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AUPへようこそ  作者: 谷中シノン


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第3話:新しい扉

第3話:新しい扉



 天気は快晴。体調も絶好調!


 私、井原千里の勤務初日にぴったりの一日だ。



 ──『宇宙世界:コズミックベース』

 そのエリアにある『スペーシアンショップ』が、今日から私の職場になる。



 6月27日、木曜日。時刻は13時半過ぎ。



 私はショップの裏方出入り口の前に立ち、少し立ちすくんでいた。


 ここAUPでは、パーク営業の表の場所を“オンエリア”、ワースタしか入れない裏の場所を“オフエリア”と呼ぶ。


 今私は、正にオフエリアの通路を抜け、スペーシアンショップ事務所の扉前にいる。



 勤務は14時からだ。

 出勤のタイムカードは、ルール上10分前を過ぎないと切れない。


 「ちょっと早すぎたかな……もう少し迷うかと思ってたんだけど」



 AUPの出勤ルートは、初めての人には少し複雑だ。


 パークの真下に従業員用の施設があり、地下1階にはワースタの食堂や専用売店、マッサージチェア、漫画&PCスペースがある。


 地下2階には、衣装貸出や更衣室・シャワー室、事務員や人事部など表に出ない職種のワークスペース、仮眠スペースが用意されている。


 出勤の流れはこうだ。

 最寄り駅から徒歩約5分の、AUP関係者の建物には見えない入口から地下へ入り、地下2階のロッカーで荷物を取り出す。

 勤務用の服を借り、更衣室で着替える。


 時間に余裕があれば地下1階で休憩し、勤務時間に合わせて自分の所属エリアに上がる階段から地上へ出る。

 そして裏方オフエリアの通路を通り、仕事場へと続く事務所に向かう。



 階段の場所を間違えたり、着替えに手間取ることを覚悟していたが、今日はそんなこともなく、あっさりと配属先に到着してしまった。


 ドアの向こうには、これから私が触れる世界が広がっている。


 カラフルな宇宙の装飾、静かに並ぶ商品棚、そしてまだ誰もいないショップの空気。


 胸の奥が、少しだけ高鳴る。緊張とワクワクが、入り混じった感覚だ。


 「今日からここで、頑張らなきゃ……!」


 お客様のいないオフエリアの通路とはいえ、こんな風に扉の前で突っ立っていていいものか……。


 しかし、入ったところでまだタイムカードを押せない。中で突っ立っているだけになってしまう。


 「うーん……入るか入らぬか……どっちが正解なんだろう、これ。うーむ……」


 迷っているその時だった。

 「あの……」


 同じ制服を着た男性が、扉の前に立っていた。


 「え!あ、はい!すみません、どうぞ!」


 すっかり扉を塞いでしまっていたことに慌てて気付き、横に避ける。


 「入らないんですか?今日からの方ですよね」


 「え、あ、入ります!」


 そのまま自然な流れで、中に入ることになった。


 中では、品出しの途中なのだろうか、商品を整理したり、表へ運ぶための台車に乗せたりしている人がいる。

 ほかには、同じく14時出勤と思われる人がロッカーに荷物を詰めていた。


 「出勤14時やね。出勤登録はまだ早くてできひんやろうし、とりあえず荷物をロッカーに入れて、飲み物があれば冷蔵庫に入れたりとかしてたらいいと思うよ。あ、あそこに椅子もあるし」


 「ありがとうございます。七国さんですか!覚えました!よろしくお願いします!」


 「めっちゃ元気やな。よろしく」


 七国さんは挨拶を済ませると、ロッカーからスマホを取り出し、近くの椅子に腰を下ろした。


 事務所の扉を入ると、右側には在庫の品物が整然と広がり、左側にはワースタの共有荷物ロッカーや冷蔵庫、机と椅子が少し並んでいた。どこもとても綺麗に保たれている印象だ。


 そのまま真っ直ぐ進むと、扉が二つある。

 正面の扉はこの部署の社員が使うオフィス。

 左側の扉は表側、つまりお客様もいるオンエリアのショップ店内へ出られるようになっていた。


 「あらぁ、井原さんおはよう~。迷わず来られました?」


 「おはようございます!大丈夫でした!よろしくお願いします」


 「よろしく~。社員の矢柴です。これから一緒に頑張ろうね~」


 少し話をした後、私はロッカーに荷物を入れ、出退勤機に自分の名前のタイムカードを差し込むことで、出勤登録を完了させた。


 「出勤押しました?じゃあ、とりあえず昼礼だけするから、ちょっと待っててね~」


 「了解です!」


 「で、それから~、あ!七国くん!ちょうどええとこおるやん。井原さんに業務教えるのお願いしても良い?」


 矢柴さんが、離れた場所で腰かけている七国さんに声をかけた。


 「え、だっ……はい、わかりました」

 「今、絶対“だるい”って言おうとしたでしょ!」

 「はい」

 「認めんのかい」

 「漫才みたいですね」


 思わず口を挟んでしまった。


 「漫才やったら良かったのに」

 「もうええわで終わらせる気か」

 「井原さん、覚えといてください。この部署は漫才できません」

 「逆にできる部署どこ?」


 矢柴さんがツッコむ。


 なんかこのまま一生漫才続きそうだな、と思っていると、七国さんが話を元に戻す。


 「今日終わるまでずっとですか?」

 「ううん、14時から2時間だけ。本来教えるはずだった木田くんがね、怪我でしばらくお休みになっちゃったのよ。でね、16時には橋本さんが出勤するから、それまで」


 (いや僕、16時上がりなんですが)


 「木田さん、大丈夫なんですか?」

 「んー、怪我の具合は詳しく聞いてないけど、全治2週間だって。痛そうよね」

 「デスネ」


 全然気持ちこもってなくない!?と思ったが、そのツッコミは心の中にしまっておくことにした。


 「最後までかぁ~まぁ……やるかぁ……」


 渋々オーラ全開だ。


 「あ、井原さん、気にしないでね。七国くんね、長時間誰かと行動を共にするのが疲れる人らしいから」


 「なるほど!じゃあ、とことん絡んだら良いですかね!」

 「お!井原さん、いいね!そう!それでいいよ!」

 「前言撤回してもいいでs」


 そう言おうとした七国さんの言葉を遮るように、矢柴さんが続ける。


 「期待してるよ!七国くん!」

 「はぁ……でも僕で大丈夫ですか?まだ教えられる立場じゃないですよ」



 AUPにはランク制度があり、店舗で人に教える役割などは、ランク制度でいうところの『シルバーランク』の人たちの業務として、一応決まっているとのことだった。

 しかし七国さんはブロンズであるらしく、自分に振られる理由が純粋に疑問だったようだ。



 「いいのいいの。一応形式では決まってるけど、そこは臨機応変で。井原さん、会社のこととかは全体研修でもう聞いてるよね?」

 「はい!座りっぱなしでお尻の痛みと共に学んできました!」

 「辛いよね~あれ」


 ここでいうAUPでの世界観や挨拶の練習、言葉の使い方、パークと裏方の大まかな施設案内、そしてショップワースタであれば全店舗共通のレジ操作といった、部署共通の業務は、店舗に配属される前に地下の本部で行われる『全体AUP研修』で済ませられていた。


 面接が終わり、1日目の勤務としてその座学を受け、そして実質2日目の勤務、つまり今日から店舗勤務が始まる。


 「ということで!改めて2時間、いっぱい教えて下さい~」


 「めっちゃ元気ですね。改めて、七国です。よろしくお願いします」

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