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AUPへようこそ  作者: 谷中シノン


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第13話:言葉に隠れた想い

第13話:言葉に隠れた想い


 「七国さん!今帰りですか!?」

 背後から声をかけてきたのは土岐さんだった。


 「あ、はい。お疲れ様です」

 作業振分表で上がり時間は把握していた。

 僕のほうが少し早く出て、ゆっくり歩いていたのだ。

 こちらは君に話がある。


 「いや~今日もなんだかんだ疲れましたね」

 面倒だ。前置きは不要だ。


 「前置きは無しにしよう、土岐さん。君の目的は一体何ですか」

 真面目なトーンで問いかける。


 「え、目的って……。何のことですか?別に特にないですよ。ただ、仲良くなりたいなと思」

 「違うな」言葉を遮る。

 「まずは、業務の変更についてだ」


 ──社員さんから、エントランスグリーティングをお願いって頼まれてます。それを伝えに来たんでした


 「あの言葉は嘘ではない。ただ、何か隠していることがあったでしょう?」

 「隠し事、ですか」

 「えぇ。さっき東原さんに聞きました」


 ──評判通り、サービス業務に回して正解だったよ!


 「社員さんが言い出したのではなく、君自身がそうなるよう仕向けた。です」

 「あぁ……それですか。いや、店内でジロジロ見られるより、エントランスでグリーティングするほうがやりやすいかなと思っただけで」


 「それは建前に過ぎない。確かに、その優しさで社員さんに提案したのは事実だろう。しかし、それだけではない。君は僕をエントランスに行かせる必要があった」


 「何故、そんなことを?」

 「西馬慎二さん──あのベンチに座っていたフレンズの名前です。おそらく、僕が彼に話しかける前に、君は一度すでに話しかけていたのでしょう」


 ──言われた通り、話を聞いてもらったのがあなたで正解でした。これも意味が繋がったってことなのかな


 「彼が別れ際に放った言葉です」


 「その言葉が何を意味しているというんですか?」

 「まず、“言われた通り”というのは、僕の“話をお伺いしますよ?”に対する言葉ではない気がしました」


 ──勘によるものだが、そう感じた。


 「事前に誰かから僕に話すよう勧められていた意味ではないかと。“話を聞いてもらったのがあなたで正解”という言葉も、それを示す証拠に近い。これは一度、他の人に話そうとした経緯があったからこその言葉だと思いました」


 「そんなの、憶測でしかないじゃないですか」

 「えぇ、憶測です」正確には、“勘”だが。


 「事前に何もなかったとしても、僕に話して正解だったと感じた意味合いは伝わる。だから、少し君に質問をしてみた。君が構えていなかったであろう質問を」


 ──で、それよりも。何故僕を彼の元に?


 「あの時、一瞬言葉を詰まらせましたよね。こんな理由を聞かれるとは予想していなかったでしょう。だから君は本心を隠しつつ、嘘の理由を作る時間稼ぎのためにこう答えた」


 ──少し試してみたくなっただけですよ


 「その後すぐ、“冗談ですよ”と言って、とっさに考えた理由を本当のことのように答えていました。しかし、君のあの時の言葉は、まるで何かを隠しているようにしか思えなかったのです」


 「そんな嘘をついたり、社員さんと七国さんを動かしてまで、僕が一体何をしようとしたと言うんですか?理由もなくそんなことするはずないですよ」


 「そう。だから、これも憶測ですが、君はおそらく僕に見つけてほしかったんだ──笹松さんを」

 

 「ただの憶測でそんなことまで言いますか」


 「同じ職場の人が居なくなった日を明確に言える人はそういません。普通は“大体一週間くらい前”とか大まかに言うものです。でも君は、あの時、しっかり日にちを指定して言えた」


 ──確か……6月23日。その日から無断欠勤が続いて、連絡も取れなくなって。人気者だったから、みんな心配してます


 「おそらく、君自身も連絡していたのでしょう。だから日にちを明確に覚えていた」


 「すごいですね。そう受け取ってましたか」

 

 全部、勘のおかげだ。第六感って、本当に便利なものだと改めて思う。


 「それと、君は笹松さんに対して、ただ“同じ職場の人”以上の想いがあったのではないかと思いました。人柄を話す時も、親しい人に対する言い方をあえて避けていました」


 ──いやぁ、そういうタイプじゃないと思います。誰にでも優しくて、嬉しいあだ名をつけて仲良くしてくれる人でした。お茶目で、みんなから好かれてましたね


 「客観的視野であり、少し距離を置いた余所余所しい言い方をしていましたね」


 「そんなに余所余所しかったですか」

 「それだけではありません。名字を思い出す時も、妙に芝居がかっていました」


 ──「琴葉……あぁ、笹松さんですか。いや、知らないですね」


 「不自然に距離を置いた言い方。行方不明になった日だけは明確。自分が連絡を取っていたことも黙っていたかったのでしょう。自分の気持ちを隠そうとしているのだと思いました」


 自分の気持ちを知られたくない。

 その理由としては、おそらく──。


 「これは僕の予想ですが。君は、笹松さんのことが……」

 

 「それ以上は大丈夫です……合ってますから」

 

 やはり。好意があったのだ。そして、それは誰にも知られたくなかった。

 だから、彼女の人柄を話す時も、あえて親しい仲ではないような言い方をしたのだ。


 「僕には、脈なんてありませんでしたからね。西馬さんと仲良くしていたことも、笹松さんが彼に好意を抱いていることも知っていました。相談までされましたから。『こんなメッセージの返事を返して引かれないかな?』とか」


 それは、好意のある相手にされると、結構しんどいことなんだろう。


 「それは、辛かったですよね」


 「正直、かなり。でも、良い相談相手だと思ってもらえて、話す機会も増えました。勤務後にカフェまで行って恋バナをしたり、ついでにガチャガチャを回したり。その時間が本当に楽しかったんです。ちょっとしたデートのような感じで。だから……」


 ──そんなの、会うたびに振られているようなものではないか。

 「余計に言い出せなかったんですね」

 この人は、どれだけ長く辛い思いをしてきたのだろうか。


 「はい。気持ちは消えなかったし、諦めたくもなかったです。でも、好きな人自身が幸せでいることが一番嬉しいことですから。だから、僕がこの余計な気持ちを出して迷惑をかけるくらいなら、このままでいよう。そう決めていました」


 「今の立場が一番良いんだと、自分に言い聞かせていた。って感じですか」


 「頑張っていました。そして、このままちゃんと諦めよう、前を向こう。友達として仲良くなれているだけでも幸せだ。そう決意した矢先に……」


 「笹松琴葉さんが行方不明になった」


 「はい……すみません。いきなりこんなことで。ご迷惑をおかけしてしまいましたね」

 「いや、大丈夫ですよ。それに、僕が明確にしたいのはその部分じゃないんです」


 ここまでは前菜のようなもの。

 聞きたいことを話してもらうためにも、まずは土岐さんに僕の推理を伝えておきたかった。


 「え?」

 「まず一つ目、僕だった理由です。君と僕は今日が初対面なのに、なぜ僕に笹松さんの手がかりを探させるようなことをしたのか」

 

 「それは……」土岐さんが言葉を詰まらせる

 

 「それこそ、本当に何か試そうとしたんですかね」


 「……」返答に困っている様子だ


 「そして、もう一つ。なぜ“男”だとわかったんですか」


 「え。男?」


 さすがにこの質問は予想外だったようだ。


 それも当然だろう。これは土岐さん自身が、無意識のうちに口を滑らせていたことだから。


 ──動画を見た時、銃を持った男の前で怯まないのがすごいなとは思いましたけど、それだけです。七国さんが悪いことをしたわけじゃないですし


 「この前の事件、例の黒服の人物ですが、出回っている動画には声は入っていません。それに、人物の背丈は分かっても、映像だけでは正確な身長なんて判断できません。横に並んでいるわけでもないですし。ニュースでも性別は公表されていません」


 先日の御堂さんの言葉を思い出す。

 ──性別すら判断材料がない。

 ──ニュースでも、明確でないことは報道されないだろう。


 「つまり、君が動画を見ただけで、全身黒で覆われた人物を男性と判断することなんてできないはずです。でも君は断言していた。『銃を持った男』と」

 

 「……すごいな。本当に抜かりない」


 「違和感には、すぐ気づいてしまうものです」

 「で、僕がその謎の人物の正体だ!とでも言いたいんですか?」

 「いや、それは違います。君からは敵意をまったく感じない」


 ──あの時の謎の人物は、井原さんを殺す気はなかったが、銃を向ける敵意だけはあった。今目の前にいる土岐さんがその正体だとは思えない。


 「……わかりました。お話します。少し移動してもいいですか」

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