第18話:面白がる者
第18話:面白がる者
話をまとめると、こうだった。
女性達は先ほどまでゲーミングフィールドのプレイ広場で遊んでいた。
遊んでいたのは『ボトルバーン』というゲーム。並んだ6本のボトルを5球のボールで倒し、1回でも全て薙ぎ倒せばクリアとなる。
成功者にはぬいぐるみ、失敗者には缶バッジが景品として渡される。
女性達はクリア景品よりも、チャレンジ特典の缶バッジを狙ってプレイしていた。
その時、隣の子ども達が何度挑戦してもクリアできず、一人の子が泣き出してしまった。
可哀想に思い、少しお節介かもと思いながらもコツを教えようとしたところ、その子の鞄の上に、さっきまでなかったぬいぐるみが急に現れた。
突然ぬいぐるみが置かれる──まさに、連日続く“季節外れのサンタ”事件そのものだった。
だが、これまで朝礼や報告で聞いてきた情報には、幽霊の話など一度も出てこなかった。
「それで、幽霊というのは?」
「ぬいぐるみが置かれる直前のことです。子ども達の後ろで、人が急に消えるのを見たんです」
「ね、絶対に見間違いか、他のフレンズさんを見失っただけですよね……こんなの」
確かに、普通ならそう思うだろう。
昼間の明るい時間に幽霊を信じる人はほとんどいない。
話はそこで終わった。
すぐに対応できる内容ではないため、「上に報告しておきます」とだけ伝える。
正直、これだけでは女性達の気持ちを救えたとは言えない。せめてもの気持ちとして「気を取り直して、この後もパークを楽しんでくださいね」と声をかけ、手元のENJOYシールを渡した。
ENJOYシールは日替わりで絵柄が変わるシールで、今日の絵柄はゲーミングフィールドのキャラクター。
ちょうど遊んできたばかりの彼女達にぴったりだった。
「おおー!初めてもらえた!」
「あの……本当にありがとうございます」
大したことにはならないと思っていたが、女性達は意外と嬉しそうに受け取ってくれた。
「いえ!楽しんでくださいね」
「はーい!お兄さんありがとー!」
「ありがとうございます。行ってきます……」
「行ってらっしゃい!」
見えなくなるまで手を振って見送りながら、心の中で考える。
幽霊の話をそのまま上司に報告できるはずもないが、気にはなる。何とかして外に出る機会をもらえないものか。
「行ってきたらどうだ?」
振り返ると、声の主は赤城奏多だった。
「いやいや、仕事中やから」
奏多は支配人の息子であり、本部所属の人間。
今はショップやフード、アトラクションなど各部署を実際に回って勤務体験をしている。
本部側の立場でありながら現場の気持ちを理解するためらしい。なかなか大変な取り組みだ。
彼は29歳、僕とそう変わらない年齢。
背が高く、細身で、顔はイケメン。しかも仕事もできる。
人間関係や恋愛では、僕とは違う意味で苦労していそうだ。
「俺がこの店舗に来て一週間。勤務がよく被ってるから、七国くんのことを見ていてわかるんだ」
「たかが一週間だろ」
「ええ。でも、それでもわかることは多い。七国くんは、面倒に思っていても、それをフレンズや仲間の前で決して表に出さない。とかね」
「それは仕事だから」
「それだけじゃない。人を想う気持ちがある。それと……好奇心も」
「好奇心て……」
「君が動くのは、誰かのためを思った時だ。助けたいと感じれば、面倒事でも頭が働いて体が動く。1ヶ月前の発砲事件や、ウィザバラの件もそうだっただろう?」
7月前半。僕がヘルプで店舗に入っていた時期に、奏多も現場研修で各店舗を回っており、ちょうど時期が重なった。
ウィザバラでの件も、その時に社員から聞いたらしい。
「俺には権限がある。ちょっとくらい七国くんに時間を空けさせることは可能だけどな」
「権利の無駄遣いかよ」
ウィザバラ勤務が重なったかと思えば、僕がこちらへ戻ってきたタイミングで、奏多の研修先もこの店舗に移った。
偶然にも同じ現場で働くことが増え、自然と話す機会も多くなっていった。
ただ、心のどこかで引っかかっていることもあった。
──先ほどメッセージで赤城さんに会おうと言われまして
──実は、次はウィザバラに来る予定だそうで、その前に僕に話を聞きたいと指名されたんです
そう土岐さんは言っていた。奏多と顔を合わせた、その日に彼は自殺した。もし何か知っていたとしたら……。
だが、いきなり切り出して無関係だったら失礼だ。
それに、仮に知っていても誤魔化されて終わる気がする。
そう思って様子を見ているうちに、気づけば気軽に話せる仲になっていた。
「幽霊の目撃証言。気になってるんだろ?ついでに七国くんが“プレゼント事件”まで解決してくれたら、社員も安心できて助かるんだけどなぁ」
「いや……何を期待してるんだよ」
少なくとも今のところ、奏多から悪意は感じない。
彼と話していて不快な予感もない。
僕は人間関係において、最初から疑って相手を傷つけるくらいなら、信じて裏切られて自分だけが傷つく方がマシだと思っている。
……まぁ、それすら怖いからこそ、誰とも深く関わらないようにしてきたのかもしれないが。
「でもさ、幽霊はどうにもできないだろ。違うエリアで一日中キョロキョロしてるわけにもいかんし」
「怖いの?」
「怖くねぇよ。ただ……真っ昼間のド明るい場所に出るとか、幽霊のアイデンティティ台無しじゃないか?」
「それは確かに」
奏多は笑い、僕もつられて肩をすくめた。
「まぁ、幽霊だとは思ってないけどな。人が急に消えるなんて、何かのトリックだろ」
「あー、透明マント的な?」
「そうそう。ハリーポッター的な」
映画の趣味も合うせいか、説明いらずで話が弾む。
これもまた、奏多と話す機会が自然と増えていく理由の一つだった。
了解しました!内容を変えずに、読みやすくテンポよくまとめ直しました。
“消えた”といえば──。
あの日、黒服の人物も逃げた先で忽然と姿を消した。今回の件と何か繋がっている可能性はある。
「七国さん!すみません!」
声をかけてきたのは、またしても井原さんだった。
「お疲れ様!どうしました?」
どうか今の会話が聞かれていませんように……。
「今のお話なんですけど……」
願いは秒で打ち砕かれた。
「あぁ……聞こえちゃいましたか」
人で賑わうパークで“幽霊”なんて言葉を出したのは軽率だった。
まったく、なぜこうも面倒事に面倒事が重なるのか。
「まぁ、ただの見間違いの話なんで。気にしないで──」
「幽霊なら、力になれます!」
「くだ……え?」今、なんて言った?
「幽霊のことなら、私、力になれるかもしれません」
井原さん、まさかのそっち系か?
面倒事まっしぐらじゃないか。早めに火消ししないと……。
「いやいや、こんな真っ昼間に人でいっぱいの場所で、幽霊なんてあり得ないですから。僕も胸の内にしまっておくので、どうか忘れてください」
とにかく巻き込みたくない。
霊感があるのか、ただの興味なのか知らないけど、ここで話を広げられるのは厄介すぎる。
「お気持ちだけ受け取っておきますから」
「その……実は」
“実は”?まさか、幽霊を見たなんて言い出すんじゃないだろうな……。
「私、幽霊とパートナーになっちゃったんです」
…………頭の中が一気にハテナマークで埋め尽くされた。
新しい幽霊話?
まるで面倒事のオーバードーズ。勘弁してくれ。
「……とりあえず、後で話を聞こうか」
もう聞くしかなかった。
「これで決まりだな」
横で奏多は、面白い展開になったとでも言いたげにニヤニヤしている。
「はぁ……やるしかないか」
ちょうど僕たちの休憩時間が近づいていた。
「休憩後の割り当ては、必要なら変更していいから。とりあえず休憩行ってらっしゃい!」
「行ってきます!」
井原さんはご機嫌にオフエリアへ消えていった。
「あ、奏多、頼みがある」
「ん?」
「プレイ広場の景品管理の方法と、プレゼント被害があった日の出勤者リスト。内密で調べて教えてもらえるか?」
「了解。あとでメッセージ送るよ」
「助かる。じゃ、休憩行ってくる」
「あぁ、行ってらっしゃい」
──結局、こうなる運命なのか。
ほんと、めんどくさい。




