さよならの港、そして流れ星の下で
修学旅行はあっという間に最終日を迎えた。
ルリハナ島の港には、大きな白い船が再び停泊していて、甲板には帰り支度を終えた生徒たちの笑顔と、別れを惜しむ名残の声があふれていた。
荷物を積み込みながらも、みんなはまだ夢見心地で、南国の青い海を見つめていた。
「帰りたくないなあ……」
誰かがぽつりと漏らした声に、セナも心の中で同意した。
船の汽笛が遠くで響き、旅の終わりが現実味を帯びて迫ってくる。
「セナ」
背中から声をかけられ振り向くと、リオが立っていた。
港の風が吹き抜け、リオの乱れた前髪を揺らしている。
「少し、散歩しねぇか?」
港から少し外れた、小さな防波堤に二人は並んで座った。
夕陽はもう海に溶けかけ、空を茜色に染めている。
波が足元に打ち寄せ、白いしぶきが光を弾いた。
「楽しかったな、この島」
リオは夕陽を見つめながら言った。
「初めて来た場所なのに、不思議と懐かしい気がした。……たぶん、お前と一緒だったからだな」
セナの胸に、熱いものが広がった。
あの呪いは解けた。自分の弱さも自覚した。
今度こそ、勇気を出して言葉にしよう。
夕焼けに照らされるリオの横顔を見つめながら、セナは深呼吸をした。
「リオ……!」
声はかすれたけれど、はっきり出た。
自分の声で「リオ」と名前を呼べただけで、泣きそうになる。
「ん?」
リオが目を丸くしてセナを見た。
その顔に、もう言うしかないと心が決まる。
「わたし……リオのことが……」
でも言葉は震え、最後の一歩がどうしても出てこない。
そんなセナの顔をリオはじっと見つめて、急に笑った。
「知ってた」
「え……?」
「お前がオレのこと好きなんじゃないかって、なんとなく気づいてた」
リオの笑顔は夕焼けよりも暖かく、照れ隠しのように頬を掻いていた。
「でもな、ちゃんと自分の口で言ってほしかった。……だから、待ってた」
セナは目を潤ませながら、再び勇気を振り絞った。
「リオが……好き。ずっと好きだった……!」
その瞬間、海の向こうの空に流れ星がひとつ走った。
まるで二人を祝福するように、夜の幕が落ちていく空を横切って。
「……オレも、お前が好きだ」
リオはまっすぐに言った。
海風が二人の間を吹き抜け、心の中の迷いや恐れをすべてさらっていった気がした。
船の汽笛がもう一度鳴り響き、仲間たちが二人を呼ぶ声が聞こえた。
これからの未来はわからない。けれど、この旅で自分の気持ちを伝えられたことが、何よりも大切な宝物になった。
セナは小さく微笑んでリオに手を差し出した。
リオは力強くその手を握り、二人は肩を並べて港へと歩き出した。