第23話:カセットVS電池
第23話:カセットVS電池
2024年8月14日(水) 天候:晴れ
来園人数予測:55,000人
夏本番。僕たちワースタにとっては体力勝負の時期だ。
園内の各エリアでも水を使ったイベントが盛り上がっている。
恐竜世界:恐竜の水浴びショー
戦国世界:水鉄砲合戦
宇宙世界:水星キャラ「ミズボシくん」のイベント
未来世界:エリア全体に水が舞う演出
魔法世界:涼しい雪魔法の演出
映像世界:新アニメ『パイレーツゾルダ』とコラボ
遊戯世界:そのアニメ原作ゲームとのコラボ
お盆シーズンと重なり、AUPは連日大盛況だった。
オフエリアにて。
「いやぁ、ほんと暑いですね。お疲れさまです。七国さんもドリンクですか?」
声を掛けてきたのは坂下くん。僕と同じ店舗に所属する学生アルバイトで、この時期以外はシフトがあまり重ならない。人懐っこい性格で、誰にでも気軽に話しかける。その柔らかい雰囲気は、ちょっと羨ましいくらいだ。
「僕はさっき外のカートだったから、今休憩中。あと20分くらいだけど。」
「なるほどっす。ほんと、こういう時は給料上げて欲しいっすよね~。」
裏の休憩所には熱中症対策でドリンクサーバーが各所に設置されていて、屋外勤務のあとは30分のクールダウン休憩がもらえる。
「そういえばさっき、フレンズさんに聞いたんすけど。恐竜イベント、13時の回も中止だったそうすよ。」
「へぇ、またメンテ?」
「じゃないすかね?理由までは聞かなかったですけど。」
恐竜の水浴びイベントは午前中も中止になっていた。
どうやら午後も同じようになるだろう。
その時だった。
また、あの「映像」が頭に流れ込んできた。
──デジタル時計の表示 15:00
──複数の恐竜
──そして地面に広がる、複数人の血
ゾクリと背筋が冷える。
慌てて腕時計を見ると、針はまだ13時15分を指していた。
「どうしたんすか?七国さん」
「え、あぁ……なんでもないよ。」
口ではそう答えたが、心臓は早鐘を打っていた。
15時に流血……嫌な予感しかしない。
おそらく今日、このパークで起こることだ。
幸いシフトは14時で終了。だが、終業後に地下のオフエリアへ戻り、着替えて裏口から園内に入ったとしても……どう計算しても20分以上はかかる。間に合わない。
視線を横にやると、壁際の電話が目に入った。
あれしかない。正直気が進まないが。
受話器を取り、内線を回す。
「奏多か? よかった、繋がった……頼みがある。」
奏多──支配人の息子であり、本部勤務。社員の中でも特別に専用電話を持っている。かつて同じ現場で働いていた頃に番号を聞いておいて、本当に良かった。
今の彼は「恐竜世界」のアトラクションに配属されている。つまり、今回の予感と直結する場所だ。
「──────────」
「!?……すぐじゃないとダメなのか?」
「あぁ。頼む、時間がないんだ。」
14時。僕は私服に着替えを済ませ、恐竜世界のオフエリアにいた。
奏多のおかげで、本来なら無理だった時間を丸々1時間、余裕を持って動けるようになったのだ。
電話でのやりとりを思い出す。
「え!?早退させてほしいって……いやいや、今部署違うからな俺!難しいだろ……。普通に体調理由で早退じゃダメなのか?」
「パーク内を動く必要がある。早退じゃ見つかった時に面倒だろ。」
「すぐじゃないとダメなのか?」
「あぁ、そうだ。頼む。時間がないんだ。」
「……わかった。じゃあ俺から本部に“作業を頼んだ”ことにしておく。退勤は15時付けにしておくから、君はすぐに動け。」
「何から何まで、本当に助かる。」
「また誰かのため、なんだろ。気にするな。」
「さんきゅー。また今度奢るよ。」
相変わらず、奏多の判断は早い。
与えられたこの時間を、絶対に無駄にはできない。
恐竜が普段待機しているのは、イベントスペース裏の18番倉庫だ。
恐竜は機械仕掛けのロボットとはいえ、造形や質感は本物そのもの。停止していても、間近で見ると圧倒される存在感がある。
散歩、バトル、そして夏限定の水浴びイベント……恐竜世界の目玉の一つで、いつも人だかりが絶えない。
倉庫の中にはティラノ、トリケラ、ステゴ、ラプトル、アロサウルス……さらに恐竜の子どもや卵まで、ずらりと並んでいた。
外観を見る限り、異常はない。
だが……さっき見えた「ビジョン」の背景とは、どこか違う気がする。
その時だった。
「おやおや、おやおやおや?おかしいなぁ、ここは関係者以外立入禁止のはずだが?」
背後から声。
口調は妙に芝居がかっていて、まるで僕が来ることを知っていたかのようだった。
直感で理解する。──“敵”だ。
振り返りざまに言葉を返す。
「すみません。恐竜世界のアトラクションで働いてる友人に用があって……迷いこんだみたいです。」
「あー、めんどくせぇ。そんなのはどうでもいいんだよ。七国遊人よ」
そこにいたのは、首筋にタトゥーを入れた男。
明らかにAUPのワースタではない。
「やっぱり……僕が狙いか。」
「“狙い”ってのは少し違うなぁ。けど……釣れた獲物は、ちゃんと始末しとかねぇとな!!!!」
ドオオオォォンッッッ!!!
タトゥーの男が手のひらをこちらに突き出した瞬間、背後で爆発が起きた。
直撃は免れたが、爆風に煽られて前へ吹き飛ばされ、男の目の前に転がってしまう。
「ぐっ……いっ……何が……」
体を起こして振り返ると、ステゴサウルスの頭部が木っ端みじんになっていた。
爆弾……?いや違う。これは──。
「お前の……力か……!」
「さすが勘がいいなぁ、七国ぃ。……で?お前は俺をどう止めるつもりだ?」
「どうって……決まってんだろ!」
僕は両手首を打ち合わせる。
シュインッ──透明化が解除され、腕に装甲が展開する。
《バトルモード キドウ》
ポケットからカセットを取り出し、右手の装甲に差し込んだ。
《カセットリード モンスターピンボール キドウ》
指先に空気の塊が生まれ、膨張し、やがてピンボール玉ほどの大きさになる。
僕はそれを男に向けて突き出した。
「シュートッッ!!!」
空気の弾丸が勢いよく発射される。
だが、男は難なく身をかわし、背後の壁をえぐるだけで終わった。
威力は十分。けれど、真正面からぶつけるのは無理がある……!
「なんだぁその力は!?わけわかんねぇ上に、全ッ然使いもんにならねぇなァ!!!」
嘲笑する声を無視し、僕はもう一つカセットを抜き出し、今度は左手の装甲に差し込む。
《カセットリード フウライノガレン キドウ》
左手の平を突き出し、奴に狙いを定める。
「話を聞きたいが……その前にぶっ飛ばす!」
ドォッ!
手の平から放たれた風圧が地面を削りながらタトゥーの男へ迫る。
「チッ、次から次へと……くだらねぇ!」
奴はポケットから大量のボタン電池を取り出し、風圧に投げ込んだ。
ボンッ!ボンッ!ボンッ!
小爆発が連鎖し、僕の風圧はあっさり打ち消された。
──恐竜の頭も、ボタン電池も……そうか、奴の力は……
「電気か」
ニヤリと奴が笑う。
「正解。“電気爆発”。電気が流れるものなら、なんでも爆発できる。痺れる俺に合う最高の能力だろ?」
「自分で“痺れる俺”とか言っちゃう奴に、ロクなのはいねぇな」
「フン……まぁいい。それより、お前気づいてるか?」
「……何が言いたい」
「この恐竜たち、イベント用は2体ずつ造られてるんだ。ここにあるのは片方だけ……もう片方はどこにあると思う?」
「なっ……!」
嫌な予感が脳裏を走る。急いでスマホを見ると、時刻は14時半を回っていた。
「そうそう。朝からイベントは中止続きだろ?お客さんにはちゃんとサービスしないといけねぇからなぁ……」
「まさか……!」
「本来15時開始の恐竜イベントを──30分早めてやったんだよ」
「なんだと……!?」
どうしてこいつにそんなことができる……?
男はニヤつきながら一歩近づく。
「さて……ところで。俺の能力、覚えてるよなあ?」
──電気の流れる物なら、なんでも爆発できる
恐竜は機械仕掛けのロボット。全身に電気が流れている。
つまり、奴の能力なら──。
「やめろォ!!!!!」
「フハハハハ!! さぁ、急がねぇと!何人死ぬか分かんねぇぞォ!!!」
奴はまたしてもボタン電池をばら撒いた。
ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!
連鎖爆破が一気に迫る。
避けたつもりでも範囲が広すぎた。
クロスした腕でガードを取るが、爆風の勢いに飲まれ、僕は後方へ吹き飛ばされる。
「ここは普段、恐竜イベントのリハーサルをする場所らしいな。防音バッチリだ。そして扉にはこれだ」
奴が見せたのは一枚の紙。
『リハーサル中につき立入禁止』
「……それは……!」
「そう、嘘の張り紙で人を遠ざける。お前のやり口だよなぁ?」
「なぜ知ってる……!?」
「さぁな。で?どうするよ、俺をどう止めんだ?七国!!」
バンッ!
奴が構えたのは拳銃。だが飛び出したのは弾丸ではない。
「乾電池……!?」
ドォンッッ!!!
乾電池が爆発。ボタン電池より威力が強く、避けきれず直撃を受けてしまう。
「ぐっ……くそ……」
「ハッ! この程度かよ。期待外れだなァ!」
だが僕は立ち上がり、装甲へカセットを叩き込む。
《カセットリード》
「……なにっ!?」
《フウライノガレン キドウ》
《モンスターピンボール キドウ》
左手の平を背中に向け、一気に風圧を噴射!
その勢いで奴の懐へと突っ込む。
「この距離なら避けられねぇだろ!!」
右手に読み込ませた《モンスターピンボール》を奴の腹へ突きつける。
「シュートォォォッ!!!」
五指から放たれた空気のピンボール玉が零距離で炸裂。
バシュンッ!!
直撃を受けた奴の体がくの字に折れ、倉庫の壁まで吹っ飛んでいった。
強烈な手応え。
「言ったはずだ。ぶっ飛ばしてから、話を聞くってな」
歩み寄る僕に、奴は不敵に笑った。
「ククク……ハハハハ! バカが!!」
奴が恐竜たちへ手をかざす。
まさか――!?
ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ!
倉庫内の恐竜ロボが次々に爆発。
爆炎で壁が吹き飛び、建物が崩れていく!
「……っ!!」
視線を奪われた隙に、腹へ鋭い蹴り。
「ぐはっ!」
続けざまに振り上げられた右足が、七国の頬を強烈に捉える。
「ぐっ……!!」
視界が揺れ、床へ叩きつけられる。
「俺のショーは!!これからだァァァ!!!」
奴は崩れる倉庫を抜け、オンエリアへ走り去った。
「行かせるか……!」
だが天井や柱が雨のように落ちてくる。
すべては避けきれず、肩や脚を削られ、全身は痣と切り傷だらけだ。
それでも──。
「追いかけねぇと……!」
膝が折れそうになるのを必死にこらえ、一歩、また一歩。
僕はオンエリアへ向かって歩を進めた。




