ふとした出逢い
そんな事を考えながらも時の流れは残酷に過ぎていく物。
とある日、雑貨屋さんには似合わないスーツ姿の男性が訪れた。
男性に釘付けになってしまっている。
様子を伺っているとくまのぬいぐるみを手に取っていた。
――あの人も彼女にプレゼントするのかな…?――
私は自分の思いを隠し、接客の為にその男性に近づいた。
――プレゼントですか?――
私の声に気づいた男性はどこかしら恥ずかしそうにくまのぬいぐるみを元の位置に戻した。
――あ、何となく寄ってみただけなんです。また寄らせてもらいます――
そう言うと男性はお店を去っていった。
男性は恥ずかしそうにしていたので微笑んだ。
きっとあの男性から貰った人は幸せな気分になるんだろうな…
そんな自分の想いを隠しながら仕事に戻った。
それから毎日ではないがあの男性が店に来るようになった。
接客業という表向きの口実とこの男性が気になり話をする事が増えていった。
――まともに男性と話したことはこれが初めてだ――
男性は雑貨が好きな様子で話が割と合う。
男性が来るのを今か今かと待ちわびて仕事をしていた。
とある日、話してる最中に男性がふと雑貨以外の話をしだした。
――柚姫ちゃんって言うんだね?――
なんで名前がわかるんだろう?と首をかしげていると、男性は私の名札に指を刺した。
私は納得しながら笑顔で反応を示した。
男性はまだまだ聞きたいことがあるようで私はなんですか?と笑った。
――柚姫ちゃんの名前の由来は?――
ん?由来を聞かれる事なんて小学生の時に先生に聞かれた以来だ。
この男性は何を考えているんだろう。
話を繋げる為だからなのだろうか…?
私は何も隠すこともないと想い、雑貨を見ながら返事をした。
――昔、母が病気で長いこと入院していた時があったそうで、その時に柚子の飲み物が唯一の楽しみだったそうなんです。
いつの間にか柚子っていう名前が好きになったそうで、次に生まれてくる子は柚を使って、女の子だったら姫で柚姫って名前にしたかったそうです――
雑貨を拭きながら男性とこんな会話をするなんて思ってもいなかった。男性は一言、素敵な名前だね…と言うと、その日は帰っていった。
私は男性の後ろ姿を目で追い、何か胸にシコリが出来た様な気がした。
――この胸のドキドキは一体なんだろう…?――
そして今日も男性は来客した。そっと男性に近づき後ろから声を掛けた。
何か一生懸命に商品を眺めていたから、私が後ろまで来ているのに気づいていなかった様子。
――お客さん? 今日はどんな物をお探しですか? ふふ…――
男性は驚きながらも笑顔で答えてくれた。
でも何か今日は何時もと違い、何か考え事をしている様子だった。
もしかしたら、彼女にあげるプレゼントをそろそろ買わないといけないと焦りだしたのかな…
そんな事を考えていると、私の胸がズキズキと音を鳴らす。
…この胸の苦しみはなんだろう…
そんな事を考えていると男性に話しかけられているのに気づくのが遅くなってしまった。
――柚姫ちゃんさ? もし、クリスマスプレゼントが貰えるなら何が嬉しいかな?――
あぁ、この男性はやっぱり彼女のプレゼントを探していたんだ。
きっと可愛らしい彼女なのだろう。
しかし、これも仕事だから私は気持ちを切り替えた。
――個人的な好みでも構いませんか…?――
男性は私の言葉に笑顔で頷き、私の後を追ってきた。
個人的に好きなのは…くまのぬいぐるみかな…でも子供っぽいよね…
こんなのがアドバイスになるかって…ならないわよね…やっぱ置物なのかな…
結局、やっぱり好きなこれを男性に見せた。
――クマのぬいぐるみですっ――
私の笑顔に笑っているのか、子供らしいと思われてしまったのかわからないが男性は笑っている。
何故か馬鹿にされている気になるのに微笑んでしまう私がいた。
男性は暫くクマのぬいぐるみと目をみ詰め合わせ。
何かに納得した様子で頷き、そっとカゴの中にぬいぐるみを戻した。
参考になったよっと笑顔でお店を去っていく…。
私はそんな彼の後ろ姿を何回も見送っているが、今回は彼の笑顔が頭に焼き付いてしまった。
仕事の最中も彼の笑顔が忘れられない。
――素敵な笑顔… きっと優しい人なんだろうな…――
お客さんにこんな想いを抱くのはいけない事だろうが、私の心は嘘を隠し切ってくれなかった。
家に帰ってから長湯をした。お風呂で音楽を流しながら考える事は男性の事ばかりだ…
彼が誰かにプレゼントを買うために通っているのも忘れて自分の世界に浸っている。
――サンタさん… こないかな…――