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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

好きなんだ

***BL*** ハッピーエンドです。剣道部男子が出て来ますが、剣道に詳しくありません。ごめんなさい。

「吉澤ちゃ〜ん!今日も剣道部見学?」

「もちろーん!」

俺は剣道部の石波いしなみが好きだ。めちゃくちゃカッコいい。背は高いし、胴着姿は勇ましい。所作の一つ一つが惚れ惚れする。正座をして、面を取った瞬間の顔がキュンとなる程良いんだ。

 道場の下の窓からこっそり眺める。あまり長い時間覗いているとバレちゃうから、いつも10分だけって決めている。窓の近くに寄ると石波に気づかれそうだから、ちょっと距離を置く。


 はぁ〜今日もカッコいいなぁと思いながら、10分堪能して道場を離れる。


 石波は剣道をやる為にこの高校を選んだらしい。うちの高校は結構強いんだとか、顧問の先生も段持ちだって聞いた。仮入部の日には入部していて、俺が友達とフラフラしていたら、すでに胴着を付けて校内を歩いていた。渡り廊下を先輩と歩いていたけど、2年生と間違える程貫禄があってヤバかった。


 石波とは同じクラスだけど、まだ話した事が無い。剣道部は朝練があるから、遅刻ギリギリで教室に入って来る。石波は時間ギリギリだからって慌てて走って来るタイプでは無く、いつもゆっくり歩いて来る。大抵、チャイムが半分鳴った頃、後ろのドアを開けて入って来るんだ。

 昼休みは、弁当を食べると早々に寝ている。クラスの誰かと話しているところを見た事がない。授業中は居眠りとかしないけど、先生に当てられても、いつも声が小さいから何を言っているかわからない。


「え?意外、、、」

石波が英語の再テストの教室にいた。定期テストで赤点は、再テストになる。石波は俺の声が聞こえたらしく

「英語、苦手だから、、、」

と、ボソッと言う。何だか親しみが湧き、遠慮なく隣の席に座った。

「英語出来るヤツって尊敬するよな。俺、単語位だったよ、丸もらったの。もっとちゃんとやらないといけないってわかってるんだけど、何処から手をつけたらいいのかわからなくてさ。ホント苦手」

「剣道部は赤点2回取ったら、試合に出れないから」

「ウッソ。凄いな剣道部。学期で2回なの?」 

「トータルで」

「じゃあ、次ずっと赤点取らなくても3年生で取ったら引退試合とか出られないの?」

「、、、」

石波は何も言わないけど、どうやら正解だったらしい。

「全教科?」

「主要五科目」

「教科跨いでも?」

「英語なら英語で2回」

「、、、他にも赤点あるの?」

「平均点以上」

「すごっ、、、」

石波が嬉しそうに、フッと笑う。


 それから俺達は2人で昼休み、英語の勉強をする事にした。クラスで1番英語が出来るヤツに勉強のやり方を聞き、取り敢えず単語から始める事にした。ソイツは親切なヤツで、お勧めの英単語アプリとか教えてくれて、スマホで出来る様にした。石波は、これまた意外な事にアプリの事とかわからないので、念の為家に持ち帰り、家族と相談してからアプリを入れる事にした。

 部活は冬は6時半までで、夏は7時まで。石波と英語の参考書を見に行く約束をしたので、部活が終わるまで待つ事にした。自習室で苦手な教科を勉強して待つ。石波が他の教科は平均以上と言っていたから、俺ももう少し頑張ろうと思ったんだ。

 学校の図書室には赤本とか過去問とかも置いてあるから、放課後自習室として使える。去年新しくなったばかりですごく綺麗だ。通路も広々として、レイアウトもお洒落なカフェみたいになっている。何人か自習しているなか、入り口に1番近い席をキープして、お茶を買いに行く。自販機でお茶を買っていると、道場の方から剣道部の音が聞こえて来た。

 剣道部の練習が6時半に終わって、片付けやら、ミーティングやらで最終的に7時過ぎに石波は来た。図書室が6時半にしまるので、カフェテラスに座って勉強をして待っていた。

 石波の気配で顔を上げると、

「よっ」

って感じで石波が右手を上げた。

「行こうか」

と声を掛けてバスに乗る。バスは空いていた。自転車通学の生徒が多いから、この時間は意外と空いているのかも知れない。バスの終点まで行き、駅ビルに入っている大きな本屋に行く。9時閉店まで、まだ時間があるし、人も少ないのでゆっくり探せそうだった。


 初めて入る本屋は面白い。何が何処にあるかわからないから、ふらふら一通り見て回る。懐かしい漫画の最新刊とか、小説の表紙を見ながら、参考書とか問題集のある棚を探す。2人で

「中学からやり直さないとダメかな?」

とか

「こんなに単語覚えられない」

とか話しながら、本を選んだ。

結局、何を買ったらいいかわからず、今日は買うのをやめた。

 駅の改札を通り、最寄駅を聞くと3駅しか離れていなくて、その先も一緒に帰る。石波の方が先に降りて、俺は後3駅1人で乗った。

 再テストの結果は散々で、結局俺と石波はもう一度テストを受ける事になった。2度目は再テスト1回目と同じ問題が出るからと言われて、昼休み2人で頑張って、なんとか合格点をもらった。クラスのみんなには俺と石波の英語がヤバい事がバレて、俺達は2人で一つ扱いされた。



*****



「吉澤くん、ちょっといいかな?」

昼休み、知らない女子に呼び出された。

「何?」

って言ったら

「ちょっと、、、来て欲しいんだけど」

(はぁ、面倒臭いなぁ)

と思いながら席を立つ。

「ちょっと行ってくるわ」

石波に声を掛けて、女子について行く。昇降口を出た横に女子が数人いて嫌な感じがした。呼びに来た女子と俺の姿を確認すると1人を残してみんな距離を取った。どうせ離れるなら、もっと離れればいいのにと思う微妙な距離で、俺もどうしたらいいかわからなかった。残された女子が緊張で震えてる。

「あの、吉澤さん、付き合ってる人いますか?」

「いないけど、、、」

「じゃ、、じゃぁ、私と付き合って下さい!」

彼女は勢いで言い切った。見知らぬ女子となんて付き合えないよ、、、。ため息を飲み込んで

「ごめん、好きな人いるんだ」

と断った。

「吉澤!」

昇降口から石波の声がした。

「移動教室!」

「今行く!」

返事をして女子を見る。泣きそうな顔をしていて、悪い事したな、、、と思いながら

「ごめんね」

と謝って石波の元に行く。

後ろがザワザワしたけど、振り返らない。石波が俺の教科書とか持って来てくれたから、受け取った。

「ありがとう、助かったよ」

石波に言うと、フッと笑った。



*****



昼飯を食ってたら、長田おさだ

「吉澤ちゃ〜ん、好きな人がいるんだってぇ〜?」

ニヤニヤしながら聞いて来た。

「長田には好きなヤツいないのかよ」

と誤魔化す。一体誰から聞いたんだ。俺の好きなヤツは石波だからな。本人の前で名前を出す訳にはいかない。

「俺には彼女がいるもんね〜!」

「長田?!長田のクセに彼女いるのかっ?」

俺はびっくりして、声が大きくなってしまった。俺の驚き方にびっくりした石波は目を見開いて固まっている。

「石波!コイツ、長田のクセに彼女がいるって!」

石波がフッと笑う。

「長田、生意気!」

「生意気って、なんだよ〜。石波にも彼女いるぞ!」

「え?」

俺はびっくりして石波の顔を見た。

「幼馴染と中学から付き合ってるぞ」

石波は困った様な顔をした。

「知らなかった、、、石波は硬派だと思っていたから、、、。初恋もまだかと思ったよ」

「そんな馬鹿な、、、」

「んじゃ、俺だけ彼女がいないのかよ〜!」

もう、石波に彼女がいる情報で、俺の情緒は崩壊寸前だった。



 それでも、俺は日課の石波見学に行く。10分だけ、10分だけと思いながら、石波が見つからないと延長してしまう俺。後ろでガサっと音がするから振り向いたら石波がいた。

「???」

「不審者がいるから見て来いって言われて、、、」

「不審者かぁ〜!」

頭を抱える俺。

「ごめん、剣道部見学してた。恥ずかしいからさ」

愛想笑いしか出て来ない。

「いつも見てたの、吉澤だったのか?」

バレてた、、、。

「うん、邪魔しちゃいけないから、ここからいつも10分だけね」

「中で見学すれば?」

「10分だけの為に入れないよ」

「、、、剣道に興味あるのか?」

「いや、ちょっと、、、ね」

「好きな子?」

「!!!」

「、、、吉澤の好きな子、剣道部なんだ」

(なんか、今、地獄に落下している気分、、、)

「今日は中で見たら?。不審者だと思われても、、、その、、、困るだろ?」

「、、、じゃ、10分だけ」

道場に上がらせてもらって、1番隅で見学させてもらった。めっちゃ違和感あって、居た堪れなくなる。剣道部は初心者の募集を掛けていないから、顧問の先生や部員から勧誘を受ける事は無かったけど、恥ずかしくて地獄の10分だった、、、。


「好きな人、剣道部なんだ」

「まあね」

「何年生?」

「1年」

「何組?」

「???」

(これ答えたら、石波にバレるヤツじゃない?)

「教えな〜い!」

「1年女子は5組の石川さんだけだよ」

ギクっ、、、。俺の身体は動揺で固まった、、、。

「好きな人、石川さんなんだ」

にっこり笑う石波が怖かった、、、。この日から俺の好きな人は5組の石川さんになり、俺はこっそり石川さんを探す旅に出た。だって、石川さんが誰だかわからないんだ。


 それは偶然だった。石波と廊下を歩いて角を曲がった時、不意に現れた女子とぶつかった。それが石川さん。びっくりして

「すいません!大丈夫?」

と声を掛けたらめちゃくちゃ可愛い子だった。ショートカットでボーイッシュだけど、優しい顔付きで女の子って感じだった。

「私の方こそ、ごめんね。怪我しなかった?」

ぶつかったのは俺の方なのに心配してくれて、良い子だなと思った。

「良かったな、吉澤。石川に顔、覚えて貰えたじゃないか」

石波に言われて、あれが石川さんなんだと気がついた。でも、心の中では

(俺の好きなヤツは石波なんだよぉぉぉ、、、)

と泣いていた。



 俺達は、相変わらず英語力が乏しく、クラスの平均点を下げている状態だった。一応、赤点はあれ以降回避しているけど、昼休みに10分くらい単語の勉強をしていた。

「吉澤の好きな人、5組の石川さんなんだって?」

長田に言われた。俺は思わず石波を見たけど、石波は知らんぷりをした。ニャロメ

「石川さん、英語得意だから教えて貰えば?」

長田が余計なお世話を始めた。石波の指がピクリと動き、何か言うかと構えたら何も言わなかった。

「あのね、長田くん、知らない人に勉強教えてって言われて教えてくれる人なんていないよ?」

僕は大真面目に答えた。

「石波が頼めば良いじゃん」

石波が長田を睨む。

「え?石波、人に頼み事するのキライ?」

「5組まで行くのが面倒」

「と、言う事でこのまま2人でやります」

「なんでよ」

長田粘るな。

「石川さんの事好きなんでしょ?」

(いいえ、石波が好きなんです)

「好きなら行動あるのみでしょ?」

「僕は、シャイボーイだからね」

ブフッ

「石波、笑うな」

「、、、」

「彼女いないのお前だけなんだから、頑張ればいいのに」

と言って、長田は彼女の元へ行った。多分、今、クラスの数人の男子を敵に回したと思う。


 いつの間にか、俺は石波の部活が終わるのを待ちながら勉強する習慣がついていた。ホームルームが終わり、石波が部活に行く前に俺の所に寄り

「今日も自習室?」

と聞いてくるから

「勉強しながら待ってるよ」

「終わったらすぐ行く」

それだけ話して部活に行く。俺には有難い事だった。勉強はあまり好きじゃ無かったけど、石波を待つ口実が出来て、しかも毎日一緒に帰れるんだ。

 たまに、勉強にあきると石波の彼女の事を考える。石波が学校で彼女と連絡を取っているところを見た事が無い。幼馴染って言ってたから、近所なんだろう。、、、え?お隣さん?まさかの部屋もお隣さん?で、窓から行き来する程の仲とか、、、。それならわざわざ連絡しないかな〜。えぇ〜、俺と別れた後は彼女と毎日会ってるかもぉ〜、、、。考えて落ち込む。

「吉澤?」

「おつかれぇ〜」

「どうした?」

「ん?」

「なんか、、、」

「ああ、ちょっと考え事してね、落ち込んだ」

「大丈夫か?」

「平気平気」

「そっか」

この後、彼女の部屋に行くのかな〜。嫌だなぁ。俺の妄想が俺を苦しめる。



「石波、次の大会って一般者も見に行けるの?」

「ん?」

「俺、見に行きたいな」

「次の大会はスポーツセンターでやるから、2階席から見られると思うけど、、、」

「じゃあ.見に行っても良い?」

「、、、」

「ダメかな?石波の邪魔とかしないから」

「、、、後で日程教えるよ」

石波の機嫌が少し悪くなった気がする。知り合いが見に来るの嫌なのかな?

 昼休み、飯を食ってたら石波がメモをくれた。大会の日時と場所が書いてあった。

「石川は午前の個人戦に出るから」

と言うから

「そうなんだ」

と答えた。

(石波は俺に見られるのが嫌なのかな)

なんて考えたら、石波が何に出るか聞きづらくなって聞けなかった。


 大会の日は私服で見に行った。人混みに紛れれば石波に気づかれないと思ったから。人が多くて、どこに行ったらいいかわからなかったけど、1人だったから気が楽だ。体育館の中では沢山の試合が行われていた。どうやら、午前中は個人戦で午後は団体戦があるらしい。予定表が貼ってあって、対戦表もあった。石波の名前を見つけると何だか嬉しくなって、早く試合が見たかった。

 個人戦に出ている石波を見つけた、遠くからだけど、胴着に書かれた「石波」って言う白い文字がすごくカッコ良かった。石波は3回勝って4回目に負けた。剣道の事は良くわからないけど、俺には石波が強い事はわかった。

 石波が負けて、時間がありそうだったから、売店で飲み物とお握りでも買おうと思った。売店に行ったら、石川さんがいて、俺はなんとなく気づかないフリをした。お握りを選びながら、石波に差し入れしたかったなぁと思って、ちょっと余分に買う。もし、会えたら渡そうと思って。何がいいかわからないから、梅干しとツナマヨにした。袋に入れてもらって売店を出たら、石波がいた。知らない女子と一緒だった。女子は私服だったから、きっと彼女だと思う。俺は、初めて見たツーショットに衝撃を受けて固まってしまった。

(本当に彼女がいたんだ、、、)

今まで彼女がいるとわかっていても、理解していなかったのか頭が混乱した。次の瞬間石波と目が合った。それなのに、石波は俺から視線を逸らした。

(やっぱり来なかった方が良かったかな?石波は来て欲しく無いみたいだったもんな)

午前中の個人戦は見たし、午後は団体戦だ。最後まで見たかったけど、、、帰ろうかな、、、。

 俺は2階席でお握りを食べた。お腹が空いていたし、帰ろうかどうしようか悩んでいたから。でも、せっかく来たんだし、団体戦なんて観られるチャンスは無いかもしれない。

(やっぱり今日は最後まで見て行こう)

と思ったら、隣に誰かが座った。

「石川の個人戦見た?」

石波だった。俺はポカンとして、返事が出来なかった。

「お握り、美味い?」

聞かれて、

「食べる?」

って、食べ掛けのお握り差し出しちゃったよ。石波はそのまま、カブリと一口食べて

「うまっ」

と言った。俺は急に現実に引き戻されて、アワアワした。

「石川の個人戦見に来たの?」

「え?石波の試合を見に来たんだよ?」

僕は、梅干しのお握りを石波に渡した。

「うまそっ」

ガサガサ音を立てて、お握りを開け一口で半分くらい口に入れた。

「石波、俺が来るのイヤそうだったからさ、、、」

「あー、、、ごめん。石川の個人戦見たいのかと思ってた」

「え?石川さんより石波の試合が見たいよ?」

「じゃあ、午後の団体戦も見てって、俺、勝つから」

「うん!頑張って!」

ツナマヨのお握りを渡しながら言った。

「さんきゅっ」

と言って石波は戻って行った。俺は何だかソワソワしてワクワクした。それにしても、この広い会場でよく俺を見つけたなと感心した。

 

 午後の団体戦は午前の個人戦より迫力があった。石波は一つだけ負けたけど、チームに貢献していた。いつも静かなイメージがあったけど、剣道をやっている時は全く違って、すごく力強かった。最後まで見て正解だった。こんなに沢山石波を見れて嬉しかった。


 全部の試合が終わって、閉会式が始まる前に石波が一度戻って来た。

「もう少し待てる?」

って言われて、石波を待つ事にした。閉会式が終わり、荷物を持って迎えに来てくれた。沢山の生徒と観客が帰る為に、入り口は混雑していたから落ち着くまで時間を潰していた。

「県大会は出れるの?」

「先輩たちは」

「そっか、残念だね」

「明日からは定期テストの勉強だな」

「英語の赤点だけは取りたくないな」


 俺は家に着いてから、あの私服の女子の事を思い出した。



*****



 定期テストの結果は良かった。英語は2人とも赤点回避して、前回より10点くらい上がった。たった10点でも俺達には良い点数だった。石波は他の教科は当然平均点以上。俺は今まで平均点以下だったのが2教科も平均点を超えた。そして、石波はまた部活が始まった。


 

*******************



 俺が吉澤を意識したのは、クラス発表の名簿の中だった。

「吉澤美波」

名前に波と言う文字を見つけて親しみが湧いた。後から男だと判り、尚更印象に残った。

 俺はあまり人と話すのが得意じゃないから、朝練の後はギリギリに教室に入り、昼休みは寝る事にしていた。

 英語の再テストの教室で

「え?意外、、、」

と言われ

(失礼なヤツだな)

と思ったら吉澤だった。つい

「英語、苦手だから、、、」

と返事をしたら隣の席に座り、話し始めた。吉澤は話しやすくて、良いヤツだった。他にも赤点があるのか聞かれて、

「平均点以上」

と返事をしたら

「すごっ」

とびっくりされて、嬉しかった。


 休み時間や放課後一緒に過ごす様になって、吉澤と気が合う事に気付いた。吉澤といると気を使う事が無いから楽チンで、自然に一緒に行動するのが当たり前になった。

 ある日、吉澤を女子が呼び出した。まぁ、所謂告白ってヤツだ。俺は内心落ち着かなくなって、午後一の授業が移動教室なのを思い出し、アイツの荷物と一緒に吉澤を探した。階段を降りて行ったみたいだから、昇降口の辺りだろうと見に行くと吉澤がいた。まだ告白の途中だったみたいだけど、俺は早く終わらせて欲しかった。

「吉澤!」

思わず名前を呼んだ。もしかしたら付き合う事になったかも。そう考えたら、思った以上に動揺した。取り敢えず彼女から吉澤を引き離したくて

「移動教室!」

と叫んだ。

吉澤が

「今行く!」

って返事をしてくれたから、ホッとした。吉澤が情に流されて、彼女と付き合ったらなんて考えただけで、イヤな気分になっていた。

後で吉澤に

「ありがとう、助かったよ」 

と言われて安心した。


 吉澤に好きな人がいる話しは、いつの間にか長田の耳に入り、そこから長田の彼女の話しになった。その流れで、長田が

「石波にも彼女いるぞ!」

って言い出した時はギョッとした。俺には彼女なんていない。

 中学の時、俺の幼馴染に長田が告白した。幼馴染は長田と話しをした事も無く、なかなかしつこかったから、面倒臭くて俺と幼馴染が付き合っている事にしたんだ。その嘘が今更蒸し返された。長田についた嘘だったから、長田の前で否定する事が出来なかった。

 

 吉澤の好きな人が剣道部とわかると、今度は相手が誰か知りたくなった。一年生で女子は5組の石川だけだったから、多分石川だと思うけど、念の為探りを入れた。2年の女子とか、3年の女子もあり得る。石川はショートカットの可愛い女子だった。ある日、廊下で石川と吉澤がぶつかりそうになった。石川に

「私の方こそ、ごめんね。怪我しなかった?」

と言われて吉澤の雰囲気が変わった、石川に好印象持ったのがわかった。俺はつい、嫌味を言ってしまった。

「良かったな、吉澤。石川に顔、覚えて貰えたじゃないか」

 それから俺は石川が苦手になった。長田が吉澤に

「石川さん、英語得意だから教えて貰えば?」

って言った時も内心腹が立っていた。その上

「石波が頼めば良いじゃん」

なんて言うから、思わず長田を睨み付けた。幸い、吉澤も石川に頼む事は無かったから良かったけど、もし吉澤に石川の事を頼まれたら、俺はどうなっていたかわからない。

 

 吉澤が剣道部の大会を見に来たいと言った時もそうだった。石川の試合が観たいのかと思うと腹の底がムカムカした。大会の日時と場所をメモり

「石川は午前の個人戦に出るから」

とだけ伝えた。

(吉澤は俺の友達じゃないのかよ。俺の試合を観に来いよ、、、)

そう思いつつ、何も言えなかった。


 剣道部の大会の日、昼に売店の前で吉澤を見かけた。売店の中に石川がいた。

(ああ、吉澤は石川に声を掛けるんだろうな)

と思っていたのに、吉澤は石川に近づかない。売店の中はそんなに広く無いし、一度吉澤も石川の方を見たはずだ。それなのに、石川に近づかない。なんでだろうと思いながら、吉澤を見ていたら随分沢山お握りを買っていた。

「お兄ちゃん!」

呼ばれて、ハッとすると妹がいた。

「お母さんも、お父さんも来てるよ」

ちょっと離れた所に、ちゃっかり椅子をキープして座っていた。母親は小さく手を振る。ふと、顔を上げたら吉澤と目が合った。家族が応援に来ている事が、子供っぽくて恥ずかしくて、目を逸らしてしまった。

 俺はどうしても吉澤に声を掛けたくて、昼休憩だし、2階の観覧席を探した。意外とすぐに見つかって、隣の席に座った。

「石川の個人戦見た?」

自分でもイヤな言い方をしていると思った。吉澤が俺の顔を見て、呆けていたから

「お握り、美味い?」

と誤魔化したら、食べ掛けのお握りを差し出して

「食べる?」

って聞いてきた。俺は、吉澤に会えてテンションが上がっていたのか、何も考えずにお握りにカブり付いていた。

「石川の個人戦見に来たの?」

俺は肯定されるのが怖いクセにもう一度聞いた。

「え?石波の試合を見に来たんだよ?」

言いながら吉澤が梅干しのお握りをくれた。なんだ、俺の試合だったんだ。良かった、、、。

「うまそっ」

俺はお握りを食べながら安心した。

「石波、俺が来るのイヤそうだったからさ、、、」

吉澤、ホントごめん。俺が勝手にイライラしてた。

「あー、、、ごめん。石川の個人戦見たいのかと思ってた」

「え?石川さんより石波の試合が見たいよ?」

「じゃあ、午後の団体戦も見てって、俺、勝つから」

ずっとイライラしていた気分が軽くなった。

「うん!頑張って!」

吉澤がツナマヨのお握りをくれた。

「さんきゅっ」

と言って俺は、自分の場所に戻る。午前中は集中出来なくて調子が悪かったけど、午後はめちゃくちゃ頑張れそうだった。



********************



 週末は、定期テストの前だったからどの部活も休みだった。俺は石波と行った本屋に、問題集か参考書を買おうと出掛けていた。テスト前に今更って感じもしたけど、息抜きも兼ねて身体を動かそうと思った。電車の中でも軽く勉強をして、駅ビルの中を移動する。

 石波がいた。大会の時に一緒にいた女子と一緒だった。そう言えば、彼女の事を忘れていた。石波は彼女にアイスを買っていた。彼女は余程嬉しいのか、石波からアイスを受け取ると先に一口食べさせた。石波も遠慮しないで、そこそこ大きな口で食べていた。彼女は石波が食べたアイスを気にする事も無く、口を付けた。自然な流れだった。

(あー、、、あれが石波の彼女かぁ、、、)

 俺は、何だか落ち込んで、本屋にも行かずに家に帰った。自分の気持ちが一瞬で、こんなに落ち込む事を知らなかった。何も考えられなくなって、10分前の自分が別人に思えた。


 石波は穏やかな顔をしていた。2人は仲が良さそうに見えた。中学から付き合っているって言っていたから、結構長く付き合ってるのかな?俺が石波と付き合う事は無さそうだ。あんなに仲が良い2人が別れる所、想像出来ない。それにあの2人が喧嘩する事も、彼女が泣く事も考えたくない。俺の恋は成就しない。



*****



 テストが終わった日から部活が始まる。俺はあの日からなんと無く、石波を避けている。

「吉澤、今日は自習室行く?」

「うー、、、ん。今日は疲れちゃったかな。帰って早めに寝るよ」

「そっか、気をつけてな」

「ありがとう」

愛想笑いをする。石波は何か言いたそうだけど、何も言わない。



*****



 テストの結果はいつも通りだった。英語の赤点も無かったし、まぁまぁの成績だった。

 トイレに行こうと廊下に出たら、石川さんがいた。俺は石川さんに呼ばれて、廊下の端に寄った。石波が教室から出て来たのが見えた。石川さんから、封筒を渡されて

「後で読んで」

と言われた。石波が近寄って来て俺に

「おめでとう」

と言って、通り過ぎて行った。

「とにかく読んで上げて。なるべく早く返事をしてね。本人に直接返事するのが難しかったら、私にでもいいから」

石川さんはそう言って、自分の教室に戻って行った。何がなんだかわからず、取り敢えずポケットに封筒をしまいトイレに行く。先に来ていた石波が手を洗いながら

「石川と付き合うの?」

って聞いて来た。

(石波が好きなのに、付き合うわけないじゃん)

「わからない。まだ手紙読んで無いし」

石波はそのまま教室に戻って行った。最近石波との時間が苦痛に感じる。以前はこんな気持ちにならなかったのに、あの頃に戻りたいと思った。



*****



 放課後、みんながいなくなってから、手紙を読んだ。差出人は知らない名前だった。告白されても、付き合って下さいと書かれていても、少しも嬉しく無かった。石川さんには悪いけど、彼女経由で断ってもらおう。そう考えていたら、教室の後ろのドアが開いた。俺が手紙を封筒にしまい、鞄を取ろうとしたら、前の座席に寄り掛かった。袴を履いた下半身が見えて、顔を上げたら石波だった。

「返事するの?」

「するよ。石川さんに頼むよ」

「え?」

「石川さんの友達からだった。俺の知らない人」

「大丈夫か?」

「何が?」

「石川の事好きなのに、他の人の手紙手渡されて、、、」

さっきまで怒ってるみたいだったのに、急に優しい声になった。俺は、石波の態度に何だか腹が立って来て、ぶっきらぼうに言う。

「俺、一言も石川さんが好きなんて言ってないと思うけど」

「剣道部の1年は石川だけだ」

(石川石川石川ってうるさいなぁ、俺が好きなのは石波だよ)

「石波も剣道部の1年だろ、、、?」

石波は黙った。きっと頭が白くなってるんだろう。

「でも、石波には彼女がいるから、俺にはどうにも出来ない」

「、、、」

鞄を持って、教室を出ようとした。石波が腕を掴む。

「、、、」

俺はため息を一ついた。

「俺さ、この間、石波がデートしてるところ見ちゃったんだ。それから調子悪くて、お前と上手く出来ない」

「デート?誰と?」

「名前は知らない。可愛い子。仲良さそうだった、、、。大会の日も、一緒にいた。駅ビルで石波がアイスご馳走してた。2人で一つのアイス食べて、仲良さそうだった、、、。あれ、石波の彼女だろ?すごくお似合いだったよ」

俺は精一杯笑うしか無かった。でも、自分でも上手く笑えて無いってわかる。笑顔が歪む。あの場所に俺が立つ事は無いんだ。そう思ったら涙が出そうになる。石波が俺をグイッと引いた。

「なっ!」

いきなり抱きしめられて、びっくりした。

「ちょっ!」

石波は顔が見えないように、俺を抱きしめた。

「ヤキモチ妬いた?」

「ヤキモチ?、、、」

石波の心臓の音が早い。

「そりゃ、妬くよ!石波の事好きだもん!」

もういいや、と思った。こんな事言ったら嫌われるかも知れないけど、言わずにはいられなかった。

「入学式の時から、石波の事、カッコいいと思ってた!一緒に勉強出来て嬉しかったし、放課後だって毎日楽しかった!、、、でも、お前には彼女がいるから、、、俺は諦めるしかないんだ。、、、俺は、石波の事好きだ。もう友達には戻れない、、、」

「本当に?、、、うれしい。付き合いたい。付き合って、、、」

俺はムッとした。彼女がいるクセに、嬉しいとか付き合ってとか、どんな神経なんだ!

「お前!彼女いるんだろ?彼女に悪いと思わないのかよ!」  

石波は何も言わない。

「俺!二股とかイヤなんだよ!離せよ!」

石波はギュッと力を込めた。

「離せったらっ!」

「イヤだ。俺と付き合って、、、」

、、、俺は諦めて、石波に身体を預けた。

「あれ、妹なんだ」

「はっ?」

「長田の言ってた彼女も、本当はいない」

俺は身体の力が抜けた。思わず石波の顔を見る。

「は、はは。何だそれ」


 石波が俺の手を引いて椅子に座わらせた。石波は、一つ前の席に座った。後ろに座った俺とちゃんと向き合う様に、椅子ごと後ろに向きを変えた。幼馴染が長田に告白されて困っていた話。石波と幼馴染が付き合ってる事にした話。長田の前だったから否定出来なかった事も聞いた。

「俺、結構前から吉澤の事、気になってた。石川が嫌いになったし、前に吉澤が告白されてた時もワザと邪魔した。最近、吉澤がなんだか素っ気なくてイライラしてたし、さっきはさっきで石川と廊下にいるの見た時、メチャクチャ邪魔したかった。部活も手に付かないし」

「、、、」

「自分で自分がわからなかった。感情の起伏が激しくなって、何でだろうって思ってた。、、、部活に集中出来ないから、今日はもう帰ろうとしたんだ。そしたら、下駄箱に吉澤の靴だけあった、、、」

「、、、いつから?」

「かなり最初から、初めての再テストの時に印象が良かった、一緒にいる時間は楽しかったし、、、」

「知らなかった、、、」

「まぁ、俺、こんなだし。俺自身いつ好きになったのかわからないんだ。気がついたら好きだった、、、。石川から預かった手紙さ、俺が返事したらダメかな?」

「え?」

「俺達付き合ってるから無理だよって言いたい」

「ありがとう。でも、俺がちゃんと断るよ」

石波が顔を寄せる。机に置いた俺の手を握る。

「石川と2人きりになって欲しく無いんだ」

「ヤキモチ?」

「石川には特にね、、、。ずっと石川が好きだと思ってたから、やっぱりイヤだなって思う」

俺は石波の手をじっと見る。石波は今までそんな気持ちでいたんだ。俺は自分の事ばかりで石波の気持ちに気付かなかった。それとも石波が上手く隠していたんだろうか、、、。

「石波?俺、自分でちゃんと言うよ。自分の口から伝える。だから、石波も俺の事信じて」

「、、、わかった」

 石波はそう言って、俺の頭に石波の頭をくっつけた。俺も石波の手を握った。触れ合った場所が温かくて、気持ち良くって幸せだなって思った。



ハッピーエンドになりました。良かった、良かった。ちなみに、石川さんは石波が好きです。ムフフ

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