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AUPへようこそ  作者: 谷中シノン


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第29話:壊す者と創る者

第29話:壊す者と創る者


 2024年12月19日 木曜日

 

 夜のパーク、裏通路を歩く物真の足取りは重かった。

 再開したばかりのパーク内で、クリスマスイベントのざわめきが遠くに聞こえる。表の華やかさとは裏腹に、このオフエリアは冷たい闇に沈んでいる。


 「……早く帰りたいってのに、何の用だ?」

 後ろからついてくる足音に、物真は気付いていた。


 ガシャリ。

 振り返った先の前方、照明の切れた廊下の奥から、靴音が響いた。


 通路の奥、薄暗い影の中から男が姿を現す。

 灰色のパーカーに深くフードをかぶり、緑色の瞳だけが光っている。手袋を嵌めたその手は、まるで殺意を宿すように静かに握られていた。


 「君が、物真……か」

その声は柔らかいのに、明らかに威圧感を伴う。


 「やっとこの時が来た」

 その声は低く、乾いた響きだった。


 物真の全身に緊張が走る。

 「……誰だ、お前」


 男はゆっくりと手袋を外す。指先がコンテナに触れると、コンテナの端が崩れていく。


 物真は瞬時に把握する。

 確実に自分を狙っている。敵意は剥き出しだ。

 ここで油断すれば、すぐに有利に立たれる。


 「……やるしかないか」

 物真の手は持っていた鞄の中から防御用に作っておいた展開型の小型シールドを取り出す。


 「はじめまして。俺は葉倉時宗。能力者だ。宜しく」

 薄笑いを浮かべながら、崩れた壁の破片を踏み砕く。


 「創り手、お前の作るものは全部、俺が壊す」


 「俺の事はリサーチ済みみたいだな」


 男の指先が微かに動く。

 「さあ、壊す時間だ」


 葉倉は壁に掛かっていた掲示ボードを引き剥がし、そのまま物真へ投げつけた。

 飛んでくる最中に「ガラガラッ」と崩れ、鋭い破片の雨となって迫る。


 「ッ……!」

 物真は即座にシールドを展開。半透明の光壁が目の前に立ち上がり、弾丸のような破片を次々とはじき飛ばした。


 「ほう……なるほど、盾か。面白い」

 口元に笑みを浮かべながら、葉倉は近くのコンテナに手を伸ばす。指先で軽く叩いた、その瞬間──


 ──バキィィィン!


 分厚い鉄の壁が一気に砕け、中に詰め込まれた木箱や鉄くずが崩れ落ちる。雪崩のように押し寄せる鉄塊の奔流が、通路を飲み込もうとした。


 「チッ……!」

 物真は鞄から携帯型の投擲砲を引き抜き、即座に起動。二日前に組み上げたばかりの即席兵器だ。トリガーを引けば、圧縮エネルギー弾が放たれ、迫り来る木箱を一掃した。


 轟音と閃光が通路を揺らす。

 「へぇ……やるじゃないか!」

 葉倉の緑の瞳が、獲物を追うように細められる。


 火花と破片が舞い散る中、物真は盾を片手に、もう一方で新たな装備を取り出した。

 「次はこれでいくか……」


 投げ放たれた組み立て済み小型ドローンが、空中で展開。

 複数の砲口から光弾を雨のように放ち、葉倉を包囲する。


 「チマチマとうるさいな」

 葉倉は片手を広げる。その手が少し触れた途端、ドローンの装甲が「バラバラッ」と音を立てて崩れ、空中でただの金属片へと変わり果てた。


 「そんな物でも、創るのに時間かかったろ?でも……壊すのは、一瞬だ」

 にやりと笑う顔に、緑の瞳が不気味な光を宿す。


 「くそが……!」

 物真は歯を食いしばった。攻撃は次々と無効化される。

 まだ装備のストックはある……だが、このままでは削られる一方だ。


 物真は深く息を吐き、盾を一旦引っ込めた。

 「まだ終わってないんだよこっちは」


 鞄から次々とパーツを取り出し、瞬時に組み上げる。

 網状の捕縛装置。放たれた瞬間、金属ワイヤーが蛇のように伸びて葉倉へ絡みついた。


 「なにこれ?」

 葉倉の指先がかすかに触れただけで、ワイヤーは「ジャララッ」と音を立て、灰色の砂のように崩れ落ちる。


 「やっぱりか……なら……」

 間髪入れず、物真は二つ目を投げ放つ。

 カッターが四方向から剥き出した回転する小型の手裏剣が、風を切りながら突き進む。


 「くだらん」

 軽く払った手先に触れた瞬間、カッターはバラバラの部品へと変わり、床に散った。


 「少しの傷与える間もなく……か。分解すげぇな」

 次に取り出したのは衝撃波を生み出す携行ハンマー。筒状の物にボタンがついている。そのボタンを押した瞬間、ガチャンガチャンと音を立てながらハンマーが組上がっていく。

 

 物真は床を叩き、爆風を葉倉へ叩きつける。

 だが葉倉は爆風を受け流しながら物真へ近づき、手を伸ばしてハンマーの先端に指先を触れた。


 「ガギィン!」

 金属音を残し、ハンマーは空中で分解し、霧散する。


 「無駄だ。理解できるか?“破壊の前に創造は膝をつく”」

 葉倉の声は愉悦に濡れていた。


 葉倉は床に散らばったドローンの破片を広い上げ、分解させながら物真へ飛ばす。


 物真は悔しげに舌打ちし、再びシールドを展開。

 だが……


 「それすらも無駄だ」

 葉倉の手がシールドを掴んだ瞬間、淡い光が「バチバチッ」と揺らぎ、盾のエネルギー構造が崩壊していく。


 「なっ……!?」

 次の瞬間、シールドは粉々に砕け、光の残滓を散らして消えた。


 「これで、お前は丸裸だ」

 葉倉の緑の瞳が、不気味に光った。

 

 散っていくシールドの間から葉倉の回転蹴りが腹に命中する。

 「くっそ……」


 葉倉は床に散らばる金属片の一つを拾い上げた。

 破壊する力を帯びた指先が触れ、ただの破片がまた形が変わる。その物はまるで鋭い刃のようになっていた。


 「俺の力は生きている者には効かない。だから、そこばかりはこうするしかないんだ」

 口角を吊り上げながら、葉倉はその即席の刃を構えた。


 対する物真は、腹をおさえて荒い息をつきながらも、不意に笑みを漏らす。

 「はぁ、痛い思いする予定は無かったんだけどな……」


 「どういう意味だ?」


 「時間稼ぎはもう充分できたろ」

 言葉を終えるや否や、通路の一角が「ビリビリッ」と激しく歪み、空気が揺らぐ。

 まるでそこに貼られていた透明の幕が剥がされるように、隠されていた存在が姿を現した。


 黒服の人物──フードとマスクで顔を覆い、全身を覆うスーツには淡く光の線が走っていた。

 今まで透明化されていたその人物は、重々しい気配を放ちながら通路の真ん中に立ち現れた。


 「……っ!?どういうことだ?」

 初めて動揺の色を浮かべる葉倉。


 物真は葉倉を睨みながら、姿勢をなおした。

 「悪いな。お前の“壊すショー”は、ここで幕引きだ。力を見せてくれたおかげでデータも充分取れた」


 「……お前は……一体何者だ……?」

 緑の瞳を光らせる葉倉の視線が、今度は黒服の人物へと向かう。

 張り詰めた空気が、さらに一段階、重くなっていた。

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