歴代
恭子さんは40代の女性である。
会社の昼休みに雑談をしていたら
「あ、そうそう。私ね、見える様になっちゃったんだぁ」
と恭子さんは言った。
何が?とたずねると
「前に言わなかったっけ?うちってね……」
恭子さんの母方の女性はみな、四十代前後になると、鏡の中にその人の母方の祖母にあたる人が見えるようになるらしい。
どういった事から、いつの代からかはわからないが、恭子さんのお母さんも、おばあちゃんも四十代になった頃、やはり鏡の中に祖母の姿が見えるようになったという。
また、鏡といっても、祖母の姿が見えるのは手にした手鏡やコンパクトの鏡をのぞいた時だけで、鏡台や店のショーウィンドウでは見えない。
手鏡やコンパクトであればどの鏡でも見え、売場の商品でも手に取れば見えてしまう。また、他の人が鏡を一緒に覗いてもわからない。
祖母の姿は時によって鏡の隅の奥の方に遠く小さく、あるいはすぐ後ろに近く大きく、こちらの方をたいがいは穏やかな表情で見ているが、時には悲しそうだったり、何か言いたげな様子をしている時もあるらしい。
が、鏡の中の祖母が悲しげな表情をしていても、それで後日、身内の誰かが事故に遭ったり、大病を患ったりといった予兆的な事は無かったという。
“見える”四十代くらいになった時、祖母にあたる人が存命の場合はどうなるの?とたずねると、恭子さんも、恭子さんのお母さんも、恭子さんのおばあちゃんも、鏡の中に祖母の姿が見えだした頃はすでに祖母は亡くなっており、わからないという。
また、歳がだいたい四十代前後になったら見える、とはいうものの、三十代で見えだす人も、五十代になって見える様になった人もいるらしい。
どういった理由なのか、見えだす時期は各個人によってバラバラなのだそうだ。
慣れとは凄いもので、祖母の姿が見えだした頃は気になるが、そのうち景色の一部の様に、なんとも思わなくなるらしい。
「これから一生、見えるらしいよ」
恭子さんは少し困った様に笑っていた。




