第19話:共通点
第19話:共通点
───8月2日 17:00───────────────
僕と井原さんは、休憩時間を利用して一緒に食事をとることになった。
さすがに職場のオンエリアで「幽霊とパートナーになっちゃったんです」なんて話を長々と続けるわけにはいかない。
周囲や上司の目もあるし、その場は切り上げ、休憩で改めて聞くことにしたのだ。
本来なら誰かと食事を共にするなんて僕には無縁の選択肢だが──今回は仕方ない。この時間しかなかった。
「今日のメニューは……ご飯はカツ丼! 麺はうどん! 定食は天ぷら定食!あ、アラカルト……コロッケ売り切れですね。でもミンチカツもいいなぁ。あ、私サラダバー取ってきます!」
食べるの大好きっ子ぶり。
少食の僕からすれば、口にしただけで腹がいっぱいになりそうだ。
「俺は……ホットドッグとポテトにしようかな」
それにコーンスープがついた週替わりの“アレックスメニュー”。このセットで300円という安さはありがたい。
席につき、ポテトをフォークでつまみながら本題に入る。
「で。幽霊とパートナーって、どういう意味?」
「この前、私、撃たれたじゃないですか。その後、病院で目を覚ます前に夢を見たんです」
「夢?」
「はい。和服を着た女の子が出てきて、その子にカメラを渡される夢です」
斬新すぎる夢だ。
「で、目が覚めたら……本当に手元にあったんです。このカメラが」
井原さんが鞄から取り出したのは、黒いチェキカメラ。
パーク内でもよく見かける、ごく普通のものに見える。
だが──買った覚えはないらしい。
「なんかラッキーな話じゃないですか」
「そうでもないんですよ! 目を覚ました時に、まず七国さんは無事かなって思ったんです。……そしたらいきなり“カシャッ”てシャッター音が鳴って」
何だ、このじわじわくるユルいホラー展開は。
「その時、出てきた写真があるんです」
一枚の写真を見せられた。そこに写っていたのは、仕事中の僕と──もう一人の男性。見間違えるはずがない。ウィザバラ勤務の時に接客で話した、西馬さんだ。
「え……これは……」
おかしい。あの時、井原さんは入院中。まして周囲にカメラを構える人などいなかった。となれば、この写真は井原さんの言うとおり──病室から写し出されたもの。つまり……。
「念写……ってやつですかね」
井原さんは6月28日から30日まで眠り続け、目覚めたのは7月1日。それは僕が西馬さんと話した日と一致する。
銃弾ひとつでそんなに眠るものなのか……?
まぁ、細かいことはいいか。
「やっぱりそうですよね!信じてくれてありがとうございます」
「確かに嘘っぽくはないですし。あの場で写真なんて撮れるはずもないですから」
「嘘っぽくないっていうのは……また“勘”ですか?」
サラダをムシャムシャしながら井原さんが尋ねる。
「まぁ、そんなとこです」
「で、その幽霊とパートナーって話は、どう繋がるんです?」
「今も、隣に居るんです」
……誰が? ますますわからなくなってきた。
「信じてもらえるかわからないですけど、その女の子は病室の時からずっと私のそばにいるんです」
「幽霊が隣に……。取り憑かれてるってこと?」
「どうなんでしょうね。名前は“なでしこちゃん”。今も隣に座ってます」
……ちゃん付け?取り憑かれてるにしては、やけに仲良さそうだ。だが、井原さんからはやっぱり嘘の気配がしない。
「なでちゃん曰く、この念写の力も彼女の力だそうです」
「なるほど……」
「名前もあって。“念憑霊力”。病室で目が覚める時に頭に浮かんで、それ以来ずっと忘れずに覚えてるんです」
「なるほど。それっぽい名前だな。まぁ納得できなくもない」
第六感の力を得た時、僕にはそんな名前が浮かんだ記憶はない。けれど──それは今は置いておこう。
「こんな話のために時間をもらって、ありがとうございます」
「いや、大丈夫ですよ」
時間を割いてよかった。
僕自身の第六感は、昔このパークで大怪我をしたことがきっかけで身についたもの。
──それに、おそらく今回の目的は達した。無駄に話す意味や時間はない
黒服の人物が口にしていた“目的”とは、井原さん自身のことだったのか……?
彼女が“目的そのもの”──そう考えると筋が通る。
それに、それだけではない。
──……琴葉さん。あ、お相手なんですが、少し前にこのパークで怪我をしたみたいなんです。
──彼、この前大怪我をしてしばらく休んでたんだけど
笹松さんは怪我を負ったのち、行方不明。
土岐くんは大怪我を負い、その後自殺。
怪我をした者は、例外なく姿を消している。
偶然とは思えない。
そして井原さんは、銃撃を受けたことで、幽霊と念写の力を得た。
……話の筋道が、変わってきたかもしれない。
彼女をこれ以上巻き込むべきではない。けれど、目を離すのも危険だ。
これからどう動くかは後で考えるとして──今は。
「井原さん。ひとつ、お願いがあります」
「え、はい!なんでしょう?」
「その……なでしこちゃん?の“念写”で、試しに写してほしいものがあるんです」
「写す……?一体、何を?」
「それは……」




