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魔法使いの主様っ!  作者: 三年寝太郎
魔法使いの主様っ!
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第1話  月夜に酒飲み、少女は笑う。




 人生において、不思議なモノを目にする機会は誰しも二度三度はあるという。


 誰から聞いた台詞とも知れないこの格言もどきな言の葉を、俺は頭の片隅から引っ張り出していた。


 季節は秋の終わり頃。この世の儚さを匂わせて紅葉が散りゆく、四季の中で俺の一番好きな時期だ。


 そして俺が二十九年という年月を過ごしてきた人生の中でも、最も美しい月夜が訪れるだろうと確信した本日。


 今日は酒でも飲みながら、その月夜を自分のアパートの窓から眺めるとでもしようかなと。最寄のコンビニに向かった深夜の二時、丑の刻。


 彼女居ない歴がそのまま年齢なこの虚しき俺の喉と心を潤してくれるであろう、伏見の軟水なお酒を頭に思い浮かべつつ、歩みを進めている――そんな時のことだった。


 最寄りの神社の鳥居の奥に。

 そこに、不可解で怪しげな服装をした、一人の人物の影が見えたのである。


「……こんな夜遅くに、神社に人様(ひとさま)とはねぇ……」


 呟き、(いぶか)しむ。

 視力はそこまで良い方では無いので、かけている眼鏡を自分の服の袖で拭いてもう一度良く見てみると、白い着物を上半身に纏った女性のようなシルエットが見受けられた。


 果てさて、この時間帯に、こんな神社の鳥居の奥で何をしているのかと、訝しげな視線を送りながらコンビニの方向へと歩んでいたところ。


 今度はあちらの方もこちらに気付いたらしく、その身体をこちらへと翻した。


「――――」


 綺麗、だ。

 その女性らしき人物がくるりと反転しただけなのに、俺のロマンチストな思考な脳は、これをこの世のモノとは思えない妖艶な神秘だと捉えてしまった。


 それは、その瞬間に今まで雲が隠していた月明かりが、彼女の姿を眩惑的に照らし出したことに起因するのだけれど。


 その女性が身に(まと)う白い着物のような服には小振袖並みの袖の長さがあり、その上着の下には赤いチャイナ風な服が目に付く。


 その下には黒地のスカートという、巷では余り見られない不思議な服装であった。


 そして、俺と視線を合わせた、そのつぶらでありながら知的な様子を見せる瞳の色。


 桃色のような、それでいて赤いような。桜色という表現にそれを委ねても良いかも知れない。その瞳を見てしまった人を、不思議と惹きつけてしまう魅力を持った、美しい瞳である。


 それでいて、さらりと音を立てそうな位に綺麗に揺れた銀の髪。


 背中の肩甲骨辺りにかかる程度の長さの銀髪が、月夜に美しく映えていた。


 こんな美しいモノが世にあったのかと感心をしていると、その女性――いや、割合小柄な身の丈や少し幼げな様子を残した顔立ちからするに、少女と称した方が良いのかもしれない。


 だが、小柄背丈に反して、その実豊満な胸の持ち主であることが服越しにも見て取れるという、余りに魅力的な容姿でもある。


 そんな少女が、俺の居る方向へとゆっくり歩み始めたのである。


 彼女の様子に、俺は足を止めた。

 じっとこちらを見て歩いてきているのだから、用があるのはきっと俺に対してなのだろう。


 それを察したのなら、来るまで待つというのが紳士である。


 俺の顔半分低い位の身長の少女は、俺の目の前に立つと俺の顔を見上げて、眼鏡越しの俺の瞳をじっと見つめてきた。 


 家族以外の女性との関わりが皆無な人生を送ってきた俺としては、たったそれだけの事でどぎまぎとしてしまう。


「その……」


 それが少女の、第一声。


「あ、うん。なに、かな」


「……貴方は、私が見えるのですか?」


「――へっ?」


 いきなり何を言い出すのだろうか。何故見えるのか?そんなもの目の前に居るからとしか……。


 いや。視える、視えないの話、となると、まさか。


「ああっと、もしかして、君……幽霊さんだったりして……?」


 恐る恐ると言った感じで俺はそう尋ねる。


 考えてみればこんな時間帯に、こんな少女が出歩いていることの方がおかしいのだ。


 髪も白い近い銀色。身に纏う服装も、白い振袖。そんな様態だけを耳にすれば、まさに典型的な幽霊そのものである。


 今の彼女の発言からするに、どうやら人外な存在であるのではないかと俺は解釈をしたのだ。


 もし肯定されたら、俺は人生初の心霊体験をしたことになる。そんなことを思うと、少し鳥肌が立った。


「……いえ。違います。私はちゃんと呼吸もしていますし、心の臓も動いていますから、そういった類の者ではありません」


「え、あ。そう、なの」


 早とちりであったことに、ホッとする。


「ん。ええと、じゃあなんで見えるとか見えないとか……」


「私の存在に気付いた人が、貴方以外にいなかったからです。この数日、私の姿を認められた人は誰もいませんでした。道行く人に話しかけてみても、無視をしている様子では無く、私の存在そのものに気付いていない様子でしたから」


 誰も、この少女の存在そのものに気が付かない――?


 それが本当だったとしたら、なんということだろうか。


 この少女は、存在……というか、影が薄いというレベルの話ですら無くなるではないか。


 俺からすれば、これ程目立つ容姿に顔立ちをした少女など滅多に居ないと思うのだけれど。


 いや、まあこの京都は外国人の方々が多いので普通といえば普通なのかもしれないが。とにかくこの少女の服装は目立つ。


「えっと、まあ、よく分からないけれど、君の姿が見えるのは俺だけってことになるのか?」


「貴方だけなのかはわかりません。けれども、貴方以外に私の存在が見えた人にはまだ出会っていないので、今の所は貴方だけになります」


 正直な所、信じられないような発言だ。


 だが、この少女のつぶらな、桃色の真摯な瞳に見つめられてそんなことを言われてしまうと、何故だかそれも本当の事のように聞こえてしまう。


「……一応その突拍子もない話を信じるとして、じゃあ君はどうしてこんな時間に此処に? 家は、家族は、名前は? 一体どこから来たんだ。見た限り日本人のようには見えないのだけれど」


 なんか職質みたいだな、これ。


 俺の問いに軽く首をかしげると、目を瞑り、彼女は一時言葉を伏せた。


「……どこから? ……どこなのでしょう。ここではないどこか……。家族、家、名前……。あれ、私の名前は……? ……その、何も、わからないです」


 なんてことだ。これだと、記憶喪失の類じゃないだろうか。


 名前も分からない上に、上に家族や家も故郷も名前も分からないときた。演技じゃないとしたら、これは警察に預かってもらった方がいいんじゃないだろうか。


「あー、まあ、取り敢えずだ」


 彼女の言葉がどうかも分からないのであるからして。

 警察よりも先に、確認すべき事がある、な。


「俺は近くのコンビニに酒を買いに行く予定で今ここに出てるわけで、先に一端そこに寄ってく予定なんだけど、着いてくるかい?」


 なんというナンパ台詞。よもや俺の口からこんな言葉が出てこようとは。しかも十歳以上も年が離れていそうな少女に対して。


 あと一か月近くもすれば俺ももうすぐ『三十歳』だと言うのに。


 だが他に宛てもないというのなら、警察に行く前に、本当にこの少女が他の人に見えないのか確かめてみても遅くはないだろう。


 確かめもせずに警察に渡そうとした所で『そんな少女どこにも居ないじゃないか』なんて警察に言われたら迷惑過ぎるし。


 しかも俺が危ない人認定されて、逆に俺自身が交番に留めさせられそうだから、という予想も立つという可能性も有るからして。


 まずはコンビニの店員で、その虚実を先に確かめておこうではないか。


「……はい。着いていきます。他に宛ても無いですし」


 そう言うと、その少女は俺に手を差し出してきた。


「……手?」


 これは、なんだ。


 俺に手を繋げというサインだろうか。女性との関わりの無さが定評の俺にそれは中々高難度な提案じゃないか。


 そんな風に冷や汗が背中を伝いそうな位に一気に緊張が高まって躊躇っている俺の様子を見て、俺がそれを拒否したと思ったのだろうか。


 肩を震わせて俯きながらその手を下ろそうとしている弱気な少女の姿が目に映った。


 これは、いかん。いくらなんでも、俺以外に存在が認められなくて不安だろうに俺がそれを拒否したら相当に辛いはずだ。


 そんな少女が不安げに差し出したその手を俺が見過ごす訳にはいかない。良い年齢をした大人の男として、だ。


「…………ごめんなさい」


 そういって、下ろされつつあった少女の手を、俺は自らの右手で握った。


 緊張で少し俺の手は汗ばんでいるのだが、そこは見逃してくれると有り難い。


「すまん。君と手を繋ぐのが嫌だとか、そういうことじゃ全くなくて、だな。緊張してしまっただけだから、その。うん」


 ぱしっと小さな音を立てて繋がれた、中年のおっさんになりかけた俺のゴツイ手と、彼女の少し冷たい、ひんやりとした柔らか小さな手。


 互いのそれを見て、彼女は本当に小さく。

 それでも確かに、目を細めて笑い、こう言うのだった。


「――貴方の手。……とても……暖かいです」


 神社を照らす月明かり。

 彼女の優しげな桜色の瞳が、とてもよく映えていた。




 ▼




 それから手を繋ぎながら、お互い無言で歩く事約五分。

 最寄りのコンビニの前に俺たちは着いた。


 家族以外の異性と手を繋ぐ経験など、もはや記憶の彼方にあるほど昔に一度や二度あるかないかという状況な為に、緊張で言葉が出なかったのである。


 彼女も俺が何も言わない為か、歩く間は沈黙していた。それでも、時折俺の顔色を窺うように上目使いを寄越すのが見えたから、本当は何か言いたかったのかも知れない。


 それでも、まあ、仕方ない。何故なら俺は、童貞なのだから。

 しかしそうは言っても、俺はもう良い年をした大人だ。


 異性と手を繋いだ位でコミュニケーションが途切れる程に、どうしようもない体たらくのままで良い筈が無い。コンビニに着いたのなら、その時は気にせず、意を決して口火を切ろうと考えた。


 こういうのは、最初が重いだけなのである。

 きっかけさえあれば、自分自身気にする事も無いだろう。


 そう思い、彼女と手を繋いだままに、俺は店内へと足を運んだ。


 女店員の「いらっしゃいませー」の声がかかるが、どうにも張り合いのある声では無い様子。当たり前か、深夜だし。


 この時間帯のこういったバイトは、怠い対応の店員が多いのは致し方の無いことであるから――という認識である。


 俺は少女の手を繋ぎながら、店内を回る。


 お目当てのお酒、伏見のお酒はしっかりと大量にカゴの中に放り込む。つまみも勿論忘れずに。


「な……なあ、君も何か買いたいものはあるか? 買ってやるぞ」


 長い沈黙を破る、最初の一声にどもる俺。どんだけ怪しい人間なんだ。


「え。……私にも、買って貰えるのですか? えっと、じゃあ……あれが欲しいです」


 そう言って少女が指差したのは、三角形のおかかのおにぎり。

 直後、『くぅ』と彼女のお腹がなった。


 なるほど、どうやら小腹が空いているらしい。


 少し恥ずかしげな表情をしている彼女に敢えて言及はせずに、俺は二個程ついでにカゴの中におにぎりを放り込む。

 多分その位はこの娘も食べるだろう。


 そしてレジに向かう前に、俺はひとつ試してみることにした。


 本当に俺以外にはこの少女が見えていないのかどうかを、だ。


「なあ、ちょっとあの店員に話しかけてみてくれないか? 正直な所、さっきの話はまだ半信半疑だから」


「……わかりました。でも、やはりあの人も、私には気が付かないと思います」


 そう言うと少女は俺の手を離し、店員の方へと向かっていった。


 彼女は店員の目の前に立つと、色々と話しかけている様子だったが、店員は本当に気づいていないようで、明後日の方向を向いている。


 そしてとどめと言わんばかりにその少女がその女店員のほほに触れると、なにかとんでもなく恐ろしげなモノが降りかかったかの如く女店員は混乱の表情を見せていた。


 触られている感覚はするのに目の前には誰もいないという現実。


 少女がそのほほに触れた手を離すと、その女店員は青ざめた様子で自分のほほに触れて辺りをキョロキョロと見回した。


 丑の刻の恐怖体験に怯える店員の様子、御馳走様です。


 ゆっくりとした歩みでこちらに戻ってきた少女は、「ほら」と言わんばかりに両手を横にかざして呆れた意を見せた。


 どうやらこの少女の言う事は本当だったらしい。


 あの店員が演技しているという可能性も無くはないが、もう俺はここで完全に信じることにした。


 今の様子とこの少女の眼を見れば、俺の安っぽい思考回路の判断材料としては、もうそれで充分だった。







「さあ、遠慮なく食べてくれ。おにぎりなら三つある」


「……ありがとうございます。……はむ」


 少女と共に自分のアパートにまで戻った俺は、ベランダに出ながら少女と二人で月見をしていた。


 元々その為にコンビニまで足を運ぶつもりであったのだし、このような綺麗な少女と共に月夜を拝めるというのなら何も言う事は無い。


 月桂冠の柔らかな喉越しに加えてこのような状況だ。酒がすすむというもの。


 因みに彼女にはお酒は飲ませていない。出会ったばかりの明らかな未成年の少女に勧める程俺はアホでは無い。


 しかし、目の前で正座をしながらおにぎりを食べる美しき少女というこの図も、何だか面白いと言えば面白い。


「……この数日間、何も食べていませんでした。貴方の行動と人柄を見るに、この分だと今日の私は、この家に泊めて貰えるのでしょう。感謝、します」


「ああ、気にするな。何だったら毎日泊まってくれても構わないさ。君みたいな可愛い娘がいてくれるなら、寧ろこちらが嬉しい位だからね」


 ――ふむ。飲み始めた酒の酔いが少しはまわっているようで、俺の口から何やら恥ずかしい発言が飛び出ているようだ。

 だが実際、これは本心でもあった。


 実は俺という存在は親に勘当された身であるのだが、その際に金持ちの親からは大量の餞別金を貰っている。


 身よりも不明な少女一人の食費の工面など訳がない。それに、可愛い子が家に居てくれるだなんて、女性経験のない俺のような男としては、物語のような展開である。


「……それは、つまり。この私を夜伽(よとぎ)とする代わりに、私をこの宿に住まわせる、ということでしょうか。……殿方の夜の慰め等、したことの無い故、何分充分には役に立てないとは思いますけれど」


「……はい?」


「貴方以外に私の存在が見えないのであれば、どこぞに不法滞在してしまえば住むと同じ事なのです。けれど私もここ数日のようにまた一人になるのは不安ですから、多少はその様な行為を行うことも我慢致しましょう。孤独とは、耐え難いものですので……。して、確かこの国では、こういう形式を御恩と奉公と呼ぶのでしたっけ。貴方の名前をお聞かせ願いたいです」


 いきなりの饒舌。怒涛の展開。よく分からない文脈。


 待て、待ってくれ。

 多少俺も酒に酔いはしているのだが、その言葉には俺も冷静になる。


「あー、あのだね、君。色々と正したいことは多々あるのだけれど……取り敢えず君を夜伽(よとぎ)ってか、何でそんな難しい言葉知ってるのさ」


 夜伽。つまりは、夜のお世話ということだ。


「……そういう役割を担ってほしいなんて思っていない。実際俺は所謂(いわゆる)、君の保護者みたいなもんだ」


「保護者、ですか?」


 そりゃ、そうだ。この国の法律を考えれば――というか、考えずとも常識であるが。二十代も終わりなおっさんが、同意も今後の展望も無く十八にも満たない少女に手を出したら、それは、お縄な行為である。


「とはいっても、君の姿を見ることが出来る人が居ないっていう特殊な状況だから、何とも言えない所ははあるけれど……見た所、君の年は十六、十七って所か?」


 その問いに、彼女は首を小さく傾げた。

 それすらも、今は分からないのだろうか。


「本来なら、さ。警察に頼むべきなのだろうけれど、君の存在が見えないんじゃ仕方ないから、ここに居てもいいぞって話だ。あと、俺の名前、か。藤野秋也(ふじのあきや)って言う名だ。以後なんと呼んでくれても構わない。逆に君のことは何と呼べばいい? 名前がわからないようだし……」


藤野(ふじの)秋也(あきや)……さん。では以後、秋也さんと呼ばせて頂きます。あの、秋也さん。それで本当に宜しいのですか? 男というものはそういった事を望んで止まない生き物だと私の知識の中にはあるのですが……」


 否定はしない。間違ってもいない。

 いない、が、大人としての良識を鑑みれば、それはまた別の話である。


「自分の年は、わかりません。でも、恐らく十六、十七歳辺りだとは思います。後、私のことは好きに呼んで下さい。今は自分でも名前がわかりませんし……」


 二つ目のおかかのおにぎりに手を伸ばしてむしゃむしゃと食べながら正座状態の少女は俺に問いかける。


 先程出会った時もそうであったが、何を考えているのかよく分からない娘である。


 のんきなのか本気なのか、上手く判別できない。


 敢えて感情を読ませないようにしているのかも知れないが、打ち解ければ素直な様子を見せてくれる、という事もあるのだろうか。


 そんな少女を前に、考えるのも何か面倒だと酒に酔った脳が指示してきた気がしたので、さらにグビグビと俺は酒を飲む。


 多分、飲まなきゃこんな美少女前に会話を続けられないかもしれないし。うおっ、一気に酔いが回ってきた。月が二つに見えるぜ。


「なんでそういう知識はあるのに、他の重要な記憶は無いのか。……まあ、いいや。じゃあ俺は特別な人間とでも思ってくれ。恥ずかしながらこの年になっても女性との経験は無い男なものでね、そういう行為には向いてないんだよ。後、名前。よし、今考えた!」


 何を口走っているのか自分でもよく分からんが、取り敢えず普段言えないことを発したみたいで何か気分が良い。


 名前、この少女の名前。そう、今考えた。

 安直故に主観的率直な感想。


 この少女のダイレクトな印象。付ける名前があるとするなら……そう、これだ。


(まい)。読んで字の如く、舞うという意味さ。これが君の名前。どう?」


 それが、彼女には凄く合っているような気がしたのだ。


「舞……ですか。マイ、……マイ。とても良い響きです。何故か、懐かしくもあります。気に入りました。本当の名前が戻るまで、私の名前は舞と致します。この国らしい響きの名。承ったこと感謝します、秋也さん」


 その瞬間、少女は――舞は、にこりと微笑んだ。


 それは今宵の満月たる月夜に良く映えていて、俺の心を一瞬にして掴み取ってしまう程の可憐さを見せつけた。


 ――ああ、もしもこの時の俺が、例え酒に酔っていなくとも、だ。


 どうしてこの少女の本質というものを見抜けただろうか。


 良くも悪くも、俺は運命と呼ぶべきこの一つの道筋に辿り着いた。


 後にどんな未来が待っているのかなど知りよう筈も無い。


 ただきっとこの時の俺は他の何にでもない、この少女の存在自体に酔い知れていたのだろう。


 これがこの物語の始まりの始まり。


 異世界から来たという自称『誉れ高き高名な魔術師』の少女、マイ・マイム・ベサソ。


 そしてこの俺、藤野秋也との関わりの発端の出来事であった。






 しばらくは、京都を舞台にした現代ファンタジー編となります。慣れない書き口ではありますが、気長にお付き合い頂けたらこれ幸いです。

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