表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女の鬱に恋をした  作者: ホタテノホ
29/37

第29話 初めてのプレゼント

 


「私、なつさんとSexしたいです」



「…深谷。もうちょっと違う言い方しようよ…」



「言い方まずかったですか?」



「うん。例えば、エッチとか」



「そうですね。私、なつさんとエッチしたいです」



「あんまりそういうことを男の人に言っちゃダメだよ」



「男の人に言うわけないじゃないですか。なつさん以外に言いませんし、言ったこともありません」



「でも、どうしていきなり?」



「いきなりでもありませんよ。好きだったんですから。それに今…と言っているわけではありません」



「いつかそうなりたいってこと?」



「そうです」



「じゃあ、そんなことを言わなくても自然とそうなるでしょ」


 と俺が笑うと、それとは対照的に曇りがちな表情で深谷が言った。



「そうですかね?なんとなく直感なんですが…」


 と、言い、さらに続けた。


 なつさんはこういうのをちゃんと言っておかないと、いつまでも先輩後輩が抜けないんじゃないのかなぁ…と感じるんです。


 なつさんは、ずっと優しい良い先輩でした。


 メール交換する前まで、変な先輩だ、腹が立つ、イライラする、というのもありましたが、優しい人だってのはずっと感じてました。


 だからいっぱい混乱もしたんですけど。


 それから今のように連絡をし合う仲にはなって、やっぱりこの人は優しいと実感しましたよ。


 なつさんにもっと近づきたい。


 そう思って近づいても、なつさんの中では、壁がありました。



「壁?」




「はい。すごく高い壁を感じました」


 この人は後輩を本当に大事にしてくれる。


 私を妹のように接してくれる。


 でも


 この人にとっては私はずっと後輩。


 どこまで行っても…妹までで、それ以上は行かない。


 行ってほしいのに。


 ちゃんと女として見てほしい。


 女の子として好かれたいって思ってました。


 だから


 昨日のことは本当に嬉しかったです。



「深谷。今、深谷は俺の彼女なんだよ。好きなんだよ。女の子として見ているに決まってるじゃん」



「…それはそうなんですが…」


 たぶん、なつさんと私の好きの大きさが全然違うと思います。




「そんなことはないよ。同じくらいだと思うよ」




「でも、やっぱり、なつさんにはちゃんと言っておかないといけない気がして…」


 なつさんに振り向いてもらえるように、いっぱい好きって言いました。


 でも、なつさんは、“それはお付き合いしたい的な意味の好き?”って聞いてきましたよね?


 だから…


 それもあって、ちゃんと言わないとって。


 じゃないと、なつさんは、私の体調のことを気にし過ぎて、遠慮とかすると思って。




「大丈夫だよ。あの時も鈍いとかじゃなくて、そうだったら嬉しいなって聞いたんだし。だから言わなくても気持ちは伝わるよ」




「たぶん、それを鈍いっていうんだと思いますよ。それに…」


 私は、なつさんが大好きで、いつでも一緒にいたいし、触れていたいし、エッチだってしたいと思っています。


 体調が悪いからとか関係なく、なつさんが求めたくなったら、いつでも遠慮なく求めてほしい。


 私はそれが一番嬉しいから。


 なつさんがそうしてくれるのが一番嬉しいんです。


 これをちゃんと言っておかないと、なつさんはきっと私の体調とか気にかける。


 気にかけ過ぎる。


 そして…


 躊躇する。


 なつさんは優しいから。






 ぐうの音も出なかった。


 たぶん、深谷の言っていることは正しい。


 俺はいつでも深谷の体調を気にしてる。


 きっと、そういう場面がこれからあっても、体調とか気にしてしまうだろう。




 凄いな、深谷(このこ)は…。




 俺という人間を本当に理解している。



 この短期間なのに。



 その上で好きだと言ってくれている。



 こんな感覚は幸奈以来だ。



 期間を考えると深谷がダントツだ。





「わかった!深谷には遠慮しない。約束する」




「はい!」


 満面の笑みで深谷は返事した。




 うっ…



 なんだろう…



 胸の奥がじわぁっと熱くなった。



 なんだろうも何もない…



 愛おしさだ。



 自分を理解してくれる。



 それでいて好きだと言ってくれる。



 それがこんなに嬉しいなんて。




「深谷。もう少しこっちに来て」




「…はい」




「そこは、“はい”じゃなくて、“うん”と言ってほしいな」




「うん!」



 そして、深谷を抱き寄せて、キスをした。



 遠慮のないキスを。




 深谷もしっかり応えてくれて、遠慮のないキスを返してくれた。



 胸に感じる熱さを深谷に伝えたい…



 そう思って強く抱きしめる。



 深谷もそれを返してくる。



 腕の柔らかさ…



 胸の柔らかさ…



 全部が伝わる。



 心地いい。





 これ以上はまずい…




 と俺は動きを止めた。




「やめてほしくない…」


 動きを止めた俺に、深谷はすぐに反応して、抱きしめてきた。




「なつさん…もっと一緒にいたい」



 耳元で言われて、心臓が跳ね上がる。




「じゃあ、気兼ねなく一緒にいられる場所に行く?」


 と耳元で聞き返す。



「うん!」


 彼女は、照れた感じに笑顔で言った。




 そして車を駐車場から出した。




「この超田舎町にそんなとこあるのかな?」


 そう言いながら、



 それに昨日の今日って…



 ちょっと早過ぎないか?



 と色々頭に躊躇の念が走る。




「この先、それっぽいとこありますよ。営業しているかどうかは知りませんが」


 と少し笑いながら言った深谷の言葉で、迷いは消えた。


 深谷が色々言ってくれたことを思い出して。




 彼女の車での通学路。




 ()()はあった。




 行ってみると営業しているようで俺らはそこに入った。



 車を駐車して、手を繋ごうとした時に深谷が立ちくらみで倒れそうになった。



「大丈夫か?」


 とっさに手首を掴んで体勢を整える。



 あれ?



 そこに少しの違和感を感じた。




 そのまま手を繋いで部屋を選んで入り、



「見せて」



 と俺は言った。




 深谷は、少し、動揺を見せたが、素直に見せてくれた。



 …手首を。



 深谷の手や腕は、柔らかく、ぷよぷよしているのに、そこは違和感があるほどの硬さがあった。




 薄っすらとだが繰り返し作った傷があった。




 治るたびに硬くなっていったのだろう。



 手首の先から目で登っていくと、少し上の方に比較的最近作られたであろう薄い傷もあった。



「これって…リストカットっていうやつ?」



 深谷は静かに頷いた。




「なつさん、よく勘違いする人がいますが、自殺のように深く傷を付けないんですよ」



 これは自分に対する罰なんです。



 そして、自分の血を見ると安心するんです。





 今は初夏。


 これだけ一緒にいた俺でさえ気が付かない。


 ということは、研究室の他の人らは、それこそ絶対に気が付かないだろう。



 ただ、家族はどうなんだろう?




「親とかにバレないの?」




「家族も気が付きませんよ。案外、見てないものです」


 と笑みを浮かべて深谷は言った。




「でも、私も止めようと思うんですが…」


 止められないんです。


 苦しくなるとついやっちゃう。


 でも、腕は見えるから…




 そう言って、彼女はワンピースの裾をあげて、太ももを見せた。



 そこには横線状の新しい傷があった。


 決して目立つわけではない。


 でも、よく見るとある。


 無数に。




 俺は深谷を抱きしめた。



「傷を付けるのを我慢しよう」




「うん…」


 そう言って財布の中を探し始めた。



「なつさんがこれを持っていってください。私はこれから止めます」


 と言って、ビニールの小袋を俺に手渡した。



 カミソリだ。





「わかった。これは俺がもらう」



 それからな、深谷。


 俺は彼氏なんだよ。


 1人で苦しまないで。


 苦しい時はその都度言って。


 口で言わなくてもいい。


 メールで良いの。


 溜め込まないで。


 俺に吐き出して。


 俺は吐き出された方が嬉しい。


 俺が一緒にいる。


 だから一緒に治していこう。




 と見つめて言った。




「うん。なつさんには何でも言います…」



 と言って、深谷は涙を我慢しながら抱きしめてきた。





 深谷がワンピースを脱ぐ。




 下着を外す。




 すごいスタイルだ…




 そして




 その白い肌に息を呑んだ。




 綺麗すぎて見ているだけでいい…




 そう思えるほどに。





「なつさんには全部見てほしい」





 身体を隠さずに、手を後ろに回してそう言った。




 そして、俺も服を脱いで、深谷を抱きしめた。




 温かい。




 温もりが心地いい。




「なつさん。大好きです」





「俺もだよ」






 そして、俺たちは繋がった。






「なぁ、深谷」




「何ですか?」




「俺さぁ、ここの大学に来て、深谷が後輩で良かったと本当にそう思うよ」




「嬉しいです。でも、私はきっと、なつさん以上にそう思ってますよ」




「俺も嬉しいよ」




「なつさん…私ね、最初からピンと来てたんです。直感というか…」




「直感?」




「私がまともだったら、きっと、この人を好きになっていたのかも…って思ってました」




「変な言い回しだな。きっと…って言ってるのに過去形って」




「そうですね。でも、私はまともな感覚がわからなかったから…。だから、そういう言い回しにもなります」




「…そういうのって…やっぱりあるんだな」




「どういうことでしょう?」




「直感のこと。俺も深谷を初めて見たときに不思議な感じがした。だから近づかないようにした」




「近づかないようにしたって…ちょっとショックです。でも不思議って何がですか?」




「うまく表現できないんだけど、たぶん深谷と同じ」




「好きになるってことですか?」




「たぶんそうだよ。それが証拠に近づかないように気を付けてたんだけど…それでも自然にちょっかいとか、イタズラしてたでしょ?」




「されましたね…。ヘビが一番印象的でした」




「あの時はごめん」


 笑って謝った。




「もう良いですよ。でも、なぜ近づかないようにしてたんですか?」




「単純だよ。彼女がいたから」




「あぁ…なるほどです」




「俺は一目惚れとかあまりしないタイプなんだ」




「つまり私に一目惚れしたってことですか?」




「う〜ん。むしろ逆かな」




「逆!?それはそれでショックなんですけど」




「言い方が良くないな。美人な子だなとは思ったけど、別に外見でいいなぁとか思わなかった」




「なつさんに言われる美人は相当嬉しいですが…。でも、なつさんの好みの顔ではなかったと?それはそれでやっぱりショックです」




「いやいや、だから怖いんだよ」




「怖い…ですか?」




「うん。怖かった」




「なぜ怖いんです?」




「前に付き合った子は、外見的にすごく好みだった。だから惹かれたってのはあった」




「なつさん…。私、今、これ以上なく嫉妬しました」




「最後まで聞いてよ。でも、深谷には、その外見的な要素がないのに、惹きつけられた。少し話しただけで」




「惹きつけられた…に、ちょっと回復しました。でも怖いに繋がりませんよ」




「いや、怖いよ。俺って付き合うと他の女性に興味がなくなるんだよ」


 なのに、たった少し話しただけで、外見が関係なく惹きつけられるのは…怖い。


 だって理由がわからないんだから。


 そもそも初めての感覚だし、彼女いるし…で怖かった。




「私はなつさんの外見は好きでしたけど」


 でも、私も一目惚れとかしたことないです。


 私の直感は、なつさんのそれと同じか、近いものかもしれませんね。




 あっ…




「どうした深谷?」




「これがそうかも…」




「これ?」




「はい。なつさんが言ってた、“結局は好きになるのに理由なんてない”ってやつ」




「なるほど…」




「なつさん。ちょっと嬉しくなりました」




「良かったよ。下手なことを言ってしまったと後悔するところだった」




「なつさん…」




「どうした?」




「好きです。訳がわからないくらい…」




「ありがとう。俺も好きだよ」




「生きてて良かった」




「そんな物騒なことは言うなよ。それと明日、志田と須山さんと呑むんだけど、来ない?」




「私、邪魔じゃないですか?」




「全然邪魔ではないし、深谷が嫌でなければ、この先もずっと来て欲しい」




「じゃあ行きます!明日はバイト無いし」




「お酒飲むし、帰りとか大丈夫?別に泊まってもいいけど、俺はたぶん朝に研究会で出掛けなきゃなんだ」




「大丈夫です。明日は森公からは母に連れて帰ってもらいますから」




「じゃあ、志田と須山さんにはサプライズするから、後からお店に入ってくるイメージね!」




「ちょっと面白そうですね!そうしましょう!」





 数時間後、森公都市駅の契約駐車場まで向かい、そこでお互い家に向かった。




 昨日の今日で、良いのかな…という思いは無くなった。



 むしろ良かったとも思えた。




 そして、深谷からもらった小袋を車のダッシュボードの奥の方にしまった。



 これでも、深谷から初めてもらったプレゼント。



 捨てれない。



 でも



 もうこんなものは使わせない。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ