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魔法使いの主様っ!  作者: 三年寝太郎
魔法使いの主様っ!
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第13話 魔法使いの、主様っ!



 全神経の集中。思えば今まで生きてきた中で、俺がこれ程神経をすり減らした瞬間などあっただろうか。


 感じるのは俺の腕の中にいる舞の、手の柔らかな感触だけだ。


 それ以外に意識を向けるのが困難に近い状態と言える。二級魔術の二重魔躁等、並大抵の魔術師にも出来るものか知れたものでない。


 魔術を支えるのは感情ではない。感情に流される魔術師程、正確な魔導と魔躁が出来なくなるものなのだ。


 冷静かつ正確な采配を心掛ける。状況に心を惑わされるようであれば、それが魔術師が死ぬ瞬間(とき)


 それが魔術師としての、雅の教えだった。


 俺達二人を包み込むように展開された二重の護球壁は、冬仁、お節、お餅の三人の魔術を耐え抜かぬかなければならない。


 冬仁が展開したのは恐らく、灼熱炎。対して後ろに控える二人の女性が展開したのはただ一つの魔導陣。


 展開を行ったのはお節と呼ばれた者だけ。緑色をした、俺が知らない魔導陣だ。


 こちらの魔導陣の展開に集中し過ぎたために、術名は聞き取れなかった。


 ただ、もし聞き取れていても、それはどうせ俺の知らない魔導陣だ。その身で視認するまでは、対して結果は変わらないだろう。


 お互いの魔導陣の展開と同時に、来る。奴らの魔術の第一波。


 未だ全裸の冬仁が展開して放つ、灼熱炎。


 ああ、かかってこい。先程灼熱炎とは相殺された筈だ。


 俺の魔導陣の正確さが欠けてない限りは、この一波は通さない。通させない。


 俺の魔躁が、この護球壁を支えてみせる。冷静だ、冷静になれ。舞の命は、俺の集中力に掛かっているのだからっ――!


 直後、灼熱が第一層の護球壁を包み込んだ。だが、その二重に重ねられた壁の内側に居る俺達に熱は届かない。


 灼熱炎を受け止めることでは無く、ただ第一層を維持することに感覚を研ぎ澄ませる。


 冷や汗が額を伝う。一瞬でも意識は狂わせることなど出来ない。


 ふいに、俺の一層の魔術に対する魔躁の感覚が消えた。同時に灼熱炎の勢いは既に無い。これはあの魔術を相殺出来た証と見ていいだろう。


 だが、まだ第二波が残っている。


 お節が作り出したであろう魔術。しかし感じ取れる魔躁は、お餅の方の気配。何故この二人はそのような役割分担をする必要があるのだろうか。


 いや、そんなことは今気に掛けるべきでは無い。


 俺が今集中すべきは、残った第二の護球壁を維持する事だけだ。


 先程の護球壁と比べれば、今残る護球壁の精度は低い。だが、こいつらの魔術を凌駕出来る程の力は有すると信じよう。


 いいや、違う。俺はこいつを凌駕出来る。悪くても相殺。出来なければ、死ぬだけだ。


 第一の護球壁の消失と共に、お節とお餅の手によって顕現された魔術が第二の護球壁を包み込む。


 現れたのは、木々の地盤を成しているであろう、溢れんばかりの生命力を見せる力強さを有した、強靱な根。


 そしてそれと相まって木々の枝が(つる)のようになった物が護球壁を周り、包み込んだ。


 そして、圧殺せんとばかりにその全力をもって締め付ける。この護球壁が破られれば、その万力によって舞と俺は圧死するのだろう。


 だが、明らかにこれは木属性の魔術だ。俺は運が良いかもしれない。


 金属性は木属性に優位である。これが二級以下の魔術であれば、俺の展開した護球壁の精度が低いといえども。


 木属性であるこの魔術ならば、相殺以上に持って行ける可能性は十二分にあるのだから。


  後は、気を抜かないようにするだけだ。全神経と意識を集中して護球壁の維持を図る。


 ここまでほんの僅か数秒の出来事ではある。だが、俺にとっては数分にも、数時間にも感じられるほどの瞬間であった。


 ふいに俺の名前を呟く舞の声が聞こえてくる。不安そうな、けれど俺に全てを委ねる意を示しているであろう、その声。


 大丈夫だ、舞。俺は負けやしない。ここで挫けることはない。君の前でくらい、格好を付けて見せるさ。


 護球壁の抵抗力を以て、木々を瓦解する。その可能性にかけ、俺は最後の神経のすり減らすその行為と闘う。


 一秒後、護球壁に纏わりついた木々はその勢いを無くし、消失。同時に俺の魔躁の感覚は消える。



 耐え抜いた。



 護ることに特化した俺の魔術は、ついに彼らの魔術を凌駕したのである。



 「……まさか、本当に僕らの灼熱炎と圧巻樹(あっかんじゅ)を耐えるとは、ね。……ここまで卓越した金属性の担い手など、初めて出会いましたよ。けれど、流石に次もこの二つを同時に防げはしないでしょう」


 驚愕や賞賛というよりは、心外だと言わんばかりの表情と声色でそんな言葉を放つ冬仁だが、最早俺にそんな言葉に耳を傾ける必要性は無い。


 間髪入れずに魔導陣を展開しようとする冬仁とお節の魔力の流れを感じた。


 だが俺の意識はそちらには流れない。


 永遠のように感じられた先程の抵抗の間にも、俺の狙いであった、時計の秒針は確実にその刻を刻んでいたのだ。



 ここからは俺の時間だ。


 零時まで後残すところ数秒。


 死の直前に訪れる走馬灯のように、一秒一秒を長く感じられる空間が、今俺の意識の中に生まれていた。




 ――昔、とある賢者が言い放った言葉があるという。それがどのような状況の賢者であるかは割愛するとしてだ。


 氾濫する情報の海から一度だけ俺の意識を捉えたそれは、過去の俺に多大な印象を残した。



『それは人生に一度きりしか無い、大切なモノなのだ。そんな大切な人の為に捧げるべき貞操を――。そう、己の童貞すら(まも)り切れぬ者に、一体何が護れるというのか』



 俺は、今、この瞬間まで。それを護り通してきていた。


 それは意図していたわけでも無い。だが、それは確実に俺の深層心理の中に在ったのだ。


 たまたま見上げた空に浮かぶ月が綺麗だった時に、それが人生最高の夜だと思い込み。


 そして月夜に酒呑み、少女と笑い。


 それがどこまでも情緒深いものだと、それがどこまでも美しいものだと鑑賞に浸りきることが出来る俺だ。


 俺は芯が現実主義者(リアリスト)ではない。趣に生きようとする理想主義者(ロマンチスト)なのだ。


 いつ現れるとも分からない大切な誰かの為に、護りきること。それに有る筈も無い理想を抱いていた。


 だが、実際はどうだ。俺には今、大切な人が居る。護りたい、愛しき少女が居る。


 腕の中で俺に身を預け、力なき手で俺を包む、舞が居る。守り通した俺の意思は、無駄ではなかったのだ。


 護りたい人を守る為の、可能性が今ここにあるのだから。



『三十年間童貞を貫いた者は、魔法使いに成ることが出来る』。



 一週間前、俺が再び知った都市伝説。


 その権利の可能性に全てを託し、この状況で信じきる事が出来るのは、俺が理想主義者たるが故に。


 魔術師は感情的になれば成る程弱くなる。だが、俺が成るのは魔法使いだ。


 そんな(やわ)な存在で有る筈がない。

 

 二週間前、紅葉の時に聞いた椿の言葉を、俺は魔法使いの都市伝説を知って以降、何度も何度も反芻していた。


 通常の魔術師は世界に対して立場の低い消費者だと言う。ならば魔力を世界に提供して金属性の魔術を使用する今の俺も、それに当たるということだろう。


 ――俺が?魔法使いとなるべき権利を持つこの俺が。舞を苦しめ続けたクソったれな世界に対する、情弱な消費者であるというのか。


 違う、魔法使いというものは、そんな存在じゃない。


 椿はそれよりも先に、アルカナにおける魔術師の解釈を述べていた。



 魔力はお酒、詠唱は世界を騙す虚言だと。



 ――そうだ、そうあるべきだ。世界など、騙してやるのが割に合う。



 だが、それでも魔法使いには届かない。なぜなら、それではまだ『魔術師』であるからだ。


 世界に相反するという性質はあれども、それはただ世界の逆に位置しているだけで、魔術師の域を超えてはいない。


 そんな方法では、魔術師の頂きに立ち、今や世界が司っている魔の法を担う存在には成り得ないだろう。


 ならばどう在るべきか?その答えは俺の中で、既に決まっていた。


 最早、世界の下の地位や、対等になる気は無い。魔法使いは、世界と同等それ以下の立場に立つものではない。


 世界そのものを超えなければならない。圧倒的な存在として、世界を跪かせなければならない。それが俺の信じる、持論。



 時計など確認するまでも無い。秒数など感覚でわかる。


 今この時、この瞬間。時刻は深夜、零時を向かえた。女神の神託とやらと俺の出生日が重なる時刻。


 重ねられている舞の手に感触に一時目を瞑り、今俺が彼女と共に有ることを胸の奥に抱いた後、俺は宣言した。



「――魔力は毒薬。詠唱は、世界を死に至らしめる『脅迫』」



 その宣言を余所に、冬仁達によって展開されつつある魔導陣に対する構えなど。俺はするつもりは既に毛頭も無い。


 宣言と共に、俺は今ある全魔力を、思うがままに。


 ただこの世界を殺す為の、劇薬を超えた毒薬へと変換した。


  想像が完全に実を伴う感触が身に走る。全身が狂気に包まれる。脳が弾けそうな感覚に吐き気を覚えた。


 今、この毒薬と化した魔力を放つ、俺自身が世界に対する凶器と化しているだろう。


 このような行為など、通常の魔術師にとっては有り得ないことのように思えるのかも知れない。


 だが不思議な事に、今の俺には、不可能であるイメージの方が浮かばない。至極当然のことの様にその変換を実行しているのだ。


 毒薬とは即ち、微量なりとも生命の危険を冒す薬物。これは、対世界用の、魔力という名の毒薬だ。


 俺の魔力量など、それは世界の規模からすれば微々たるものだ。


 だがそれが酒や劇薬などいう生易しいものではなく、毒薬であるのなら。これは世界を犯すに至るだろう。


 ――ああ、聞こえる。世界の悲鳴が。鳴り響く大地の音が。


 舞を苦しめ続けた『奴』は、確実に苦しんでいる。


 俺の魔力が世界を侵食していく感触が身体を包む。俺は今まさに、世界を殺そうとしている。


  この俺の異質な魔力が、世界を殲滅せんと侵食し、嬲り殺しにしようとしているのだ。


 (もだ)えるように大地は叫び、うねりを挙げて動き出す。


 天地を揺るがす轟音と共に、一時(いっとき)地面が、横に大きく揺れた。



【ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ】



 その揺れに、冬仁と後方の二人は体勢を崩した。予想外の出来事に、彼らの魔導陣の文様がぶれた様子が見えた。一度形を崩した魔導陣は、その修復に数秒の間が空く。


 今一時のこの好機を逃してはならない。世界は俺に、完全に恐怖している。分かる。魔法使いになる権利を得ている俺には、それが分かるのだ。


 脳に響く、泣き付きすがりつくような、弱弱しい世界の悲鳴。


 これが魔法使いになる権利を得た男への、一人の少女を護るために今ここにいる俺への。最大たる力を(もたら)す為の賞賛ならば。


 俺は、最後までやり通してやる。


 

 本日数秒前。この世に生れ落ちてから三十を迎えた。そしてこの俺は、童貞を守り続けていた。


 誰が言い出したかも知れない都市伝説。だがその権利は確かに今、俺にある。



 ――魔力は毒薬。詠唱は、世界を惑わす虚言。そして、世界を殺す脅迫と成す――!



「聞け、世界よ!俺に殺されたくなくば、我が前に跪け!なれば、三十路まで貞操を護り続けたこの俺が、俺こそが。――魔法使いとなるっ!!」



 俺の放った言葉に、世界は恭順の意を示した。


 世界の意思が、声が聞こえる。言葉にならない声泣き声。



【……ォォォォォォォォォォォォ……】



 世界は俺に従うと言う。


 その意思を認めた俺は、世界に害を為す魔力の流れを止めた。屈した相手にこれ以上の追い打ちは意味を成さない。


 世界を屈伏させ、その(げん)を認めさせたこの瞬間。俺はついに、正真正銘の魔法使いとなったのである。


 身体の感覚は特に何も変わらないが、その事実そのものは確実だ。


 なんとも呆気ない程の魔法使いの成立だが、こんなのものなのだろうか。


 だが何となく、俺自身の意識としては何かが変わったような気もしなくはない。


 俺が世界へ魔力の流れを止めた刹那。大地の揺れによって崩された彼らが体勢を立て直し、そして展開したらしい魔術が、俺と舞の元に迫っていた。


 見るまでもなく、それらの情報が俺の脳裏に過ぎる。成る程、これが魔法使いの力か。


 今使われている魔術の魔導陣、性質、情報。全てが俺には分かる。


 前方からは灼熱炎、後方からは木の二級魔術、圧巻樹。こんなもの、今や魔法使いとなった俺には、効きはしないっ!


「突然地震が起きたのには驚きましたが、……貞操?三十路?貴方が魔法使い?戯言を。魔術も展開しないとは、生を諦めましたか!」

 

 冬仁の叫ぶ声と共に迫りくる灼熱と、木々の犇めき。どうすればいいのかも、全てわかる。


 魔術師の頂きに立つ存在、魔法使い。それが如何程のものか。この場にて示させて貰おう。


「三級、治癒と成せ」


 たった一言。それだけで世界は魔導陣の書き換えを断行した。


 二級・灼熱炎、及び二級圧巻樹の魔導陣の効力は、水系統魔術、三級・治癒と変貌する。


 魔法使いという存在は、魔の法、魔導陣を司る力を有する。魔法使いの前には、魔術師は無力と化す他ない。


 その魔導陣を、俺は恣意のままに動かし、舞の身体へと向けた。


 水を示す青の彩色を持たない、赤と緑の二つの魔導陣が、舞の身体を癒していく。


 火傷は消え、目を開けなくしていた目蓋の皮膚も、元の綺麗な肌へと治ってゆく。


 恐らくは魔術を放った彼らは今頃驚愕の表情を浮かべているのだろうが、今の俺にとってそんなものは構う対象では無い。


 

 腕の中の愛おしい少女がその目を開く。



 どんな風に思ってくれるだろうか。魔法使いとなった、この俺を見て。


 さて、取り敢えずこの場において、言ってみたかった言葉があった。


 これを一週間近く前に考えていたのだから、そんな俺の思考程怖いものは無いと思うのだが。


 そんな俺でもきっとこの少女は好きでいてくれるだろうという、変な自信が今の俺にはあるから。余計に性質(たち)が悪いのかも知れないけど。


 驚きと困惑の表情を浮かべる彼女の顔を見て、俺は満面の笑みを見せて、こう言うのだ。



「誇っていいぞ、マイ。君の主様は、魔法使いになれたのだから。これからも君の隣に、ずっと居続ける権利。……俺には、あるよな」



 頼み込むわけでもなく、強いるわけでも無く。


 ただ、少女に尋ねる言葉。


 藤野秋也が俺たる俺らしさを込めた、意思ある言葉。心は弱いくせに、少し自分に酔っている感じが俺らしい。


 そんな風に思って考えた言葉なのだけれど、舞はきっとそれも受け入れてくれるだろう。


 俺が好きになったのは、そんな少女なのだから。


 困惑の中、俺の言葉をしっかりと受け止め、そして全てを理解をしたらしい舞は、唇を震わせて。そして瞳一杯の涙を浮かべて。


 治った身体で俺に(すが)りつくように抱き着くと。


 恥じらいを含みつつも、精一杯の声で俺の言葉に応えてくれたのだった。





「――……はい。ずっと、ずっと……。私の傍に、居て下さい。お慕い、申しております、秋也さん。……大好きです。……あ、う、その、……あ、愛していますっ。



――私の……魔法使いの、主様っ!」





 ――言いたい言葉が溢れすぎて、思いが溢れすぎて。そんな感情が表だって、好意を指す言葉を舞は全部言ってみてしまったのだろうと思う。


 けれど、ただ伝えたい、たった一つの気持ち。それはしっかりと俺に伝わった。


 その想いを表す言葉は数あれども、それをただ一人の大切な少女に、舞に言って貰える、これ以上の喜びなんて。


 俺は今後も知ることは無いだろうと思う。彼女以上に大切な女の子なんて、出来ようもない筈だから。


 愛してる、か。今俺の中にあるこの気持ちをそう呼ぶのなら、俺もそうなんだろう。


 舞と同じように、俺もそんな自分の気持ちを言葉にして返そうかと思ったけれども。


 それよりも先に俺は、俺にしがみつくようにして抱き着く彼女の身体に腕を回して、強く抱きしめた。


 柔らかな身体の感触。舞という一人の少女の存在を、ただ確かめるように。


 魔法使いの主様。色々と普通とはかけ離れた存在になってはしまったけれど、この娘と一緒に居られるのなら、そんな存在になるのも悪くは無い。


 俺は片腕で抱きしめながら、元の綺麗な髪質に治った舞の頭を片手で撫で。


 そして俺も、彼女への想いを込めた言葉を伝えるのだった。


 

「……俺も大好きだ、舞。俺は君から離れないさ。ずっと、一緒に居よう。君が望むなら、異世界にだって何だって行ってやる。俺も君を、――マイ・マイム・ベサソを、愛しているから」



 はてさて、酒に酔わずして一体俺のどこからこんな恥ずかしい言葉が飛び出てきたのかと、自分自身後々悩むことになるのだが。


 それでもこの時はっきりと自分の気持ちを伝えられたこの瞬間は。


 俺の生きた半生の中でも最も貴重なものとして記憶されることだろう。


 その俺の言葉に、舞は涙に埋もれた顔を上げ。


 そして幸せそうに微笑んで、俺にこう言うのだった。



「……秋也さん。私、本当に幸せです。私なんかには、勿体ない位に。今まで辛いことは沢山あったけれど、私、生きてて良かったです。……マイは、全てを貴方の為に捧げます。身も、心も。全ては主様の御心のままに」



 その言葉を残すと共に、舞は目を瞑ると、俺の唇にその自身の口を重ねた。


 ただ触れるだけの甘い口付け。


 けれど、その時お互いが満たされたような感覚がしたのは、心が通い合ったような心持からか、それとも存在の同調のお蔭だろうか。


 当時の俺からすれば、そんなことはどちらでも構わないような気がしたのだろうと思うけれど。



 ――太陽暦にて暦は十二月十一日深夜零時付近。京都御苑、御所・建礼門の前にて。


 なんとも滑稽な様子であるが、冬の夜にも関わらず一糸纏わぬ一人の全裸男と、それを囲う二人の女性を余所目に。



 この俺、藤野秋也は魔法使いの主様となり、そして一人の少女と共に、今後を生きていくことを誓いあったのであった。







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