第12話:点と点
第12話:点と点
「おかえりなさい、七国さん。どうでしたか?」
出迎えたのは土岐さんだった。
「彼の話はひとまず解決しました」
「それは良かったですね。楽しめるといいですが」
「で……何故、僕を彼のところへ?」
話を聞くだけなら、先に見つけていた土岐さん自身が行けばよかったはずだ。
一瞬、彼は言葉を詰まらせたように見えた。
「少し試してみたくなっただけですよ」
僕の何を試すというのか。
「試されるほど期待される人間じゃないですけどね、僕は」
「冗談です。ただ、店前でグリを任されていたことですし、ちょうど困っている人もいたので。僕、元気づけるのはどうも苦手なんですよ」
「なるほど。……そういえば琴葉さんって、どうしていなくなったかご存じですか?」
「琴葉……あぁ、笹松さんですか。いや、知らないですね」
今の間は、何だ? 不自然な空気が流れた。
「トラブルに巻き込まれたり?」
「いやぁ、そういうタイプじゃないと思います。誰にでも優しくて、嬉しいあだ名をつけて仲良くしてくれる人でした。お茶目で、みんなから好かれてましたね」
「いつからいなくなったんです?」
「確か……6月23日。その日から無断欠勤が続いて、連絡も取れなくなって。人気者だったから、みんな心配してます」
慎二さんにメッセージが返らなくなった日とほぼ一致する。
「今日の七国さんのシフト、本来は笹松さんのだったんですよ」
「そうなんですか」
急な欠員を埋める存在として、前回の事件の件で他の現場に行く理由づけもできる──なるほど。僕はどちらにとっても都合のいい人員だったというわけか。
「ありがとうございます。仕事と関係ない話を長々としてしまって」
「いえ、全く関係ないわけでもないですし、時間もありましたから」
「助かります。では、仕事に戻りますね」
17:00。
その後は何事もなく、平和な時間が過ぎた。
衣装が違うだけで効果は大きく、先日の事件のことで興味本位に顔を覗き込むようなフレンズもいない。
サービス、レジ、商品陳列と補充、レジ交代時の精算、いつもの店舗と変わらない業務をこなし、時間は淡々と流れていった。
「お疲れ様です。今日はありがとうございました!」
ウィザバラ店舗の社員、東原さんに挨拶をする。
次にいつヘルプに呼ばれるか分からない。印象は良くしておくに越したことはない。
「いえいえ!こちらこそ助かりました。評判通り、サービス業務に回して正解だったよ!」
「評判?」初めて来た店で、何の評判だろう。
「土岐くんがね、君はサービス業務向きだって熱弁してたんですよ」
「彼が?」
「えぇ。彼、この前大怪我をしてしばらく休んでたんだけど、その分を取り戻そうとしてるのか、とても仕事熱心でね。人のこともよく見てるんです」
「そうなんですか……」
「実際、フレンズへの接し方、とても上手かったですよ」
──少し試してみたくなっただけですよ。
なるほど、そういうことか。点と点が繋がった。
「期待に応えられたようで良かったです。お褒めいただけて嬉しいです」
「またいつでも来てください」
事務所の扉を開け、オフエリアの通路に出ようとしたときだった。
「そういえばさ、七国くんって何か特技ある?」
唐突な質問。雑談で距離を縮める意図にも思えるが……いや、この感じは違う。妙に探るような響きがある。長居は得策じゃない。
「いえ、そんなのがあれば、三十にもなってフリーターなんてしてませんよ」
「そうか。でも君はきっと持ってる。今度ゆっくり話そう」
「はい、そのときはよろしくお願いします」
軽くお辞儀して足早に事務所を出る。
見送る東原さんの笑顔──あれは確実に何かを探ろうとしているのを隠した笑みだ。こういう感覚が働くのは、第六感のありがたさだな。
そして、そろそろ彼も追い付いて来る頃か。
「さて。勘で完結の時間といこうか。」




