心の傷
ダンスレッスンの時間になり…
不安である旨を美月さんに語ると一緒に頑張ろうと言ってくれたので見様見真似で頑張った。
夕方までのみっちりのレッスンも一日目が終わった…
汗だくだからシャワー室に行こうとすると 遠くから隠れて雅さんが呼んでいる。
ん?なんであんなに隠れてるの?
『あいつに家に住んでいるって言ったのか?』
苦笑いしながら頷く…
『家にきちゃうじゃんか!』
雅さんは何故か困っている様子…。なんだか、男らしくないと思ったから突っぱねてみた。
『一輝さんみたいに冷たくすればいいんじゃないんですか?』
…全然、納得のいかない表情をしている。
『ハッキリ断るとか!』
なにやら、私に向かって手を合わせている。
『直人も頼ったし、此処は彼女って事で頼むよ』と頭を下げられた。
はぁぁぁぁぁぁあ!!!!
男らしくないわ!!
『でも、私に矛先がくれば今頑張ろうとしている私の夢を潰す可能性がありますよ?』
なんでこんなに嫌がるのか気になる。
中学からの同級生ってだけなのか、それとも何かあったのか…後で聞いてみよう。
雅さんなら話してくれる、そんな気がした。
【…ちゃ~ん! 柚姫ちゃ~ん?】
遠くから美月さんが呼んでいる。しかも、こちらに歩いてきている。
雅さんは早速逃げていった…。
―― んー… ――
雅さんには悪いけど、心底男らしくないと思った。
私は美月さんの方に歩み寄った。
『あ、シャワー室がどこか分からなくて…』
美月さんは優しく案内してくれた。弱虫雅の事はバレていない様子だ。
シャワー室でシャワーを浴びながら昔話をしてくれた。
聞こえる美月さんの声はどこかしら笑いながら恥ずかしそうにしている。
『私たちは、軽音部で同じ部活だったの。私は女の子のグループでボーカル担当だった。その頃からCrystal Roseの皆とは仲良くてね、あの四人は喧嘩した事ないくらい仲がイイんじゃないかな?一輝も初めはギターもやってて、他の楽器もできると思うわ。でもボーカルだけに絞ったの。唄が本当に上手くてね?おまけにあの4人の容姿でしょ?他の学校のファンもいたわ~』
やっぱり昔から人気だったんだね…
美月さんに色々質問していた。
『あの…一輝さんも昔は笑顔だったんですか?』
少しの沈黙の後に美月さんは話しだした。
『中学の時に一輝が惚れていた子が居たんだけどさ?その子が突然学校に来なくなったのよ。噂では一輝がその子に想いを寄せているっていうのを嗅ぎつけた女の子達が虐めたとか?真相はわからないけど一輝はその子の家に行ったんだってさ。そしたら、彼女の笑顔がなかったんだって…心に大きな傷を付けさせてしまったのよ…。その後は学校に来るようになったけど…卒業までその彼女は笑うことがなかったわ。一輝はそれをかなり気にしていた様子だけど…その辺りからかな?周りに冷たくなったのは…あいつも自分の責任で一人の女の子の心に傷を付けたことを背負ってるのかもしれないね。それに一輝にべったりの子が居てさ…今も…この業界にいてよく一輝と熱愛報道されてる人が居るんだけど、その子の仕業かもしれないね』
女の子の心に傷をつけてしまったのをずっと背負ってるのか…
だから、あんなに冷たく接するのかな…出逢った時は優しかったしな…
ふと思った。
『美月さんは、なんで雅さんを??』
笑いながら聞くと美月さんも釣られてわらった。
自販機の前で水を買い、近くにあるソファーに座ってゆっくり話をしていた。
私の顔をみて笑い、自分に呆れた様子で話しだした。
『雅はね?Crystal Roseを見てると一番純粋なのよ…、勿論みんなもよ?でも空気読んで馬鹿なことしたり、むりやり笑わせようとしたりさ…そんな彼を見ていたら惚れちゃって。…でも男を追っかけてるだけじゃダメって解ったんだ。自分も雅に並ぶほど有名になって認めてもらえたら告白できるかなって思ってるの。どうかな?』
私は美月さんが凄いと思った。
自ら彼と並んで歩くために頑張ってる…認められるまで頑張るのかな?
でもさっきの雅さんを見てるとな…複雑な心境になった。
『素敵だと思いますよ。彼に追いつくために…って、美月さんが雅さんのことを好きなのバレてるんじゃないですか?』
笑いながら言うと肩を叩かれた。
『そりゃ~ね?私が同じくらい有名になったら考えてくれって頼んだの。でも好きな相手でしょ?会ったら抱きつきたくなるじゃない?』
なんだか微笑ましく思えた。
でも、寂しそうな目をしているのが分かる…どうしたの…?
『…耐えるのも結構辛いよ。好きな人がそこにいるのに…想いが届いているのに。ある意味、もう反応が無いって事はフラれてるのかもね。それに昔酷い事いっちゃったし』
初めて私の前で溜息をついた。
美月さんと優子さんって全然違うな…酷い事って何をいったんだろう?
『美月さん?私なんか恋愛経験が殆どないから分かんないですよ。自分の気持ちを弄ばれて…しまいには踏みにじられて…振られちゃった…』
なんだか笑えてきた。
美月さんは驚いていた。気持ちを弄ぶ男は最低だとかもう色々怒っていた。
『何かの間違えじゃ…?』
『んー…大切な思い出を物語のように語られて、台本の様に使わなきゃいけなくなって…どうしたらいいのか良くわかんないんですよね』
男女の恋愛は難しいねと二人で笑った。
しばらく話した後に美月さんと会社の玄関を出ると雅さんが居た。
美月さんは大喜びをして雅さんに抱きついた。
―― ッハ! ――
『雅じゃん!逢いたかった!元気だったの~?最近TVでしか見てなかったから心配してた。でも、こんなところで何してるの?』
お…雅さんはどう出るんだ?
やはり、いつもの雅さんの対応ではなかった。
それは女の人を目の前にする青年というよりおどおどしている…なんでだろう?
『会社に用事があったからさ…ついでに柚姫ちゃん乗せて帰ろうかなって待ってたんだ』
美月さんは顔をパッと明るくさせている。
『そっか!同じ家だもんね。雅は良いやつじゃん!Crystal Rose頑張ってよ。自分の車で来てるからまた明日ね!じゃ~ね!』
そう言うと振り返る事もなく駐車場に消えて行った。