【柚姫、幽霊事件】
そうこうしていたら忙しい毎日になった。
私は雑貨屋で働きながら、引っ越しは業者に全て任せて家とお店は電車とバスで一時間。
此処で働いているのはバレてないみたいで、店長も気を使ってくれた。
ある意味、同情かも。
一輝さんとの事を聞いてくる
『残念ながら、お知らせ出来るようなことはありませんよ』
店長はがっかりしていた。
お店では有線が流れている。
勿論Crystal Roseの曲も流れ四人の顔が浮かぶ。
今頃、あの4人は何をしているんだろう…
仕事をしながらも頭に浮かぶ詩を忘れないようにメモを取っていた。
最近は、家に帰れば仁美さんが夕飯の準備をしてくれているから安心。
それに女の子の友達が出来て何より嬉しい。
明日からは正月休み…引っ越しの荷物が届く。
Crystal Roseのメンバーは地方公演や年明けライブであの日以来逢っていない。
『何時帰って来るんだろう?』
忙しいんだろうな…一輝さんからのメールもない。
一言送ってみようみようかな…
『元気ですか? 馬鹿柚姫より 送信』
…仕事に戻ろう。
お店に来る人達とは仲良く話せてたのしい。
やっぱり住む世界が違うんだな~と実感する。
仕事中に携帯が鳴っている…こっそり裏に行き携帯を出す。
一輝さんかなとメールを開くとやはりあたり。
『メールが遅い! 馬鹿柚姫!』
腹が煮えくりかえりそうだった。
ん?もう一通メールがきている。
知らないアドレスだ…
『柚姫ちゃん?幸喜だよ。地方公演上手くいったよ。明日には帰るよ。お土産買ったからお楽しみに』
正反対だ。
一輝さんに返信しよう。
『忙しいと思って…メール控えていたのに!馬鹿扱いしないで下さい!イヴと態度が違いすぎです!』
衝動で送った。
直ぐに返信が来た。
『態度が変わったのはそっちだ』
私のどこが変わったんだろう…
『変わったつもりはないですけど、そう言うならそうかもしれないですね…』
返事をして携帯が鳴っているのも無視した。
冷たいのは一輝さんなのに…私が何したの…仕事帰りの途中でオルゴールを買った。
仕事から帰ると家の前に車が止まっている。
本当に帰ってきたんだ。
…今日は誰とも話したくない。
家に入り、ご飯食べなさいと声が聞こえてきたけど食欲がないので…
リビングに居る四人を無視して庭にでた。
私の変化に四人と仁美さんは驚いている。
後々【柚姫、幽霊事件】と語られる。
空を見ながら書き始めた。
満月が凄く綺麗な夜だった。
月に手を重ね…詩を書き出す
手が届きそうなくらい近くに 君がいるのに
手を伸ばせば届きそうなのに 君には届かない
僕の思いは此処に置いておくから
君の心も此処に置いておいて
君が空を見上げれば
僕の気持ちがきっと注がれるだろう
夢の中でオルゴール
幸せの小鳥が森に連れていくであろう
白いチャペルに緑の森
鳥の鳴き声 青い空
赤い幸せの道が待っている
ノートに詩を書き続けた。
四人は私が空に手を伸ばしているのを見て笑っていた。
『あれは…幽霊か?』
4人とも変な顔をしていた。
ノート一枚に詩が書けた。私は溜め息をつきながら水を飲む…
仁美さんが書いた詩を読んで優しい笑顔で頷いていた。
『これは、届かない恋?でも、力強さがあるわ』
真人さんがノートを持って行き皆で読んでいる。
『俺、これ気に入った!やっぱ、才能あるんじゃない?』
そんな雅さんの声が聞こえるが…なんのこと?
雅さんはこれ借りるねと走って行った。
仁美さんが心配そうに聞いてくる…
『何かあったの?』
幸喜さんも私の額に手をあてる。ふと幸喜さんを見ると優しい顔に優しい手。
胸がドキドキする …何気なく、一輝さんを見ると何か言っている。
口パクだからわからない…首を傾げ、皆さん、お休みなさいと部屋に入る。
【私の居る所じゃない】