第35話 アダルトチルドレン?
その夜、みさからメールが着た。
『(みさ) 少しは読みましたか?』
『(なつ) ちょっとだけ読んだよ。みさはアダルトチルドレンってこと?』
『(みさ) そうらしいの』
『(なつ) 病院でそう言われたの?』
『(みさ) 病院で言われたわけじゃない』
どことなく、もぞもぞするみさのメールの様子にピンときた。
なるほど…
妻帯者のお医者さんか。
『(なつ) 以前言ってた医者の人に言われたの?』
『(みさ) うん。昔にアダルトチルドレンだよって言われてた』
この本を受けたった後、この本以外に色々アダルトチルドレンについて調べていた。
確かに、書物、ネットに書いている内容のいくつかは、当てはまるし、その傾向がある。
しかし、部分的だけであれば、色々な人にも当てはまる。
俺の中ではしっくりこない。
俺の中では、色々傷付き、怖くなってしまった。
そして、臆病になってしまった。
でも、元々は素直な女の子。
真面目で、ちょっと厳格な家庭環境で育てられた女の子。
『(なつ) みさはアダルトチルドレンって言葉に縛られていると感じる』
話が長くなるから電話していい?
みさは極力聞くだけでいいから
『(みさ) うん』
俺は電話した。
「みさは、俺と付き合うちょっと前に、お医者さんの既婚者と別れたって言ったよね?」
あの時は、なぜ別ることができたの?
難しいみたいなことも言ってたよね?
「なつが好きで、そこをキチンと整理しなきゃなつと付き合う資格がないと思ったから」
なつは今後付き合うなら、お互い何もやましいものがない状態で付き合いたいな…って。
そういうことを言ってたから。
「そっか…。分かった。よく思い出して」
俺はあの時、みさに気がある素ぶりを見せなかったと思う。
あの時、好きだという気持ちを絶対に出ないように気をつけてたもん。
後々で、みさが、好きですよって言ってきた時も、やっぱり気をつけてた。
でも、みさは、俺に好きだって言った時には、もう、かなり前に別れたんだよね?
俺が傾くかまるでわからない状況なのに…。
「うん。だって…振られても、なつの前では誠実でいたかったから…」
「俺はね、ああいう相談系で恋愛に発展するのは嫌いなんだ」
最初は良いのかもしれないけど…
心が弱くなった時に、元恋人と比較されちゃう。
どれだけ好きでも、そこを辿りたくない。
俺はみさの良き先輩としていたかった。
好きでも。
だから、決して口説くような事はしなかった。
そして、普通に過去の女性やその他の女性の話をしたよ。
その彼女達を持ち上げるような風に話もした。
また、他の女の子の後輩を褒めるような言い方もした。
先輩としてみんな平等だよって感じで、いつも話していたよ。
「知ってるよ。正直に言って、すごく嫉妬してたから」
この人は私を見てくれないんだろうな…って思ってた。
「その状況で、みさは確信が持てていないまま、その人と、はっきり別れたんでしょ?」
「うん。ちゃんとして、振り向いてもらおうと。そして頑張ろうって思ったから」
振られてもしょうがないとも思ってた。
だから、いまだに付き合えたことにびっくりしている。
「じゃあ、みさはアダルトチルドレンではないんじゃないの?」
その傾向はあるのかもしれない。
でも、決して俺が振り向くか分からない状況なのに、素直に別れてしまったんだよ。
もし本当にアダルトチルドレンなら、きっと綱渡りのようになる。
自己肯定感がないままに、確信ができるまで引っ張り続ける。
だから、俺は、アダルトチルドレンは認めない。
認めたくない。
「…私ね、なつのことが本当に好きなの」
どんどん好きになってるの。
訳が分からないくらい。
このまま付き合って、もし、後からなつに捨てられたら私は普通に生きていけないと思う。
死ぬと思う。
本当に死んじゃう。
今だったら、何とかなると思ったの。
だから別れたいって入れたの。
それに、なつは良い人だから、悪い人の私がいちゃダメな気がする。
だから…
「俺を信じなさい」
俺は優しく明るい感じで言った。
「私、めちゃくちゃするかもよ?」
「大丈夫よ。基本的にいつもめちゃくちゃじゃん」
「今回だって分かってるの。別れたいって本心じゃない」
試してるの。
自分で分かってるの。
どこまで酷いことしたら、私を見捨てるんだろうって。
「みさは見捨てられたかったの?」
「違う!」
なつに見捨てられたら、死ぬしかない。
…でも、やってしまうの。
「分かった。俺は決して見捨てないし、一緒に病気を治していこう!」
「うん。でも、きっと私は病気じゃなくて性格だと思うけど…」
「いや、病気だよ。俺は、普段のみさをずっと見てきたもん」
明らかに、調子が良い時と悪い時があって、見分けられる。
でも、躁鬱じゃない。
俺も勉強してる。
調子が良い時のみさは、いきなり明るくなって、ハイテンションって感じじゃないもんね!
調子の良い時のみさは、普通に落ち着いた感じ。
面白い事があったら普通に笑うし、面白くない事を誰かが言ったら普通に苦笑いや作り笑いをするもん。
「作り笑いって!」
ここで、やっとみさは明るく笑った。
「作り笑いするじゃん。すぐに分かる」
「バレてる??」
「大丈夫よ。普通の人は絶対に気が付かないから」
「そうよね。私、前にもなつに言ったけど、ずっと練習してたから」
ポイントがあってね、口角をしっかりあげるの!
でもね、みんなここまではできるけど、みんな目が笑ってない。
目を笑顔にする練習してたから、逆に人が本当の笑顔かどうかすぐ分かるのよ〜
みさから、前も同じことを聞いた。
何度でもしっかり聞く。
みさには自由に話してほしいから。
俺は初めて聞くようなわざとらしい反応は示さない。
敏感なみさはそれに気が付く。
自由に自然に話せる土壌を作る。
これが俺たちの付き合い方だ。
「おいおい!前も言ったが、そもそもそんな練習なんかするんじゃない!」
「そうか…。やっぱり、私っておかしいのかなぁ」
「いや、相手の事を気にし過ぎてるんだよ」
俺と同類だ。
「そういえばそうだったね!」
みさの声に元気が戻る。
兎にも角にも、この日の電話で話している最中、彼女は普通になっていった。
「ほら、やっぱり違うでしょ?その感じが本来のみさよ!」
普通に笑い、普通の精神状態で話してるじゃん。
それに俺には分かるもん。
"発動"する瞬間というか、スイッチが入ってる時。
別に会話してなくても、遠目で見て何となくすぐ分かる。
この分かるって、たぶん結構大事なポイントだよ。
性格じゃなく、病気であるって証明でもあるからね。
「なっちゃん。私ね、これからも調子が悪くなった時、色々言うと思う」
別れたいとかも。
でもね、別れたいってのは本心じゃないの。
どうしても、出してしまうの。
出てしまうの。
しばらく我慢して。
そのうち病気もしっかり治していくから。
「もちろんだよ。一緒に治していこうね!」
この後、週3ペースで別れたいってメールがくる。
最初の方は慣れなかった。
僕はいつもと同じように接していった。
そのペースは少しづつ間隔があいていった。




