第22話:ゲームカセット
第22話:ゲームカセット
先ほどの通路を離れ、人通りの少ない場所へ移動した。
目の前には──名前もまだ知らない、天然パーマの男。
「お見事、と言うべきかな。さすが噂の人だ。」
「……まずは名乗ってもらえませんか?」
敵意は感じないが、どうにもマイペースな人だ。
まぁ、僕も人のことは言えないけど。
「あぁ、失礼。俺は物真探流このパークの“ゲーミングフィールド・プレイ広場”に所属している」
「物真さん……。じゃあ、なぜ僕のことを? それに、あの装甲を渡してきた理由は?」
物真はにやりと笑った。
「俺にも能力がある。さっきの礎斎と同じようにな。名前は**『創造明確』**。作りたいと思ったものの作り方を瞬時に理解し、実際に創造できる能力だ。」
「じゃあ……もしかして、物真さんも怪我を?」
「あぁ。二週間前、このパークで怪我を負った。それがきっかけで能力が身についた。」
やはり。能力の発現条件の一つは「怪我」。これは確実な線だ。
「お前に渡したそれも俺が作った。安心しろ、GPSも盗聴機能も仕込んじゃいない。ただのカセット対応アーム武器、そうだな、名付けるなら『アドバンスアーム』だ。差し込んだカセットの内容に応じて技を発動できる」
そういえば、手の甲には透明カバーのついた収納部があった。
僕はボタンを押し、そこに収まっていたカセットを取り出す。
「……これ、ゲームのカセット?」
懐かしい。タイトルは『風来のガレン』。5と6を遊んだ記憶がある。
「そう。ゲームボーイアドバンスのカセットだ。ソケットに差し込めば、カセットに応じた技を使える仕組みになってる。」
だから『アドバンスアーム』というわけか。
というか、さらっと言うが……これ、かなりの発明じゃないか?
「ちなみにさ、お前が子どもの頃好きだったカセットは?」
「え、あぁ……僕は『幻想のスタミィ』かな。」
「いいね、センスあるじゃん。──ほらよ。」
そう言って、物真はカセットが10本ほど入ったケースを手渡してきた。
「お前にそれを渡した理由はデータ収集のためだ。」
「データ?」
「そうだ。発砲事件の動画に映っていた人物の一人……あれはお前だろう。雰囲気が一致している。」
──否定しても面倒になりそうだ。ここは黙っておこう。
「今回の件も含めて、お前は事件を呼び寄せる“縁”を持っている。これからも首を突っ込むことは増えるだろう。」
……好きでやってるわけじゃないんだが。
「だから渡した。お前が使えば、俺は有効なデータを得られる。お前にとっても俺の作品が役立つ。ちなみに、そのカセットはゲームとしてもちゃんと遊べるぞ。ゲーム好きならついでに遊んでみろ。」
……家にGBAかSP、まだ残ってたっけな……。
「以上だ。」物真が立ち去ろうとする。
「待って。」
思わず引き止める。まだ聞きたいことがあった。
「物真さんも、この事件を追っていたんですか?」
「この騒ぎは全部このエリアで起きている。興味本位ってのもあるが、いくつかの作品を試す機会になりそうだと思ってな。」
本当に試したいだけなのか……?他にも何かありそうだが。
それに“いくつかの作品”って……他にどんな発明品を隠してるんだ。
「それで、なんでここに僕らがいると?」
「礎斎に仕掛けておいた盗聴器からお前の声が聞こえた。」
「……そこで盗聴器か。」
物真は悪びれず続けた。
「礎斎が“仕事”を終えてすぐのタイミング。場所もオフィスからそう遠くないと踏んだ。それに、この時間には貼られているはずのない貼り紙が通路にあった。それでここだと確信した。」
つまり、事件の全容も盗聴器経由で把握していたというわけか。
「お前ほどの推理力はないが、このエリアの誰かだろうとは予想していた。
社員の私物に盗聴器を仕掛けておけば、情報は勝手に入ってくる」
……僕が言える立場じゃないけど、それ、完全にアウトだろ。
「よくそんなの仕掛けられたな。」
「勤務服は毎日返却するから、服には仕込めない。だから、礎斎の私物のボールペンを以前借りるフリをして、盗聴器付きのものにすり替えておいたんだ。実行犯本人だとは思わなかったけどな」
「で、入ってくるタイミングも狙っていたと?」
「電気の流れる音がしてな。乱入するなら今だ、と思った。いやぁ、すんなり使ってくれて助かったよ。」
あの場面では自己防衛のため、仕方なく使わざるを得なかった。
「なるほど。で、これは貰っておいていいのか?」
この武器は今後も使えそうだ。
「あぁ。ただし、悪用はするなよ。」
社員に盗聴器仕掛けるような人に言われたくないけど。
「そのアームは手首部分内側のパネルを3秒長押しすれば、見た目はほぼ普通の手袋になる。もう一度押すと透明モード。使うときは指でワンタッチか手首同士を合わせればバトルモードになる。記録データも自動的に取得される」
言われた通り操作すると、アーム全体に指先から手首に向かって光線が走り、一瞬スキャンされるような演出の後、普通の黒手袋の見た目に変わった。
もう一度押せば透明になり、自分の手が見える。
手首のパネルも薄く見える。これは便利だ。
AUPの仕事では無地の白か黒の手袋なら着用可能。
夏場で手袋なんてしていれば目立つし、透明モードをデフォルトにしておこう。
「それと、これが俺のメールアドレスだ。必要以上の連絡はするな。じゃあな。」
物真はメモを差し出すと、すぐに去っていった。
……マイペースな人だ。
とにかく、これで今回の事件は一段落。僕も戻るとしよう。
戻ったのは20時前。
物真さんが去ったあと、モデルガンも元の場所にしっかり返し、すぐに店舗へ向かった。
1時間以内に戻れて良かった。あまり離れすぎて、他の人に迷惑をかけるわけにはいかない。
「おかえりなさい、七国さん。」井原さんは品出しをしながら声をかけてくれる。
「その顔は……解決したってことで間違いないな」
奏多も全てを察したかのように言った。
「二人のおかげだ。ありがとう」
今回の事件は、奏多の手回しと井原さんの能力があったからこそ解決できた。
そのおかげで、良い収穫もあった。
黒服の人物に関する手がかりは得られなかったが、能力を得るための条件が一つ明確になったことは大きい。
そしてついでに、この武器も手に入った。
しかし、能力者が立て続けに、しかもこのパーク内で見つかっていることには、何かの予兆めいた嫌な予感がする。
今後は警戒を怠らず、井原さんにも注意を配りながら行動しよう。
その後の仕事は何事もなく無事に過ぎ、いつも通りに勤務を終えた。
さて、帰ったら何か気分転換でもしよう。
……そうだ、あれがあったな。
帰宅すると、棚の奥にしまってあった段ボールを引っ張り出す。
目当てのものはすぐに見つかった。
ゲームボーイアドバンスSP、しかも限定カラーエディションだ。
「さて、どんなラインナップかな。」
物真から渡されたカセットを並べていく。
『風来のガレン』
『モンスターピンボール』
『ファイヤーエンドレス』
『パワリロくんポケット』
『マサオテニス』
『シャドウクエストGBA』
『バトルリリカル』
『ミラージュアドベンチャー』
『サイコパペット』
『幻想のスタミィー3』
あった。幻想のスタミィー。しかも3だ!
これはやるしかない。
SPを充電器につなぎ、電源を入れる。
懐かしい「ピコーン」という起動音が響き、胸が一気に高鳴る。
平成レトロなポップさが、事件解決のご褒美みたいに思えて、最高の気分だ。
それにしても……。
アーム武器のために渡されたこのカセットたちも、そして超能力も結局は同じことが言える。
「……得たものを、何のために使うか。それが大事なんだよな」
独り言をこぼしながら、僕はひとりゲームの世界に没頭する。
ゲーム。最っ高だ。




