第24話:恐竜事変
第24話:恐竜事変
──恐竜世界・オンエリア─────────────
時刻は14:50。頭に浮かんだのは“15時”──猶予はわずかしか残されていない。
恐竜世界ではちょうど水浴びイベントの真っ最中。
湖を背景に恐竜たちが豪快に水しぶきをあげ、観客たちは歓声を上げてスマホを掲げている。
今日の来園者予測は五万五千人。しかも今はイベントで人波が一点に集中。
首にタトゥーのある男を捜すどころか、どこを見ても人の群れ。
「どこだ……! 必ず近くにいるはずだ!」
奴の狙いは恐竜ロボの爆破。
ああいう狂気の人間は、必ず“自分の起こした惨劇”をその目で見届ける。
だから、絶対にこの場所に──。
「ねえママ、あの恐竜さん……イタイイタイなの?」
無邪気な子どもの声が耳に入った。
「え?どうして?」
「だってね、お口“んー”ってなってるし……ずっと下向いてるんだもん。」
指差された先の恐竜を見やる。
確かに。首が不自然にガクガク揺れている。動きも明らかにおかしい。
嫌な予感が脳裏をかすめ、反射的に腕時計を見る。
時刻は──14:59。
「……ダメだ!!!」
「みんな!!逃げろッッ!!!」
絶叫した。
しかし──。
「え?」「なんだ?」「変なやついるぞ」
「Whats?」「おもろ、暑さでやられてんちゃう?」
観客たちはざわつくだけで誰一人動かない。
「信じろ!本当に危ないんだ!!!」
必死に叫んでも、耳を貸す者はいない。
「君……恐竜はね、作り物なんだよ(笑)」
近くの男が冷ややかに笑う。
「ちがう!そうじゃなく──」
「……ゲームオーバーだ、七国。」
背後から声がした。
咄嗟に振り返ると、群衆の中に奴が立っていた。
そして、その背後の壁に埋め込まれた時計が──15:00を指していた。
「お前……っ!!」
「“俺たち”の勝ちだ。」
ドーーンッ!!!
轟音が園内に響き渡った。振り向く間もなく、さらに──
ドーーンッ! ドーーンッ!!
立て続けの爆発音が人々の声をかき消す。
凄まじい熱風と衝撃波が観客を吹き飛ばし、地面に叩きつけていく。
恐竜の爆発は止まらない。
次々と連鎖し、被害は拡大するばかりだった。
「やめろおおおおお!!!!!」
絶叫も、ドーーンッ! ドーーンッ! ドーーンッ!
鳴り止まぬ爆発に掻き消される。
周囲の建物や機材まで巻き込まれ、崩壊していく。
「うわあああああ!!!」
「やだっ!離して!こっち来ないで!」
「痛いよおおおお!」
「誰か!助けて!」
「逃げろーーー!!」
「邪魔だ!どけええ!!」
「ぐはっ……!」
「こっちだ!走れ!」
「慌てないで!こちらへ避難してください!!」
怒号と悲鳴が入り乱れる。
転倒した人を踏み越えて逃げる者、子どもを抱えて泣き叫ぶ母親、必死に無線で指示を飛ばすスタッフ。
恐怖と混乱は一瞬で伝染し、パニックは制御不能に広がっていた。
恐竜の至近にいた観客たちは爆炎に呑まれ、地面に横たわる。生死はわからない。崩れた建物やオブジェに挟まれ、血の匂いが立ち込める。
……防げなかった。
わかっていたのに……僕には見えていたのに……。
「七国遊人ぉ……」奴の声が響く。
「お前はもう噂の人間だ。この前も事件を解決して……まるで英雄にでもなった気でいるんじゃねえか?だがなぁ──英雄ってのは、“英雄になろうとした瞬間”に英雄じゃなくなるんだよ。」
「……ざけんな……」
「今回の惨劇は、お前が余計なことをしたから起きた。恨むなら、自分を恨めぇ!」
「ふざけんなああああああ!!!」
僕は左手を地面に向ける。
《カセットリード フウライノガレン キドウ》
風の力をバネに、奴の方向へ──空へ跳ぶ。
煙と人混みに覆われた地上も、空からなら視界が開ける。
「一回死ねッ!」
勢いを乗せ、右拳を振りかぶる!その時。
ブゥゥゥン……!
耳障りなモスキート音とともに、巨大なドローンが目前に現れた。
「こういうこともあろうかと……遠隔武器も用意してるんだよなぁ、俺は。」
ドーーーーーンッ!!!
至近距離での爆発。
衝撃をまともに食らい、僕の身体は背後の湖へと吹き飛ばされる。
どこまで飛ばされたのかもわからない。
バシャァンッ!
爆炎に弾き飛ばされた身体は、巨大な湖面を割って沈み込んだ。
一瞬で全身を冷水が包み、爆発の熱で焼けた皮膚に突き刺さるような痛みが走る。
体勢を立て直せぬまま、冷たい水に沈み込む。
耳の奥では、ゴウゴウと水の音が響く。だが次第にその音すら遠ざかり、代わりに自分の鼓動だけがやけに鮮明に鳴り響いた。
ドクン……ドクン……ドクン……。
視界がにじみ、赤と黒の点が瞬く。
浮かんでくるのは、爆発で血を流した人々の顔、叫び声……そして……奴の不敵な笑み。
爆発のダメージで、泳ぐ力すら残っていなかった。
必死に手足を動かそうとするが、何度も爆発を浴びた身体は言うことを聞かない。
身体は鉛の塊のように重く、沈んでいくばかりだ。
(奴を……捕まえ……な……いと………………)
意識は、闇へと溶けていった。




