置物に宿る命
朝食を食べながら仁美さんと会話をする。
「そういえば、柚ちゃんは何か趣味あるの?」
考えた私は…
これと言ってなにもと困ってしまった。
仁美さんは話が大好きみたいだ。
「柚ちゃんのご両親は?」
「実家は大阪なんです。なのでこっちではずっと一人で暮らしてます」
仁美さんの質問は止まらない。
「いつから一人なの?」
私はスープを飲みながら考えた。
「17歳で上京したので…8年目ですかね」
何となく寂しい想い出が蘇る…
下を向き少し笑った。
「1人で上京か… 寂しくなかったの?」
………………。
「そうですね。友達も居なかったし
街にでても迷子だし。電車も切符の買い方がわからなくて」
一輝さんがまるで子供だと言う……
何て冷たい男!と思った。
雅さんがフォローしてくれる。
「関西とは切符の買い方違うしな、しょうがないさ」
「今働いているお店は上京してきた時に街でたまたま求人見つけて、そのままずっと働いていますよ」
仁美さんはまだまだ興味が深々の様子。
「お店って?」
「雑貨屋ですよ。初めは興味なかったんですけど、置物にも命が宿しているような気がしてきて」
「置物にも命か…良いなそれ」
幸樹さんは、私の言葉に関心を抱いてくれた。
しかし、一輝さんはくだらないと冷たく放つ。
その場がひんやりした空気になってしまった。
黙り込んでしまった私たちの空気を仁美さんが明るく変えてくれた。
「柚ちゃんも、詩とか書いてみたら? 絵とか写真とか…」
私は詩人や写真家を夢見て上京してきたんだ。
でも、一輝さんには何も話していないから言えない…
「そうですね…絵心はあるとおもいます。でも人を瞬時に引き込める詩を書けるでしょうか…」
一輝さんを見ると目が合うが冷たい。
なんなの…
なんでそんなに冷たいの…
釣った魚には餌をやらないの…ムカツイて頬を膨らませる。
「何事もやってみないと!今の想いを綴るだけでも良いのよ。それなら出来るで
しょ?」
イライラも最高潮…苦笑いしながら一輝さんを見た。
「まあ確かに、今の感情を詩にぶつけてやりたいですね!」
「じゃー文房具屋さんにもいかなきゃね!」
そんな会話をしている間に朝食を食べ終わった。