-家族-
私と雅さんはそれぞれリビングに降りた。話の内容を気にしていたのか皆はリビングで待ち構えているように出迎えている。
―― 完全に気をつかわせてる… ――
ふと一歩後ろに足を動かすと、一輝さんが話は終わったのかと訪ねて来た。私は一輝さんの前に正座をして笑顔で返事をした。
―― はい!お陰様で心のつまりがお互いに解けました ――
頭を撫でてもらおうと一輝さんの膝に頭を乗せると思いっきり手のひらで殴られた。
イタタタ・・・一輝さんは私に顔をジリジリ近づけてくる・・・
――ちょっ! 何ですか!!!!――
腕を組む一輝さんは真顔で私にダメージを与える。…はう。すると視線が直人さんに向けられ、その視線を追っていくと直人さんと目が合った。私は軽く首を傾げクエッションマークを頭の上に浮かべた。
私の横にちょこんと座る直人さんは小さく呟いた。
――日曜よろしくね。二人になる必要がないから此処でいいけど、親の前では本気で頼むよ。俺から頼んだ事で申し訳ないんだけど…柚姫ちゃんにしか頼めないからさ――
そっと呟く寂しげな直人さんが自分より小さく見えた。本当は見上げているのに何故か小さく見える。私はふーと息を吐き頷いてそっと直人さんの手を握った。すると直人さんはパッと顔を上げて此方を見ている。なんだろう?何かを言いたげなのは分かるんだけど…何が言いたいのかな?言いにくい事なのだろうか?私は静かに直人さんの言葉を待った。
――両親には彼女と将来、結婚する約束をしていると言うつもりなんだ。…いいかな?――
空いた口が塞がらないとはこの事か!…はい?直人さん何を言っているんですか?
私は驚き顔のまま直人さんの顔に近づいた。ソファーから見下している一輝さんからは気持ち悪いという声が聞こえてくる。いやでも、いま結婚って…
直人さんは苦しそうな顔をしながらもポツポツと話しだした。
―― その場しのぎだから安心してくれよ ――
そう言いながら私の頭を撫でる。私は息をやっと飲み込み頷いた。
ただ、直人さんはお礼をしたいと言う。何度も断っても断ってもこれだけは…と譲らなさそう…
―― 仲間の危機を救うのに、お礼なんかいりません! ――
そんなやり取りを続けていると、ふと雅さんが声を掛けた。
―― さっきね?ハニーとペットを飼いたいなって話をしてたんだ。お礼にはおかしいけど
ペット…飼わない? ――
その言葉に私は直ぐに返事をした。
―― 雅さん?ペットは生き物ですよ?お世話するのだって大変なんだし、忙しかったら相手もできないんですよ?それにアレルギーを持っていたら大変じゃないですか… ――
その場の空気は静まり返り、ペットという家族を向かい入れる重みを感じていた。その場の空気を穏やかにさせてくれたのは仁美さんだった。
―― 私は皆が出かけている時に独りなのよ? ――
そう呟く仁美さんをまじまじ見つめ、何処からともなく笑いがこみ上げてきた。確かに家政婦でこの家に住んでいる。ご近所といっても隣の家が結構距離がある。こんなに広い家だから掃除は頼んで業者にきてもらっているが、寂しいだろうな…私はこの家に姉の存在の仁美さんがいるからこそ帰るのが楽しみな部分もあった。自分の事だけ考えていて姉の事は考えない妹は良くない…
―― 仁美さん、私は仁美さんが実の姉の様でとても毎日が楽しです。勿論帰ってくる時も話すのが楽しみで急いで帰ってくるんです。でも、仁美さんは皆をこの広い家で独りで待っているんですもんね。家族が欲しいですね ――
そう言うと仁美さんは私に抱きついてきた。仁美さんの様子を伺う事は出来なかったけど、皆笑っている本当の家族みたい。
―― 誰かアレルギーは…? ――
そう呟いたのは幸樹さんだった。皆が顔を横に振ると立ち上がり何処かに向かおうとしていた。
雅と直人は幸樹を静止させ何処へ向かうのか問いただした。意外にあっさり返ってくる返事に我々は目を丸くした。
―― へ?動物病院だけど?だって、あそこの看板に何時も貰い手探してる張り紙があるだろ?まさか、お前らペットショップで買おうなんぞ思って… ――
一歩ずつ近づいてくる彼がとても鬼に見えた。勿論、貰い手の探している子を引き取るのは良い事だろうけど、まだ何を飼うとか下準備とか何も揃ってませんよー!!!
―― こ…幸樹さん?!見に行くなら言ってくださいよ。皆で行きたいじゃないですか、それに何を飼うとか下準備とか色々あるんじゃないんですか?そんなに先走っても… ――
そう宥めるとソファーにドシンと腰を掛けた。私たちはまず何を飼いたいのかについて話をした。あれやこれと色々話はあったが飼った事のある動物といえば猫しかいなかった。意外に猫好きが多い事に気付き猫に決定。仁美は家族が増える~と大はしゃぎ。一輝・幸樹・直人は何かを考えていた。雅さんは私に抱きついてきて一言ポツリと言葉を発した。目の前にいる三人に怒られる想像はできていたのだろうか?
―― 家族が欲しいなら、仁美さんかハニーが子供を産めばいくらでも増えるよ?ハニー僕との子供欲しいの? ――
ファッ?!
反射的に雅さんを引き剥がし三人に寄り添った。
―― そ、そんな!子供だなんて…結婚もしてないのに…ましてや相手だって… ――
私は一輝の足にしがみついた。
雅さんは三人から向けられる視線に後ずさりしている。しかし後ろから聞こえた声に雅はもっと恐怖を感じるのであった。
―― まだ柚ちゃんは若いから良いわ…。ねぇ雅君…?仁美お姉さんの年齢は此処にきた時に教えたわよね?あれから何年立っているのかしら?それに、私が男性といる所見たことあるかしら…? ――
明らかに仁美さんは怒りオーラを放っている。
―― 私には時間がないの!!!!!!! ――
そう言うと仁美はキッチンに消えていった。我々は仁美さんの放つオーラに圧倒され唾を飲み込んだ。
幸樹は雅の頬を抓り謝りに行け!と怒鳴った。ショボンとした雅の後ろ姿を三人は笑っている。キッチンから此方を覗き込んでいる仁美まで笑っている。
雅さんは素直なんだな…