにチラチラと視線を送ってくる。優等生なんだから、ちゃんと授業受けろよ………。

まぁ、昼休みからとは言え四六時中監視されていれば嫌にもなってくるというものだ。

帰り道くらい、静かに帰りたいからな…。隙をついて逃げてきたところだった。

下駄箱に差し掛かったところで、ドドドー!! スタスタ!! ダダダー!! スタスタ!! と聞き覚えのある音が聞こえてきた。

『健太せんぱーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!』

やっぱりな。

きゅきゅーーーー!! と上履きを削りながら急ブレーキで止まろうとしていた。

『廊下は走るなよな?』

『すみません、健太先輩』

我が後輩ながら、まったく言うことを聞く気がないようだ。完全に話半分で聞いてるなぁ…。

『健太お兄ちゃん…』

遅れてもう一人の後輩がやってきた。

猛ダッシュでやってきたのが、清水ちなつ。遅れてきたのが、葉月菫。

菫は俺のことをお兄ちゃんと呼ぶけど、血の繋がりがないどころか家族でもなんでもなく。

唯と同じで幼馴染だ。

『菫も廊下は走るなよな』

ちなつと違って聞き分けのいい菫には軽く嗜める程度にしかっておく。

『ごめんさない、お兄ちゃん…』

『学校ではお兄ちゃんは禁止、だろ?』

『……澄浦せんぱい』

ちなつと違って、苗字に先輩をつけて呼んでくれるあたりさすが俺の幼馴染だな! と思う。

まぁ、そういう躾みたいなものは全部唯が煩かったからかも知れないけど。

昼間の一件以来だいぶ滅入っていた気が随分と楽になった、やっぱり持つべきものは可愛い妹(のような後輩)だな。

菫の頭を撫でながらそんな感慨にふけっていると、

『贔屓です!!』

『何がだよ?』

『菫だけ甘やかして、ずるいじゃないですか!!』

『甘やかすも何も、菫はちなつより行儀がいいからな。普段の行いの差だよ』

『むぅ~!! 菫もいつまで、なでなでされてる気なの!!』

菫の腕がもげそうなくらい思いっきり掴んでひぱった。

見ての通りずば抜けて運動能力の高いちなつが、ずば抜けてか弱い菫を全力で引っ張るものだから体制を崩した菫がちなつの上に覆いかぶさる形になって倒れてしまった。

まではいいんだけどな………、

『痛たたた…』

『痛い…』

痛がってるところで申し訳ないんだが………、

『二人ともスカート直せ。見えてるぞ………』

『―――ッ!!』

慌てて体制を治しスカートを正す。この二人も女の子なんだなーとしみじみ思ってしまう。

もっとも、直視してしまった時点で女の子だと思えないとは言えなくなっていたのだけどな。

『お兄ちゃんに見られた………』

半泣き状態になってしまった。

ごめんな………一緒にお風呂も入ったことあるんだし、いや子供の頃の話だけどさ。

ダメだ俺も相当混乱してるみたいだ………。

『変態!!』

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

混乱なんてしてる場合じゃなかったーーーーーーーーー!!

『おい、これは事故だろ!! 事故!! だいたいお前が自爆したんじゃないか!!』

あることないことを叫び出したちなつの口を両手で覆って黙らせる………って、これ余計に変態みたいじゃないか!!

『とりあえず、落ち着けな?』

さらなる混乱の中で呼びかけると、暴れながらもちなつは首を縦に振った。

肯定の合図である………普通の人間ならばだ。それもあくまでも普通の精神状態においての話でもある。

今は緊急時、そしてこいつは清水ちなつである。人の言うことを素直に聞くとは到底思えなかった。

『ほんとのほんとに、大丈夫なんだよな?』

念には念を。もう余計なトラブルはゴメンだからな。

再度の問いかけに再び首を縦に振るちなつ。

これ以上、押し問答を続けていても埒が明かないし、この状況を誰かに見られるだけでも厄介なことになると今さらながらに気づいた。

『責任を取って下さい!!』

身柄を開放した瞬間の一言がこれだ。

どうやら俺が一方的に悪いという立場は、ちなつの中では揺るがなかったらしい。

『責任も何も、もとからお前の自爆だって言ってるだろ?』

『何言ってるんですか! お、乙女の、し、し、ショーツを見ておいて!!』

『おい!!』

とりあえず、チョップをくれておく。

『痛いです………』

『わざと卑猥な言い方をするな!!』

だいたい高校生らしいパンツだっただろ。ショーツって言うと妙に大人っぽくてエロく感じるぞ。

………実際の定義はよくわからんけどな、なんとなくそう感じないか?

『見てください! ずっと泣いてる菫を見てもなんとも思わないんですか!』

『………ぐすん』

完全に被害者の菫にはさすがに罪悪感がわくが、どうしていいのかわからなかった。

『だ か ら!! 先輩は責任を取るべきです!!』

『なんでそうなる!!』

『また、叫びますよ?』

脅迫だろ………。

満員電車に乗ってたら痴漢の冤罪を喰らった気分だぞ………。

たいてい男は不利な立場になるからな………怖すぎだろ。

『わかった』

『責任を取ってくれるんですか!!』

『いや、わかってないけど、とりあえず話だけ聞こうか』

『往生際が悪くて男らしくないですね。まぁいいです。こちらの要求はただひとつ!! 菫と付き合って下さい!!』

『は?』

何を言ってるのかさっぱりわからない。

『お前の要求の意味がさっぱりわからないんだが?』

『ちっちっちっ。事故とは言え菫の大切なものを見てしまったんですから、付き合うのが筋ってもんでしょ!』

やたら大げさな動きをしながら、くるりと回って最後にこちらにピース! と同時にからてチョップ!! をちなつに浴びせてやった。

『卑猥な言い方すな!』

『まぁ、何にせよ。菫と付き合って下さい』

『断る。だいたい、当事者の菫の意見もないしな………』

菫にも責任を取って、とか言われたらさらに困ることになるんだけどな…。

『おきて菫!! 涙なんか流してる場合じゃないよ。笑顔になれるチャンスが、まさに今訪れようとしてるんだよ?』

『というか、そんな話よりも菫を泣き止ます方が先じゃないのかと』

最終的にはそういう結論になった。当たり前といえば当たり前のことなのだが、あの時の俺達は気づくことができなかった。

『それで、けっきょく菫のどこが不満なんですか?』

『ちょ…ちなつちゃん………』

頬を朱色に染めながら、わけのわからんことを言う親友の口を止めようとするが

『ご存知だとは思いますけど、菫は料理・洗濯・掃除とかとか、こと家事においてはこの年にしてここまでこなすか! っていうくらい完璧なんですよ?』

『まぁな』

「女の子ならこれくらいできて当たり前よ!」って唯に仕込まれてたから、それは一番俺がよく知ってたりする。

『しかも、この容姿!! 可愛い! 家庭的! これ以上何を望むっていうんですか!!』

『ちなつちゃん、もうやめて、ね?』

そもそも好きとか嫌いとかって、そんなとこで決めるものでもない気がするんだが………。

『は……ッ! そうか…、私達にはなくて唯先輩にはあるもの……ごくん……』

じーッと自分の下の方を見たあと、菫の胸の方を………空手チョップ!!

『さっきから、なんでそういう発想にしかいたらないんだよ!!』

『新たなライバルが増えた今、徹底抗戦をしていかなければいけないんです!! 戦争なんです!! ね? 菫!』

『そういうのは、どうかなぁって思うんだけど………』

『わかりました!! ならば、私もつけましょう!!』

菫の説得すら完全にスルーを決め込み、さらなる意味不明へ突入していくちなつワールド。

『ますます意味わからん。菫、一緒に帰るか?』

『うん。 一年生の下駄箱少し離れてるから少し校門で待ってて貰ってもいい?』

『りょーかい』

『って、私の話を無視しないで下さいよーーーーーー!!』



『だからですね。 私は思うんですよ!! 才色兼備、文武両道の唯先輩に勝つためには、菫と私の力を合わせるしかないって!!』

『ふふふ、お兄ちゃんと帰るの久しぶり♪』

『そうだな、この学校に入学したばかりの頃はけっこう一緒に帰ってたんだけどなー』

『それって、もう2ヶ月くらい前の話だよ?』

『もうそんなになるのかー。時間が経つの早いな』

『おじいちゃんみたい………健太おじいちゃん♪』

『それはやめてくれ』

やっと菫らしい笑顔が戻ったので安心した。

やっぱり、泣いているより笑ってた方がいいな。兄(のような存在)としては。

『こう見えても私、スポーツだけじゃなくて勉強も得意なんですよ………って、聞いてーーーーーーーーーーーー!!』

『まぁ、一応聞いてはいるんだけどなぁ』

如何せんどう反応していいものか、わからないんだよ。

『つまり、二倍お得ってことです!!』

『だいたい、なんでそんなに菫と俺をくっつけたがるんだよ!』

『あれ? 先輩も鈍いですねー。なぜって? それは私が負けず嫌いだからに決まってるじゃないですか!!』

『それでな、菫』

『って、あからさまに話しをそらさないで下さい!!』

『ちなつちゃん、どうどう』

『落ち着いてるもん』

『お前は落ち着いててもそれなのかよ』

まったく呆れてものも言えないわ。

『負けたくないんです!!』

突然、声を張り上げてそう宣言するちなつ。

『先輩は、なんで話てくれないんですか?』

さっきまでとは一変した真面目な物言いで察した。

ちなつはたぶん、昼間のことを知っていてこんなことを言っているのだろうと。

『できればでいいんだけど。私とちなつちゃんにもお話してもらえたら嬉しい』

なるほど。

普段見かけない場所で出合ったと思ったら偶然じゃなく見張ってたのか。つくづく鈍感で嫌になる。

『別に大したことじゃないよ』

だから、可愛い後輩達に心配はかけないように話せるところだけ話すことにした。

『詳しくは話せないけど、好きとか嫌いとか言う要素はないし。ただ困惑してるってのが今の状態だな』

簡潔だけど、それがまごうことなき真実なのだから仕方ない。

『ほんとなの?』

一歩後ろを歩いていた菫が、俺の顔を見上げるようにして心配そうな面持ちで尋ねてきた。

『ああ、ほんとだよ』

どうやったら安心してくれるかわからなかったから、返事と一緒に頭を撫でてやる。

心なしか菫もわかってくれたらしい。

『そうですか…』

少し不安そうな顔をしながらも納得はしてくれたらしい。

後輩にまで心配させてしまうようじゃダメだよな。

巻き込まれただけのようなもんだし、何とかしなくちゃな!!

景気づけと、元気をくれたお礼にちなつの頭も思いっきりなでてやる。

菫にしているような優しい感じじゃなく、もっと豪快な感じで、

『ちょっと! やめてくださいよ先輩! どうせやるなら、もっと優しくして下さい!!』

『ちなつにはこのくらいがちょうどいいだろ?』

そのあとはずっと笑いあった。

少しして菫だけは方向が違うので別れることになった。

『先輩? 最後にひとつだけいいですか?』

『なんだ?』

『今日のこと、私は本気ですから……』

今日のこと………。

『バイバイ、先輩』

と、今出来ているのはここまでになります。

貴重なお時間を本小説にご利用頂きありがとうございます。


稚拙な部分が目立つかと思いますが今後も精進すべく尽力していくますので

何卒末永く見守って頂けますとありがたいです。

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