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AUPへようこそ  作者: 谷中シノン


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第32話:全ての未来

第32話:全ての未来


 七国達は場所を変え、古びた倉庫に移っていた。

 未来の七国に呼ばれ、七国、井原、物真、菊上、繰原、葉倉、そして幽霊のなでしこが、集まっている。

 

 外観は錆びつき、窓は割れてところどころに板が打ちつけられている。けれど、扉を開けて中に入ると、ただの廃墟ではないことがわかる。


 壁際には埃をかぶった木箱や金属の棚が乱雑に積まれている。長い間、人の手が入っていなかった痕跡がそこらじゅうに残っていた。だが、部屋の片隅──そこだけは不思議なほど片づけられ、生活感があった。


 古びたソファが一脚。小さなテーブル。椅子が二脚。さらに年季の入った冷蔵庫まで置かれていて、そこはまるで「誰かの居場所」として整えられていた。


 その椅子に腰かけたのは──未来から来た七国だった。

 彼は冷蔵庫を開け、取り出した缶を手際よく開けると、それぞれに配るように並べていく。


 「……好きなのを飲んでくれ」

 そう軽く笑いながらも、仕草には慣れがあり、この場所でしばらく暮らしていたことを物語っていた。


 「ここは、もともと使われなくなった倉庫だ。未来の世界で使っててな。合鍵の隠し場所は、この時代でも変わっていなかった。だから俺は、ここを使わせてもらっている」

 未来七国は淡々と説明する。


 「この倉庫の存在を教えてくれたのは……警察の御堂さんだった。……未来で俺を助けてくれた数少ない理解者の一人だ」

 未来の七国が言うと、井原が小さく首をかしげた。

 「御堂さんって?」

 


 「井原さんが撃たれたあの日の夜、僕を取り調べた刑事が御堂さんだ。それが出会い。未来の僕は御堂さんとの出会い方は少し違ったそうだけど」

 淡々とした口調で横にいた七国が答えた。


 「……取り調べ?」

 井原がわずかに目を細めたその時、繰原が堪えきれずに身を乗り出した。

 「おい、待てよ」

 鋭い視線を二人の七国に突き刺す。

 「てめぇらの黒服……あの日、この女を撃ったヤツだよな!?何がしたかったんだ?味方か敵か、はっきりしろよ!」


 張り詰めた空気が、廃倉庫の中に流れ込む。

 未来の七国はほんのわずか目を伏せ、それから静かに顔を上げた。


 「……そうだな」

 低く、しかしはっきりとした声で答える。

 「その話から始めようか」


 全員の視線が未来七国に集まる。そして、静かに口を開いた。


 「俺は未来を変えるために、過去へ来た。そして……井原さん。俺が君を撃ったのは、君の能力を開放させるためだ」


 「……!?」


 井原の瞳が大きく揺れる。撃たれたあの日、自分の身に起きた異変を思い返しながらも、理解が追いつかない。


 だが、この場にいる全員の頭にも同じ疑問が浮かんでいた。

 なぜ、“銃で撃つ”──そんな方法を取る必要があったのか。


 「能力の発生条件──それは……」

 未来の七国が言葉を続けようとした時だった。


 七国は不意に、これまで自分の胸の奥で引っかかっていた断片を思い出す。


 ──……琴葉さん。あ、お相手なんですが、少し前にこのパークで怪我をしたみたいなんです。

 笹松さんは怪我を負ったのち、行方不明。

 

 ──彼、この前大怪我をしてしばらく休んでたんだけど 

 土岐くんは大怪我を負い、その後自殺。


 そして、撃たれた井原さんは能力に目覚めた。

 

 導き出される答えは一つしかなかった。


 「……大怪我をすること、か」

 

 七国が呟くと、未来の七国は深くうなずいた。


 「そうだ。もっと正確に言うなら、“生死を意識してしまうほどの怪我”だ。その危機的な心理が、内に眠る力を覚醒させることがある」

 

 未来の七国の声には、確信と重みがあった。


 「ちなみに──繰原、菊上、葉倉。お前たち三人は本来なら十二月三十一日、AUPのカウントダウンイベントで大怪我を負い、そこで能力に目覚めるはずだった」


 「……どういうことだ?」

 葉倉が眉をひそめる。


 「つまり今この時点で、俺たちが力を持ってるのは、本来あり得ないってこと」

 菊上が代わりに答えた。


 「……未来が、もう変わっているということか」

 七国が静かに呟く。


 未来の七国は短く息を吐き、うなずいた。

 「そう。お前達を知っていたのは俺の世界で出会っていたからだ。お前達は俺の仲間になっているはずの人間だった。だから力のことも知っている」


 言葉を区切り、彼は仲間たちを見渡す。

 「だが──この世界のお前たちは、俺たちの敵として立ちはだかった。……家族や恋人を守るためにな」


 「……え?」

 井原は混乱と驚きに顔をこわばらせた。


 「なるほどな……人質をとられてるってわけか」

 物真が低く吐き捨てるように言う。 


 「……僕らのことを全部知ってるんだね」

 菊上が唇を噛みしめながら、絞り出すように言った。 

 「だったらわかるはずだ!僕らが、君たちをどうしても連れて行かなきゃいけない、この気持ちも……!」

 焦りと苦悩が入り混じった声が、倉庫の埃っぽい空気を震わせた。


 未来の七国は落ち着いた声で言った。

 「……そのことも、もう大丈夫だ」


 「はぁ!?何が大丈夫なんだぁ!言ってみろや!」

 繰原が噛みつくように叫ぶ。


 未来の七国はわずかに目を細め、静かに言葉を続けた。

 「さっきも言ったろ。お前たちのことは、全部知ってる。……菊上の家族、繰原の友人、それに葉倉の恋人。全員、すでに病院を移した。今は御堂さんの信頼できる警察病院でかくまわれている」


 「……え?」

 菊上の顔色が変わる。


 「う、嘘だろ……」

 葉倉も思わず声を震わせた。


 「ふざけんなよ!」

 繰原が立ち上がり、怒鳴り散らす。

 「そんなもん信用できるか! どうせ俺たちを騙して、大人しくさせようって腹だろ!!!」

 倉庫の空気が一気に張りつめ、繰原の荒い息遣いが響いた。


 「本当だ。これを見てくれれば分かる」

 未来の七国はそう言うと、傍らに置かれていた古いプロジェクターのスイッチを押した。


 薄暗い倉庫の壁に、光が投影される。

 映し出されたのは、パソコンを通じてオンラインで繋がっているらしい御堂の姿、そしてその後ろに広がる大きな病室。そこには、ベッドで静かに眠る人々の姿があった。


 「……!」菊上が息をのむ。そこに映っていたのは、確かに彼の家族。

 葉倉も目を見開き、繰原は画面に食い入るように身を乗り出した。


 画面の向こうで、御堂が口元をほころばせた。

 「ハハッ!やっぱり最初は信用されなかったか。無理もねぇよな。俺だって最初に“未来から来た”なんて言われたときは鼻で笑ったからなぁ」


 その声はどこか親しみやすく、若造をからかいながらも本気で気にかけている“おやっさん”のような響きがあった。


 未来の七国が続ける。

 「今見えている通り、御堂さんと繋がっている。こちらからは声だけが届いてる。この時代の御堂さんにも、俺のことを話してある」


 御堂は画面越しに頷き、指先で煙草を弄ぶ仕草を見せる。

 「まぁ、最初は全っ然信じちゃいなかったんだがな。だが、この未来くんが次に起きることを次から次に言い当てやがったんだ。……そこまで言い当てられちまったら、さすがに信じるしかねぇだろ」

 御堂の声には、嘘の混じらない確信がこもっていた。


 「安心しな。お前ら三人の大事な人たちは、今は俺しか知らねぇ病院に保護してある。場所も安全だ。あとでお前らだけに教えてやる」


 その言葉に、倉庫の空気が一変した。


 「……本当、だったのか」

 繰原の声が、かすれた。


 「七国遊人……礼を言う」

 葉倉が静かに頭を垂れる。


 「ありがとう、七国」

 菊上の目にもわずかに安堵の色が浮かんでいた。


 未来の七国は三人の表情を確認すると、井原と物真に視線を移す。

 「さっきも言った通りだ。俺のいた未来では、この三人はカウントダウンイベントで大切な人を失った。その絶望の中で能力に目覚め、生き延び……そして復讐を果たすために、仲間となった」


 「未来では……」井原が呟く。


 「だが、この世界では違った」未来の七国が言葉を重ねる。

 「三人の能力が開放されたのは、あの日──恐竜世界で起きた爆破事件の時だ」


 「……あの時だったのか!」

 七国が驚きの声を上げる。


 「おいおい、お前は事前に全部聞いてたんじゃなかったのかよ」

 物真が呆れたように口を挟む。


 七国は首を横に振った。

 「いや、僕が未来の僕から聞いたのは──“黒服が未来の僕だ”ということ。『物真と井原を守れ』という最優先の指示。そして三人の能力の存在だけだ。詳しい話は……僕も今初めて聞いてる」


 「なるほどな……」

 物真がようやく納得したように小さく頷いた。


 未来の七国が、再び三人に視線を戻す。

 「三人はあの事件で巻き込まれ、能力に目覚めた。大切な人たちは死なずに済んだ。だが……その人達の入院先を何故か知られていたことで脅迫されていた。“殺されたくなければ物真と井原を連れてこい”と」


 その言葉に、場の全員が一瞬息を呑んだ。

 真実の重さが、廃墟の倉庫をさらに重苦しく包み込んでいった。


 「三人のことはだいたいわかった」

 沈黙を破ったのは物真だった。

 

 七国をまっすぐに見据え、問いを投げかける。

 「で?お前はこれまでどこで何してたんだ?未来の自分と一緒に、ただここに隠れてただけじゃないだろ」


 その言葉に、葉倉がふと何かを思い出したように声を上げた。

 「……君も会ってたんじゃないのか?“時間稼ぎはできた”とか、“未来の七国が居なければ作れてなかった”とか言ってただろ」


 物真は小さく息を吐き、肩をすくめる。

 「あぁ、そうだ。俺が会ったのは──8月1日。七国と初めて出会う前日のことだ」

 

 場の全員が息を呑む。物真はその視線を受けながらも、続けた。

 「まだ、この時代の七国のことすら知らなかった俺の前に、突然こいつが現れてな。これから起きることを大まかに教えられた。俺の能力についても全部知っていた。……だから、信じざるを得なかった」


 物真はドリンクを飲みながら続ける。

 「その時に頼まれたんだ。この時代の七国のために“アドバンスアーム”と“黒服”を作っておいてくれってな。黒服の方は仕上げに時間がかかったから、渡せたのはつい昨日だったが……。そこで気づいた。黒服を着ていたのが“もう一人の七国”だってことにも」


 「じゃあ、それ以上のことは?」七国が問いかける。


 物真は首を横に振る。

 「何も聞かされてない。未来のこいつにはこう言われたよ──“いつか話せる日が来る”ってな。てっきり、お前だけは行方をくらましてた間に色々聞かされてると思ってたんだが……」

 

 その視線を受けた七国は、静かに首を振った。

 「僕も同じだ。ここでかくまわれていただけ。未来の僕に言われたのは、“出番が来るまでここにいろ”と、それだけだった。必要以上のことは何も聞かされなかった」


 「そんなことがあったなんて……」

 井原が一息ついて呟く


 「あー、ちなみに君にあげたバングルも、その時頼まれた物だ。まったく……いきなり現れて注文が多くて迷惑なもんだ」物真が七国を見て文句を投げ掛ける。


 そこで未来の七国がゆっくりと口を開いた。

 「ふっ。悪かったよ。ちなみに、この時代の俺が、あの爆破で湖に吹き飛ばされた時……実は俺も、その場にいた」


 「えっ……!?」井原が驚きの声を漏らす。


 「もちろん、この黒服の透明化を使って隠れていた。爆発で湖に落ちたこいつを、すぐに追って飛び込み、人目につかない少し離れた場所で引き上げた。その後は、この倉庫に匿って今日まで過ごさせていた」

 

 未来の七国の声は冷静で、誇張も演出もなく、ただ淡々と事実を語っているにすぎない。だがその一つ一つが、確かな重みを持って胸にのしかかってきた。


 物真が椅子から身を乗り出すようにして、低く吐き捨てる。

 「その場に居たなら、なぜ助けなかった?お前の力があれば、あの爆破野郎を捕まえるくらい造作もなかったはずだ」


 未来の七国はその視線を真正面から受け止め、わずかに首を横に振った。

 「……いや。もし俺が割って入っていれば、事態はもっと最悪な結末を迎えていた」


 「どういうことだ?」葉倉が眉をひそめる。


 「もし俺が介入していれば──ある未来では、この時代の七国は死んでいた。別の未来では、俺が致命傷を負い、未来から来たことも露呈する。そしてその結果、能力者たちは一人残らず狩り尽くされる……そんな未来に繋がっていた」


 場が凍りつく。誰も軽はずみに言葉を差し挟めなかった。


 やがて、物真が低く唸るように呟く。

 「つまり……あの時起きたことが、一番マシな選択肢だったってことか。……またそれも、お前の“勘”ってやつか」


 未来の七国は静かに首を横に振った。

 「いや。少し違う」


 「違うだと?」物真が眉を吊り上げる。


 その瞬間、七国の脳裏に過去の記憶が蘇る。

 ──『誤魔化さなくていい。お前のその力、確か第六感だったっけか。……まだただの勘だと思っているのか』

 初めて黒服の人物──未来の自分と対面した時、投げ掛けられたあの言葉。


 「……そういえば」七国がゆっくりと口を開く。

 「以前、僕の能力が“ただの勘”だと思っているのか、って……言ってた」


 未来の七国は、かすかに口元を歪めて頷いた。

 「そうだ。お前の──いや、“俺達”の能力は、ただ勘が鋭いってわけじゃない。もちろん、単なる第六感とも違う」


 「じゃあ……一体?」井原が固唾を呑み、問いかける。


 未来の七国は言葉を切り、全員を順に見渡す。沈黙が重く流れる。

 やがて、低く、しかし揺るぎのない声で告げた。


 「俺達の能力は──」


 一拍置いてから、その言葉を吐き出す。


 「【全未来視〈オーバービジョン〉】。パラレルワールド上に存在する、あらゆる未来を全て視ることができる力だ」


 その場の空気が一気に震え上がる。

 “勘”でも“予感”でもない。全ての未来を見通す絶対的な力──。

 誰もすぐには言葉を返せなかった。

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