卑怯なしりとり
帰りの車は渋滞にハマってしまった。
疲れもあり、沈黙の空気が流れる。
沈黙にシビレを切らしたのか、雅さんがしりとりをしようと提案してきた。
運転席からは幼稚過ぎると聞こえ、助手席からは同感と聞こえた。
前の席に二人は冷たいな…直人さんを見ると眠っている。きっと悩んでたから寝てないんだろうな…そっとしておこう。
いつもの二人で始めるが、雅さんは卑怯な言葉ばかりを選んでくる。私はそれに文句を言いながらも卑怯な言葉を返す。
幸樹さんは私たちに同じ精神年齢なんだなと笑っている。
『幸樹さん?私達これでも上手いんですからね!幸樹さんは強制参加です』
パイプと言う言葉の後に幸樹さんの番になった。
悩む間もなくプリンと言って終わらせてしまった。雅さんは幸喜は卑怯だ!と騒いでいたが楽しくて笑っていた。
途中コンビニに寄ることに。
雅さんに連れられ一緒に車を出た。
車内では寝ている直人さんを除いて、幸樹が一輝に話をしていた。
『柚姫ちゃんにとっては、お前との大事な思い出だったんだろうな?汚されたと思っているんじゃないかな…その分、自分で大事な思い出をネタとして話してみた。それはお前に対してのお返しだと思うが、彼女は優しいからお前の事を傷つけたと後悔しているんじゃないかな…俺が女なら今日中に家を出るけどな。そんなにお前の柚姫ちゃんに対する気持ちが軽いなら俺も本気で狙うぜ?』
そう言うと幸樹は車の外に出た。一輝は溜息しか出なかった。
そんな会話をしているなんて知らず温かい飲み物を皆の分買う。車の中に入るとコンビニに行く前と沈黙がかなり重くなった気がするのは何故だとう?
私は後部座席から一輝さんにホットコーヒーを差し出した。
『運転ご苦労さまです』
一輝さんは何も言わずに受け取ってくれた。ただ、微かにふれた手が愛おしく思えた…
【貴方は今、どんな想いでいますか…?】
家に着くと皆疲れて寝てしまった。
ふと目覚め、サイドのテーブルに手紙が置いてあった。
『柚姫、これ以上傷つくなって言ったよな? これで三度目だ。 幸樹』
幸樹さんには敵わないな…バレバレじゃん。
ふぅ…これからどうなるのかな。分からない事だらけ。
今日からレッスンだし気を取り直して準備をしないと…
ダンス出来るかな…不安だらけで出かける支度をしてリビングに降りた。
仁美さんが朝食の準備をしていてくれた。
私は席に着き、スープだけ口にした。それに気づいたのか仁美さんは大丈夫?ときにかけてくれた。
『緊張であまり眠れなくて…というより緊張のせいで吐きそうです』
皆はなんとかなるよと励ましてくれたけど…彼は違った。
『ランクが下がるのが楽しみだ』
この人は本気でそんな事を言っているんだろうか…
心のそこから怒りが湧いてきた。
『これから頑張ろうっていう人に、そんな事言うなんて冷たい人ですね!雅さん、行きましょ!』
先に家から出て雅さんの車の前で待っていた。
リビングでは直人は何が起きたんだと驚いている。
『一輝?柚姫ちゃんと喧嘩中なのか?』
一輝も幸樹も何一つ言葉を発しなかった。