第33話:最悪の誕生日
「……未来のすべてを視る力……」
井原が呆然と呟き、言葉を失う。
その沈黙を破るように、物真が鋭く切り込んだ。
「つまりお前は、その力で未来を視て──過去に来て、未来を変えようとしている……そういうことか」
未来の七国はゆっくりと首を振る。
「最初は、そうだった。俺もそう思ってここに来た。だが……今は違う」
「違う?」葉倉が問い返す。
「この世界の未来を変えても、俺がいた“元の世界”は何一つ変わらない。ただ、新しい未来が一つ、別に生まれるだけだった」
「……パラレルワールドってやつか」菊上が小さく呟く。
「パラレルワールド?」繰原が怪訝そうに眉をひそめる。
未来の七国は彼に向き直り、分かりやすく言葉を選びながら説明を始めた。
「簡単に言えば──未来は一本の道じゃない。俺達が一つ決断するごとに、枝分かれするように“可能性の世界”が無数に生まれていく。右に行けば右の未来、左に行けば左の未来が、同時にどこかで存在している。だから、俺が過去に来てどんなに行動を変えようとも……俺が歩んできた“あの世界”は消えない。変わるのは、この世界の未来だけなんだ」
その説明に、場にいる全員が息を呑む。
未来を変えるという言葉が、ただの希望ではなく──重い現実を伴った“分岐”であることを、初めて理解させられる瞬間だった。
「じゃあ、今のお前は何のために戦っている?未来を変えられないなら、さっさと自分の時間に帰ってもいいはずだろ」
物真が問い詰めるように言った。
その時、スクリーンの向こうから御堂の声が割り込んだ。
「それができねぇんだよ……今のこいつにはな」
「……できない?」現代の七国が眉を寄せる。
繰原が腕を組み、不審そうに口を開いた。
「そもそもよ。お前、自力で過去に来れるわけじゃねぇんだろ?どうやって飛んできたんだ」
「それが帰れない理由とも繋がっている。俺が過去に来たのはとある能力者の力だ」
未来の七国は深く息を吐き、皆を見回した。
場の空気が張り詰める。未来の七国は一呼吸おいて、ゆっくりと名前を告げた。
「……『土岐勇二』。彼の能力は【過去送付〈パストセンド〉】──対象を過去に送ることができる能力者だ」
「……土岐さん!?」七国が思わず声を上げる。
「そうだ。そして、彼の能力は過去に送れることに付随して、未来から自分の能力によって来た人間を認知してデータを受信するかのように自動で理解することもできた」
未来の七国がそう告げた時、胸の奥で土岐の顔と声が蘇った。
──動画を見た時、銃を持った“男”の前で怯まないのがすごいなとは思いましたけど
土岐は、黒服の人物が男であると確信していた。
「あの言葉も……。土岐さんは、黒服の正体が未来の僕だと知っていたから……」
「すでに出会ってるのか?」物真が目を細めて問う。
未来の七国は小さく頷いた。
「この世界の俺も、一度出会っている。魔法世界の店にヘルプに行った時にな。そして……俺はその彼の能力で、これまでに二度、過去へ送られている」
「二度……?」七国が聞き返す。
未来の七国は静かに頷いた。
「一度目は──俺が初めて能力を得たとされる日だ。まだ小学生だった頃、このAUPで事故に巻き込まれた。あの日の光景を確かめるために、一度だけ過去に送られている。そして二度目が……井原を撃つ直前。つまり、今この時代だ」
菊上が眉を上げる。
「じゃあ、一度目の時は帰れたわけか」
「あぁ」未来の七国は即答する。
「土岐の力で過去に送られる時間は事前に決めることになっている。数時間だけ、という場合もある。その時間が過ぎれば、自動的に元の時間軸の世界へと戻れる仕組みだ。本来なら、今回も数日ほど滞在して、それで帰れるはずだった」
井原が首を傾げる。
「それが……なぜ?」
未来の七国は表情を引き締め、低く告げた。
「帰るためには、一つだけ条件があるんだ」
皆の視線が一斉に未来の七国へ注がれる。
彼は間を置いてから、はっきりと口にした。
「──元の世界と繋がる“可能性”が残っていること。それが、過去から帰還するために必要な絶対条件だ」
みんなが驚きの表情を浮かべる。
七国がはっと息を呑んだ。
「……!?そうか、この時代の土岐さんは……」
未来の七国は、深く目を伏せる。
「そうだ……死んだ。いや、正確に言えば──殺された」
重苦しい言葉が倉庫の空気を震わせる。
未来の七国は静かに続けた。
「おそらく……俺が過去に来たことで、未来の流れは大きく変わった。その歪みの中で、土岐は命を落とした。結果として、土岐が生きている“俺のいた世界”と繋がる可能性は完全に絶たれた。ゼロになったんだ」
彼は握った拳を膝の上に強く押しつける。
「だから……俺はもう帰れない」
井原は絶句したように目を見開く。
「そんな……」
物真はしばし黙って未来の七国を見つめ、それから低く吐き出す。
「……なるほどな」
その声には納得の響きと、同時に計り知れない重さを受け止めた色が混ざっていた。
「ここからは順を追って話そう」
未来の七国は姿勢を正し、皆を見渡した。
「俺はまず、自分がどうして能力を得たのか──その日の出来事を正しく知る必要があった。だから土岐に頼み、一度だけ小学生の頃の事故の日に戻ったんだ。……AUPで起きた、あの事故を見るためにな」
現代の七国が小さく頷く。
「事故の日か。……記憶が曖昧なんだ。でも、確か……何かが頭に当たって、出血して……」
未来の七国は静かに言葉を重ねる。
「そうだ。20年前──2004年12月20日。俺の10歳の誕生日だった」
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2004年12月20日 AUP園内
開業からまだ4年目。アトラクションの中には建設途中のものがあり、工事作業の音がテーマパークの空気に混じっていた。
当時10歳の七国遊人は、両親の前を走りながらはしゃいでいた。
「ねぇ!早く早く!パパ、ママ!僕、あれ乗れるかなぁ?」
「ふふっ、あれはまだ無理よ。もっと大きくなってからね」
「そんなの、行ってみなきゃわからないじゃん!」
弾む声を残して駆け出す。向かった先はまだ整備中のジェットコースター。その途中──中央広場の噴水工事現場で異変が起こった。
ガラガラガラ──ッ!
足場のトタンが崩れ、時計塔の装飾とともに大量の瓦礫や鉄パイプが落下してくる。
両親は反射的に息子を庇った。
だが──。
本来の歴史では、その瞬間、両親ごと瓦礫に押し潰され、七国遊人も命を落とすはずだった。
しかし現実は違った。
未来から来た七国遊人自身がそこにいたのだ。
未来の七国は〈全未来視〉でこの瞬間を見ていた。過去の自分が死ぬ未来。その分岐を変えられる唯一の手段は──自分が直接、救うこと。
彼は迷わず飛び込み、幼い自分を覆いかぶさるように庇った。重い瓦礫が背中にのしかかる激痛に歯を食いしばり、必死に瓦礫を押しのける。その隙に、幼い自分はかろうじて息を繋いだ。
だが、同じく助けようと小さな七国のもとへ近づいてしまった両親だけは助けられなかった……。
その時、偶然現場に駆けつけた人物がいた。
当時、まだ清掃員として働いていた──神蔵栄一。
未来の七国はその顔を見て、〈全未来視〉の力によって確信する。
──2024年。井原、神蔵、そして今目の前で気絶している小さな自分が成長し、同じ場所に揃っている未来を。井原が能力を覚醒するきっかけを作るのも、“その時代に飛んだ自分”だということも。
未来の七国は神蔵にこう告げた。
「いつか、あなたの前に井原という女の子が現れる。その時、もし彼女が迷っていたら──背中を押して“行かせてあげてほしい”。それが未来の希望になる」
言葉を残した直後、時間制限が訪れる。
光の揺らぎに包まれ、未来の七国は元の世界へと戻った。
幼い自分を救い、両親を失ったあの日を残して。
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──「彼が言っていたのは、君のことだったか……」
──「行ってあげて。君が行くべきかもしれない」
神蔵の言葉を思い出した井原の顔に、はっとした表情が浮かぶ。
「……あの言葉は、そういうことだったんだ……」
未来の七国は頷き、低く告げた。
「俺が無事に未来へ戻れたのも──いや、そもそも“七国遊人”という人間が生きていられるのも、自分自身が幼い自分を救ったからだ。あの日、自分を庇ったことで、初めてこの世界線は成立した。……それが、この俺の存在そのものの証明なんだ」
葉倉が頭をかきながら口を挟む。
「……ややこしい話になってきたな。正直、ついていくのが精一杯だぜ」
「まぁ、そうだろうな」未来の七国は苦笑し、続けた。
「そして二度目のタイムトラベル……。この時代で、俺は井原の能力を解放させるため、あの日、彼女を銃で撃った。だが、その事がきっかけで時間軸に変化が起きてしまう」
「……!」七国が間髪入れずに声を上げる。
「僕が……出会ってしまったからか……?」
その直感に、未来の七国は静かに肯定した。
「あぁ。本来、過去の自分と出会うことは絶対に避けなければならない。幼い自分を救った時は気絶していたから“対面”にはならなかった。だが、あの日は……違った」
七国は記憶を探るように目を細める。
「じゃあ……あの日、僕が感じた“嫌な予感”は……」
未来の七国はゆっくりと息を吐き、答える。
「おそらく、事件そのものに対する直感でもあっただろう。だが、それだけじゃない。俺という“未来の自分”と出会ってしまう──本来すべきでない行動をこれから取ろうとしている……その感覚だったんだと思う」
井原も、葉倉も、物真も黙り込む。
空気が重くなる中、未来の七国はふっと目を閉じ、言った。
「だが……あの時点で、俺はもう自分の時代に帰ることを諦めていた。だからいいんだ」
物真が腕を組み、未来の七国を鋭く見据えた。
「諦めた……てことは、その時点で“もう帰れない”って理解したわけか」
未来の七国は短く頷いた。
「あぁ。そうだ」
七国が思わず問い返す。
「でも……その時はまだ、土岐さんは死んでなかったはずだ。なのに、どうして帰れないとわかったんだ?」
未来の七国の視線が僅かに沈む。
「あの日──井原を銃で撃った直後、俺は〈全未来視〉で未来を覗いた。……だが、どの分岐を辿っても、土岐が死ぬという事実だけは避けられなかった。未来の形は枝分かれしても、その一点だけは絶対に変わらない。そう確定してしまったんだ」
空気が重く張り詰める。未来七国は続けた。
「だから……俺はもう“帰る”という選択を捨てた。代わりに、この世界を俺たちの世界と同じような悲劇に遭わせないこと──それだけを考えることにした」
「同じような悲劇……?」葉倉が眉をひそめる。
「……それも、順を追って話す」未来の七国はそう答え、わずかに視線を落とした。
そして言葉を切り替える。
「その後──井原が病室で眠っている間に、彼女の鞄に“チェキカメラ”を忍ばせた。それ以外にも、物真に接近し、必要な道具を作ってもらうよう頼んだりな」
七国がふと口を開いた。
「……何で、土岐さんは死んで……笹松さんは“消えた”んだ?」
未来の七国の表情が険しくなる。
「笹松も……死んでいる。同じ時期にな」
「その二人って何者だ?」繰原が怪訝そうに眉をひそめる。
「俺らは名前すら知らねぇけどよ」
未来の七国は静かに答えた。
「土岐はさっき話した通り『過去送付─パストセンド─』の能力者だ。そして笹松は……『断片予知─ピースディクト─』という力を持っていた。未来の一部を断片的に視ることができる能力者だった」
葉倉がはっとしたように声を上げる。
「笹松って……確か、焼死体で見つかった人物の名前だよな」
スクリーン越しに御堂も口を挟む。
「そうだ。あの事件も土岐くんと同じく“自殺”として処理されていたはずだ」
──この前も、身元不明の焼死体が見つかったってニュースになってたのよ。
井原の脳裏に、病室での母の言葉が蘇る。
──それでは続いて、先日発見された“焼死体の身元”が……
七国もまた、土岐の訃報が流れた直後に見たニュース映像を思い出していた。
「能力者が二人とも……自殺で死んでいるなんて、偶然にしては出来すぎてるね」菊上が低く呟く。
繰原が舌打ちをして、周囲を見回した。
「……チッ。俺達が“こいつらを連れて来い”なんて指示されたのも、そう考えるとますますヤベぇ匂いしかしねぇな」
物真が険しい眼差しを向ける。
「……一体、ここで何が起こってる?」
繰原も声を荒げる。
「さっき言ってただろ……?同じ目に合わせねぇようにするとか何とかよ。だったら、はっきり言えよ!」
葉倉が腕を組み、低い声で続ける。
「そろそろ勿体ぶらずに話してもらおうか」
未来の七国は深く息を吐き、ゆっくりと視線を皆に巡らせた。
「……別に焦らしていたわけじゃない。ただ、これまでの経緯を話さなければ、信憑性のない戯言にしか聞こえなかっただろうからな」
「そんなに……大きなことなの?」井原が不安げに問う。
未来の七国は一拍置き、声を低く、だがはっきりと告げた。
「来たる──12月31日。AUPのカウントダウンイベントの最中に、“厄災”が起きる」
「厄災……?」井原が恐る恐る聞き返す。
「──それは……パーク全体を飲み込むほどの大爆発が起きる。死者は数えきれない程となり、このパークは、街から消えることとなる」
その言葉は雷鳴のように倉庫の空気を裂いた
「……!?」
誰も声を発せられない。ただ目を見開き、呼吸すら忘れたように固まる。
沈黙を破ったのは、スクリーン越しの御堂だった。
「……いやいや、いくらなんでも、それは……」
乾いた笑い声が響く。
「ハハッ……そんな馬鹿な話、あるわけ……」
だが誰も、その冗談めいた言葉に同調できなかった。
重苦しい沈黙の中で、七国が小さく呟いた。
「……超能力者を生むため……」
その一言に、全員の表情が揺れる。
核心を突いた直感──七国の“勘”が、皆の脳裏でバラバラの点を一気に線で結んでしまった。
「……!」一同は再び息を呑む。
能力が開花する条件──極限の状況、生死を意識する程の怪我。その死の淵で生まれる力。
大爆発は偶然などではなく、意図的に“起こされるもの”なのではないか。
井原が震える声で問う。
「じゃあ……能力者だった二人が殺されたのって……」
未来の七国は目を伏せ、低く告げる。
「おそらく……邪魔になる能力だと判断されたからだ。計画の前に……消されたんだ」
冷たい真実が倉庫に落ちた瞬間、誰も言葉を続けられなかった。
物真が低く唸るように言った。
「……俺と井原を連れてこいって指示してきたのは、使える能力だと判断したからってわけか」
未来の七国は静かにうなずく。
「……そうだろうな」
繰原が机をドンと叩いて前のめりになる。
「でもよ!何でこの二人が能力を持ってるなんてバレたんだ!?俺達に関してもそうだが、どうやって知られた!?」
未来の七国は目を細め、低く答えた。
「……最低でも、三人は関わっているはずだ」
「三人……?」井原が思わず声を漏らす。
未来の七国は指を折りながら、淡々と告げた。
「まず一人目──パーク全体を破壊できるほどの“巨大な力”を持つ能力者。二人目──他の能力者を“見抜ける”、あるいは“認知できる”能力を持つ者。そして三人目が……」
一呼吸、言葉をためてから続ける。
「──“洗脳能力”を持つ者だ」
「洗脳だと……!?」
スクリーン越しに御堂の低い声が響いた。表情は険しく、冗談を言っている気配はない。
未来の七国は頷き、言葉を絞り出すように続ける。
「あぁ……おそらく、土岐と笹松は“自ら命を絶った”んじゃない。洗脳によって“そう指示され”、自殺させられたんだ。……強制的に、な」
「……ひどい……」井原の顔が青ざめ、両手で口を押さえる。
その場に重く、冷たい沈黙が落ちた。
未来の七国がゆっくりと口を開いた。
「……この時代の俺は、まだ“第六感”程度でしか能力を扱えていない。断片を感じることはできても、決定的に未来を見抜く力じゃない。これ以上、最悪の未来に進まないためには──その力を〈全未来視〉として完全に使いこなせるようになってもらわなければならない」
七国は息をのんだ。
「……つまり、僕の能力はまだ“未完成”ってことか」
未来の七国は静かに頷く。
「そうだ。なぜかは分からないが……お前の能力は中途半端な覚醒のまま止まってしまっている。俺自身も完全に力を覚醒できたのは──あのカウントダウンイベントでの厄災に巻き込まれた時だった」
物真が重々しく呟く。
「……自分の時代では、目覚めるのが遅すぎて防げなかった。だから過去に戻って、歴史を変えようとしたんだな」
未来の七国は薄く笑みを浮かべたが、その顔には悔しさがにじんでいた。
「……まぁ、それもさっき言った通り、結局は無意味だった。過去を変えることはできず……俺はこの時代に取り残され、帰る術を失った」
場に沈黙が落ちる。
その中で、井原が口を開いた。
「……パークを破壊しつくすほどの巨大な力って……あのタトゥーの男の能力とは違うんだよね?」
未来の七国は首を横に振る。
「そいつも居たな。だが違う。奴の能力は……聞いたところによると“電気の通るものを爆発させる”力だ。確かに危険ではあるが……俺が経験した“パーク全体を飲み込む力”は、そんな規模のものじゃなかった」
葉倉が身を乗り出し、鋭い視線を向けた。
「……さっきの話に戻るが。どうして、お前は“土岐と笹松は洗脳で殺された”と断言できるんだ?」
未来の七国の表情が険しくなる。
「……この時代に来たとき、いくつもある未来の中で……その一つに、井原と物真が何者かによって洗脳されている光景を見た。二人は有無を言わず……人形のように操られ、ただ命令に従って動いていた。土岐と笹松が死んだのも……同じ力によるものとしか考えられない」
「……私たちが、洗脳された未来……?」
井原の声が震える。
もしかしたら自分が自分じゃなくなり、知らない人間に思いのままに動かされていたかもしれない。そんな恐怖と実感が入り混じった。
未来の七国は、その言葉に頷き、続けた。
「だからこそ……その予防策として“バングル”を物真に作らせた。幽霊のなでしことリンクできるようにな。もし井原が洗脳されたとしても──なでしこが憑依して操れるのなら、洗脳の支配をかいくぐれる。物真自身にも対策のための発明品を作らせておいた」
七国が口を開いた。
「……僕たちは、どうすれば防げる?その厄災から、このパークとみんなを、どうやって守ればいい?」
重苦しい沈黙のあと、繰原がドリンクを飲み干し、カップを置きながら言う。
「未来を見てるお前なら分かるはずだろ? 答えがあるなら、それを教えてもらえりゃ話は早ぇ」
だが、未来の七国は俯いたまま、黙して答えない。
その様子に菊上が眉をひそめる。
「……何か、言えない理由でもあるのか?」
静寂を破ったのは、スクリーン越しの御堂だった。
「違う。……こいつは言えないんじゃない。わからないんだ」
「わからない……?どういうことだ?」物真が問い返す。
未来の七国は顔を上げ、苦渋に満ちた声で告げた。
「俺には……もう未来が視えない」
その言葉に、空気が張り詰める。
「おい……何だと!?全部の未来が見えるんじゃなかったのかよ!」繰原が椅子を蹴りそうな勢いで叫ぶ。
未来の七国はゆっくりと首を振った。
「〈全未来視〉には条件がある。……未来を視るためには、その時点で“自分が生きている”必要があるんだ」
「……生きている……?」井原の声が震える。
理解してしまったが、どうしても受け入れたくない、そんな響きだった。
七国の胸にも冷たい予感が走る。
「それって……つまり……」
未来の七国は、全員を見渡し、静かに言った。
「俺は……もうここから先の未来を、一つも視ることができなくなった。──俺は、まもなく死ぬ」
誰も言葉を返せなかった。
ただ沈黙だけが、重く、長く場を支配する。
そのとき、時計の針が日付をまたぐ。
──12月20日。午前0時。
皮肉にも、その日は七国の誕生日だった。
未来の自分が死を宣告した直後に迎えた、最悪の記念日。
「……最悪の誕生日だな」
七国が小さく呟いた声は、重苦しい沈黙の底に沈んでいった。




