とあるパーティーのヒーラー様と新人さん
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
「僕も勇者様のように強くなりたいのに、いつも足手まといになるのが悔しいです」
片目を負傷した、とあるパーティーの新人さんは同じパーティーで治療を得意とするヒーラー様に治療をしてもらっている間、愚痴をこぼします。
「ふふっ。勇者様も同じことを私に仰っていましたよ」
「えっ、勇者様がですか?」
「はい。勇者様は今の貴方様よりも、体は小さく体力も魔力も少なかったですよ」
「あの誰もが憧れる勇者様がですか? 信じられません」
「そうですよね。今は、あんなに立派になられて、昔のお姿なんて影も形もありませんからね」
ヒーラー様は何か面白いことを思い出したのか、クスクスと笑っています。
「ヒーラー様は勇者様と一緒にパーティーを組んで、どのくらいになるのですか?」
「そうですね。まだ二十年ほどですかね」
「まだですか? 僕からすれば二十年も一緒にいるなんて長いと思うのですが」
「そうですね。貴方様には長いですよね」
「えっ、ヒーラー様には短いのですか?」
「そうですね。私には勇者様との旅は、あっという間でしたので」
ヒーラー様は目を閉じて新人さんの傷を癒しながら、勇者様との旅を思い出しています。
「そんなに楽しい旅だったのですか?」
「それはもう、忘れられないほどに新鮮で濃い毎日でしたよ」
「どんな毎日だったのですか?」
「そうですね、勇者様は蛙が苦手でして、雨が多い大陸へ着くと、毎日ビクビクしながら旅をしていましたよ」
「あの勇者様がですか? 信じられません」
「そうですよね。今は怖いもの知らずですからね」
「蛙も克服したのですね?」
「それはどうでしょう?」
ヒーラー様は含みのある笑いをし、チラッと勇者様を見ました。
その視線に気付いた勇者様は、ヒーラー様へ心配するような視線を向けます。
ヒーラー様はクスクスと笑いながら、右手は新人さんの目に手を当て治療をし、左手は勇者様へ手を振っています。
そんなヒーラー様に対して呆れた顔をしながら、勇者様は剣を振り鍛練に汗を流しています。
「あれ? ヒーラー様は二十歳くらいではないのですか? 二十年という月日を勇者様と一緒にいるのでしたら、ヒーラー様は、、、」
「女性に年齢の話は禁句ですよ」
ヒーラー様はウインクをして自分の唇に人差し指を当て、秘密という仕草をしました。
その姿は新人さんが言う二十歳くらいと言っても良いほど若くて美しく、魅力に溢れていました。
その様子を見ていた勇者様は鍛錬の手を止め、二人の元へ向かいます。
「おいっ、治療に時間をかけ過ぎじゃないのか?」
「あら? そうですか? 勇者様は休憩の時間ですか?」
「そうだな。少し休憩を、、、」
「いつもよりお早い休憩ですね。いつもなら私の治療と同じ時間の鍛錬をしていると思いますが?」
ヒーラー様は勇者様の言葉を遮り、とぼけたように言いました。
まるでヒーラー様が勇者様をからかっているかのようです。
「そうか? お前が時間をかけ過ぎなのでは?」
「いいえ。私の治療の時間は勇者様が一番お分かりですよね?」
「そっ、そうだな」
「さあ、まだまだ鍛錬ですよ」
ヒーラー様が勇者様の背中を押しながら言うと、勇者様は先程の場所へ戻り鍛錬を始めました。
それを見ていたヒーラー様はクスクスと笑い、新人さんは二人の会話に驚き固まっています。
「これが勇者様の育て方です」
ヒーラー様は新人さんにニコッと笑いかけ言いました。
新人さんは、また驚き固まったままです。
「はいっ、治療は終了しましたよ」
「えっ、あっ、はい。ありがとうございます」
新人さんは深々と頭を下げて言いました。
「これが私の役目ですので」
「これからは勇者様のように鍛練をし、勇者様の力になれるように頑張ります」
「はい、頑張ってくださいね。でも鍛練だけではいけませんよ」
「と、言いますと?」
「勇者様には私みたいなヒーラーが必要です。心のケアをするヒーラーが」
「えっ、でも、それはヒーラー様がいらっしゃるのでは?」
「私は勇者様だけの専属ヒーラーです」
新人さんは首をかしげ、ヒーラー様を不思議そうに見ています。
新人さんは、ヒーラー様の言葉の意味を分かっていないようです。
「セラ。後は、お願いね」
ヒーラー様は何も分かっていない新人さんへの説明を私に託しました。
そしてヒーラー様は鍛練している勇者様の元へスキップをしながら向かっていきます。
そんなヒーラー様に勇者様は気付き、手を止めニコニコしながら待っています。
「あのっ、ヒーラー様は勇者様の専属ヒーラーなのですか?」
新人さんは私に不思議そうに訊きます。
「そうですね。ヒーラー様も勇者様もお互いに専属です」
「えっと、あの、それならどうして僕の治療を?」
「それは、いずれお分かりになると思いますよ」
「いずれ、、、ですか」
「お名前をうかがってもよろしいでしょうか?」
「あっ、僕はヒイロと申します」
「私はセラと申します」
私達はお互いに頭を下げ、自己紹介を済ませます。
「これからよろしくお願いいたします。ヒイロ様」
「あっ、こちらこそよろしくお願いいたします。セラ様」
「今日から私達はお互いに専属です」
「えっ」
新人さん、、、いいえ、ヒイロ様は私の言葉に驚き固まっています。
私は、これからヒイロ様が勇者様になれるように育てていかなければいけません。
どんなに苦しいことがあっても、ヒイロ様なら大丈夫だと信じております。
これは私達ヒーラーの使命。
勇者様はヒーラーが育てるのです。
お読みいただき、誠にありがとうございます。




