ちゃんと迎えに来てくれた
私は深い溜め息をついてお店の方向に向かって歩き出した…
夜の公園はカップルや若者が賑わっている。
昼間の子供が散歩をするような場所と同じとは思えない。
一輝さんは今頃会社で大変なんだ…
そんな事を考えているとふと気づいた。
――え?一輝さんの部屋に二人っきり?!――
作戦会議・・・とはいえ好きな人の家にいくんだ。
しかも相手はスターの一輝さん…顔が赤くなってしまった。
こんな時に、そんな事を考える余裕がある自分が情けない。
今頃…大丈夫なんだろうか?
熱愛報道をされただけで歌手には傷がつく…
私はその責任を取らなきゃ…
Crystal Roseのメンバーにも謝らなければ…
心配だけで泣き出してしまいそうになる。
更に気付く…私が一輝さんに恋していることに。
お店の前でしゃがみながら泣いて居ると目の前に車が止まった。
一輝さんだ…
私はふと顔を上げ潤んだ瞳で一輝さんを見つめた
急ぎ足で向かってきた彼は私を抱きしめた。
驚きと胸のドキドキで想いが張り裂けそうだった。
――何で泣いている?――
ちゃんと迎えにきてくれた…素直に答えた。
――一輝さんに迷惑をかけてしまってるし、ファンの方にも申し訳ないです。
それにCrystal Roseのメンバーの皆さんにも…私が一輝さんを好きになったばかりに――
自分の言葉に驚いてしまった。
自然に出た言葉は心の言葉だった…
一輝さんは溜め息をついて、私の背中をポンポンと叩いた。
――俺は大丈夫だから泣く必要はない?
それに巻き込んだのは俺だ。好きでいてくれて有難う――
また強く抱きしめられ、心が張り裂けそうなほど苦しくドキドキした。
自分の本心に嘘をつくのをやめようと思い一輝さんの腕に抱かれた。
少しして一輝さんは口を開いた。
俺の家行こうと私をとり助手席に座らせてくれ、シートベルトを着け車は発進した。
運転している一輝さんを涙目で眺めていた。
一輝さんは運転しながらゆっくり語りだした。
――家はメンバー全員住んでいるから二人っきりじゃないから安心しな。
部屋も空いているから使って良い。
女の家政婦さんも居るから頼って良いよ――
私はてっきり二人っきりだと思っていた。
少し喜んでいた部分もあったからショックだった。
それにメンバーの皆に文句を言われるんじゃないかと心配にもなった。
私の顔が曇っていたのがわかったのか…
――俺と二人っきりのほうがよかった?――
こんな時に冗談を言うのは、きっと私の緊張を和らげようとしてくれているんだろう。
しかし、笑いながら言われると恥ずかしくなってしまう。
――そっそんなことないです。お心だけでも十分幸せで…有難うございます――
彼はハンドルを握り締めて笑った。
――なんだ、二人っきりがいいのかと思った――
これは安心させようと言ってくれているのか、本当に馬鹿にして遊んでいるのか・・・
咄嗟に出た言葉は惨めなものだった。
――え?!さっ作戦会議ですよ!
それに…Crystal Roseのメンバーの皆さんにも謝らないと――
――社長には彼女だと説明をしたよ。だから彼女だからな。
でも表は友人関係ってことになる――
こちらを見て頭を撫でてくれる。
車で走ること30分ほどで大きな家に着いた。
着いたよと車を降りて見上げたら凄い家だと驚く。
彼が振り返って私の目を見つめた。
――メンバーは彼女とは知らない。
あくまでも友達で写真撮られてしまって、家に来るとだけしか伝えてないからな――
さっきまで笑顔だった一輝さんはクールな一輝さんに変わっていた。
その変わりように何故か心が痛い…
笑顔はあんなに素敵なのに…ゆっくり後を着いていく。