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魔法使いの主様っ!  作者: 三年寝太郎
魔法使いの主様っ!
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第8話  契約魔術と、少女の目的。



 うつらうつらと目を覚ますと、そこにはすやすやと眠る雅の小さな顔があった。


 俺は朝の目覚めはかなり良いほうだ。


 昨日起きた一連の出来事、そして、(みやび)を腕の中に引き寄せてそのまま寝たこと。それは一瞬にして頭に入る。


 太陽は既に上っているらしく、昨日と同じくカーテンの隙間からは陽の光が部屋の中に差し込んでいた。


 健やかな寝顔の雅を見て、女の子の寝顔は可愛いものだなと心の内に思い、俺は布団の中で彼女の肩に手をかけてゆり起こす。


「おい、雅。朝だぞ。起きろ」


「ん……ぅん?……朝?え、あれ?どうして、主様がここに?ま、まさか、私、して、しまったの!?……ど、どうすれば、いいのですか……!何の為に、私……。なんて、なんて馬鹿なことを……!」


 予想外の剣幕でよく分からない反応を見せて口元を抑えている雅の姿に、俺は驚きの余り、たじろいでしまう。なんだその起き方は。


 大分この少女は寝ぼけているようだ。口調も少し、舞に近い。これもまた昨日雅が言っていた、舞の影響がまだ残っているということなのだろうか。


「おい待て、取り敢えず、落ち着け。昨日は契約の都合と言って雅が俺のベッドに入ってきたんだ。……それと、そういう行為はしてないから。安心しろ。舞じゃない人とそういうことを、するつもりは俺に無いしな」


 俺がそういうと、雅は顔を真っ赤にして口元を震わせた。


「マイじゃないと、って……!も、もう秋也さ……。こほんっ!あ、主様っ!……も駄目だった。えっと、秋也。そういうことを言われても、私は貴方とするつもりは絶対に――」


「いや、だからつまり、雅とはそういう関係には成らないって意味なんだが。言っただろ昨日。舞とマイじゃ紛らわしいから君は雅と呼ぶと」


 やはり寝起きは悪いのか、そのことすら忘れているようである。


「……え?あ……ご、ごめんなさい。そう、だったわね。私、この国では雅だったわね。えっと……そう、今までジパングでもマイという名前で通っていたから、舞とマイを勘違いしたわ。私、朝は弱いから、その……」


 罰が悪そうな表情で、布団の中で俺から目をそらす雅。


 確かに朝が弱いのは、舞が今までそうだったので知っている。舞も朝起きて直ぐは、言っていることが支離滅裂なことが多かった。


 人格が違うとはいえ、身体の性質までは変わることがないのだろう。


 それにしたって、口調が色々と混同していた上に、言うなと言ったのに俺の事をまた主様と呼んでいたりした。


 雅もまた、相当に朝は弱そうだ。


「わかってる。もう舞で大分慣れてるから、気にするな。それと……」


「……何?秋也」


「腹が減った。雅、朝ごはん、作ってくれないか?」


 数十分後。俺の目の前には、朝飯に相応しい和食が広がっていた。


 といっても、特に豪華というわけでも無く、まさにTHE朝飯といった感じの。

 ご飯に味噌汁。京漬物に、納豆。アジの開きの塩焼きに、目玉焼き。中々に揃っていた。


「全く……なんで誉れ高き魔術師(マギ)の私が、こんなことをしなきゃならないよ。私は舞じゃないのよ?これからは秋也も料理を作るようにしてよね」


「いや、俺は料理下手だし、雅は今の所居候(いそうろう)だろ。その位のことはして貰ってもいいんじゃないか?ん、この味噌汁、舞と味付けが若干違うな。」


 ずずっと味噌汁をすすりながらそんな雅の言葉をあしらおうとする俺。


 舞が作るのは薄めの味の味噌汁だったが、雅が作ったのは濃い目の味噌汁だった。


 舞の記憶を受け継いでいる筈なのにこういった味の違いを出すのは、今まで舞が俺の好きな味に合わせていて、本当は濃い味の方が好きだったということだろうか。


「む、居候だからって理由を付けるなら、ちゃんとお金は払うわ。ただし、私の世界の皇国通貨だけどね。味噌汁は私の好みよ。別に私は秋也に好かれたいわけじゃないから、こちらの味に戻したの」


 そう言いながら舞は自分の着ているあの白い着物の振袖に右側に左手を通した。


 すると、その袖から抜き出した左手からはジャラっとした金属音が鳴り、そしてその手を開くと、テーブルの上には十枚程の金銀銅貨らしき物が広がった。


 いや、今一体何をどうしたというのか。その振袖の中に小さな袋が内蔵されていたということだろうか。何もない所からそれらが出てきたように見えたのだが。


 気になってその振袖を注視して気付く。


 昨日の血の跡が、その振袖の横腹付近に全く着いておらず、前日の戦い前と同じく綺麗な白のままになっていた。


「確かこの国での物価は、パンが一つ当たり百円位だったわね。この部屋の家賃は月いくら?」


「ん?家賃か?えーと、大体で十万円だったかな。元々、アパートとは思えない位に良い部屋だしな」


「た、高いわね……。流石にこんな良い場所だとその位するのかしら……。じゃあ、取り敢えず一か月分でこの位かな。ひ、ふ、み……うん。じゃあ一先ず五圓(ごえん)ね」


 舞がそのテーブルから数えて俺に手渡したのは、真ん中に大きく一圓と書かれた金貨が二枚と、同じく一圓と書かれた銀貨が三枚だった。


 金貨に対して、銀貨のサイズは一回り大きい。


「私の祖国、皇国ジパングでもっとも上の通貨の単位は(えん)。私の国の通貨で考えれば、一圓でこの世界の一万円位の価値があるわ。まあ、実際にそれ位の譜面価値と同等とは思わないけれど、アンティーク的価値も含めればその位の価値はあると思うの」


 つまりこれは、五万円の代わりとして渡された硬貨ということか。


 金貨が多少小さいとは言え、銀貨と同じ価値を持つ金貨が存在しているとは。


 その皇国ジパングとやらは、中々に面白い貨幣廻しをしているのかも知れない。


 そんなものを出されて多少渋い顔をしつつも、俺はそれを素直に受け取ることには受け取る。


 舞とは違い、既に記憶も戻っている。


 別に家事という役割を持たせる必要もないし、居候という立場の下で俺にそういった役割を任されるのは、この雅という少女は好まないようであるからして。


 お金も払わずに文句を言うという負い目は早めに無くしたいという、個人の意思の尊重を重視して俺はそのまま受け取った。


 アンティークとは言うが、異世界のモノであるが故にこの世界においてはそれに歴史的価値があるわけでも無い。


 実際にそれ程の値段になるかは怪しいものだが、ようは雅自身が満足すればいいのだろうと思うのでそのまま金貨と銀貨を俺は受け取ることにしたのである。


「それなら、有り難く頂いて置く。あと、別に俺の作るマズい料理で構わないっていうなら、仕方ない。君がこの世界に居る間は料理も家事も分担でいくとしよう。……それで、だ。その着物のことなんだが……」


「うん、今、この中から取り出したことと、血の跡が綺麗に消えてることよね。正直説明が面倒だからかなり省くけど、要はこの着物自体に様々な魔導陣が刻まれていて、魔力を通せば綺麗な状態に戻るし、何でも取り入れたり取り出したり出来るって感じよ」


 なんという便利な着物。


 改めて魔術師という存在の凄さと異質さを見せつけてくれる。


 その後食事を終えた後、皿洗いは俺がすることになった。


 それはお互いが食事に取り決めたことであり、俺が料理の下手さを真摯に訴えると、料理は雅で片付けは俺という形でなんとか納得してくれた。


 まあ、あの美味しいご飯が食べられるというならこの程度は安いものだろう。


 食器を洗い終えた俺は、台所の椅子に座ってテレビを見ている雅の正面の椅子に座る。


「……この世界の技術には、常に驚かされるわ。魔術を使わずにしてこんなテレビとやらで映像を見る事が出来るだなんて、私の国では考えられないもの」


「ふうん、雅の祖国では、化学は余り発展してないのか。そりゃ驚くわな。まあ、舞は特に反応してくれなかったから、今更って感じもするけど」


「あの時は舞も、記憶を失っていたからよ。『そうあるもの』だと思ってしまったら、それ程人は気にしないものよ。今は祖国の記憶があるから比較できるけれどね」


 そんなもんなのか、と俺は相槌を打つ。そしてテレビから流れるニュースの時間が終わると、俺はリモコンでその電源を切った。


 昨日途中で止めた、聞きたいことを雅に尋ねる為に。


「――さて、と。じゃあ色々と整理するとしようか。舞のこと以外で一番気になったのはやっぱりこれなんだが、……昨日から言ってる『契約』って、一体何なんだ?」


「……それに関してはかなり複雑だから、どう説明すればいいのか分からない所だけれど、そうね。人と人との存在と魔力を、ある程度同調させるもの、と言えば良いのかしら」


 人と人の存在と魔力を、同調。それはつまり、俺と雅の存在が似通った状態にあるということなのだろうか。抽象的過ぎてなんとも言えないが。


「そしてこの世界における秋也の存在と同調している状態のお蔭で、今の私は魔術が使えるのよ」


 同調のお蔭で魔術が使える、となると、世界からの拒絶を、この世界に居る俺の存在が緩和としたということだろうか。


「私が使うのは異界の力。この世界に存在を拒絶された状態では殆どの魔術は使えないわ。あの時契約に使ったのは、秋也の魔力で作られた魔導陣よ。そして、本質的に存在と魔力を同調させる魔術なんて、一筋縄のものではないのは分かるわよね?」


 詳しくは無いが、常識的な感覚で言えばそれはとんでもない行為なのだろう。


 人というのは個という存在で成り立ち、それが実際に存在が混ざり合う事は出来ないはずだ。それが個という別々の存在であるが故に。


「それらを同調させる。そんなことは通常有り得ないことよ。それを成立させようとする契約魔術が、普通で有るはずが無いわ」


 机をトントンと指で軽くリズム刻みながら、雅は言葉を続ける。


「お互いの存在の波長が合わなければ、あれはお互いの存在を潰し合う結果しか生まない、ただの破滅式」



「……ってことは、俺達の波長は合っていた、ということか。それは契約する前からわかるものなのか?大体、成功率なんてどんなものなんだよ」


「存在の波長なんて分かるわけないわ。あれは全て、契約後の結果でしか知り得ない。そもそもこの契約魔導陣の成功率は一割以下なの」


 一割、以下?それは、九割は失敗に終わる、ということじゃないか。十パーセントの確立。それは、十回行われて辿り着くのは一組というとんでもない頂だ。


「しかも、今回はお互い異世界の存在を同調させるのよ?そんな前例は、今まで聞いたことも見たことも無いわ」


 背筋が凍りそうになった。


 一割以下の成功率に、更には異世界の存在同士を繋げるという古今東西行われたこともなさそうな無謀な可能性にかける行為だったのだ、あれは。


 そんなの、絶対に当たらないようなクジを、命を投げ捨てて買うようなものじゃないか。


「正直、私たちが生きていることは奇跡よ。だから舞は言ったのよ、死ぬ覚悟はあるかって。そんな狂気じみた確率の契約を、舞の為とはいえ受けてくれた秋也には、私は、本当に感謝しているわ」


 雅はそう言って俺に頭を下げた。


 その話を聞いてしまうと、一体どんな大博打をやったのか、そしてどんな詐欺紛いにあったのかと少し怒りも沸きそうになったが、考えてみれば直ぐに分かることである。


 あの時の俺は、もしその話を聞いていても結局は契約を受けていただろう。


 大体確率が限りなく低いということは舞は言っていたし、それにあの場で俺が舞を助ける可能性を放置すること等出来なかったに違いない。


 恋は盲目という。あのまま二人で死ぬのもいいかも知れないと、極限の状態にあった自分は心の内に思っていたのかもしれない。


「結果論だが、俺達は生きている。あの時はその選択以外に取る術は無かったし、舞が俺を庇ってくれなかったら俺は死んでいた身の上だ。それでいて君も生きているし、俺も一緒に生きている」


 そうだ、どれだけの努力をしてもそれ以上の結果を得られなかったというのなら、それが最早文句等言いようもない、最善だったのだ。


「だから、俺は契約をして良かったと今思っている。ただ……舞には、会えなくなってしまったけれど」


「……そう、ね。でも、命があるだけ儲けものよ。あれは、失敗したらその場でお互いの存在に潰されて死ぬ魔術だから……。私の世界では殆ど禁術に近い類のものよ。……後は、契約の内容ね。それを今から説明するわ。これは今後大事になるから、覚えて置いて」


 どの世界にも、契約には内容が付き物だ。

 実を伴わない交渉など、ただの虚。


 それでいえば、その内容を聞かずして契約を交わした自分は限りなく愚かなのだろうけれど。


「これの契約魔術は、契約を申し込む者に圧倒的に不利になるように出来ているわ。お互いを九割以上の確立で死に至らしめる禁術だもの。当然の事よね。それを受け入れる相手には、申し込む側はそれ相当の対価を被らなければならないの」


 確かに、相当に親しい仲であっても、そうでなければ相手は納得しないだろう。事情のある親族や家族であるならその限りでは無いかも知れないが。


 しかもその形式であることは、この魔術の使用自体をかなり制限する役割を果たしていると思われる。


 対等の立場で契約を結ぶことは出来ない上に、例え運よく奇跡的に生き残っても立場に優劣が生じてしまう。


 そんな契約を申し込むことは無謀かつ自虐に近い。


 今回のような状況でなければ、使われる機会も少ないのではないだろうか。


「対価は大きすぎる程に大きいわ。対価は大きく分けて三つ。1.申し込んだ者は、契約の際に相手が持ち出した条件を三つまで受け入れ実行する義務を負う。2.申し込んだ者は、契約の相手が命を失った時、強制的に命を失う。ただし申し込まれた者にはその制限は存在しない。3.主従関係として、相手を主と仰ぎ、『命令』であれば従わなければならない」


 確かに、それならば申し込む側の対価は大きすぎる程に大きい。自らを主従関係に陥れるようなものだ。


 こんな契約を結ばなければならない状況でない限りは、常人の神経では出来よう筈も無い。


 若しくは、圧倒的弱い立場にある人間に強制的に申し込ませるということも有るかもしれないが、結局は生き残れる可能性は一割だ。


 そんな極限の確立に命を賭してまでこの契約をする者の存在があるとは思えない。


「……私の場合の対価は、秋也が言った通り、舞を存在させることと、この世界に居る間は貴方の側に居る事。そして貴方を主とし、『命令』であるなら従うこと。最後に、貴方が死ぬ時は私も死ぬこと」


 それでも充分重いような気もする。特に、俺が死ねば雅も命を失うという点においては。


「命を預けているようなものだもの。ある種、本当の意味での主君ね」


 それが、雅が俺を主と呼ぼうとする所以か。


 確かに、主君が死ねば臣下はそれに殉死するといった通念は日本にも百年前の時点でも僅かに存在していたし、戦国の世にも存在していた。


 事実上命を掛けてでも守らなければ成らない主である。


 将棋でも王将が打ち取られてしまえば、どれだけ優秀な駒を揃えていたとしても対局(大局)は敗北、駒も事実上の死である。


 だからこそ主は守られる、という考え方もあるのだろう。


「ま、私の主様がそう呼ばれることを嫌がるのだから、呼ぶ必要は私には無いわけだけれど。でも、契約の内容に乗っ取って、不可能な筈の舞の存在の存続と、貴方の側に居ることの強制力は働くわ」


 それはつまり、雅はこの世界に居る間は俺から離れられないということだろうか。


 俺は、かなり重い事実を契約で舞に押し付けていたのだとここで自覚した。


「だから、私は貴方の住居にこのまま居座ることになるのだけれど、それはお金を払うから許して欲しいわ」


 それについては特に構わなかった。


 しばらくは舞の面影に苦しむことは有るかもしれないが、舞が死ぬかもしれないと思った瞬間に感じた、あの耐えようも無い孤独感と寂寥感を。


 再び思い知るのを余りに恐れている今の俺にとっては、雅が居てくれることは、必要なことだと思ったからだ。


 自分のそう言った醜悪で保身的な思考は好きにはなれないが、このまま辛さで壊れてしまうよりはマシだと俺は考えていた。


 そんな俺には(くず)という言葉が良く似合うのだろうか。


「そして、先程言った、『命令』であれば従わなければならない、の部分だけれど。これは使えば使う程、効力は減っていくわ。精神力にも左右される。けれど、これに関しては……絶対に命令して欲しくないのが、私には三つだけあるわ」


 そんな個人の権限を著しく侵害するようなことを俺がするとは思わない……とは、言いきれないが、その三つに関しては良く耳を傾けることにした。


「私に夜伽(よとぎ)ような行為をさせない事。私の『目的』を止めないこと。そして、私がジパングに帰る時には止めないこと。……秋也が命令すれば、最初の数回の命令は確かに私は逆らえないかもしれない。けれど、この三つだけは……お願い。絶対に、命令をしないで欲しいの」


 胸に手を当て、俺から視線を下にそらして、雅は言った。


 意識上には感じられない、主従。


 俺が命令すれば、最初の数回は逆らえないという恐怖。


 俺が、この少女の行動を制限する権限を握っているとはいえ、雅のその願いは絶対に受け入れるべきであるし、そのような事をするつもりも無い。


 だが、人の生き死に、行動を制限できるという事実に、俺は欲望に近いものがざわりと胸の奥を走るのを感じた。


 駄目だ。そんな、人間の屑に成り下がるようなことは、絶対にしたくない。


 雅に、嫌な思いをさせたくはない。この三つを侵すことは、全身全霊を持って自らが止めなければならない。


「わかった。その三つに関しては、絶対に順守する。ただ気になるんだが……何故、ここまで詳しく説明する必要があったんだ?命令に関しても、俺に教えなければ良かったんじゃないか?」


 俺がそう言うと、舞は横に首をふるふると振って答えた。


「いいえ、これに関しては、契約による義務があるの。相手が契約内容を知らない場合は、教える義務が」


 それなら頷ける。俺だったら、そんな不利な事を必要も無いのに言わないと考えるから。


「でも例え義務が無くてもきっと私は教えるわ。命を掛けてくれた秋也に対して敬意を示さない訳にはいかないもの。一人の人間として、ね」


 その言葉が真実かどうかなど確認の仕様が無いが、雅の瞳をみれば、それが本当の事のように思えてしまう。


「……後は、何か質問がある?」


 まだ気になることは複数ある。魔術について、今後の雅の行動について。そして、雅がこの世界に来た目的について。


 『目的を止めないこと』をお願いされておきながらその目的を俺が知らなければ意味がないだろうと思った俺は、それを尋ねることに決めた。


 何より、マイ・マイム・ベサソという人物がこの世界に来た理由。

 それは、この世界の住人としても気になるところだ。


「雅は、何故この世界に来たんだ?今、目的があるって言ってたよな。それを教えてくれないか」


「……この世界に来た目的……ね。一応これは私の世界では国家機密に近いのだけれど、そうね。これから行動を共にする主様に、教えないわけにはいかないものね」


 話したくはない、というわけでもなさそうだ。


 雅という存在がここにある骨幹のようなものに近いのだから、多少は言い渋るのかと思っていたのだが。


「契約に従って傍から離れられない以上は、言うとも言わずとも秋也にも関わりがあることだと思うから、思い切って、今言うわ」


 ふう、と息を雅は一息吐き。そして、心を決めてそれを言い放った。



「――私の目的はただ一つ。崇高にして高潔。全ての魔術師の頂きに立つ伝説の存在、『魔法使い』を見つけ出し、私の世界、皇国ジパングへと招くことよ」






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