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AUPへようこそ  作者: 谷中シノン


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第35話:コンビネーション

第35話:コンビネーション

 

2024年 12月24日


─────琵琶湖 夕方──────────────


 湖面をなでる風は冷たく、吐く息が白く空に散る。

 琵琶湖のほとりを歩く三人の姿があった。葉倉、菊上、繰原だ。


 「なぁ、何が悲しくてクリスマスイブに、男三人でこんなクソ寒いところ歩かなきゃなんねぇんだよ……」

 繰原が肩をすくめ、ぼやきを漏らす。


 「まぁ、サイゼでだらだらして夜を潰すよりは、多少マシじゃない?」

 菊上はスマホを構えたままゲームを続け、視線を上げることなく返す。


 「それにしても……」

 葉倉は立ち止まり、広がる湖を見渡した。


 「こんなバカみたいに広い場所で、しかも正体もわからない物を探せって……どう考えても無茶だろ」


 冷たい風が三人の間を吹き抜けた。


───時刻は少し遡る。昼過ぎ───


 三人が呼び出されたのは、物真の根城となっている街外れの倉庫だった。元々は車庫だったらしいが、今では工具や部品、用途不明の発明品で埋め尽くされた雑然とした作業場に変わっている。


 「で、何だ?頼みたいことって」

 葉倉が散乱する工具を雑にどかしながら口を開く。


 「僕たちも暇じゃないんだけど」

 菊上があくび混じりに言うと、


 「てめぇはゲームしかしてねぇだろ!」

 繰原がすかさずツッコミを入れた。


 だが物真はそんなやりとりを一切無視して、椅子に腰をかけたまま切り出す。

 「早速だが……三人には“オリジンメタル”というものを探してもらいたい」


 「オリジンメタル?何だそりゃ?」

 繰原が眉をひそめる。


 「俺にも詳しくはわからん。だが近いうちに発見される新たな資源らしい。発見されれば報道され、国の保有となる。その前に見つけておきたい」

 物真は簡潔に説明する。


 「何で俺たちが、んな面倒ごとやらなきゃいけねぇんだよ!」

 繰原が声を荒げる。


 「確かに。いくら暇だと言っても、見返りが無いなら動く理由はないな」

 葉倉も冷静に付け加えた。


 「見返りならある」

 物真はそう言って、机の上に三着の黒服を置いた。


 「これって……」

 菊上が手に取り、布地を指先でなぞる。


 「七国が持っているものの簡易版だ。あいつのは制限無しで透明化できるが、これは五分間まで。時間がなくてな、仕上げきれなかった。だが非常時には十分使える」


 「やっぱり、お前の発明力は化け物だな」

 葉倉が感嘆を漏らす。


 「でも、それだけじゃ動機としては弱いかな。僕らが危険を冒すリスクには釣り合わない」

 菊上が冷静に言い放つ。


 物真は鼻で笑い、封筒を三人に差し出した。


 「……これもある」


 葉倉が中をのぞき、声を弾ませる。

 「おお、これはいいね」


 「やっぱわかってんじゃねぇかよ!もっと早く言えっての!」

 繰原は上機嫌になり、物真の肩を豪快に叩く。物真は迷惑そうに顔をしかめた。


 「僕も文句ない。これなら動く価値はある」

 菊上も封筒をしまいながらうなずいた。


 「よし、決まりだな」葉倉が笑う。


 「で?その……オレンジメールだっけ?どこにあるんだ?」


 「オリジンメタル、な」

 菊上がすかさず訂正する。


 物真は一切表情を崩さず答えた。

 「……琵琶湖だ」

 

────────────────────


 湖沿いの遊歩道を歩きながら、3人は肩を並べて寒風に顔をしかめていた。

 

 探し始めてからもうすぐ2時間が経とうとしていた。

 

 「……これさ。もしかしてオリジンメタルって、湖の底とかに沈んでたりしてな」

 葉倉が湖面を覗き込みながらぼそりと呟く。

 

 「それだったら泳ぐ役は繰原だね」

 菊上がゲーム画面から目も離さず、軽く言う。

 

 「はぁ!?なんでそこで俺なんだよ!」繰原が食いつく。

 「だって一番体力あるし」

 「ふざけんな!真冬の琵琶湖で泳がせる気かよ!」


 そんなやり取りをしながら歩いていると、少し先の茂みのあたりで人だかりができているのに気付いた。数人が身をかがめ、何かを覗き込んでいる。


 「何かあったのかな?」菊上がようやくスマホから目を離す。

 「ったく、すぐ群がる奴らってうぜぇんだよな。……どうせ珍しい落とし物でもあったんじゃねぇの?」

 繰原が大きく腕を伸ばしてあくび混じりに言う。


 「あ……」葉倉が目を細める。

 「それだ!」菊上の顔に閃きが走る。

 「……え?…………ぉお!おおお!そういうことかぁ!」

 繰原もようやく気付き、声を弾ませた。


 3人は顔を見合わせると、ためらわず人だかりの方へと駆け寄っていった。


 3人が人だかりに近づくと、そこには異様な光景が広がっていた。

 木々の幹に、まるで金属の液体とも固体とも言える奇妙な物が、ピタリと吸い付くように張り付いている。黒とも銀ともつかない鈍い光沢を放ち、自然の中にあるはずのない異物感を放っていた。


 「……どうする?こんなに人がいたら、取るにも取れないぞ」葉倉が小声で呟く。


 その時、菊上の耳がピクリと動いた。

 「待って……警察が来てる」

 少し離れた場所から無線の雑音が聞こえてくる。制服姿の影がゆっくりこちらへ歩いていた。

 

 「誰かが通報したんだろうな。もう猶予はない」


 葉倉が金属片を凝視しながら言う。

 「あれ……やっぱり、貼り付いてるよな?」

 

 「こんなもん、木ごとぶっ壊さなきゃ持って帰れねぇだろ」繰原が腕を組んでつぶやく。

 

 「……お前、ほんと良いこと言うよな」葉倉がにやり。

 

 「最早わざとでしょ」菊上がため息をつく。

 

 「あ?何がだ?」繰原はまだ状況を理解できていない。


 葉倉は黒服の袖を握りしめ、低く告げた。

 「俺達の能力と、このスーツを使えば簡単だ」


 「おい待て!まだ俺がわかってねぇ!」繰原が慌てる。

 

 「いいから。時間がない。言う通りにしてくれたらいいから。とりあえず、まずは透明化機能を使ってから──」

 菊上が説明を始めた。


 「おっしゃ!なんだか知らねぇが、やってやるかぁ!」

 繰原は菊上の言葉を最後まで聞かず、勢いで透明化機能を使用してしまっていた。

 

 「ちょ、言ってからにしろよ!……ああもう!」

 菊上が振り回されつつも透明化機能を使用。


 葉倉も合わせるように静かに姿を消した。


 「繰原、光を頼む!」菊上の声だけが空気を震わせる。

 

 「なるほどなぁ!今やっとわかったぜ!」繰原の掌に光が集まり、一瞬にして弾け飛んだ。


 突然の閃光に、周囲の人々は悲鳴を上げて目を覆う。まるで木に張り付いた金属が光を吸い込み、炸裂させたかのように見えたことだろう。


 その隙に、葉倉が能力を発動する。

 オリジンメタルを抱え込む木の幹がバキリと裂け、金属が外れる。


 「な、何の音だ!?」

 「見えない!誰かいるのか!?」

 集まった人々は混乱し、後ずさる。


 「左前。あっちの道なら人がいない」菊上が小声で仲間を誘導する。


 やがて光が収まり、人々が恐る恐る目を開けた時、そこに残っていたのは壊れた木々と、消えた金属の跡だけだった。


 「今の光……どうされたんですか!?」

 駆けつけた警察が群衆に問いかける。

 

 「わ、わからない!急に木が光って……!」

 「何も見えなかったんだ!」


 混乱のさなか、透明化した3人はすでに群衆の外へ抜け出し、オリジンメタルを抱えながら走り去っていた。


 「……ふぅ、なんとかなったな」

 木陰を抜けたところで、葉倉は大きく息を吐いた。緊張が解け、声には安堵が滲んでいる。


 「ほんと、ヒヤヒヤしたよ……」

 菊上は胸を押さえ、ちらりと繰原に視線を送った。

 

 「おい、なんだよその目は!」

 「いや、別に……」

 「まぁ、無事終わったんならいいじゃねぇか!ほら、さっさと帰ろうぜ!」繰原は気楽に笑い飛ばす。


 だがその時、葉倉の腕に違和感が走った。

 

 「……なんだ、これ」

 

 抱えているオリジンメタルが、黒服の袖にじわじわと絡みつくように広がっていたのだ。液体のようでもあり、金属のようでもあるそれは、まるで意思を持っているかのように服へ吸い寄せられていく。


 「見ろよ……勝手にまとわりついてやがる」

 葉倉は仲間に見せるように腕を差し出した。

 

 「……ほんと、何なんだこれ」


 菊上は顔をしかめ、首を振る。

 「とにかく、急いだ方が良さそうだね。ここで長居するのは危険だ」


 3人は顔を見合わせると、余計な言葉を交わさずに歩き出した。

 

 夕闇の琵琶湖を背に、彼らはオリジンメタルを抱えたまま、物真の待つ倉庫へと足を速めるのだった。

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