第27話:再開
第27話:再開
2024年12月14日、土曜日。
空は澄み渡り、冷たい冬の光が園内を柔らかく照らしていた。
七国さんが行方不明となってから、もう四ヶ月が過ぎている。あの日以来、AUPは閉園したままの状態が続き、園内は埃と静寂だけが支配していた。
しかし、その間も世間の関心は薄れるどころか逆に高まっていた。
ワースタ内でも、そしてSNS上でも、AUPの復帰を望む声が次第に大きくなり、署名活動まで行われていたという。
「世間の人間は、本当に手のひらを返すのが早い……」
千里は独りごちる。
暴力や罵詈雑言を浴びせてきた人間たちが、今また園に押し寄せるのかと思うと、素直に喜べる気持ちは半分しかなかった。
そんな人の笑顔を作るために働きたいのではなく、心から楽しみにしている人にだけ来てほしいと思っている。
それでも、復帰を望む声は日に日に大きくなり、園側も年内営業の再開を決定した。皮肉にも、その日付は七国さんが行方不明になった日と同じ12月14日である。
千里の胸の奥には、期待よりも不安の方が強く重くのしかかっていた。
爆破事件からまだ四ヶ月しか経っていない。安全面の不安、事件の記憶、そして何より、園に戻ることでまた何かが起きるのではないかという恐怖。
だが、AUPを愛する気持ちは確かに残っている。
目の前に広がる園の景色、修復されたアトラクション、きれいに掃き清められた通路、冬の陽光に照らされる園内。それらを見て、千里は小さく息をついた。
「嬉しい……でも、やっぱり心配の方が大きいな」
閉園中、園を守ってきたスタッフたちは忙しく準備を進めていた。消火器や安全装置のチェック、アトラクションの試運転、園内の掃除……どれも必要不可欠な作業だ。
千里も、その中の一員として、再開初日の任務に緊張しながら歩を進める。
園の外の門は開かれ、開園を待つ人々の期待がすでに空気に溶け込んでいた。
準備は整った……今日からまた、AUPが動き出す。
胸の奥に少しずつ勇気を集めながら、千里は深呼吸をひとつ。
今日という日が、何事もなく無事に過ぎることを願いつつ、パークの入口に足を踏み入れた。
人でごった返す園内。井原はスペーシアンショップで笑顔を絶やさずに動き回っていた。
「久しぶりだなぁ~本当に、楽しい!!」
店内も品物が見えなくなりそうな程の人混み。だが、そんなことは彼女の苦にはならない。最早パークの再開と人々との再会を喜ぶ理由にしかなっていなかった。
「井原さん、ほんとすごいねぇ。私はもうおばさんやから体力もたんわ……」橋本さんが感心しながら話す。
「皆さんの分も、私、頑張りますから!」
笑顔で返すと橋本さんは嬉しそうな表情を見せた。
その時だった。足に小さな手がしがみついてくる。
振り向くと、涙で顔をくしゃくしゃにした女の子が立っていた。
「どうしたの!?大丈夫?」
「……ママが、いないの」
「そっか……。よしっ!じゃあ一緒に探そっか!」
「井原さん、品出し私が変わるから迷子対応そのままお願いしても良い?」
相変わらず、橋本さんの素早い対応にはいつも救われる。
「はいっ!もちろんです!」
千里はしゃがみ込み、女の子と目線を合わせて優しく声をかける。
今日はママと一緒に来ていたらしい。服装等の特徴を聞き、手を握りながら、近くのベンチやショップを回ってみる。
だが、母親の姿は見当たらない。
……こんな時、七国さんなら“勘”ですぐ見つけれたりするんだろうなぁ。
「……見つからない。迷子センターに連絡してみようかな」小さく一人言をこぼした時だった。
「ちさお姉ちゃん、私の力なら見つけられるかも」
隣に居たなでしこが声を発した。
人混みの中で超能力を使うわけにはいかない。
目の前の子供が不安そうに千里の袖を握っている。
今一人にしてしまうわけにはいかない。でも、念写のためのチェキカメラは裏にある……。
「あの!すみません、葉月さん」
同じ品出し係だった葉月さんが偶然通りがかった。
「一瞬だけ、この子見ててもらっても良いですか?」
女の子を葉月さんに任せ、千里は裏のオフエリアに入り込む。
ロッカーに入れていたチェキカメラを取り出し、なでしこに隣から念じてもらう。
「なでしこ……お願い!」
「任せて」
しばらくして一枚のチェキが撮られた。
出てきた写真に写っていたのは園内の噴水広場。
ベンチに腰掛けている、焦った表情の女性が見えた。女の子の証言と同じ服装をしていた。
「……見つけた!」
「ありがとう、なでしこ!」
再びショップ内へ向かい、葉月さんにお礼をする。
千里はすぐに上司へ無線で連絡を取り、女の子を連れて噴水広場へ向かった。
母親が娘を見つけて泣き笑いしながら抱きしめた瞬間、千里の胸もじんわりと温かくなった。
「よかったね!……また一緒にいーっぱい遊んできてね!」
「うんっ!ありがとー!!」
「ありがとうございます。本当に助かりました!」
「いえいえ!」
母娘の背中を見送りながら、千里は隣にいるなでしこへ小さく呟いた。
「ありがとうね。なでしこ」
井原は少し戸惑いを見せる表情だった。
「ううん。いいよ!でも……、どうかしたの?」
「なでしこの力……。誰かのためなら、使ってもいいんだよね?」
「うん。だって、私利私欲じゃない。誰かの笑顔のためだもん」
パークの喧騒の中、二人だけの会話は静かに溶けていった。




