私と彼
一輝さんの声が、私の心をノックした。
――どう思った?――
どう思ったって… 私は諦めて素直に話すことにした。
――一輝さんは立派な歌手だしあんなにカッコ良いんだから…
彼女が居たっておかしくないと思いますよ?
昨日帰ってから、自分の気持ちに気付いたんです。
胸のドキドキは一輝さんの事が好きなんだって…――
話しながら涙が流れた。
――でも、私達は住む世界が違いすぎます。
彼女さんいらっしゃるじゃないですか!――
一輝さんは私が泣いているのを悟ったようだった。
――勘違いされてもしょうがないと思う。
柚姫ちゃんの気持ちを聞けて嬉しいよ。
俺の気持ちが伝わったのかな?――
気持ちが伝わったってなによ…
彼女にも申し訳ないじゃないじゃない。
――柚姫ちゃん? …これだけは聞いてくれる?――
私は一輝さんの優しい声にふと心が安心した。
――彼女とは古い関係なんだ。切っても切れない関係っていうのかな。
今日歌う曲は柚姫ちゃんの為に書いた歌詞だ。
今日しか歌わない。その内彼女にも逢わせて説明するから…
歌詞を見て俺の事を真剣に考えてくれる?――
涙がしきりに流れ落ちる。
少しは冷静にならなくてはいけないと自分の制御本能が教えてくれたのだろうか。
――彼女と事情があるのなら仕方ないです――
ただ… これだけは聞きたかった。
――一輝さん? …ぬいぐるみをあげる相手は優子さんなんですか?――
一輝さんは落ちついている様子が電話の向こう側から分かる。
――うん。彼女は昔からぬいぐるみ好きだからね。機嫌どり?あいつは面倒なんだよね――
深く聞くつもりは無く、私は相手が分かってよかったと告げた。
すると、急ぎながら一輝さんが話し出した。
――あ、リハが始まるみたいだ。夜の音楽番組に出るからそれを観てくれる?
柚姫ちゃんの為に歌うから、あと柚姫ちゃんの気持ちは十分伝わったよ。
後で取り消さないでくれよ。約束だ。またね――
と電話が切れた…