表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

さよならの港、そして流れ星の下で

修学旅行はあっという間に最終日を迎えた。

ルリハナ島の港には、大きな白い船が再び停泊していて、甲板には帰り支度を終えた生徒たちの笑顔と、別れを惜しむ名残の声があふれていた。

荷物を積み込みながらも、みんなはまだ夢見心地で、南国の青い海を見つめていた。


「帰りたくないなあ……」

誰かがぽつりと漏らした声に、セナも心の中で同意した。

船の汽笛が遠くで響き、旅の終わりが現実味を帯びて迫ってくる。


「セナ」

背中から声をかけられ振り向くと、リオが立っていた。

港の風が吹き抜け、リオの乱れた前髪を揺らしている。

「少し、散歩しねぇか?」


港から少し外れた、小さな防波堤に二人は並んで座った。

夕陽はもう海に溶けかけ、空を茜色に染めている。

波が足元に打ち寄せ、白いしぶきが光を弾いた。


「楽しかったな、この島」

リオは夕陽を見つめながら言った。

「初めて来た場所なのに、不思議と懐かしい気がした。……たぶん、お前と一緒だったからだな」


セナの胸に、熱いものが広がった。

あの呪いは解けた。自分の弱さも自覚した。

今度こそ、勇気を出して言葉にしよう。

夕焼けに照らされるリオの横顔を見つめながら、セナは深呼吸をした。


「リオ……!」

声はかすれたけれど、はっきり出た。

自分の声で「リオ」と名前を呼べただけで、泣きそうになる。


「ん?」

リオが目を丸くしてセナを見た。

その顔に、もう言うしかないと心が決まる。


「わたし……リオのことが……」

でも言葉は震え、最後の一歩がどうしても出てこない。

そんなセナの顔をリオはじっと見つめて、急に笑った。


「知ってた」

「え……?」


「お前がオレのこと好きなんじゃないかって、なんとなく気づいてた」

リオの笑顔は夕焼けよりも暖かく、照れ隠しのように頬を掻いていた。

「でもな、ちゃんと自分の口で言ってほしかった。……だから、待ってた」


セナは目を潤ませながら、再び勇気を振り絞った。

「リオが……好き。ずっと好きだった……!」


その瞬間、海の向こうの空に流れ星がひとつ走った。

まるで二人を祝福するように、夜の幕が落ちていく空を横切って。


「……オレも、お前が好きだ」

リオはまっすぐに言った。

海風が二人の間を吹き抜け、心の中の迷いや恐れをすべてさらっていった気がした。


船の汽笛がもう一度鳴り響き、仲間たちが二人を呼ぶ声が聞こえた。

これからの未来はわからない。けれど、この旅で自分の気持ちを伝えられたことが、何よりも大切な宝物になった。


セナは小さく微笑んでリオに手を差し出した。

リオは力強くその手を握り、二人は肩を並べて港へと歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ